国語施策・日本語教育

HOME > 国語施策・日本語教育 > 国語施策情報 > 第12期国語審議会 > 第97回総会 > 次第

次第 問題点整理委員会の報告について(「字体検討の問題点」に関する各委員の意見等)

福島会長

 最初に問題点整理委員会の遠藤主査から同委員会の経過について報告願いたい。遠藤主査,どうぞ。

遠藤主査

 前回総会後の7月15日に第4回問題点整理委員会を開催した。そこで,今,会長からも説明があったように,総会の意を受けてどういう質問票にするか,あるいは質問票を全委員に配布するかどうかについて協議した。その結果,前回総会でお目に掛けたものをある程度訂正して配布した方が良いということになった。そこで7月23日付けで全委員に,お手もとに差し上げたような質問票を配布した。これには3点の参考資料が添えてあった。9月の中ごろまでに34名の多数の委員から意見が寄せられた。その意見をある程度整理して,10月7日に第5回問題点整理委員会を開催した。その協議の結果,ある程度整理した質問票の回答を全委員に配布した方が良いということになって,10月13日付けで全委員に回答書を発送した。お手もとに届いていると思う。その整理された回答書は二つに分かれている。一つは各委員の回答をそのまま収録したものであり,これは委員一人一人が全体的にどういう考えを持っているかということをよく知っていただくためのものである。それだけでは個々の項目の問題について判断をするのに不便な点もあるかと考えて,もう一つ,項目別に各委員の意見を整理したものを作った。今日お持ち願えたと思うが,両方とも非常に大部なものでお読みになるのも大変であったかと思う。
 質問票及び回答を見ると分かるように全部で8項目になっている。新しい字体表を今度作るに当たって,現在の「当用漢字字体表」の趣旨や考え方をどういうように踏襲したらいいかという立場に立って,まず6項目までは当時の安藤主査委員長の報告(昭和23年6月,第20回国語審議会総会で「当用漢字字体表」が議決された時の説明。現在の「当用漢字字体表」作成の趣旨や制定過程などを説明している。)を基にしたものを書いて,こういう意見に賛成かどうか,賛成の場合にも条件付きであるならば,それを書いていただきたい,反対の場合にはその理由や考え方を書いていただきたい,というような形で質問票を作った。7項目以下は,その内容上少し形が変わっている。
 本日は項目別の方に従って少し回答書の解説をしてみたい。ただし,これが余りに大部なものであり,お読み願ったとしても記憶が薄れているのではないかと考えられるので,各位の記憶をよみがえらせるためのものであると御理解願いたい。
 また,前回の問題点整理委員会(10月7日開催。)で本日の総会で今後いろいろな方針を決定していただくように協議を願うので,全体のことを多少説明した方がいいが,その説明は主査が行い,内容については一任する,ということになった。したがって,これは問題点整理委員会の意見をまとめたものではなく,私の個人的な意見がかなり入っていることをお含みいただきたい。
 第1項目は,「新字体表の性格」という表題になっている。質問内容は「現行の「当用漢字字体表」(昭和24.4公布)では「当用漢字表の漢字について,字体の標準を示したものである。」としていますが,新字体表においても「漢字の字体の標準を示すもの」として考えてよろしいでしょうか,それとも別のお考えがおありでしょうか。このことについて,御意見をお書きください。」というものである。
 これに対して,提出された意見は自由記述であるため,いろいろであるが,(1)字体の標準を示すものと考えるのに賛成である,(2)賛成であるが条件が付く,(3)必ずしも賛成ではない,という三つの意見に大体分かれると思われる。
 (1)「この考えでよい」という趣旨のことをほとんど無条件にあるいはわずかに条件を付けて書いたものが相当あり,中には積極的賛成がある。
 (2)「字体の標準を示す」という考えで良いが,これに特に条件,限定を付けたものがあり,例えば@筆写用漢字についてのものと考えた方がいい,A楷(かい)書体あるいは教科書体についてのものであれば,標準と考えてもいい等がある。
 (3)「この考えでよい」としつつも,その意味内容について厳しい意見を付したものが若干ある。例えば,@「標準の意味」がはっきりしていないので,これを別によく考える,あるいはもっと他の言葉でうまく定義する,A制限的なものでない,弾力的な意味としたい,という意見などである。
 全体を概観して,いろいろ条件,希望等を付したものを含めて言うと,ほとんど全員が何らかの意味で新字体表においても「漢字の字体の標準を示すもの」と考えてよろしいということに賛成であると考えてよいのではないかと思われる。
 第2項目は,「字体選定の考え方」という表題になっている。質問内容は「現行の「当用漢字字体表」は「漢字の読み書きを平易にし正確にすることをめやすとして選定した。」とあり,また「字体の選定については,異体の統合,略体の採用,点画の整理などをはかるとともに,筆写の習慣,学習の難易をも考慮した。」としていますが,新字体表においても漢字の字体を選定するに当たってこういう考え方でよろしいでしょうか,それとも別のお考えがおありでしょうか。このことについて,御意見をお書きください。」というものである。
 自由に意見を書いてもらったので,回答にはいろいろあって,(1)現行のものの字体選定の考え方に賛成であるが,一部修正をした方が良いという意見,(2)現行のものの考え方に必ずしも賛同できない,非常に批判的であるという意見,(3)全面的に現行のものに賛成である,という意見の三つに分かれるかと思う。
 (1)字体選定に当たって現行の考えで良いとしつつも,いろいろな条件を付けたものとして,例えば@「筆写の習慣,学習の難易をも考慮した。」を「筆写の習慣,識字の鮮明,学習の難易をも考慮した。」とする,A「異体の統合,略体の採用,点画の整理などをはかるとともに筆写の習慣,学習の難易をも考慮した。」を「……,点画の整理,構成の体系化,学習の整備などをはかった。」とするなどがある。また,特に「略体の採用」については,いろいろ意見があり,慎重にせよ,推進せよ,という両方の意見が出ている。
 もっと詳しく言うといろいろ細かい意見もあるが,全体を概観してみると,いろいろな条件を付してはいるが,新字体表においても漢字の字体を選定するに当たって,現行の「当用漢字字体表」の字体選定の考え方でよろしい,という意見がかなり多数に及んでいる。
 第3項目は,「新字体表に示す字体と印刷・筆写の関係」という表題になっている。質問内容は,「現行の「当用漢字字体表」では印刷字体と筆写字体とをできるだけ一致させることをたてまえとした。」としており,「字体は,活字字体のもとになる形」で示し,また,「これを筆写(かい書)の標準とする」ことが考慮されていますが,新字体表に示す字体についても印刷及び筆写(楷書)における各字の字体の標準(もとになる形)を示すものとして考えてよろしいでしょうか,それとも別のお考えがあおりでしょうか。このことについて御意見をお書きください。」というものである。

