国語施策・日本語教育

HOME > 国語施策・日本語教育 > 国語施策情報 > 第9期国語審議会 > 第73回総会 > 次第

次第 審議経過報告に対する質問・意見

2  音訓については,現在,教育上,特別の取り扱いはしていない。
 考え方としては,一般社会において基準とされるものと,義務教育で指導すべきものとを一致させることも考えられるが,やはり,字種と同様,一般社会において基準とされるものの中から基礎的なものを選んで,指導することとすることが適当であろう。
3  送りがなについては,現在,教育上の取り扱いとしては,内閣告示の,「送りがなのつけ方」によることになっていないで,教科用図書検定基準(昭和43年8月26日,文部省告示第289号)によれば,「適切」であり,「不統一」がないことが要求されているだけである。しかしながら,実際は,すべての教科書が内閣告示の「送りがなのつけ方」にほとんど合致する送りがなを採っている。
 送りがなについても,一般社会において基準とされるものと,義務教育において指導すべきものとが,一致することが望ましいが,教育上の必要に応ずる配慮を認めることとすることも考えられる。
4  義務教育における漢字の指導について,「読み」と「書き」とを分離して行なうか,並行して行なうかの議論があった。その意見はおおむね次のようであった。
(1)  たいていの人は,一般の社会生活で,書かれた文字を読むこと,すなわち,「読み」の機会は多いが,自ら実際に文字を書くこと,すなわち「書き」の機会は少ないのが普通である。
 このように,一般社会では,書くことの要求は,読むことの要求に比べて少ないのであるから,「読み」に対して,必ず「書き」を要求することは実際的とはいえない。また,漢字は,小学校低学年でもある程度読めるのであるから,読めるカをおさえることは適当ではない。
 「読み」と「書き」とを分離し,「読み」の能力を伸ばし,全教科の教育内容の向上を図ることが望ましい。
(2)  「書き」が正確でなければ,「読み」の認知も不正確になる。上級に進むにつれて環境による自然習得もあり,児童の能力の実際として,は,「読み」と「書き」とのカは,自然に分離していくが,少なくとも,小学校の低学年における計画学習では,「読み」と「書き」とを並行して行なうことが,教育技術上必要である。
 この問題について,どちらのほうが学習効果があがるか,関係機関で必要な実験を行ない,慎重に調査研究してほしいという要望があった。
 これについて,いろいろの質疑応答が行なわれたが,結局,この問題は国語審議会としても無関心ではあり得ないが,直接的には,教育関係の部局で取り上げるべき事がらであり,文部省でこの実験調査について,種々の観点から慎重に検討されることと了承して,小委員会としては,この問題に関する審議を終えることとした。

 なお,6月以降の小委員会では,義務教育におけるひらがな,かたかな教育のことが問題となった。漢字指導の見地からいって,かたかなを先に教えるほうが有効ではないかという意見もあったが,それについては,かつて国語審議会で出した方針を変更する必要はないのではないかという結論であった。
 さらに,義務教育で指導すべき基礎的なものはなにかということから,当用漢字別表,いわゆる教育漢字の選定の際の事情を調べたが,結論としては,今後,この別表の改定等の際の選定方針として検討されるべきものであるので,漢字部会に一任するのが妥当であるということになった。
 また,木内委員から「審議を能率化するためのメモ」が提出された。小委員会で意見を交換した結果,現在の審議の進め方の方向は,だいたい木内提案の方向とそれほど異なっていないが,木内提案そのものは国語政策全般にわたるものであるから,その最終処理は総会で吟味されるべき性質のものであるということになり,木内委員もこれを了承された。
 さらに9,10月の小委員会では,主としてふりがなの問題について審議をした。現行の当用漢字表の「使用上の注意事項」には,ふりがなは原則として使わないというように明記されていて,ふりがなの使用は事実上禁止されているような感があるが,この方針を緩和して,ふりがな,よみがなをもっと使用してもよいのではないかという意見が強く主張された。
 これについては,既に第7期の第1部会で当用漢字表の「まえがき」の修正について審議し,「表外字を使用する場合には,よみがなをつけることが望ましい。」ということで,いちおう了解に達したということが総会に報告されている。小委員会としては,大勢として,ふりがな不使用の原則を緩和すべきだという意見が出たが,結局,ふりがなを絶対に使ってはいけないというのではなく,必要な場合には使ってもよいという方向でだいたい確認されたものである。しかし,この問題は,漢字,かなの両部会の審議とも関連するので,最終結論は,両部会の検討を待つということになった。以上で一般問題委員会の審議経過報告を終わる。

