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配布資料 審議を能率化するためのメモ(木内委員提出)
〔注:原文は縦書き。用字・用語は原文のまま。〕
審議を能率化するためのメモ
いままでの部会の審議は、具体的な末端から研究を進めるというやり方であつたが、"採用すべき原則を探る"という努力を試みてみたら、審議は著しく能率化するのではないか。またそのような試みを行うべく、すでに研究は熟しているのではないかと思う。「採用すべき原則」の主なるものは次のようなものではないかと思う。
一、 | 音訓表については、"音訓は制限しない"という原則を採用すべきである。
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二、 | 右の原則を採用すればおのづから「送りがなの付け方」についての解答が容易となろう。送りがなの問題をひとつ簡単な原則によって処理することは出来ないが、"訓をすべて認めてよい"という立場に立ち"異種の漢字をどうやつて日本語と調和させるか"、その方法を探るという見地に立って考えることとし、それに若干の他の観点を加えて考えれば、いくつかの原則を導き出すことが出来ることと思われる。 | |
三、 | 「現代かな使い」をどうするか。これはカナ部会でまだ取上げていない問題であるが、ここでは明らかに通すべき筋が一本あると思う。その筋とは、"五十音図を中心とする日本文法を崩さない"ということである。少くとも教育の場においては、この筋が守られねばならぬ。
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四、 | 「当用漢字表」の字種選定について採用すべき原則は、"一般社会が通常使っている語彙を考え、それによって字種を選ぶ"という原則である。これには旺文杜「国語実用辞典」のやり方が参考になると思うが、この辞書では漢字の数は二三六○だそうである。
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五、 | 以上、国語審議会がこれまで取組んできた諸問題の主なるものについて「原則」を模索してみたが、それらとは別に、これは国語審議会がすでに第八期において決定した新しい考え方に基いて、文部当局として直ちにアクションをとっていいと思われるものがある。それは従来の「簡素化」のイデオロギーが変更をみたことと同時に、国語問題には官庁的・命令的押付けは行うべきではない、ということが認められることの結果である。そのアクションとは、 | |
(一) | 「駐屯」という言葉を使う以上は、屯という漢字の使用を避けるべきではない。 | |
(二) | 「煽動」を「扇動」と書かせることは止めるべきである。 | |
(三) | 「従つて」「即ち」といった漢字を使う方が、見た眼に美しく且つ読み易いと考える場合、それらの漢字の便用を遠慮すべきではない。 | |
(四) | 横書きの強要は止めるべきである。 | |
(五) | 数字を123と書けという強制も止めるべきである。 | |
という新方針を確認し「訓令」によってこれを下達することである。 |
以上五項目に亘つて書いて来たことは、すべて第八期の審議会の決定に悉く内包されているものといつていいものと考えるが、それ故にこそ、これらの「原則」を明示することにすれば、部会の審議は格段に能率化されるであろうと考える。
(以上)