国語施策・日本語教育

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次第 かな部会(佐々木部会長)

前田会長

 引き続いて,かな部会の審議経過報告をお願いする。

佐々木かな部会長

 かな部会は,これまでに21回の会合を開いた。まだ,結論を得たわけではないが,これまでの経過について「かな部会 審議経過報告 説明資料」(資料4)をもとに報告したい。最初に送りがなについての基本的な考え方と,その基本的な考え方にのっとって,どのように審議を進めてきたかということを報告し,最後に,今後のおもな問題点について報告したい。
 「1 基本的な考え方」は,既に前回の総会でも,村上前部会長から報告済みのことであるが,便宜上,くり返し説明したい。基本的な考え方として,「(1)現代国語を書き表わすためのものである。」,「(2)一般社会を対象とする。」がある,このうち,一般社会を対象にするということは,「一般問題小委員会のほうでも意見が出ているように,教育も当然考慮に入れて考えていこうということである。つまり,一般社会だけというよりは,一面では教育を意識の中にふまえながら検討するということである。このほか,「(3)標準を示すものである。」「(4)いちおう,当用漢字音訓表の範囲内で検討する。」であるが,これらはいずれも前期からの基本的事項である。
 次に,「(5)現行の「送りがなのつけ方』の検討から。」は,これも前期からの考え方で,そのまえがきにある三つの方針,すなわち「1活用語およびこれを含む語は,その活用語の語尾を送る。2なるべく誤読・難読のおそれのないようにする。3慣用が固定していると認められるものは,それに従う。」については,1を原則とし,2,3はただし書きにして扱うことが適当であるということであるが,今期でも,この考えの線でいこうということを確認している。
 (6)は,今期に出てきた意見であるが,次のような見地に立って検討しようということである。それは,原則としては,できるだけ単純包括的なもので,しかも原理的に一貫した法則であること,同時に,いっぽうにおいて社会的慣用を重視すること,また現在のものは,少し送りすぎの傾向があるかもしれないので,送りすぎにならないようにしてみようではないかということである。しかし,これらの考え方が相互に矛盾しないでうまくいくかどうかは,すこぶる問題のあるところであるが,とりあえず,こういう方針で臨んでみようという話し合いをしてきたわけである。
 それから,(7)1語について,二様,三様の送りがなが考えられる場合に,いったいどうするかということについて,いちおう態度を決めていかなければ混乱するであろうということである。たとえば,「うごかす」は,「動かす」と「動す」のどちらを本則とし,どちらを許容とするのか,それとも両方とも同価値に見るのかというような問題が,やはり話し合いの段階で出てきたのである。つまり,これについては,(ア)一方を本則とし,他方を「……することができる。」と許容にするか,(イ)両者を全く平等に取り扱い,たとえば「どちらでもよい。」とするか,という二つの考え方が出ている。この点については,まだ,じゅうぶんな議論を尽くしていないが,だいたいの空気は,どちらかというと,(ア)のほうの考え方が強い。
 (8)は,さて,そういうような方針を決めたとしても,具体的に一つ一つのことばにあたってみた場合に,あまりきびしくしたのでは動きがとれないであろうということから,ある程度のゆとりをもって臨んでみてはどうかということで,次のような考え方が出てきた。
 一つは,一般的に他の語と区別する必要があるときには,多く送るようにする。このことは,先に述べたなるべく送りすぎにならないようにという方針と矛盾するかもしれないが,他の語と紛らわしい場合には多く送るように考えなければならないということである。それと反対に,他の語と紛らわしくない場合には,ある程度省略してもよいのではないかということである。要するに,こういう幅をもって臨んでみようではないかということである。
 しかし,以上を通してかんじんかなめな点になると,(9)である。それは基本的な原則は,活用語は活用語尾を送るということである。これは,先にも述べたように,現行では三つの方針が並列してあるが,その中で「活用語尾を送る。」ということを第1原則として優先させようという考え方から当然のことである,しかし,それでは活用語尾とは,ということになると,そう簡単にはいかないようである。これについては,委員の中には,ある場合には,活用語尾を含めて,付属的成分とし,語の基本的部分から切り離せるものということで考えたほうがよいのではないかという意見も出ている。
 しかし,さて,それでは付属的成分とはなにか,基本的成分とはなにかということになると,いろいろ問題のあるところで,いずれ今後は専門的立場で議論していくことになるかと思う。現在のところは,いちおうそういう意見もあるということを御報告しておきたい。
 最後の(10)は,付けたしのようであるが,送りがなはむずかしいので,なにか適当な用例集のようなものを示すことが,一般社会には必要ではないかということである。その用例集とは,どんな内容で,どこでどういう方法で作るのかといったような具体的な問題までは,いまのところまだ考えていない。
 以上は,送りがなのつけ方についての基本的な考え方について,いろいろと並べてみたわけである。