古賀副会長

 ただいままでに報告のあった漢字,かなの両部会および一般問題小委員会の報告について質問・意見があれば発言願いたい。

遠藤委員

 漢字部会について伺いたい。いわゆる熟字訓の問題であるが,現行の音訓表では1字1字の漢字に音訓が表示してあるが,たとえば「久遠(くおん)」の場合などは,音訓表の中の「久」のところに「ク」,「遠」のところに「オン」というように個々の漢字ごとに表示するのか,それとも特別に漢字で書いてよい熟字訓の項を設けて,そこで表示するのか。

岩淵漢字部会長

 それは部会でも議論のあったところである。たとえば「海女(あま)」の場合に,「海」のところで「海女(あま)」を出すことにはいろいろ問題があって,結局そういう類のものは,別にまとめて出してはどうかという意見がある。しかし,いまのところこの問題については,まだじゅうぶんな審議をしていないというのが実情である。

大和委員

 かな部会では,送りがなについて「標準を示すものである。」とし,漢字部会では音訓について「制限ではなく基準を定めるものである。」としているが,この「標準」,「基準」ということばの用い方については,両部会で連絡のうえでわざわざ別の表現をとったのか,それとも連絡なしで,こういう違った表現になったのか。これは統一する必要があるのかないのか伺いたい。

岩淵漢字部会長

 漢字部会では第8期に,現行の当用漢字表の告示にある「日常使用する漢字の範囲」という制限的な考え方はいけないということから「基準」ということばを使うようになったものであるが,送りがなについては,現行の送りがなのつけ方に「標準」ということばが用いられているので,ただ,それを受け継いだものだと思う。両部会で「標準」,「基準」ということばについて,特に話し合うことはしなかった。

佐々木かな部会長

 確かに,かな部会では,現行の送りがなのつけ方に「標準」ということばが使ってあるので,それをそのまま用いたものである。そして,この場合の「標準」とは,「基準」よりは少し幅が広くて,拘束度においては弱いものであるというのが,部会のだいたいの解釈である。

大和委員

 かな部会での「標準」ということばが,漢字部会でいう「基準」ということばと,意味合いの違うところがあるのかどうか,漢字部会長に伺いたい。

岩淵漢字部会長

 実は,「基準」ということに関連していろいろ問題がある。たとえば1語1語の書き表わし方をできるだけはっきりさせたいという意見もある。前回の総会では正書法ということばを使ったが,正書法というのは語の書き表わし方を一定にする,ということである。しかしそういっても,それはただ唯一の書き方だけしか認めないというのではなく,二とおり以上の書き方があってもかまわない。といっても,どう書いてもよいというのではなくて,ある程度の書き方を決めようという,そういう考え方である。そして,これは必ずしも漢字部会全体の意見だとはいえないが,そういう意味での語の書き表わし方をできるだけはっきりさせるという考え方が,送りがなのように,どう書いてもよいのだという考え方と違うところではないかと思う。しかしまだ,この問題についてはじゅうぶんに議論していないので,今後の問題としてよく検討していきたい。

大和委員

 漢字部会では,現行の当用漢字1,850字の範囲内の音訓に限って検討を進めているようであるが,表外字の音訓については,問題が提起されても取り上げられないのか。

岩淵漢字部会長

 いまのところは,1,850字の音訓だけを取り上げているが,これ以外に当用漢字表の補正資料(昭和29年)なども取り上げてはどうかという意見がある。これは今後に残された問題である。

