国語施策・日本語教育

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次第 子の名に用いる漢字及びその扱いについて(2)

福島会長

 「目安」というのは,幅がどれくらいかということであるが,現在の国語審議会の委員で24名の方はこのアンケートの中で「目安」とする,字数は現状程度とするとお答えになっているし,「目安」とするが,字数は減らすという方が1名おられるので,25名は,「目安」とするが,「目安」とする字数はおおむね現状どおりとするということになる。これに制限論者を加えると,80%近い数字になる。したがって,国語審議会で「目安」と考えていることは,現状に近い字数をもって基準とするという考え方であり,若干はみ出すことは致し方ない(言葉遣いは別に考えることとするが。),ということであると,少なくともこの法務省との関係においては言えるのではないだろうかという気もする。

林(大)委員

 私の「目安」ということの受け取り方を少し申し上げてみたい。
 今までの制限と考えられたことは,ここに100人の子供が生まれたとして,その100人が100人とも,この制限表の中の字で名前が付けられるべきであるということだったわけである。しかし,今度の「目安」というのは100人のうち90人,95人あるいは98人という範囲の人は,なるべくこの範囲の字を使うべきである。残りの10人なり5人なりあるいは2人なりという子供たちは,ほかの字を使ってもまあいいというのが最後の形になるのではないかと思う。そういう意味では,これを「目安」としたということは,どの字を使うかということについては全く無制限になったものというふうに考えなければならないと思う。先ほど角田委員が法律としては無制限になると言われたのは,字の種類においては全く無制限になるということではないか。漢和辞典からどんな難しい字を拾ってきても構わないということにならざるを得ない。そういう字を使う子供が実は100人のうちに何%かはいても構わないということが今度の「目安」ということではないかというふうに,私は了解するわけである。
 結局,我々が人名漢字をどうするかということを論じて,それを「目安」にしたということは,この社会において生まれてきている子供たちについて,なるべく多くの子供たちがこの範囲の文字を使って名付けられることが望ましいということを言っているものというふうに了解している。

福島会長

 新漢字表を発表するに際して,これが「目安」であるというときの「目安」とはということになれば,仰せのような説明になると思う。ただし,先ほど角田委員の御意見も伺ったが,人名漢字表についてそうなるかどうかということは,若干実際上の問題はあり得るのではないか。法務省の審議会で人名漢字表を審議する際に,新漢字表を「目安」として,また,現在の人名漢字を「目安」として検討するということであって,実際の窓口事務の問題としては(「目安」部分というのは法律技術の問題で分からないが。),先ほどのお話を承ってかなり難しいのではないかと思う。

志田委員

 この案で大体いいのではないかと思うが,一,二修正点を述べたい。初めの方に「おおむね現状程度(新漢字表に収める漢字や現行の人名用漢字など)」と説明してあるが,「現状程度」という言葉は,場合によっては多少誤解を招くおそれがあるのではないかという気がするので,むしろ「現状程度」という言葉をやめて括弧の中にあるような言い方「おおむね新漢字表に収める漢字や現行の人名用漢字など」としてはどうか。「など」があるから,「当用漢字表」にはあって,新漢字表からはずされたものも,場合によっては考慮していいという意味がある程度出るのではないかという気がするので,括弧の中の方をむしろ主文にするようなかっこうで表現したらいかがであろうか。もっと適当な表現があるかもしれないが,「現状程度」という言葉については多少疑念を感じる。
 次の点であるが,3種類の意見が有力なものから順序をつけて併記してある。それぞれアンケートの結果として「あった」というふうに表現しているが,これで最終的な国語審議会としての言い方が尽きたのかどうか,まだ,新漢字表等についての最終的な答申ができているわけではないので,できればこれも現在形にして,「多数意見は……妥当とするものである」,こういう意見も「かなりある」,またこういう「意見もある」,というふうにした方が落ち着くような気がする。

