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「当用漢字改定音訓表(案)」(部会報告)

前田会長

 引き続いて,各部会の報告を承ることとする。まず漢字部会からお願いする。

岩淵漢字部会長

 漢字部会は,今期中に部会を23回,音訓に関する小委員会を46回開いた。その結果のまとめが「当用漢字改定音訓表(案)」である。
 これは,(1)前文,(2)表の見方,(3)本表,(4)付表とからなる
 このほかに参考資料として「「異字同訓』の漢字の用法」および「訓の一覧表」がある。音訓の選定にあたって異字同訓はなるべく避けたいという意見も多かったが,非常に慎重に検討した結果,異字同訓になるが,必要なものはその訓を採用することとした。そこで,その区別というか,用法の例を示したのが「『異字同訓』の漢字の用字」である。ここには,今回,新しく加えた訓だけではなく,現行のものもいっしょにして取り扱ってある。
 「訓の一覧表」は,参考のために作ったものであるが,今回,新しく追加した音訓の数は,合計394である。この数字は,現行の音訓数が3,122であるので,約12.6%の増加となる。しかし,音訓は,そういう数の問題だけではなく質の問題がたいせつなので,どういうものを採用したかということを説明すべきであるが,この点は,既にこれまでの両部会の合同会議で何回か説明しているので,今回は「前文」を朗読するだけにしておく。
 なお,今回の「当用漢字改定音訓表(案)」は,多数の部会委員,わけても小委員会の委員のかたがたの多大の労苦を経てまとまったものであるが,これを漢字部会の案として御報告するしだいである。
(国松国語課長,「当用漢字改定音訓表(案)」の「前文」を朗読。)


前   文
〔漢字かなまじり文と戦後の国語施策〕

 わが国では明治以来,漢字とかなとを交えて文章を書くのが一般的である。この漢字かなまじり文では,原則として,漢字は実質的意味を表わす部分に使い,かなは語形変化を表わす部分や助詞・助動詞の類を書くために使ってきた。この書き方は,語の一つずつを分けて書かなくとも,文章として,語の切れ目が見やすい。それは表意文字である漢字と,表音文字であるかなとの特色を巧みに生かした表記法だからである。しかし,漢字にたよって多くの語を作り,漢字の字種を広く使用した結果,耳に聞いてわかりにくく,国民の言語生活の向上にとって妨げになるところがあった。
 国民の読み書きの負担を軽くし,印刷の便利を大きくする目的をもって,漢字の字種とその音訓とを制限し,かなづかいを改定するなどの国語施策が,戦後実行された。それは二十余年の実施によって相応の効果をもたらしたものと認められる。しかし一方,字種・音訓の制限が文章を書きにくくし,かなの増加が文章を読みにくくした傾きもないではない。漢字かなまじり文は,ある程度を越えて漢字使用を制限すると,その利点を失うものである。

〔当用漢字音訓表の改定〕

 そこで戦後の国語施策の改善のための具体策を諮問されたわれわれは,当用漢字の字種・字体・音訓について慎重な検討を重ねた結果,当用漢字音訓表の改定から着手することとした。改定にあたっては,従来の音訓表の持つ制限的色彩を改め,改定音訓表をもって,漢字の音訓を使用する上での目安とすることを根本方針とした。すなわち,従来の音訓表は,表示した音訓以外は使用しないという制限的な精神によって定められたものである。それに対して,今回の改定音訓表は選定した限りにおいては,漢字一字一字の音訓の一定のわくを示したものではあるが,これは一般の公共生活における漢字使用の場合の,音訓の一応の目安として世に行なわれることを期待しているものである。

〔適用の範囲〕

 ここにいう一般の公共生活における漢字使用とは,法令・公用文書・新聞・雑誌・放送等における漢字使用をさしている。学術・技術などの専門用語や,文芸または個々人の表記にまでこれを及ぼそうとするものではない。また,ここにいう一般の公共生活の表記は,当然,義務教育における学習を終えた後,ある程度の社会生活を経た人々を対象とする。したがって義務教育でどの程度,どの範囲の音訓を学習すべきかは,別途の研究に待つこととした。

〔書くための音訓〕

 改定音訓表の音訓は,現代の国語を書くために選定した。これは過去の著作や文書をいかに読むかを示すものではなく,過去に行なわれた音訓を否定するものでもない。それらの読みのためには別途のくふうが必要と思われる。ふりがなの使用などもその一法といえよう。本来,音訓表は現代普通に用いられる語すべてにわたって,その書き表わし方を示していることが望ましいのであるが,今回の音訓表では「例」の欄および付表にあげた限りにおいて,音訓使用の目安を示した。

