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次第 問題点整理委員会の報告について(字体表の検討の方針に関する問題について)〔その1〕

福島会長

 問題点整理委員会及び漢字表委員会の進行状況の報告・協議について時間の都合上,それぞれ50分程度でお願いしたい。
 それでは,問題点整理委員会の遠藤主査から報告を伺いたい。

遠藤主査

 3月28日の第95回総会の決定に従い,問題点整理委員会が設けられ,その第1回の会合を4月11日に開いた。その会合で主査と副主査の互選が行われ,私が主査に,松村委員が副主査に選出された。次いで,問題点整理委員会の運営条項を確認をした後,今後どういうような検討方針で進んでいったらいいかについて,総会及び各委員の意見を参考にして,自由に意見交換をした。その結論は次のようになった。
 漢字表については,漢字表委員会の検討を待って処理する。
 字体表については,総会で基本的な方針が決まれば,それを受けて,やがて字体表委員会が発足するであろうという予測の下に,その基本方針が総会で決定されるようにいろいろな資料を収集し,整理していく。具体的にいうと,第11期の問題点整理委員会では字体表に関する各委員の意見をアンケートによって集めて,お手もとの資料にあるように,それを17項目に整理したが,これは項目が多くて分かりにくい点があるので,そういう点もはっきりさせて,基本的な方針という方向へまとめていく,ということである。
 そのほかにも,例えば,話し言葉の問題,敬語の問題等についても総会での意見を整理したらどうかという意見があった。
 第2回は5月16日に開いた。この会合では,前回の協議を基に,字体についての今後の検討のための問題点について協議を行ったが,字体の概念ということが大変問題になり,字体とは何かというようなことについて意見が交わされた。このことから見て,総会でも字体とは何か,書体とは何かという問題について,かなりはっきりした共通理解に達するような問題の整理の仕方をしなければならないのではないかという意見があって,いろいろと意見を交換した。
 なお,第2回でも話し言葉,敬語等についてどう扱ったらいいのかを総会で協議する必要があるという意見が出た。
 第3回は6月24日に開催した。ここでは,これまでの協議を受け,字体表検討の基本的方針を5項目にしぼり,これにその他の項目を加えて,6項目にしていろいろと協議した。その結果がお手もとの資料「字体検討の方針に関する問題(案)」である。これには五つの問題が取り上げてあり,端的な文章で表現されている。また,それにはどういう意味があるということが,備考に解説されている。備考の解説を参考にして,本日できたら,この案について意見を聞かせていただきたいという意図で総会に提出した。
 また,お手もとの「字体検討資料」は,「当用漢字字体表」とはどういうものなのか,一体字体はどういうようになっているのかを抽象的に議論していても,なかなか共通理解に立てない面があり,具体的なもので示した方がいいのではないかということで作成し,提出したものである。
 これらの本日の資料を基にして審議していただき,更にその審議の結果をどういうようにしたらよいのかについても協議していただきたい。つまり,今,案として挙がっている5項目のようなものを中心にしたアンケートを全委員に出し,集まった意見を更に問題点整理委員会で整理して秋の総会にかけるようにすべきか,あるいは,この5項目に示されているような点については,既に意見が尽くされているから,アンケートは行わず,後は問題点整理委員会で整理して,それを秋の総会にかけるようにすべきか,更にまた,字体表委員会(今後できると想定して。)に総会として引き継ぐべき字体表の基本的方針をどういうようにするかといったことを協議願いたい。これが問題点整理委員会としての希望である。
 そのほか,話し言葉とか敬語とかの問題を今期の審議会ではどう扱ったらいいかについても協議していただければ,幸いである。
 なお,お手もとの二つの資料については事務当局から説明願いたい。

石田国語課長

 まず,「字体検討資料」は,遠藤主査から説明があったように,字体とは何かを考えるためには,具体的な活字の形のサンプルがあった方がいいのではないかという問題点整理委員会での意見により参考資料として作ったもので,委員会で出たいろいろな意見を基に事務局の案を修正してまとめたものである。
 ここには,10字を挙げている。1,2に挙げられている字は,いわゆる異体字の関係があるもの,3から7までは,「当用漢字字体表」によりそれまでのものと形がかなり変わったもの,8,9は,少し変わったもの,最後は,元の活字の字体を残してはいるが,筆写体とは少し違っていて,教科書などでは一番下の教科書体の欄に見られるように,子供たちの筆写の手本になるような形になっているものである。
 次に,それぞれの字に対応する横の欄について説明する。一番上の欄は,康熙(き)字典から直接写したもの,中央の欄は「当用漢字字体表」に示されているものである。中央より上の方の欄には,「当用漢字字体表」が制定される以前の活字を掲げており,明(みん)朝体,宋(そう)朝体,清朝体,ゴシック体のものを挙げている。なお,○印は,そこに対応する活字があると考えられるが,時間的にその活字を探して入れることが間に合わなかったものである。それから中央から下の方の欄は,「当用漢字字体表」を基にした活字で,明朝体,宋朝体,清朝体,ゴシック体のほか,特に教科書体を付け加えて挙げてある。
 なお,「当用漢字字体表」では,印刷字体と筆写字体とをできるだけ一致させることを建前としたということなので,筆写の問題,特に楷(かい)書は字体の検討に大いに関係があるわけであるが,この資料では筆写に関するものは省略している。
 もう一つの資料「字体検討の方針に関する問題(案)」と一緒に最後に折り込んであるのが,前期の「第11期国語審議会審議経過報告」中の「字体表審議の問題点に関する意見調査」の部分である。ここには,前期のアンケートによる意見の結果がまとめて出ている。
 前期の字体表に関する問題点14項目については,必ずしも全部について事前に総会で共通理解を達しておかなくとも,専門的な検討に任せて,その結果によって判断してもいいものもあると考えられる。そこで14項目中からどれを総会で考えておけばいいかということを問題点整理委員会で検討して,そこにあるような5項目に整理したものである。