遠藤主査

 現行の考え方で大体よろしいという意見が相当あるが,その中にも細部については,次のような点が問題であるとする意見があった。例えば,@教科書体活字は,活字か筆写体か不明,教育上でははっきりさせる必要がある,A筆写体はある程度まで活字と違ってもよいことを認める(このある程度が問題であるが。),B活字に用いる字体の標準を示すものとして手書きの楷書の標準ともすることができるようにする,C「標準」を「めやす」に改めた方が良い(これは用語の概念の問題である。)などである。また,現行の考え方で良いとの意見のほかに,(1)印刷字体を中心とする考え方,(2)筆写体を中心とする考え方,(3)その他の考え方,があった。
 (1)印刷字体を中心とする考え方としては,@字体は大体活字字体のもとになる形であって,筆写用のことは余り考える必要はない,A筆写字体でなく,印刷字体(教科書体を含めて。)の標準を示すものと考えたい,B新字体表は,印刷字体の標準を示せば良い,印刷字体を筆写字体に引き寄せて標準化するのは疑問などがある。
 (2)筆写体を中心とする考え方の中には,印刷字体と筆写字体とをできるだけ一致させることは根本的に誤っている。新「字体表」を示すとすれば,それは筆写用の標準(目安)とすべきである,もちろんそれが活字にもある程度取り入れられることは避け難いことであるが……,という意見があった。
 このようにいろいろ意見があるが,全体を考えてみると,新字体表に示す字体についても印刷及び筆写(楷書)における各字体の標準(もとになる形という意味の標準。)を示すものと考えてよろしいという考えがかなりたくさんあったように観察した。そして,そのほかに,印刷字体を中心とする考え方,あるいは筆写体を中心とする考え方,その他の考え方があるように考えてよいのではないかと思う。
 第4項目は,「旧字体などの取り扱い」という表題になっている。質問内容は「字体表を考えるに当たって,旧字体やその他の字体について,どのように取り扱ったらよいとお考えでしょうか。このことについて御意見をお書きください。」というものである。これは前回の問題点整理委員会でもいろいろ問題になったが,この質問の意味そのものが不徹底であり,よく分からないということがあった。例えば「旧字体やその他の字体」(ここでは,「当用漢字字体表」以外に現在行われている略字体の意味である。)というのも,(注)を読むとある程度分かるが,はっきり書かれていない。そういう点でこの項目については質問の出し方に不手際があったと思う。このため,回答の中にはこの項目の質問の意味がよく分からないというものもあった。
 大体そういうふうであったが,全体を取りまとめて言うと,問題が二つある。一つは字体表を考えるに当たっての「旧字体」の取扱いであり,もう一つは,「その他の字体」の取扱いである。
 (1)字体表を考えるに当たっての「旧字体」の取扱いについては,@旧字体は「取り上げない」「日常の使用から除く」などの意見がかなりあり,Aまた,旧字体に対する考え方として「通常使用しなくても専門分野などで別個に存在する」ものであり,「拒否し否定するものでなく伝統的なものとして認めよう」「前書きなどで何らかの取り扱いをする」などの意見もかなり出されている。Bこれに対し,「新漢字表では旧字体を本体として示し,現行のような簡略的字体は筆写用ないし活字用として別に示す。」などの意見もある。
 ただ,ここで出てきた意見の中には,2種以上の字体を示した方が良いのではないかという意見があったことを報告しておく。ここで2種以上のというのは,例えば略字体の「旧」を示すとともに,略字体以前に行われていた正字体の「舊」を括弧して示す,あるいはその反対に正字体のものを初めに書いて括弧で略字体を付けるというものである。