福島会長

 もっともな御意見と思う。委員会で検討してもらうようにしたいと思う。

前田委員

 私は問題点整理委員会の委員であるが,最初このアンケート案ができた時には欠席をしたので,初めは何のことか分からなくて,「目安」にせよと法務省に言っても,法務省としては,役場の窓口にいる無数の人にどうしたらいいかということを教えるのに,「目安」にせよといってその人たちの判断にまかせることは絶対に不可能であるから,一体何を言うことになるのか,と申し上げたが,問題点整理委員会の各委員の御意見を伺っていると,先ほど会長が言われたように,国語審議会はこれを「目安」にしたい(「目安」というのも先ほど会長が言われたように,大体今のラインで少し緩くするが,余り遠く離れない程度というのが,多数意見だと思う。),こちらはそういう気持ちだから,それをくんで法務省で実行可能な方式を考えてほしい,ということだとだんだん分かってきたので,この言葉でもいいと思った。
 そうすると,高等学校を出たくらいの知識で現場の吏員になった人たちに分かるようにする場合,法務省はどうするかというと,なるべくリジッドはしないでほしいということを言っているから,次のようになるのであろうか。
 今までは制限であったので,現場からの要望でもう少し増やしたいという訴えが来たときにも,一々国語審議会に聞いてきたが,今後はそれを聞かなくても法務省は窓口の方からいろいろな意見をとって,どうしてもこのくらいは増やしてもらいたいという希望が多ければ,独自の判断で少しは増やすことができる。また,今までの意見にも随分あったが,名前というのは非常に特殊なものだから,何百年も親代々続いてきた名前をまた子供に付けたいという場合には,難しい字だからいけないというのもかわいそうな面があるので,そういう特別な理由のある場合には,法務省で審議会のようなものをつくって,理由を明らかにして申し入れれば,その審議会の議を経て人名漢字表以外の新しい変わった字でも付けるのは自由ということになってくる。
 法務省に対して,「目安」という国語審議会の意向を聞いて,実行可能な案を考えてほしいというふうに教えるのだと思う。ただ先ほどの角田委員の言われたように,法務省としてこれを受け取れば,法律を改正して「目安」といっても自由と同じになるというのでは,これは反対せざるを得ないと思う。

林(知)委員

 私が一番最初にアンケートの相談を受けた時に,「目安」を入れれば,これが一番多数意見になるだろうということは想像がついていた。ところが,それをあえて入れても法務省は恐らく困らないだろうという感じを受けたのは前回総会の資料に子の名に用いる漢字ということで,「昭和50年2月28日,戸籍制度に関し当面改善を要する事項に関する民事行政審議会答申(抜粋)」というのがあり,その中の「審議の内容」というところの終わりに次のような文章が入っていたからである。
 「多数意見は……国語審議会における当用漢字表の改善についての検討の結果をまって最終的な方策を決定するのが相当であるとするものであった。
 これに対して,子の名にはなるべく常用平易な文字を用いることが望ましいが,氏については何らの制限がないこと等を考慮すれば,その規制を訓示規定の程度にすることが,妥当であり,また,現在国語審議会において当用漢字表の改善の問題を取り上げて検討中のところ,新たに作成する漢字表の性格については従来のような制限的なものとはしないという方針のもとに具体的な検討が進められている由であり,この方針に沿うことにもなるとする小数意見があった。」
 これを見ると,やはり専門家はうまいことをいうものである,「訓示規定の程度にする」という言い方をして,向こうも困らないという感じを受けて,あえてアンケートで「目安」にするというのを入れたといういきさつがある。

角田委員

 先ほど私の言葉が多少足りなかったのではないかと思うので補足したい。私は国語審議会と法務省の関係を言っているのではない。国語審議会としてはこういう意見を出し,そして今のところ多数説が「目安」として示すということであるから,法務省としては,これを受けてしかるべき方策を自分の責任において選択をするだろうと思う。その点で法務省と国語審議会との間において必ずしも意見が一致しなくても,それはしかたがないと思う。向こうの独自の判断でやるのだろうと思うし,こちらも,この考え方一つでやれという拘束的な言い方をしないわけであるから,それは少しも問題ないと思う。
 国語審議会の多数意見に従って,今度は法務省がそれを法律制度として国民に対して示すというか,実施をする場合に「目安」という案であれば,これは非常に難しいだろうということを申し上げただけである。国語審議会の意見をそのまま仮に採用して,「目安」という制度にしようと思えば,第1には,現在の法律は少なくとも改正しなければならない。
 第2は「目安」という気持ちを法律的に上手に表すのは非常に困難であるから,もし案を出せと言われれば,国語審議会の言われるとおり,子の名につける字は新漢字表で定める字を「目安」とするようにしなければならないということを書く以外にはないだろうと思う。
 第3には,そうなったらどうなるかということであるが,先ほどどなたか言われたとおり,実際には各人が届ける場合は自由であるということに法律的になるだろう。しかし,法務省としては「目安」とするように努めなければならないということを法律に書くわけであるから,現場に対する指導としては,これはちょっと思いつきみたいに申し上げるが,だれかある人が妙な漢字を持ってきたら,それは新漢字表にないから,なるべくやめたらどうか,と一言くらい言わせることになるだろうと思う。やめてはどうかという勧めを聞く人が,先ほどの御発言にもあったように,80%か90%くらいいるかもしれない。しかし,だんだん皆がやっぱりこれは自由だ,法律的には拘束されないのだろうということに気がつき始めると,その割合は低下するということにもなるだろうと思う。