石田国語課長

 1が「字体表の必要性と性格」である。問題の欄には,「字体表の必要性については,前期においてほぼ意見が一致しているが,その字体表における字体の性格は,印刷及び筆写における字体(楷書体の場合。)の標準を示すものとして考えておいてよいか。」とある。
 これについては,備考欄に書いてあるように「別紙の前期アンケート項目」中の「字体表の必要性」と「字体表の性格」とを統合し,そのほか,「活字体と筆写体との関係」とか,「異体字の統合」とかもその中に吸収して考えることとしている。
 なお,前期のアンケートの結果では,標準,目安のいずれにするかについて,それぞれ相当意見があり,これは言葉の理解の仕方の違いによると考えられるということが出ているが,問題点整理委員会で考えたところでは,「字体の標準」には,それぞれの字の「素型」あるいは「パターン」「モデル」としての意味も含まれており,必ずしも拘束性の強弱の問題だけではないということである。その点をそこに注記してある。このことを具体的にどういう用語で表すかについては,今後専門的具体的な検討の中で考えていこうということであり,これで大まかな共通理解が得られれば,先へ進むことができるのではないかと考えているわけである。
 2の「字体審議の方向」には「現行のものに大幅な変更を加えず,必要に応じて修正する程度と考えておいてよいか,それとも新しく考え直していくか。」とある。これは,前期のアンケートのイに相当する問題である。そのほか,関連することも備考欄に書いてある。前期の意見では,部分的に修正する程度でよいという意見が多数で,新しく考え直すという意見は少数であった。
 3の「字体を考える範囲」は,「新漢字表の中の漢字について考えるか,それとも新漢字表の外の漢字も考慮するか。」ということである。これは前期のアンケートのエに相当する問題である。前期の意見では,表外字に及ぼす,表外字に及ぼさないが,それぞれ相当数あったが,新漢字表の外の漢字も考慮するという意見の中には,いわゆる字体の系統性の問題もあって,表内字の「しめすへん」や「しんにょう」等を表外字に及ぼして考えるかどうかというような点をも含んでいる。
 4の「字体表の使用分野」は,「新漢字表の使用分野と同様に考えておくか,それとも使用分野を決めないでおくか。」ということである。前期11期においては,「漢字表の具体的検討のための基本的方針」の第2項に「漢字表は法令・公用文書・新聞・雑誌・放送など一般の社会生活において使用する場合を考慮して選定するものとする。これを科学・技術・芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない。」としているので,取りあえず新しい漢字表との関連を重視して,今述べたような範囲のところで使用すると考えておくという意見が多数であった。特に使用分野を定めないでおく,漢字表の場合とは少し性格の違いもあるのではないかという疑問を出した意見も,比較的少数であったが,あった。これらの点について検討していただきたいということである。
 5の「学校教育との関連」は,「審議会で積極的に考慮するか,それとも,審議会としても考慮するが,学校教育への適用の仕方については別の検討にまつこととするか。」ということである。前期のアンケートの回答では,国語審議会としても十分考慮するという意見と,国語審議会が教育上の具体的なことを検討するのは,難しいという意見とが,それぞれ相当数あった。
 以上のような五つの問題について,総会での大体の方針なり共通理解なりが得られれば,それを基に字体表についての専門的な検討組織を設けて,具体的検討をやっていくことができるのではないかということである。

福島会長

 それでは問題点整理委員会の報告に基づき,今後字体表の検討に移っていく前に,どの点を確かめておかなければならないかということで,意見を伺うことになると思う。お手もとの「字体検討の方針に関する問題(案)」などについて意見を出していただきたい。

宇野委員

 字体表の検討についての意見ということであるが,字体表をどういう趣旨のものと考えるかによって違ってくるのではないかと考える。少なくとも私個人はそうである。つまり,今の当用漢字のときのような新字体という考え方で字体表を検討するのか,それとも,私が繰り返し主張しているように,いわば略字というか,筆写体の文字として考え,従来の字体は活字体としてはそのまま残す。すなわち,読むための字としてはその字を残すというようにやるのかということで,少なくとも私の意見は非常に違う。
 筆写体の文字とするならば,かなり自由な字体の採用があってしかるべきだと思うが,活字体をそれで統一してしまうということになると,私は反対であって,今の,例えば,「しんにょう」だとか,「くさかんむり」だとか,その他の誠にこせこせした字体の改定は撤回しなければいけないと思っている。つまり,方向が全然逆になってしまうので,ほかにどういう意見があるか知らないが,何のための字体検討であるかということを論議してもらいたい。

