国語施策・日本語教育

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次第 漢字部会(岩淵部会長)

前田会長

 次の議題に移る。まず漢字部会の審議経過報告を伺いたい。

岩淵漢字部会長

 「漢字部会 審議経過報告 説明資料」(資料3)にそって報告したい。漢字部会では,字種の問題,字体の問題あるいは当用漢字表の補正資料の取り扱い方の問題等,多くの問題をかかえているが,前期以来,音訓の問題をかたづけたいということでそれに取り組んできた。
 音訓の審議に際しては,小委員会を設け,そこで当用漢字1,850字の音訓を検討し,いちおうの整理案を作成した。それをこんどは部会全体で検討し,漢字部会としての成案をまとめたいということで,現在,その方向で進行中である。その間,前回の総会に報告以後,多少考え方の変更もあったので,あらためて当用漢字の音訓についてどういう考え方をしてきたかということを,まず説明したい。
 「1 前提となる考え方」は,「制限」ではなく「基準」と考えているということと,一般社会で現代の日本語を書き表わすためのものであるということである。各種の文献を読むために必要な音訓についても検討しなければならないという意見もあったが,いちおう今回は,現代の日本語を書き表わすためのものであるということで進めている。語または語の成分を書き表わすものとして漢字の音訓を考えるということである。
 「語の成分」というのは,たとえば接頭語とか接尾語のようなものである。「課長殿」の「殿」を「どの」と読むというようなことや,「御」を「ギョ」,「ゴ」のほかに,接頭語として「お」,「おん」などと使うというようなことも考えるということで,「語の成分」ということばを付け加えたものである。
 このほか「前提となる考え方」としては,現行の当用漢字表1,850字の範囲内に限って取り扱うということがある。当用漢字表の補正資料をどうするかという問題もあるが,いまのところそこまでは及んでいない。なお,将来,当用漢字表が改定された場合には。音訓についてもふたたび検討する必要のあることはいうまでもないところである。
 「2 選定の方針」としては,まず現代語を書き表わすのに必要度の高いものを採用するということである。必要度というのは,使用度数とか使用範囲,機能度といった観点から考慮するということである。次に,いわゆる異字同訓はできるだけ避けるが,使用上,漢字で区別する必要があると考えられるものは採用するということである。なお,異字同訓ということばは,たいへんあいまいな概念であるので,なるべく使わないようにしようという意見もある。
 いわゆる異字同訓の例として,たとえば「あたたかい」の訓は現行では「暖」にあるが,今後は「温」にも採用してはどうかという意見,「あぶら」は,現行では「油」の訓にあるが,「脂」にもこの訓を採用してはどうかという意見,「おくれる」は,現行では「遅」の訓にあって「後」にはないが,しかし,同じ「おくれる」でも,「遅」のほうの「おくれる」とはだいぶ意味が違ったものがあるので,「後」にも「おくれる」という訓を採用してはどうかという意見などがある。また,「さす」という場合に,現行では「刺」と「差」があるが,このほかに「指・射」にも採用してはどうか,しかし「注・点・鎖」までは採用する必要はないであろうというように考えている。要するに,異字同訓はできるだけ避けたいが必要なものは認めていこうという方針である。
 このほか「選定の方針」として,もっぱら副詞または接続詞にだけ使われる訓で,特に必要なものは採用する方針である。現行では,副詞や接続詞などは,できるだけかな書きにするということで,訓としてもそれほど取り上げていない。しかし,副詞あるいは接続詞だけに使うようなものも,もう少し取り上げていくことが必要ではないかという考え方である。この点が第8期と第9期とで多少考え方が違っているところである。
 たとえば,「必ず・全く・但し」は現行でも採用しているが,そのほかに「殊(こと)に・例(たと)えば・即(すなわ)ち」だとも,やはり訓として採用すべきではないかということである。
 最後に,次に例示するような類も漢字で書き表わせるようにする。たとえば,「金物(かなもの)」であるが,普通「金」の訓は「かね」であるものの,「金物」という熟語の場合には「かな」となる。こういうものも現在,普通一般に使っていることばであれば,当然漢字で書けるようにしておこうということである。「小雨(こさめ)」,「春雨(はるさめ)」,それに「納得(なっとく)」,「因縁(いんねん)」の類もそうである。それから,少し性質が違うかもしれないが,「海女(あま)」,「為替(かわせ)」の類,また,いわゆるあて字といわれるものに近いが「景色(けしき)」,「時計(とけい)」の類も漢字で書くほうがよいのではないかという考え方である。なお,念のために申し上げておくが,以上の説明の中で示した語例は必ずしも完全に決定したものではない。
 「3 音訓検討の手順」であるが,現在は当用漢字1,850字について「音訓整理表」を作成して検討している。特に異字同訓については,念を入れて検討していくつもりである。副詞,接続詞を表わす訓の取捨については,既に検討を済ませ,だいたいの考え方が出ている。次に,いわゆる熟字訓の検討であるが,これは熟字訓ということばにもいろいろ問題があるが,熟字訓のうちで採用するものと採用しないものとの区別がまだじゅうぶんな検討にはいたっていない。
 最後に,まとめの形式(使用上の注意事項を含む。)をどうするかということがある。つまり,1,850字の音訓整理表の検討が済んだのち,部会の報告として,最終的にどういう形式で出すかという問題である。これは音訓表の使用上の注意事項とも関連する。現行の音訓表の使用上の注意事項には,自動詞だけを掲げたものは他動詞としても使えるとか,名詞として掲げたものは動詞としては使ってはいけないというような規定があるが,こんど,自動詞でも他動詞でもすべて掲げていくということになると,それほど細かく使用上の注意事項を書く必要もないし,反面,なかなかすべてのものを掲げるということが困難ならば,やはりある程度,使用上の注意事項で規定していかなければならないという問題が出てくるわけである。いずれ使用上の注意事項について部会で検討し,そのまとめを総会に報告したいと思っている。
 ことに,音訓表ではなく,当用漢字表のほうの使用上の注意事項に副詞や接続詞等はなるべくかな書きにするというような規定があるが,今後は,むしろ副詞や接続詞でも漢字で書いてよいものがあるのではないかという考え方から,この点について,なんらかの改正が必要になってくるかもしれないというように考えている。
 以上のような手順で,今後,われわれの任期中に音訓表に関するまとめを作成して総会に報告し,総会でもある程度の時間的余裕をもって,そのことを審議できるよう漢字部会として努力していきたいと思っている。

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