 (2)「その他の字体の取り扱い」については,@考慮,検討し,なるべく取り入れるという考えがかなりある,Aまた,これらは追放すべきだが,使用の規制は難しかろうなどの意見がある。
 第5項目は,「字体を考える範囲」という表題である。質問内容は「現行の「当用漢字字体表」は「当用漢字表」の漢字の字体を示したものですが,これと同様に新漢字表の中の漢字についてだけ考えることとしますか,それとも新漢字表の外の漢字についても考慮するようにしたほうがよいとお考えになりますか。このことについて,御意見をお書きください。」というものである。
 概観すると,(1)「新漢字表の外の漢字についても考慮するようにした方がよい」とした考え方がかなりあり,(2)他方,「新漢字表の中の漢字についてだけ考える」とした考え方が相当あって,大きく分かれている。したがって,この問題については今後更に専門的具体的な検討が必要であると思われる。
 なお,表外のものにも及ぼした方がいいという意見の中には,全部を統一することではなく,偏,冠,旁(つくり)などのある部分だけを統一したらいい,という意見もあったことを付け加えておく。
 第6項目は,「新字体表の使用分野」という表題である。質問内容は「新漢字表の使用分野と一致させて考えるべきでしょうか,それとも別のお考えがおありでしょうか。このことについて,御意見をお書きください。」というものである。
 概観すると,大勢としては新漢字表の使用分野と一致させて考えてよいとした考え方であると思われる。その他それぞれの立場等からの意見が幾らかある。
 第7項目は,「学校教育との関連」という表題である。質問内容は,少々今までのものと違っていて,「審議会で積極的に考慮するというお考えや審議会として考慮するが,学校教育への適用の仕方については別の検討にまつこととするというお考えなどがあります。学校教育との関連について,どのように考えたらよいか,御意見をお書きください。」というものである。質問が一般的な形であり,また「審議会として積極的に考慮する」と「審議会として考慮するが,学校教育への適用の仕方は別の検討にまつ」という二つの考えも必ずしも対置して理解されるものではないために,様々な意見が出されており,中には広く漢字表の問題として考えたと見られるものもある。
 一応大別して言えば,(1)審議会で積極的ないし十分に考慮するとの考え方について述べていると見られるもの,(2)審議会としても考慮するが,学校教育への適用の仕方,指導法などについては,別の検討にまつという考え方によって述べていると見られるもの,(3)(1),(2)の考え方を契機として広く教育界からの意見吸収の方法,指導内容,指導法,教科書などにわたって考え方を述べているもの,(例えば,教育界から意見を吸収するときには,国語審議会と教育課程審議会と合同会議を設けたらいいとか,国語審議会の審議と並行して文部省に専門委員会を設置して検討し,相互の意見調整をするようなやり方が望ましいとか,教育界との関連で一番影響を受けるのは教科書であるので,その点について留意しなければならないとかなど。),(4)更に漢字表,字体表の性格に関連して広く考えを述べているものなどがある。
 第8項目は,「その他」である。ここは,各委員から自由に書いてもらったので,様々な意見が出されていて,なかなかまとめにくいが,分類すれば,(1)字体表に関する意見,(2)新漢字表に関する意見,(3)審議事項に関する意見――例えば,話し言葉,語彙(い)の問題,かな表記・ローマ字表記の問題,分かち書きの問題,現代仮名遣いの問題などを国語審議会で取り上げた方が良い――になると思う。
 以上のように最後の項目は取りまとめにくい状況である。
 大変ふつつかであるが,大体これで説明を終わり,御協議願いたいと思う。