佐々木かな部会長

 わたしの記憶では,第8期の部会では多くのことばを,第1 単独語,第2 複合語というように,系統的に二つに分けたことがある。そして,その単独語の中にも活用する語と活用しない語,複合語の中にも活用する語と活用しない語というように分け,71の語群に分けた資料を作った。今期の部会では,その資料を受けて,一つ一つについて意見の交換をしてきた。もっとも,議論の結果。その一つ一つについて,どう決めるというようなことではなく,それぞれの意見を交換して,最後に整理し,そのうえで,大所高所から通則を見いだそうという態度であったから,時間がかかるといえば時間がかかったけれども,かなり慎重を期して,たしか,昨年の7月ごろ,いちおう71の語群に対する意見の交換を終えたものである。そしてその結果を,特に数名の委員にお願いしてまとめてみた。
 われわれはこれを,仮に「第2読会のまとめ」といっているが,9月からは,そのまとめについて最終の検討を重ねてきた。
 以上により,単独語については,ほぼ終わりかけているのであるが,その単独語の中で単純語,――単純な活用をしていることばということであるが――,これらの単純な活用をするものは,活用語尾を送るというこれまでの鉄則があてはまるわけである。それに「山」とか「川」のように活用をもたない本来の名詞も,問題がないということで,だんだん整理していくと,いちばんやっかいな問題は,単純でない活用語ということになってくるわけである。
 たとえば,「浮(うく・うかぶ)」の場合の,「うかぶ」と「うく」との関係,あるいは,「積(つむ・つもる)」の場合の,「つもる」と「つむ」との関係で,われわれはこれを派生関係,対応関係と称しているが,これらは,いずれも単純な活用語ではないということである。現行の通則では,この「浮かぶ」は「浮く」という動詞を含んでいるとみて,「浮く」の活用形の「か」を入れ込んで,「浮かぶ」,「浮かんだ」と書くということである。同様に「積もる」は,「積む」と関連づけて,「積もる」と書くというのが現行のいき方である。
 これについては,紛らわしくない場合には,その一部分を省略すること,ができるのではないか,たとえば「浮かぶ」の場合に,前後の関係で紛らわしくない場合には,「浮ぶ」と「か」を省略してもよいのではないかというような意見も出ている。これは現行の規定を受け取りながら,それの運用に幅をもたせるものと考えられるのであるが,こういう考え方に対して,最近では,当用漢字音訓表の中で「つむ・つもる」,あるいは「うく・うかぶ」という両方の訓が出ているのなら,活用語尾を送るという規定をそのまま厳格にあてはめ,「うかぶ」は,「浮ぶ」でよいのではないか,「つもる」も「積る」でよいのではないかという意見がしばしば出ているところである。
 そうなると,現行の「含まれている語の送りがなは…。」という規定との関連がどうなるかということになってくるわけである。現行のものが昭和34年に制定されてから既に10年を経過している。そこでもし,この現行の考え方を維持するということならば,一方において,その運用に,むしろ省いても紛らわしくない場合には省くことができるという1項目を設けることにするか,ということが考えられるし,また,現行の音訓表にある訓の活用語尾だけを送るのだというようにするのならば,現行の送りがなのつけ方をどうすべきかということが問題となってくる。このことは,教育界でも当然問題が起こってくる。それに10年の間に新しい慣用が固まりつつあるのではないかという意見も出ている。私個人の感想からいえば,単独の活用語は,この点が最初の問題であり最後の問題であるとも思っている。
 前回の総会では,現行のものに近いような報告であったが,その後,部会で審議を重ねていくうちに,いま申し上げたような意見も出てきているわけである。
 「2 今後のおもな問題点」の(1)がそれであるが,対応関係,派生関係にあるとみられる語の処理をどうするか,どう調整するのか,これらの問題は,次回の部会から取り上げることとし,いちおう年内に整理をつけたいと考えている。そして来年は,(2)動詞と関連があると思われる名詞の処理,たとえば,「動き,残り」というような動詞の活用形から転成した名詞について意見の交換をしていきたいと考えている。
 その後は,(3)複合語の処理であるが,これが,ことにむずかしい問題である。特に活用語を含んだ複合語が問題である。その場合に単独の語に準ずることを第1とするか,別の原則を立てて処理すべきかということがある。たとえば「取り締まり」のような語になってくると,見方によっては社会的慣用も取り上げなければならないし,また,経済用語等,さまざまな職場等で用いられているような術語的な語についても,改めて検討していかなければならない。その検討を終えたうえで,再度総会に報告し,みなさんに判断していただきたいというのが部会の考え方である。
 なにしろ,送りがなはずいぶんむずかしくさまざまな問題があるため,言い足りない部分もあったかと思われるので,もし,わたしの報告にまちがいや補足することがあれば,かな部会の委員のかたから御発言願いたい。

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