国語施策・日本語教育

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次第 庶務報告/前回の議事要録について/子の名に用いる漢字及びその扱いについて(1)

福島会長

 それでは第107回国語審議会を開会する。
 初めに事務局から庶務報告がある。

室屋国語課長

 第8期以来,音訓表の検討の際の漢字部会長として,また漢字表並びに字体表の検討の際の漢字表委員会主査としてお骨折りいただいた岩淵悦太郎委員が去る5月19日にお亡くなりになった。謹んで御冥(めい)福をお祈りするとともに御報告申し上げる。

福島会長

 お骨折りいただいた岩淵委員のために黙とう(とう)をささげたいと思うので,御起立願いたい。(一同黙とう
 前回総会の議事要録は前もってお手元に差し上げてある。御自身の発言について修正箇所があったら,どうぞ。(発言なし。)後でも結構であるので,事務局にその旨御通知願いたい。議事要録を確認したことにする。
 それでは,議事に入りたい。「子の名に用いる漢字及びその扱いについて」というのが議題となっている。人名漢字については,前回総会で意見を伺ったが,その際,審議会委員全員の意見をアンケート調査という形で伺ったらどうかということになった。問題点整理委員会の御協力によりアンケート調査を行ったわけであるが,その結果に基づいて本総会で人名漢字の扱い方の態度を決めるという予定になっている。
 アンケートの結果は既にお届けしてあると思う。改めて問題点整理委員会の遠藤主査から御報告願い,その後で御意見を伺い,審議を願うということにしたいと思う。

遠藤主査

 それでは,第106回総会以後の問題点整理委員会の活動の状況をお話しする。
 この前の4月7日の総会に基づき,4月19日(水)に会長,副会長,私,副主査の松村委員,事務局が集まり,どういうふうに進行していったらいいかということをいろいろ相談した。そこでアンケート調査も含めて,本日の総会に提出する人名漢字をどう処理したらいいかという討議資料を問題点整理委員会でつくる,ということが決まった。
 それで,総会後の第1回目の問題点整理委員会を4月21日(金)に開催して,国語審議会として人名漢字に対する基本的態度をどう決定すべきかということを協議した。そして,これについてのアンケートをまず実施するということを決めた。アンケートの内容,項目については,各委員の意見を参考にして,更にその時,問題点整理委員会の委員から出た提案もあって,統計に詳しい林知己夫委員の御意見を伺った上で,主査,副主査,事務局でアンケート案をつくることにした。それを次の問題点整理委員会に提出してアンケート要項を決定する,ということになった。
 次に,第2回目の問題点整理委員会を5月12日(金)に開催した。前回の趣旨に従って作成したアンケート案を主要議題として提出した。いろいろと御協議願って,これを部分的に訂正の上,決定して,これを国語審議会の全委員に発送することを決めた。この会合には,問題点整理委員会の委員ではないが,林知己夫委員にも御出席を願って,協議に参加していただいた。
 その際,法務省の態度というものに余りこだわっていては,アンケートをつくっても,そのアンケートの答えがはっきりしないことになるので,一応法務省の態度を考慮の外に置いて,国語審議会としては,人名漢字,子の名に用いる漢字についてどういう態度をとるべきか,ということでアンケートを作成した方がよいのではないかという林(知)委員の御意見があって,これに委員のほとんどが賛成した。そういう立場に立って,このアンケート要項を作成した。これはお手元に発送したとおりのもので,アイウエの各項目に分かれていて,更にア,イは幾つかに分けてあるわけである。
 国語審議会ではアンケートを今までに何回かとっているが,今度の場合は非常に回答率がよく,現在の委員49名中,43名の委員が回答している。中には海外出張中の委員もおられたので,回答率はほとんど100%に近いといっていいと思う。
 このアンケートの回答の整理を事務局にしてもらい,第3回目の問題点整理委員会を6月20日(火)に開催した。ここで整理したものを議題にしていろいろと国語審議会としての人名漢字,子の名に用いる漢字に関する基本的な態度をどうしたらいいかということを話し合った。
 本日,お手元に差し上げてある資料1は,大体現在では国語審議会としてはこういう態度で人名漢字に臨んでいるという過程というか,そういうものを法務省へ知らせて,法務省がいろいろと検討するきっかけをつくる,という意味のものである。これはもちろん案であって,本日の協議の結果,これでよいということになれば,これが採用されるということである。
 更に全委員にアンケート回答を前もってお送りした。既にお手元に届いていると思う。アンケートの回答人員は43名で,その意見をアンケートの回答の範疇(ちゅう)に従って分け,更にアンケートは関連した意見を御記入願うようになっているので,その御意見を記載している。
 これで見ると,アの「子の名に用いる漢字は一定範囲に制限する」というのは10名である。これはパーセンテージでいうと,23.3%になる。それからその中のA「字数は現状程度とする」が7名,B「字数はもっと増やす」が3名である。
 イの「子の名に用いる漢字は目安とする」というのは,27名である。パーセンテージにすると,62.8%と圧倒的である。その中で,A「字数は現状程度とする」が24名,B「字数はもっと増やす」が2名,C「字数はもっと減らす」が1名である。
 それから,ウの「子の名に用いる漢字は自由とする」というのが,5名である。これはパーセンテージにすると,11.6%で非常に少ない。
 エの「その他」は1名である。パーセンテージにすると,2.3%になる。関連した意見は終わりの方にあるとおりであるので,これはお読み願ったものとして一々読み上げない。それらのことを参考にして,本日いろいろ御協議願いたい。そして,資料1で差し上げたような案が採用されることになれば,問題点整理委員会としての意見が採用されたことになるので,大変幸せである。