〔音訓の選定〕

 今回の音訓の選定にあたっては,音訓を,語あるいは語の成分を書き表わすものであると考え,実際にそれが文章の中で使われる場合を考慮に加えた。それは,1字ずつの音訓として切り離してみれば,他の語との区別が不明確と思われるような音訓も,文章の流れの中では,明らかに読み分けられるものがあることに留意したのである。その考えのもとに,いわゆる「異字同訓」や,同音の語の漢字による書き分けについても検討を行なった。当用漢字改定音訓表の音訓は,現行の当用漢字1,850字についてだけ定めたものであるが,以下に音訓選定の方針について,具体例をあげてしるしておく。

1  固有名詞だけに使用する音訓は取り上げない。
2  現行当用漢字表の1,850字以外の漢字と結合する場合の音訓は取り扱わない。
 これらの場合,披・懺・尚・稽が当用漢字外であるから,それと結合する露(ロウ),悔(ゲ),和(オ),滑(コツ)は取り上げなかった。
3  現代の国語で使用されている音訓の実態に基づいて,使用度数・使用分野・機能度の三つを合わせ考える。
4  語根を同じくする語は,同一の漢字で書き表わせるようにする。
  畳(たたみ)(現)→畳む,  煙(けむり)(現)→煙る・煙い,
  頂(いただき)(現)一頂く
5  感動詞・助動詞・助詞はかなで書くこととする。なお,次のようないわゆる形式名詞・補助動詞もかなで書く。
  見たことがある,  そう言ったところで…,
  書いてた,    山本という
6  副詞・接続詞としてだけ使用される語としての訓は,従来も,
  既に,必ず,全く,少し,直ちに,再び,最も,但し,且つ,又,若しくは,及び,並びに
等が認められていたが,同様に漢字を用いてさしつかえないものとして,次のようなものを加えた。
  予め,未(いま)だ,却って,殊に,即ち,遂に,先ず,専ら,漸く
 なお,「一体全体」,「相当に」,「突然」など,漢字の組み合わせによる副詞は,漢字で書くものと考えた。
7  訓の意味を広くとり,現代の日常生活で使われる語が漢字で書けるようにする。
  おとうさん→お父さん,おかあさん→お母さん,おこる→怒る,
  よごす→汚す,よごれる→汚れる,かぶる→被る
8  異字同訓はなるべく避ける。しかし漢字の使い分けのできるもの,漢字で書く習慣の強いものは採用する。
9  2字以上の漢字による熟字や,いわゆるあて字のうち,慣用の広く久しいものは採用する。
  時計,景色,波止場,師走,部屋,砂利,為替,眼鏡,五月雨

岩淵漢字部会長

 補足説明したい。「本表」,「表の早方」を御覧になれば理解していただけると思うが,「例」欄に掲げた語などの送りがなは現行の「送りがなのつけ方」によっている。新しく採用した訓の送りがなも,だいたいは現行のに準拠する形で考えたが,中にはある程度判断したので必ずしも現行の考え方と全く同じだといえないものもある。
 「本表」の配列は,字音に従って五十音順に並べ,字音のないものは字訓によった。「本表」の「例」欄に掲げたものは,あくまで例として掲げたもので,このような音訓を含んでいる語をすべて掲げたものではない。「備考」欄は問題のあるものを注記したものである。音訓表を利用する場合には「音訓」欄だけでなく「例」欄,「備考」欄も見ていただきたい。
 次に,「本表」のほかに「付表」があるが,これは漢字2字以上で構成されている,いわゆる熟字訓など,主として1字1字の音訓としてはあげられないものを掲げたのである。「付表」の語は音か訓か,いろいろ問題があるので,便宜上ひらがなでしるし,五十音順に並べた。なお,「付表」の語は,「本表」の「備考」欄にも注意的に掲げてある。
 最後に,この「当用漢字改定音訓表(案)」は,現行の当用漢字1,850字の音訓を考えたものであるが,問題になるのは当用漢字表の「使用上の注意事項」との関連である。これについては,あまり「使用上の注意事項」にはこだわらない考えでいきたいという気持ちである。
 以上でいちおうの説明を終える。

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