福田委員

 「一般問題小委員会 審議経過報告 説明資料」(資料5)に,「字種」という語があるが,これは「字数」の誤りではないのか。

西島一般問題小委員会委員長

 これは「字種」でよく,「字数」ではない。専門的には漢字部会長から御説明願うことにしたい。

岩淵漢字部会長

 「字種」ということばは,あまり熟していないので使いたくないが,単に「字数」というと,1,000字とか2,000字というように数だけが問題になるおそれがある。そこで,どういう字を選ぶべきかというときに,字数と区別するために,「字種」ということばを,漢字部会でも使っているわけであるが,あまり普通に使われていることばでもないので,今後は使うのを控えるようにしたい。

志田委員

 一般問題小委員会の報告について伺いたい。報告では,昭和44年に告示された中学校学習指導要領にもふれているが,そこでの考え方は,この指導要領でいっている漢字の指導について,漢字の字種についても,音訓についても,別に義務教育で便用する「最低基準」というようなものを設けて,それに基づいて指導すべきではないかという趣旨なのか,それとも,これからこの審議会として検討し直す字種・音訓の中から,将来,義務教育で指導すべき最低基準を考えるべきだということなのか。

西島一般問題小委員会委員長

 これは,今後,漢字部会で漢字の字種を選定する場合に,その中から,さらに義務教育上,最低限度必要な字種はどのくらいであるかというような問題についても考慮していってほしいということである。一般社会の漢字の基準と関連しての義務教育における漢字指導については,将来は,こういうふうに考えていくべきであろうという,その考え方を示したわけである。

安達文化庁次長

 先ほど「基準」と「標準」とが問題になったが,少し補足説明する。「基準」というのは,現在が「範囲」であるというのに対して,そういう制限ではなしに,一種の努力目標にしようということから「基準」ということばを使ったものであるが,送りがなのほうは,これは一種の法則であるということからして,その法則のよりどころという意味では,現行のままの「標準」ということでよいだろうと考えたわけである。「基準」と「標準」ということばの間に差があるというものではなく,それぞれの経緯から,いわば,ここでのことばの使い方の約束みたいなものできたので,共通理解もそういうことであったろうと思う。

大野委員

 「基準」というのは量的な変化が考えられるのではないか。つまり,音訓をどのくらいの範囲で認めるかという場合に,それが多いか少ないかというようなことがいえるわけで,このことは漢字の字数についてもいえることだと思う。それに対して,送りがなやかなづかいには量的な変化というようなことは考えられない。いくつかの流儀があって,そのうちのどれをとるかということで,そういう意味では「標準」ということになるのではないかと思う。
 次に,一般問題小委員会の審議経過報告について質問したい。報告の中で,義務教育における漢字の指導に関して,「『書き』が正確でなければ,『読み』の認知も不正確になる。」という表現があったが,これは,小委員会でどの程度の議論をして確認したことなのか。わたしには,必ずしも正しい判断であるとは思われない。

西島一般問題小委員会委員長

 義務教育における漢字の指導については,読み書き分離論と並行論があって意見が対立し,結論は出ていない。そこで今回の報告では,両方の意見を並記したにすぎない。「『書き』が正確でなければ,『読み』の認知も不正確になる。」という考えも,一つの意見として摘記したものである。

大野委員

 この問題については「文部省で,この実験調査について,種々の観点から慎重に検討される……。」ということであるが,具体的にどう検討するのかを伺いたい。

徳山文部省初等教育課長

 これについていろいろの問題があるように聞いているので,国語審議会の意向を受けて,文部省としても今後,検討していきたいと考えている。

大野委員

 文部省がそういう考えであるならば,一般問題小委員会として,この問題の審議を打ち切るのではなくて,どういう観点から,どのように検討していくのがよいか,また予算措置等も考えて審議を継続してほしい。