福島会長

 このアンケートの結果について,御発言があれば,どうぞ。その上で審議会としての法務省に対する回答を一応このようにしてはどうかという案があるので,これでよいかどうか御審議願うことになると思う。
 とりあえず,アンケートの結果又はアンケートの仕方についても御発言があったら,どうぞ。あるいは,アンケートに基づき,一応法務省側に対する回答案「「子の名に用いる漢字及びその扱いについて」の審議状況について」の審議を願いながら,アンケート自体について御意見を承るということも実際的であると思う。この案を読み上げていただく。
(上岡国語課長補佐朗読)

 「「子の名に用いる漢字及びその扱いについて」の審議の状況について(案)」

昭和53年6月30日,国語審議会
 「多数意見は,国語施策として新漢字表(仮称)に収める漢字を法令・公用文書・新聞・雑誌・放送等一般の社会生活で分かりやすく通じやすい文章を書き表す場合の「目安」として示すこととする以上,子の名に用いる漢字及びその扱いについても,これに即しておおむね現状程度(新漢字表に収める漢字や現行の人名用漢字など)の字数・字種を示して,これを「目安」として扱うのが妥当であるとするものであった。
 これに対して,子の名に用いる漢字は,一般の社会生活で用いる文書の文字とは異なる要素があることから,その字種を検討したり,字数を増加するなど必要な措置をすることはともかく,その扱いについては,現行どおりこれを一定範囲に制限するのもやむをえないとする意見もかなりあった。また,そもそも子の名に用いる漢字及びその扱いについては,親や社会の良識にゆだねるべきで,法的な規則はすべきではないという意見もあった。
 今後,戸籍事務の適正化等民事行政の改善の観点から子の名に用いる漢字及びその扱いを検討されるに当たっては,これらの意見について十分配慮されるよう要望したい。」

福島会長

 問題点整理委員会で御検討いただいた回答というか,法務省に対する審議会としての連絡としては,このような文書ですると同時に,口頭の説明をつけるということになるのだろうと思うが,この文書の案で適当であるかどうか,いろいろお考えもあり得ると思うので,御意見をいただきたい。