福島会長

 ほかに意見はないか。今の宇野委員の発言に関連してでも結構である。

木内委員

 字体表とは,要するに略字体の表のことであると,今,宇野委員の話にあったが,そこのところをはっきりしてもらわないと討議が進められない。一体,字体表とは略字体の表なのか,略字体ならば,なぜ漢字の場合に略字にするのか,印刷するのであれば,従来の字体でいいではないかということで,根本的な問題が出てくる。
 筆写の場合に略字を書くならば,こういうふうに書けばいい,なるべくみんな勝手な略字の書き方をしないで,だれが見ても分かるように統一したものがあれば,さぞいいだろう(それが標準であるか目安であるかは別として。)という話になると思う。
 ただ,字体表というのは,今日の「字体検討資料」で見ると,要するにこれは活字体の話ということになっている。それならば,表の上欄は「当用漢字字体表」制定以前の活字だし,下欄は「当用漢字字体表」を基にした活字だし,真ん中の欄のものも,もちろん活字に決まっているのであろうと思う。活字の話をしているのなら,活字の話として統一してほしい。一体筆写における略字の話なのか,活字の話なのかはっきりしてもらわないと,話が進まないと思う。
 もう一つ,この審議の進め方で少し危険に陥りそうなことについて述べたい。第11期の終わりに略字体というか字体表というか,それが問題になって,ようやく字体表なるものの重要性が分かってきたばかりであるということを言ったことがある。今度のアンケートの作り方等は,前期の審議会の最後のときのアンケートの答えを基礎に作られている。これは事務的には誠にもっともではあるが,あのときのアンケートには各委員がまだ十分に事の何たるかを理解しないで答えていると思う。だからそこをやり直すということになるが,それにはこれは活字の話なのか,筆写における略字体の話なのかということをはっきりさせておけば,しっかりいくと思う。
 もう一つ,話が混線するかもしれないが,述べたい。この明朝体,宋朝体,清朝体の格好が同じなのに,なぜこれら三つが並べられているのか。ゴシック体ももちろん活字なのであろうが,これなどはここへ並んで顔を出す必要はないと思う。字の形が変わるのなら,例えば,もし1の康熙字典の「敍」の字と明朝体の字とが同じであって,それが下の欄に示されている「当用漢字字体表」に至って急に変わったというのなら,ここに挙げておいていい。ここでは上の欄にたくさん並んでいるが,これはおおむね一つだけ挙げておけばいいのであって,問題は下の欄に示されている「当用漢字字体表」でなぜ変わったのか,これを究明することにあると思う。「当用漢字字体表」に示されている字体のイデオロギーは一体何であったのか,これを解明して出発しなければならないと思っている。

福島会長

 ほかにないか。字体表を従来のものと変えて略字的な字体の表にしてみたいという考え方もあろうし,あるいは従来からある幾つかの字体を一つに統一して示す意味での字体表とするという考え方もあろうと思う。私はとにかくここで議論する立場にはないが,一言申し述べたい。活字の場合は判を押すだけなのであるから,複雑であろうが何であろうが,略字にする必要はない,活字として働いてもらえば同じことではないか,書く場合にこそ略字が必要なのだということも言えないことはない。しかし,今の活字は印刷のときに判のように働くということのほかに,印刷過程においてまた送信過程において活字として運ばれるが,複雑な字は運びにくいという問題もあって,活字だから複雑のままに置いて一向差し支えない,その活字が多ければいいということでもないような気がする。また,学生が字を習う場合でも,複雑な字では習いにくいということもある。そして活字でもできることならしかるべく簡略にしたいということがあるから,字体の問題が起こるのだという気もする。専門家もおられることなので,意見を伺いたい。

木内委員

 先ほど申し上げたことは,私はよく分からないから,もう少し解明して考えたいという趣旨である。私の挙げた例も活字の場合は複雑なものでもそのままでいいのではないかという意見であるかのように受け取られると少しまずいので,申し上げる。新聞のような場合には,簡略で目に入りやすい小さな字で読むのであるから,略字があってもいいと思う。それは筆写体において略字があるのと同じであるが,新聞などに対してこういう略字を使いなさいという指導は結構であるが,それが正しい字の格好はこうであるということになってしまうところに問題がある。したがって,「権」の字が「」の字になってしまうと,昔の「權」・「権」の字は今後の国民には読めなくなってしまう。もしそうなっていいというのなら,それだけの理由を整えて示すべきであると思う。字体表を決めるとそうなってしまうということになるのでは踏ん切りがつかない。その辺をしっかり考えなければならないというのが私の主張である。どうすればいいかについては,おのずから主張はあるが,それを言うには少し早いと思う。

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