国語施策・日本語教育

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配布資料 国語施策と国語教育との関係に関する一提案(阿部委員提出)

〔注:原文は縦書き。用字・用語は原文のまま。〕

国語施策と国語教育との関係に関する一提案(阿部吉雄)

一、 〔提案〕 国語施策と国語教育との関係を明確にすることは、国語施策に関する諸種の非難を緩和する重要な鍵であり、また教科書改訂が進行している現在、急を要することである。(イ)文部大臣の諮問事項に追加して先議すべき問題であると思う。(ロ)また、これまで不明瞭であった国語審議会と、教育課程審議会との責任分担範囲を明確にし、(ハ)もし国語審議会設置法第一条に明記してある通り「国語教育の振興に関する件」を、少くとも国語施策との関係において当審議会で扱うものならば、総会で意見を十分に交換し、一般問題小委員会において更らにこれを徹底して審議する必要がある。(ニ)そのためには同小委員会の組織の強化も必要と思う。(本会には国語教育の指導者が多い。)
二、 〔理由〕国語施策は、(イ)漢字とその音訓を制限し、(ロ)国語の表記の基準を作るという目的をもって、主として大人の、ものを書く人のために、当座用に制定されたものと思う。(漢字表等に「当用」の二字を冠したのは国語を将来表音化しようとしたものか、それとも理想的な基準は作れるものでないという考えに基づくものか知らない。)これに対して国語教育は、過去のすぐれた言語文化を享受し、現在の読み書き話す能力を高め、未来を開く目標を有するものであって、当座用のものであってはならない。しかも一般国民には、読む力、理解する力を伸ばすことこそ、「書くための基準」を教えることに、まして必要である。「読めれば書くようになる」という理由で、大人の「書くための基準」を、直ちに児童生徒の「読み理解する基準」に適用することは疑問である。施策と教育と、それぞれの持つ目標を明確にすべきであり、国語教育を国語施策の下僕としてはならない。教育こそ施策より優先的に考うべきであり、急いで処理すべき問題であると思う。ましてや本審議会の決定案が容易にできない現在においては、尚更らのことと思う。
三、 〔問題点の例〕たとえば、次のような問題はどこで審議されるか。国語施策との関連において検討する要がないか。審議会として意見をまとめる必要がないか。
@ 現在の学生生徒の読み書き能力の低下の原因は何か。それと国語施策との関係。
A 義務教育において、基本的な表外音訓や主たる表外字等をも教えてよいのではないか。教科書にそれらを提出することを罪悪視し、原文を改作してよいのか。それと国語施策との関係。
B 読み書き能力を高める具体的研究が進められているか。漢字の読み先習を否定する科学的根拠が何もないのに拘らず、また表音文字の国英米でさえ、国語教育に中国法式を試みている現在、なぜわが国の公的機関でそれを実験することに熱意を示さないのか。(第八期の報告では「言語文字の教育の面……における改善強化に特段の措置を講ずる必要がある。」と記されている。)また児童の「漢字の負担」「漢字の抵抗」、或いは漢字を最もよく認知する年齢等についても、もっと科学的に解明すべきではないか。
C 義務教育において、明治、大正、昭和前期の文章をも読み得ないような教育をしておいて果して世代の断絶が起らぬか。それと国語施策との関係。
D 平易な話し言葉や情緒的な文学作品を重んずるだけでなく、国民の健全な論理的倫理的感覚を伸長すべき古典的教材を豊富に取り入れる工夫が充分検討されているか。

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