村松委員

 この回答案は大変結構だと思うが,一つだけ申し上げたい。ここでは字数・字種等に関して一定の範囲に制限するのもやむを得ないとか,あるいは法的な規制はすべきでないという意見があったということであるが,人名漢字に関するアンケート回答の7ページのところにそれらと違った意見が出ている。
 7ページ3行目に「人名の社会的側面にはどういう文字で書かれるかという表記の問題と,どう発音されるかという読み方の問題とがある。……人名の社会的意義が読み方にある点を周知させるよう努力をする」のも大事ではないか,「戸籍登録の際に必ず読み方をも登録させる」ということがあってもいいのではないかという意見が出ている。それから,8ページの5行目に「戸籍の人名登録欄には姓名の字形欄と音形欄とを設けるようにしたい。」という意見がある。これは,今,子の名に用いる漢字が多種多様に読まれているという現状があって,そのために自分の呼び方が,例えば「有島武郎」は「たけお」というのが正しいが,「たけろう」と言われても答えるというような習慣が国内ではできてしまっているので,外国に行くときに,パスポートには戸籍の発音で記載し,向こうへ行って日ごろ使っているのを言ったために別人と間違えられて非常に困ったという例がいろいろある。国民に自分の本当の名前の発音の徹底化を図るという意味から,もう少し発音のことについての指導というか届けたときにはっきりした呼び名を統一させるということを考慮してはどうかという意見がせっかく出ているから,こういう意見も回答案の中に附帯事項としてつけておいてはいかがかと思う。

福島会長

 ごもっともと思う。私もその点,気がつかないわけでもなかった。読み方という問題についての意見もあったのだから,検討のうちに加えておいてほしいという言い方を付け加えるかどうかということであるが,その点は,遠藤主査,いかがか。

遠藤主査

 問題点整理委員会でそのことはたびたび問題に出た。法律のことはよく分からないが,現在でも名に読み仮名をつけることでできるそうである。ただ非常に不便なことには,いったん読み仮名をつけると,それが公的なものと認められて,いろいろな公的な文書には全部仮名をつけなくてはならないそうである。ただ,これは子の名に関してだけであって,姓の方は一体どうするかということがる。姓の方には読み仮名を付けることについて何もないが,それをどうするかは,法律的な問題で私にはよく分からない。
 それから,先ほど旅券の問題などもいろいろ話に出たが,結局その旅券を届けるときに,本人が注意してローマ字なり片仮名なりですればいいのであるし,それを特に申入れに附帯する条件として書く必要はないのではないかという御意見もあって,このようになっているわけである。そこのところは非常に微妙で,そういうのを付け加えるとすれば,どうするのか。姓の問題をどうするのか,名だけ仮名を付けるのか,いろいろと大変微妙な問題が出てくるように思う。

福島会長

 今の御説明のとおりであるが,そういうこともあるということを若干意識して,先ほど,これは一般に通達するという文書ではなく,法務省に対してこの趣旨で検討してもらいたいという連絡用の文書であるから,文書としてはこれで連絡して,口頭の説明を付けると申し上げた。口頭の説明よりは,例えば1行でも2行でも,その辺のことが話の種になった。関心の種であるということを付け加えるという案はないが,検討してほしいという意味を付け加えることも必ずしも差し支えのあることではないと思うので,いかようにするか,審議会全体の判断の上で御決定をいただくようにしたいと実は考えていた次第である。今,御発言の問題点があるということを御承知の上で,今後の御発言を続けていただきたいと思う。

遠藤主査

 今の会長の御意見には私も賛成である。子の名に用いる漢字にはなるべく仮名を付けるということは結構だと思う。ただ,子の名に用いる漢字には仮名を付けた方がよいという意見があった。姓の方は,先ほど申し上げたように,今度全然問題になっていないという趣旨を尊重して……というような一文を付け加えていただければよいのではないかと思う。