西島一般問題小委員会委員長

 文部当局から答えがあったように,こちらの要望にそって調査,検討されるということを了解したので,一般問題小委員会としても,さらにこの問題と取り組んでいきたい。

古賀副会長

 今のことに関連して,付け加えたい。本日の総会の議事の運び方について運営委員会で相談した後,阿部委員から発言を求められた。その内容は今のことに触れている。各委員の同意が得られるならば,のちほど,「その他」の議事でこれを取り上げたいと思う。(異議なし。)
 ほかに質問・意見はないか。

吉国委員

 先ほど問題になった「標準」と「基準」とであるが,これは,いずれ,総会で正式に答申されるときには,どちらかに統一するか,あるいは中身を検討してことばの定義づけをする必要があろうと思う。
 参考までに両者の使い方を申しあげると,「標準」は,上下,左右いずれの場合にもある程度ゆとりを認めるという場合に使い,「基準」は,どちらかというと,いわば「最低基準」というようなかたちで,「労働基準法」とか「最低賃金法の最低賃金の基準」というような使い方をする。
 必ずしも「基準」ということばを単独で使う用例ではないが,これこれ以上しなければいけないというような感じで使うことが多い。したがって当用漢字表についていえば,これを「基準」ということにすると,少なくとも漢字については,この程度のものを用いるべきであるということになる。
 将来,この問題を決める場合には,以上のことを考え合わせて検討していただけたらと思う。

古賀副会長

 用語は,たとえそれが習慣的に使われ,われわれの間ではまちがいのない受け取り方をしている語であっても,一般社会の人もそうであるとは必ずしもいえないので,できるだけわかりやすい語をつかい,親切な言い回しをするように留意する必要がある。

三樹委員

 漢字部会長,あるいはその他の委員にお伺いしたい。漢字部会では,「必要度の高いもの」の判定基準として使用度数,使用範囲,機能度といったものを使っているが,かな部会のほうで,今後問題になるだろうと思われることであるが,いわゆる慣用の固定といった場合に,なにをもって慣用とするか,その判定の基準になるような資料,あるいは方法があるのかどうか教えてほしい。

岩淵漢字部会長

 漢字部会では,特に慣用の固定ということを問題にしたことはないが,ただ,音訓に関する小委員会などでは,やはり慣用等の場合には,特別に調査をしなければいけないのではないかという意見がある。ことに国語審議会の委員には,比較的年をとった者が多いので,古い慣用というか,われわれのもっている慣用を中心に考えることが多い。これに対して,若い人々がもっている慣用はどのようなものかということを調べる必要があるのではないかという意見が出ている。しかし特別にどういう調査をすればよいというようなことはまだ考えていない。

大野委員

 音訓の審議に関しても,広い意味では慣用ということを考慮に入れてやっているといえると思う。「現代雑誌九十種の用語用字(国立国語研究所)」に出ている使用度数なども,社会でどのように使われているか,ということを数量的にみた一つの慣用の現われであろうと思う。そういう意味では,送りがなの場合にも,たとえば,「あわれ」ということばの場合に,「哀れ」と「れ」を送っている表記が何回あり,「哀」だけで送りがなのない表記が何回あるかといったような調査資料,それが「現代雑誌九十種の用語用字」の中から見いだせるものかどうかはともかく,そういう資料をみれば,ある程度社会の慣用が推察できるのではないかと考える。

大島委員

 漢字部会長にお尋ねするが,音訓表の検討が現在の速度で進んでいった場合,われわれの任期である来年の5月までにまにあうのかどうかを伺いたい。

岩淵漢字部会長

 現在,当用漢字1,850字について「音訓整理表」という形に整理したものを作成し,それに基づいて検討を進めているが,今後は,三部会の回数を増すなり,宿題形式でやるなりして,努力していくことによ,ある程度のところまではできるだろうと考えている。できれば,来年の2月中には部会としてのまとめを出す予定である。

古賀副会長

 審議経過報告に対する質問・意見はまだまだあるかと思うが,時間の関係上,いちおうこの程度にして,次の議題に移りたい。

トップページへ

ページトップへ