林(四)委員

 この問題について各位の御意見を伺っていると,このような審議の仕方で結論を出していいのだろうか,基本的に大変疑問になってきた。というのは,「目安」論といっても,当用漢字について「目安」論をやっている場合と,人名漢字についてやる場合とは,全然土俵が違うからである。当用漢字の場合には,国語審議会の中だけのことで,法律に結びつかないから制限をやめて「目安」にしたと言っていれば済むわけで,それを世間が解釈して,いややっぱり制限だ何だというのは,言わせておけばいいという程度のことだと思う。しかし,人名漢字ということになると,こちらが言ったことのほかに法律がかぶさってしまうわけであるから,こちらがどういうつもりで「目安」だと言っているにしても,「目安」なんだという言葉を幾らうたっておいても,それが法律でこの範囲だと言われてしまえば,全然意味がないという位置になる。そうすると,当用漢字が「目安」だというのと,人名漢字が「目安」だというのと全然意味が違うので,人名漢字が「目安」だということをいうのは,結局,我々が自己満足しているだけの話で,実は意味のないことを言っていることになる。だとすれば,どうもおかしいのではないか。
 そもそも昭和26年に人名漢字に関する建議というものを国語審議会がしている。そのときの建議を一体国語審議会自身は,これが制限となる,これ以外の字は絶対使えないのだと法律で定められることを承知の上でしたのか,それとも,当用漢字を建議するのと同じような意味で,むしろ軽い気持ちで建議した,ところがそれが法務省の手にかかったら制限になってしまったということなのか。その辺が,私は全然分からない。もし国語審議会が当用漢字の方は制限といったって法律とは結びつかないが,人名漢字の方は法律で縛られるのだということを承知の上で建議したものならば,この時になってたいして基本的な議論もしないで,突如それを改正するようなことをやってくれということを言うのはおかしいと思う。
 つまり,法律に結びつくことを承知の上でした建議を,あれは間違いだった,国語審議会の重大な誤りだったからそれを変えることをやらなくてはならないということになると,1回や2回の総会で議論してできるはずはないと思う。26年の建議に対して国語審議会はどういうつもりであったのかということともう一度考え合わせて,これは本当に法律改正にまで迫るという意味で答えをするのか,それともそういうことは一切ノータッチで,こっちは「目安」ということだけいっていればいい,あとは法務省がやってくれるから適当にするという程度にやるのか,その辺,前のときの建議と比べ合わせてみないと分からないので,事実を伺いたいように思う。

福島会長

 その辺はいかがか。記録にはないか。

上岡国語課長補佐

 26年の建議は,お手元の青表紙の本の51ページに載っている。このところをめぐる問題については,それについての評価もあろうかと思うので,事務的にサーッと説明ということにもいかないと思う。一応資料はあるということだけでとどめさせていただきたいと思う。