福島会長

 それは各位の御意見を伺ってからのことにしたいと思う。

宇野委員

 ここには専門家がおられるので,伺いたい。つい二,三か月前に孫が生まれ,その届けの書類を見たところ,漢字を書いて,その横に読み仮名をなるべく書いてほしいというふうに書いてあった。なるべく書いてもらいたいというので,別に書かないから受け付けないというわけではなかった。ただいま,遠藤主査からお話があった振り仮名を付けると未来永劫(ごう)公式のものには振り仮名が付いてしまうということは,私どもの子供のころはそうであったように聞いている。大体の人がほとんど振り仮名を付けないというのが普通の習慣であった。ところが,最近はそうではないようで,そこになるべく付けてほしいというのであって,書いておいたとしても,別にそれは付いて回るのではないというように了解している。これが一つである。
 二つは,今度の報告文についてである。簡単な報告をするとすれば,これ以外にちょっと書きようがないだろうと思うので,別にどうこう言うつもりはないが,アンケートの回答を拝見すると,依然として「目安」という言葉に対する認識,あるいは概念について少しずれがあるような感じがしてしようがない。
 私の了解では,「目安」というのはまさに「目安」であって,決して制限ではない。だから文字どおりの「目安」ととれば,理屈の上からは全く自由放任と同じことになってしまうわけである。そうであるにもかかわらず,「目安」とするのは全く無意味であるというような批判も耳にしているくらいである。私は,それは内心好ましいことだと思っているのであるが。
 しかし,これを拝見すると,どうも「目安」を依然として従来の制限と同じような意味にお考えになっている委員が非常に多いように思う。したがって,法務省に「目安」ということで返事をする場合に,「目安」という概念を明確にしておかないと,法務省でどう考えるか非常に心配である。大体「目安」というのは,法律用語ではないであろうから,法務省がどういうふうに考えるか分からないが,その点が少し心配である。
 もう一つ,アンケートの回答の後ろにある人名漢字に関する意見は随分分量があって(私ももちろん意見を書いた一人であるが。),一々書くのは大変かもしれないが,この意見はなるべく法務省に一緒に印刷物にしてお出しいただきたい。もちろんこの意見は一部の委員の意見であり,全部を尽くしているわけではないが,こういう意見があって,それを背景にしてこういう結論が出ているのだということが,やはり大事なことではないかと思うので,そのようにお願いしたいと思う。

福島会長

 一番先の御質問にあった仮名の点は,戸籍法上の振り仮名の取扱いの問題であるが,どなたか回答のできる方はおられるか。

上岡国語課長補佐

 法務省で出している事務提要を見ると,出生届のところにその読み方というのがある。それに対する記入の注意として,読み方は戸籍には記載されない,住民票の処理上等必要であるから書いてほしいということになっている。これをやや理屈っぽく言うと,戸籍法上の要請と,いろいろな事務処理上のことが込み入っているのだろうと思う。
 戸籍法上の話としては,先ほど来,話が出ているように,名前にいわゆる振り仮名を付けたらずっと戸籍上は付けなければならない。戸籍上で言う振り仮名のことを法務省では区別してであろうか,戸籍上の名の傍訓という言い方をして,そこは事実上の話と戸籍法の要請に基づく話と区別して事務処理をしているように見受けている。つまり,戸籍法に必ずついて回る傍訓については,事務処理上,これは戸籍に今後とも付けていいということを届出人から確認して,申出がなされたときにのみこれを付するものとするということで,法令の要請に基づくものと事実上のものと分けているようである。

福島会長

 宇野委員の2番目の御発言の中にあった「目安」という言葉の問題であるが,仮にこの案で法務省に連絡すると,「目安」として扱うのが妥当であるとするものである,と返事をするわけであるから,その「目安」というのはどの程度のものかという質問をされるおそれは多分にある。したがって,その際の回答その他で,できたら「目安」についての審議会の意向がまとまっている方が望ましいことはいうまでもないので,この問題については再三話合いはあったようにも思うが,差し当たり法務省に対する文書の返事に「目安」という字を書く以上は,質問された場合どの程度説明するかということなどについても御意見を承っておけばありがたい。
 3番目の各委員の意見で一応取りまとめてあるものを口頭説明に加えて法務省側に示すということは,私も異存はないし,恐らく各位も御異存のないところだろうと思うので,特に反対がない限りはそのようにしたらいかがかと思っている。ほかに何か御意見があったら,どうぞ。
 「目安」というのは,そのものピタリでなくてもいいが,余り遠く離れては困る,という意味はないであろうか。

角田委員

 私は法務省を代表しているわけではないが,仮に「目安」とするというようなことで国語審議会から意見が出て,それを戸籍法の上で表す場合にはどうするかという問題として考えてみたいと思う。
 まず第1に仮に国語審議会の答申を受け入れて,その意見によりそれを戸籍制度の上にも表す,実施するということになれば,当然現在の戸籍法50条は改正しなければならない。というのは,言うまでもないことであるが,現在の戸籍法は制限的な書き方をしていて,とうてい「目安」とするというふうには読めないと思うからである。
 第2に仮に法律の改正を必要としたならば,どう書くかということであるが,これは大変難しいだろうと思う。結局最後には,「目安」としなければならないとか,「目安」とするものとするとか何とかということになると思うが,恐らく法律の中でも,その「目安」の意味をいろいろ法律的に解釈して,それを表現するというのは非常に難しいのではないかと思う。
 第3には,法律的に仮に「目安」としなければならないとか,あるいは常用平易な字を使うように努めるものとするとか,改正の仕方はいろいろあると思うが,いろいろな改正をしてみたところで,それを実際に実施する場合には,先ほどちょっと御指摘もあったが,法律的には自由にするというのとまずほとんど違わない。というのは,「目安」は国語的な意味ではいま会長が言われたようなことだと思うが,法律的には仮に届出人がいろいろな字を持ってきた場合に,役場の戸籍の現場では受け付けられないとは恐らく言えないと思うからである。