福島会長

 字体検討の問題点に関する各委員の意見を基にしながら,前回に引き続いて字体を検討する上で,総会として更に検討しておかなければならない問題について意見を伺いたい,というのが本日の目標である。
 字体の問題については,今後の検討の方法として,まずこれまでの意見調整や協議の中で字体の検討についての各委員の意向の表示もあり,大体の考えも明らかになったように思うので,この辺で字体に関する専門的なというか具体的な委員会又は小委員会といったような形で字体の検討にかかるか,あるいは問題点整理委員会で,引き続いて本日表明があるかもしれない各委員の意見を基にもう一度整理をして,あと1回総会を重ねた上で委員会による具体的検討に移るか,二つ考えられる。
 前回総会で,どなたかから字体問題の性格にかんがみて,審議をより効果的にするためには字体表委員会のような専門委員会なり小委員会なりを発足させて,そこでこれまでの意見を参考としつつ具体的に検討を開始してもらう,ある程度の線が出たところで再び総会にかけて協議する方が良いのではないかという意見があった。私はもっともであるとは思ったが,もう一度総会をやり,問題点整理委員会で問題を整理願うという処置を取った上で,次の総会,つまり本日の総会でそのことを決めるようにしてはどうか,ということで前回総会は終わっているわけである。
 具体的に言うと,本日の総会で字体に関する専門委員会を発足させるかどうかということである。
 もし字体に関する専門委員会を設ける場合にも,現在の漢字表委員会と並んで字体表委員会という形で設けるか,あるいは字体表は漢字表とも密接に関係があるので,漢字表委員会の中に漢字表に関する小委員会があって検討をしているので,これと並んで漢字表委員会の中の字体に関する小委員会という形で設けるか,という問題があろう。
 これから国語審議会として字体問題をどう扱っていくかということについて,原則的な意見交換をもちろんしなければならないが,今後の進め方ということで意見を伺えるようなら,漢字表委員会に倣って何らかの形で字体に関する専門委員会を発足させてよいかどうか協議願えれば,進行上非常に有り難い。

宇野委員

 ただいまの会長の御提案であるが,それにはその前に決めなければならない問題があるような気がする。
 それは,新しい字体を決める場合に,今後できる新漢字表の中の漢字に限るのか,新漢字表の外の漢字にも及ぼすのかという問題である。もし新漢字表の外の漢字にもある程度及ぼすという各委員の意見だとすると,ここで急に発足させることには多少問題があるかも知れない。また,もし発足させるとしても,漢字表委員会と同一のものにしないとうまくいかないと思う。それから,もし新漢字表の中の漢字に限るとすると,速やかに発足させてよいのではないかと思う。その場合には漢字表委員会と同じものにしてもいいし,別につくってもよいのではないかと考える。
 私の意見を述べると,新字体は略字と考えなくてはいけないとする私の立場からは,略字は今度できる漢字表だけに必ずしも限定すべきではないと考えているので,会長の御提案のように,なるべく早い機会に字体表に関する委員会を発足させてよいのではないかと思う。その形については私としては案がない。漢字表委員会と一緒の方がいいような気もするし,漢字表委員会が少しオーバーワークになるような感じもする。

福島会長

 もっともと思う。ほかに意見はないか。

楓委員

 進め方の問題で意見を述べたい。先ほどの主査の報告を聴くと,かなり一致している点もあるが,ある項目については重要な問題で一致しない点もある。例えば筆写体を中心とした標準と考えるのか,活字を中心とした標準と考えるのかということである。新聞社の立場で言うと,機械化が非常に進んできてコンピューターとの関係なども出てきている。私自身としては,むしろ活字体の方を中心にその問題を考えた方がいいと思っている。このように意見がかなりはっきり分かれているような点については,主査は今の整理でほぼお分かりのことと思うので,そういう点にしぼってもう少し意見を聴取した上で,字体に関する委員会を発足させたらどうかと思う。

福島会長

 蛇(だ)足であるが,字体表委員会なり字体表小委員会なりを発足させても,1か月や2か月で結論が出せるわけではないので,その間総会を開催しないということでもない。総会でも原則問題について引き続いて意見交換をするわけである。御了解願いたい。