角田委員

 私は昭和23年当時,むろん委員をしていたわけではないから,過去の資料に基づいて推定するわけであるが,26年に人名漢字表が特別に追加になった以前に,既に23年に,現在の戸籍法なり施行規則で,人名漢字は制限的なものだとして制度自体はできていた。ただ,そこに使われている字種なり字数が非常に少なくて不便だというので,むしろ戸籍行政の立場から追加してほしいということで国語審議会としてもしかたがないということで,恐らく第1回の人名漢字表の追加が行われたのだと思う。
 したがって,当時,法律制度としては既に制限的なものであるということは前提になっていたわけであるから,国語審議会としては,当時そのことは十分承知の上で建議をしたと解せざるを得ないのではないかと思う。51年の第2回目の時も,ああいうふうな経過をたどって国語審議会との接触が行われ,そして国語審議会からの意見が出て第2回目の追加が行われたということだろうと思う。
 であるから,過去の経過を客観的な資料に基づいて判断すれば,国語審議会は少なくとも今までは,人名漢字に対して制限的である現行制度というものについて,いろいろ意見はあったと思うが,結果的にはそれを容認してきたということだろうと思う。

福島会長

 私の読み方が悪かったのかもしれないが,この案を拝見したときに,人名漢字問題については新漢字表に収める漢字や現行の人名漢字などの字数,字種を「目安」として検討せられたいというふうに,これを読んだ。「目安」として扱うのが妥当であると書いてあるから,戸籍の窓口でも「目安」だという訓令を受け取らなければならないという扱い方になるとも考えられるが,法務省としてこれを「目安」として検討せられることを望むというのが多数意見であると,私としては読んだわけである。そのつもりでただいままでお話を申し上げてきたつもりである。「目安」ということで人名漢字表を公布せよとまではいってないのではないかと思うが,遠藤主査,いかがであろうか。

遠藤主査

 これは法務省のことは一切考えていない。ただ,国語審議会として「目安」とするのが妥当であるというのが多かったというだけのことである。

下中委員

 前回総会で,アンケートを仮に出してもなかなか問題が煮詰まる方向に進まないのではないかと申し上げたが,何かますます複雑になってきたような気がする。子の名に用いる漢字は「目安」として示す。あるいは字数はAの現状程度とする意見が,多数であるということであると,新漢字表とのかかわりはないわけである。字数は現状程度とするといっても,字種は全然別個のものを「目安」として示すということになるわけで,新漢字表とアンケートとのかかわりがますますぼけてきた。それから,「目安」としてつくる新漢字表を基準として子供の名前を考えるという読み方でお答えになった委員もいるのではないかということも疑問に思う。国語審議会としては,あくまでも新漢字表を審議してつくっているわけであるから,従来の当用漢字,あるいは追加された人名用漢字と戸籍とのかかわり合いの流れの中で,今度できる新漢字表をどういうふうに法務省が考えて何か手を加えるか,あるいは私が申すように,国語審議会と法務省の縁を切るような方向に進むのかどうか,そういう点に議論の中心はむしろあるので,「目安」議論は余り意味がないのではないかという感想を持つわけである。

福島会長

 子の名に用いる漢字について,これを「目安」として示すとはいっていない。新漢字表を「目安」として示す,としか書いていない。その考え方で,子の名に用いる漢字の字種,字数を検討したらいかがか,といっているだけである。

下中委員

 こちらの法務省に対する申告をこのアンケートからそういうふうに読んだということで,読み過ぎではないか。ある意味では,アンケート自体は,新漢字表とのかかわり,あるいは新漢字表の字種,字数,あるいは現行の人名用漢字などとはかわっていないわけであるから。

松村副主査

 今の下中委員の発言について少し補足説明させていただきたい。アンケートに,「現状程度とする」という項目が入っているが,アンケートにおける現状程度ということについては,いまの案の括弧内のようなことを踏まえているという注がつけられている。

森岡委員

 人名漢字はよく分からないところがある。人名漢字というものも国語の問題であり,国語施策の大きな問題であることはよく分かるが,私がこの審議会の委員になってから,人名漢字について具体的にここで審議していないと思う。結局,この問題は,法務省で51年につくった人名用漢字追加表をも含めて,26年に審議会でつくった人名用漢字別表をどう始末するかということだけが総会で議論になっているが,もしも審議するならば,御意見の中にあったように,今の人名漢字からはずすべき文字だとか,具体的な字種などを,本当はやるべきではないかと思う。
 事実上もう法務省にまかせるという形で,26年の後始末をどうするかということだけがここで議論になっているが,人名漢字というものが,国語審議会の問題であるならば,委員会をつくって初めから検討すべきであるし,26年の後始末だけの問題だったら,手続はどうしたらいいか分からないが,法務省に一括してまかせて国語審議会は手を引くべきである。そうでないと,何か人名漢字に関係しているような,していないようなことになる。人名漢字の後始末というのはよく分からないところであるが,そのあたり,どう考えたらいいのか,国語審議会はやはり責任を持っているかどうか,どなたでも結構であるが教えていただきたい。