福島会長

 実は問題点整理委員会の検討の際,出席できなかったが,この案を拝見した時に,私なりに今仰せのような,非常に法律的というか,困難な問題があるだろうと思った。しかし,これは法務省で検討を願うとき,材料としてこちらの意見を出す,つまり,この新漢字表に基づき,人名用漢字表なども加えて,字数,字種を「目安」とするというふうに国語審議会は考えているから,これを「目安」として法務省は検討を願いたい,ということを言っているのではないかと読んだ。
 そして,これを「目安」として法務省で検討して,「目安」ということで公布するというか,制度を定めるという名案が出てくればそれに越したことはないし,また,それは不可能であるということであれば,人名漢字の字数,字種を検討する際に,新漢字表なりその他を「目安」として検討願うということになるのかと思って,この案でも結構ではないかと一応読ませていただいた。法務省に対して,これは「目安」として扱って検討願いたいという意味だと読んだか,あるいはほかにそういう読み方ではない考えも当然あり得るはずだと思うので,そういうことで審議会の意見が決まっているとは申し上げない。そうではなくて,「目安」として発表願いたいということになれば,仰せのとおりの問題になると思う。

木内委員

 お話を伺っていて,これは少し困ったことになるかもしれないということに気がついた。
 法務省としては,「目安」という不明確な定義のしようのない言葉では法律は書けない。向こうは法律を書くのだから,そのときに,「目安」という言葉を使えば事実上自由になる。それなら,自由と書いてはいけないかと法務省に言われたら,国語審議会は何と答えるか。あくまでも「目安」であって,自由にしてはいけないという意見を主張すべきかどうかということを今決めておかないと,バックファイアみたいなもので,こちらにはね返ってきたとき困る。
 私は,アンケートの回答では自由にするというのは余り飛び離れているようだから,「目安」と言うほかはないという意見を書いておいたが,実際には自由にした方がいいと言い切った方がいいかもしれない。
 少なくとも法務省と話をするときに,先ほど「目安」についてこう言おうかと思うということが出たが,それで大変結構なのだが,それはここの気分では大変結構なのであって,向こうでは非常に困ることを言うわけである。そのときに,では自由でもいいのかと言われたら,自由は困ると言うのは反対である。だから,法務省の都合上自由にされても,国語審議会はオブジェクションはないと言わざるを得ない場合があると思うから,そのことを討議しておいた方がいいのではないか。

福島会長

 御趣旨は分かっているつもりである。しかし,先ほど申し上げたような形で法務省に言ったとしても,法務省はそれほど困るとは思わない。これを「目安」として法務省の規則を考えてほしいといっているだけで,国民大衆に「目安」ということで発表してほしいとは言っていない。

木内委員

 そうしたら,法務省は自由ということにするか,そう言うかもしれない。

福島会長

 そういう趣旨では,少なくとも,将来のことはいざ知らず,今回の国語審議会の,また人名漢字に関するアンケートの結果での,多数意見としては自由ということになってはいないという説明をせざるを得ない。