遠藤主査

 主査としてではなく,問題点整理委員会の一員として述べたい。今回の質問票の回答と前期11期の時の10項目(実際には15項目。かなり詳しいアンケート形式のものを配布した。)の回答を読むと,各委員の字体に対する考え方にどういうものがあるかということがはっきり浮かび上がってくると思う。その中にはかなり重要な問題だが,まだ方向のはっきりしていないものもある。しかし,それについてここで各委員から意見をいただいて,問題点整理委員会でその方向をはっきりさせろと言われても,これはなかなか難しい問題であり,できないと思う。それよりもむしろ字体表委員会ともいうべきものを発足させて,その本質的な問題ともにらみ合わせながら,具体的な検討をし,今,会長が言われたように,それを総会に報告して難しい問題を決めていくという形でやった方が良いのではないかと思う。繰り返すと,問題点整理委員会としては,考え方の流れはつかんでいてもどちらかに決めることはできかねる面があるということである。(これは私個人の意見で,問題点整理委員会委員の中には他の意見もあるかと思うが。)

福島会長

 もちろん字体に関する専門委員会が具体的な検討をしている間に総会としては,例えば先ほど宇野委員が御指摘になった略字という考え方について基本的な意見を交換しても一向差し支えない。それどころか意見を交換すべきものと思う。つまり,字体に関する専門委員会と総会とで種類の違う問題を同時に検討していっても一向に差し支えないということである。何かほかに意見があるか。

木内委員

 もう少し問題が煮詰まらないと,現在の時点で別の委員会が発足したら困るような気がする。総会でこういう方針でやればいいということが明確になれば,漢字表委員会が併せて検討することはそう難しくないという感じを持っている。
 それから,今の楓委員の質問でヒントを得たことがあるので,少し述べたい。
 一体字体表は筆写のためのものか活字のためのものかといった問題について,このアンケートは非常に役に立つ。これで問題の相貌(ぼう)はとらえ得たという感じがするが,今の話に出ていたような大事な点が,この膨大な資料の中に隠れてしまって,むしろ岐路というものが明確でない。それで,今の筆写のためか活字のためか(私はもともと字体は筆写のためのものと思っていた。ところが現代ではコンピューターの関係も出てきて,活字のためのものこそ必要であり,筆写の方はむしろ別に考えるべきで,各個人に任せてもいいものであり,何も標準を示さなくてもいいものである,という考えの方に少し揺れてきた。)とか,字体表のトップに示す字体には何を使うか(漢字表はいわゆる正字体・旧字体というか康熙(き)字典体というか,明治以来これが漢字だと普通日本国民が思ったもので載せて,こういう字体もあり得るということを示した方がいいと私は思っている。)とか,といった岐路に立つ問題だけを拾って項目ぐらい立てて,「はい」か「いいえ」か「A」か「B」かという聞き方で一度聞いてみると良いと思う。質問の出し方さえ良ければ,結果としては別の委員会をつくることにあるいはなるかもしれないが,多分つくらなくてもいいということになるのであろうと今のところ思っている。

福島会長

 筆写体か活字体かという問題であるが,確かに活字体ということを頭に置いて審議しなければならない面が多分にあるようである。

木内委員

 一つ落としたので付け加えたい。これはAかBかでは聞けないことである。今の「当用漢字字体表」をどう思うかという評価,つまり,これがいいのか悪いのか,悪いとすればどこに悪い点があるのかというようなことも聞いてみる価値があると思う。

福島会長

 そういう点もあるいは具体的な字体に関する検討の初期の段階ぐらいを済ましたところで,その結果を聞いてからであれば,なお意見が出しやすいということもあろうから,何らかの形での字体に関する専門委員会をつくり,具体的な作業をした方がいいという気がする。そうなると,漢字表委員会と対立して字体表委員会を全く別個につくるというのも穏やかではないだろうから,将来はまた問題の展開いかんで検討手段を別に考え得るということもあるので,当面漢字表委員会に一部分の努力を割いていただいて,漢字表委員会のもう一つの小委員会というような形で作業をすることにもなろうかと思う。更に意見を伺いたい。

木内委員

 小委員会というのは,漢字表委員会の中の小委員会のことか。

福島会長

 そのとおりである。漢字表委員会には現在具体的作業のために漢字表についての小委員会が一つあるから,字体表のための小委員会をもう一つつくることになる。漢字表委員会の岩淵主査はそのように言われても困るとお考えかもしれないが。

トップページへ

ページトップへ