福島会長

 人名漢字表の問題を法務省にまかせているということは,事実上そのとおりになってきたと思う。したがって,この際,新漢字表を発表できる段階になったときに,法務省として考え直す点があるかどうかということを聞いてきているわけであるから,新漢字表の扱い方としては,これを「目安」として示すということになる予定である,ということである。それを踏まえて法務省の人名漢字問題の検討を願いたい,とだけ言ったらどうかというのが,私一人の考えである。
 つまり,人名漢字に関する多数説も少数説も一応紹介した資料1のような答え方になるのではないかと考えているということである。それを更に法務省で検討し,法律技術上非常に困難なことを伴うであろうが,人名漢字表を「目安」として示すか,法律技術上難点が多過ぎるので,現在の人名漢字表を若干拡張するか何かして,制限にするとするか,法務省にまかせざるを得ないのではないかと考えている。ということでただいま申し上げてきたつもりである。

阪倉委員

 人名というのは本来制限的なものだと思う。漢字の組合せなら,6字でも7字でも8字でもいいが,大体2字くらいの組合せで名前を付けるという一般の常識みたいなものがあって,四郎がありふれているなら郎四と付ければよさそうなものであるが,それを付けない。結局は日本の言葉で名前の適当なもののパターンがあり,その中から親は選ぶので,同名の人が何人もいるということである。名前に付ける字としてはこういうのがあるという一つのモデルのようなものを示して,その中から適当なものを選んでほしいということを示せばいいわけである。法務省でそれを「目安」という形で示すのかどうか分からないが,その程度の緩い形で示すということでも構わないのではないか。この字の中で付けなければならないというふうに言わなくても,自然にある制約が生まれて人名には枠(わく)ができているというふうに考えていいのではないかと思う。
 したがって,「目安」という形で回答しても,またその精神に沿って法務省に示しても,実際問題としては,先ほどの林(大)委員の御発言のように,少数の異常な人名はやむを得ないが,大体においてあるパターンが日本語の人名にはできるというのが一般の趨(すう)勢ではないかと思う。

福島会長

 大体御意見を承ったように思うので,事務局の考えを承るが,法務省から求められている回答とこちら側で法務省に出す返事との時間的な関係はどうか。法務省が非常に急いでいるということは余りないような感じもするが,事務的には,どういうことになるか。

上岡国語課長補佐

 前回総会でも申したことであるが,もう一度申し上げる。来年3月新漢字表を答申していただき,それの内閣告示をすることになるが,その関連において,現在「当用漢字表」を直接法令に引っ張っているのは,戸籍法の施行規則であり,そこに当用漢字というのがあるので,形式的にいえば,それは最低限処置してもらわなければならない。処置をするに際しては,戸籍の方で今後ともこうするという意思決定があるだろうということである。その意思決定は,法務省では民事行政審議会を開いて意見を聞いてなされている。
 そうすると,民事行政審議会でこの問題について考えていただく必要があるということであるが,審議会令を見ると民事行政審議会の任期は1年ということになっているので,本格的に検討いただくのであれば,この秋ごろから検討を開始してもらわなければならないことで,逆算すると夏前には,民事行政審議会が検討を開始するに当たって端緒となるような国語審議会の審議状況を知らせてほしいということである。そうすると,委員の人選等,事務上の手続を済ませて,ということがあるので,本日のこういう席になったわけである。

福島会長

 そういう時間的な要件があるなら,本日いろいろ承った御意見を現在の案の中に盛り込むことができるのかどうか,問題点整理委員会では既に御検討いただいたわけであるから,運営委員会を開いて御検討いただいて,9月初めに予定されている総会の御了承を得られれば,それですぐ回答するということで時間的には差し支えないように思われる。繰り返すと,問題点整理委員会で御苦心を願ったこの回答案を土台として,運営委員会の御審議を経て9月の総会の了承を得た上で法務省に回答することにしたいと思うが,いかがか。