木内委員

 今の段階では,この案のとおり法務省に申し入れるのはいいと思う。先の心得を審議しておいた方がよくはないかと言っているだけである。

福島会長

 今の法務省の人名漢字表以外の関係でも,新漢字表を発表する際に,「目安」という言葉について我々の意思統一を図っておく必要があるだろうということは,先ほど申し上げたとおりである。しかし,人名漢字表で法務省に連絡するというか,回答する際には,一応法務省の処置の範囲内でおさまるであろうというふうに考えられる,と申し上げた次第である。依然として,根本的な「目安」とは何かという木内委員の御指摘の点が残っていることは事実である。当面の法務省との連絡関係では,私の解釈がいいか悪いかは別問題として,そういう方式はあり得ると考えている。
 アンケートの結果についてのお考えはいろいろあるだろうと思うが,大体現状程度にとどめておきたいという方が非常に多数であるということは分かっているわけである。アの人名漢字について制限をおきたいという中では,字数は現状どおりにする,増やすという2通りある。また,イの「目安」という中では,字数は現状どおり,増やす,減らす,という3通りある。
 ア,イを通じて,字数は増やすと答えた5名,ウの5名,エの1名を43名から除いた残りの32名はおおむね現状どおりの字数でやりたい,ということである。ただそれをそのまま制限の字数にするという組と,それを「目安」とするという組とに分かれているにすぎない。
 したがって,法務省に考えてもらうときに,そのまま制限をするにしても,あるいは「目安」として若干のゆとりを持たせるにしても,字数におおむね現状どおりの数の付近であるという考えが,国語審議会の委員としては大多数であるということは言える。

宇野委員

 さっきから申し上げているのは,それなのである。私が拝見した範囲では,いま会長の言われたように,「目安」という言葉を一種の制限的なものと考えている委員が確かにおられるが,そうでない委員もおられるように受け取れる。そうすると,そういうふうに言ってしまうと,少しまずいのではないかと思う。
 それから,今日は鈴木委員は御欠席であるが,御出席であれば,多分また同じようなことを言われるのではないかと思うので,少し代弁をする。
 大分前の総会の時,鈴木委員は,戸籍法では子の名に用いる漢字は常用平易な文字とするという趣旨のことが法文にある。ところが,現在当用漢字1,850字はともかくとして人名漢字として追加されたものの中には,どうも自分としては必ずしも常用平易とは考えられない文字が入っている。そうすると,それは事実としては大変結構であるが,法律的にはおかしいのではないか,また,大体子供の名前というのは,普通に文章を書くということとは性質が違うということを言われたことがある。私も全くそう思う。前から申していることであるが,人の名前というものは,呼び方にしても文字にしても,他と区別するためのものである。だから,常用平易な文字ばかり書いていると,私の知っている範囲だけで見ても(子供の名前を正確に調べてみればある程度の結果が出ると思うが。),非常に妙な読み方をする。普通ではそうは読めないと思うのであるが,字引のどこからほじくり出してくるのかあるいは自分で勝手に読むのか分からないが,字そのものは常用平易な字であるが,普通の常識ではとてもそうは読めないという名前を付けている例がある。現に私のいる大学の学生にそういう例がある。
 であるから,その他の意見のところであったように,普通の読み方がむしろ問題ではないか。字そのものは,このように漢字の力が衰えた時代に,そんなにとんでもない字を書く人は普通はいないだろうと思う。
 私が漢字を専門にしているので,難しい字を付けたがっていると言われるであろうが,それは少し見当違いである。漢字をやっている人間は,むしろ余り難しい字は使わないようにしようという自制心が働くのが普通である。口はばったい言い方で大変恐縮であるが,むしろ余り漢字については知識のない人が人に聞いてどうも普通の字では気に入らないから,もっと変わった字はないか,ということで難しい字を付けたがるということが多い。普通の良識人としてはそんな難しい字は使わない。
 ただ,私が非常に不満に思って,何とか自由にしてもらいたいということを繰り返し言っているのは,次のような理由からである。
 人の名前として,色葉字類抄とか姓氏録とかいうものでごく普通に使われている字を調べたらどうかという意見が出されていた。確かにそれも有力な案だと思うが,従来の人の名前としては,ごく普通に使われている文字で,当用漢字表にも人名漢字別表の92字にも,人名用漢字追加表の28字にも入っていないのが,かなりあるからである。それが現状であるので,私はそういう制限をするのはどうしても賛成できない。もしどうしても制限をするならば,1万字ぐらいに決めていただきたい。1万字あれば,大体今日日本で普通に使われる文字としては,それを超えている字はまずないだろうと思うからである。もちろんはみ出しているのもあると思うが,2,000字や3,000字で切られるのでは,どうも承服いたしかねる。「目安」というのはそういう意味だと思っている。

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