遠藤主査

 今,御意見をたくさん伺ったが,大部分は,法務省と国語審議会との関係がどうなるかということに触れているものであった。この案はお読みいただくと分かるように,法務省がどういう態度をとるかとか,どうするかということには触れていないわけである。国語審議会として新漢字表の制定には,こういう方針をとるから,その方針を尊重してそちらで善処していただきたいという意味であるので,各位の御意見をいろいろ拝聴しても決して御反対はないような気がする。
 先ほど志田委員が出された字句上の訂正は別にして,私は問題点整理委員会の一員であるから言うわけではないが,9月と言わず,本日の総会でこの案でよいかどうかということを御審議願いたい。これは決定的なものではない。まだ9月なり,来年の3月の過程においていろいろ訂正もきき,申入れもまだできるわけである。先ほど国語課長補佐から説明があったとおり,法務省で検討を始める契機をつくりたい,その契機をつくってもらうためにこういうものを出すということである。契機であるので,時期はなるべく早い方がよいということである。
 大変強引のようであるが,字句上の訂正は別として,そういう仮定的な申入れであることを御考慮願って,この案を本日の会議で御審議願い,もし御賛成が得られれば,これに越したことはないと思う。

福島会長

 本日の会議でお考えを取りまとめていただければ,それに越したことはない。

畑委員

 最近,私の経験したことで私として意外に思ったことがあるので,御紹介しておきたい。
 人の名前ではないが,今,労働省の委員をしていて,日本の化学工業の事業所で扱っている化学物質の戸籍をつくるという仕事を盛んに行っている。これは化学物質全部に名前をつけてアイデンティファイしようという仕事である。それで,どういうふうに名前を付けるかというルールを委員会で決めて,今,日本に3,000ばかりある事業所に,ごく短期間に各事業所で扱っている化学物質全部に名前を付けて出してくれというお願いをした。私の方は,そんなややこしいルールを勉強して書いてくれる人はめったにいないだろうとたかをくくっていたら,各事業所ではルールに合うようにしようというので,苦心惨たんして名前を付けて出してきた。日本人というのは,こんなに役所のいうことはきくものかと思って,経験として驚いたわけである。
 人名の方もそういうことを考えると,「目安」というのは,先ほど林(大)委員の言われたような意味に私も解釈しているが,恐らく「目安」でも何でも,そういうことが一言書いて出れば,日本の国民の90%くらいはそれを忠実に守ってくれるのではないかという感じが,非常に強いわけである。それ以外の人はもちろんどんな字を書いてもいいと思うが,「目安」とかそういう言葉がちょっと入っているといないとでは大変な違いで,全く自由であるといったら,それこそ本当に100人中50人くらいがかってな名前を付けるようになるのではないか,全く野放しで自由であるということをいうのは,出先機関にも大変迷惑をかけることではないかという気がしている。

馬淵委員

 私も問題点整理委員会の委員でありながら,ここでいうことを申し上げるのは申し訳ないが,気がついたことを述べたい。
 精神としては,確かに遠藤主査の言われたように,別に法務省の態度を縛るものではない。国語審議会の多数意見を示すだけだというので結構だと思うが,ここの文言を読むと,どうもそうではない。法務省にこうせよと言っているようなニュアンスがあると思う。
 4行目に「子の名に用いる漢字及びその扱いについても,これに即して,おおむね現状程度の字数・字種を示して」とあるが,「示して」というのは,だれがだれに示すのであるか。それから「これを「目安」として扱うのが妥当であるとするものであった」とあるが,「目安」とせよということを言っているわけであるから,法務省にそうせよと言っているようにとれる。したがって,この3行はやめた方がいいのではないか。国語審議会の態度を示すだけならば,その方がいいのではないか。
 それからついでに文言でよく分からないところがある。左の一番下の行に「必要な措置をすることはともかく」とあるが,「ともかく」というのはどういうことなのであるか,やれというのか,やってはいけないというのか。
 それから,右の終わりから3行目,「戸籍事務の適正化等民事行政の改善の観点から」とあるが,これはどうも法務的な言葉であって,国語審議会がこんなことをいう必要はないのではないか。「今後,子の名に用いる漢字及びその扱い」とすればいいのではないか。
 文言のことで恐縮であるが,今,いろいろ伺った精神からいうと,この案は妥当ではないのではないかと気がついたので申し上げた。

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