国語施策・日本語教育

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次第 子の名に用いる漢字及びその扱いについて(3)

古賀副会長

 私は,原則として必要が起こった場合には会長に代わってなるべく進行を円滑にするのが役目だと思っていたので,今まで努めて発言は避けることにしていたが,本日はあえて発言させていただきたい。
 今までいろいろの話に出た「目安」は,こう解釈すれば余り矛盾がなくて円滑に活用することができるのではないかと思う。
 新漢字表試案は,国語審議会の希望として,できるだけ広い分野に歓迎されるようなものであってもらいたい。またそういうことを心がけて非常に苦心してこしらえたものである。その関係上,一面から見ると,部分的にはこれでは字が足りない,こんな字も入れてもらいたいという希望がたくさんあると思う。それを緩和する説明として「目安」という言葉が用いられることになったわけである。
 つまり,甲の分野,乙の分野,いろいろな分野でそれぞれにもう少し字種・字数を増やしてもらいたいというものもあるし,あるいはこんな字はほとんど使うこともないから用はないというものがあるだろう。それをまんべんなく余りたいした不平なしに各分野で使ってもらうようにするためには,あくまでもこれは「目安」であって,いろいろな専門の人が,大体これに従えば問題がないようにするということでできたものであるから,その案を活用して今後実際に起こっている法務省の問題も考えられる。子の名前を問題にする場合には,どうしてもあれだけでは不自由で,実際に新しく生まれた子供に名前をつけるときに,こういう字があってほしいということを盛んに訴えてきたために,それを考慮して改正したくらいである。つまり,当用漢字表にプラス何がしかのものを大変熱望しているという空気があったからこそ,法務省は漢字表にはないような字をある程度追加して,一般の要望にもこたえ,法務省としても仕事がしやすいようにしたということであろう。ほかの分野でもそういうことはたくさんあり得ると思う。
 差し当たり具体的に非常に顕著な例を挙げると,農林省やそういうことに関係のあるところでは「繭」という字が入っていないためにいろいろな意味で不自由している。しかし,だからそれを新漢字表に入れなければならないという問題であるかどうかは別だと思う。示された「目安」には「繭」の字は入っていないが,農林関係の仕事のためには,取り扱う文書その他に「繭」の字を入れることがあったとしてもおかしいことではない。同様に,私が多少明るい分野で,国会に逓信委員会というのがあるが,この「逓」の字は,今,ほかの分野ではほとんど使うことがない。しかし,国会ではそれが使われている。この字なども,新漢字表試案説明協議会で,一部の人から入れておいてくれという話があったので,それぞれの分野で必要なものは,話合いによって,こういう字は互いによく通じ合うから,少なくとも通信,郵政に関係した文書,あるいはその他のことに使おうではないかという取決めがなされればいいのではないかと申したことがある。
 そういうたぐいの一つの例として,今後の法務省関係の話が扱えるのではないか。つまり,ある程度融通をきかしてやるということは,それぞれの分野で申合せでやるような範囲を幾らか考慮して決めたものというのならば,「目安」という意味は十分生きているのではないか。
 国語審議会が,それぞれの分野の人に対して全部満足のいくように決めることはもちろん不可能なことである。今,決めようとしているように,これは「目安」であり,「目安」であるというのは,特殊事情があり,特殊分野では,多少でこぼこがあっても不自由がないように各分野で決めることができるということではないか。新聞でも放送でもそういうことが起こるであろう。
 そういうふうに考えると,一方からいえば「目安」であるから野放しと同じではないかという話,別の方からいえば,詳しい説明をつけると,かえって制限のように聞こえてまずいといったような話は緩和できるのではないか。現在進行しつつある考え方,表現も別におかしくないと考えられるのではないかと,私は受け取っている。
 つまり「目安」という言葉は国語審議会がいっていることであって,その表現を参考にして,それぞれ特殊事情のあるところは,それらしく仲間の間で適宜決める。申合せで決めるようなところはそれでもよいし,法律にしておかなければ実際に仕事がやりにくいということであれば法律に入れる。その場合の考慮として,幾らか多めに入れるとか,余り多めにしないでなるべくしぼるとか,細かいことはそれぞれの部署で研究すればいいことである。それで国語審議会としては満足していいことではないだろうかと,感じているわけである。
 今日,会長が御提案になったやり方は,そのままで結構ではないかという気もするが,一方,これまたこの次に申し送るというほどの非常に難しい問題ではないのではないかという気も多少するので一言申し上げた。

堀委員

 古賀副会長が言われたことに内容的には賛成である。しかし,その内容を表現する案については,「目安」として取り扱うという方法論を,無理を承知で法務省に言うというのは,再考の余地があるのではなかろうか。法律上「目安」という言葉は取扱いが困難だということはよく分かったし,それはまた法務省の責任権限でやることも明白である。したがって,会長が言われたように,ここで決めてしまわずに,もう一度練り直して次の機会にというのが妥当ではないかと思う。

杉山委員

 原案の字句の問題は別として,こういう趣旨で取りまとめられることには賛成である。法務省から国語審議会の意見を聞いてきているのは,本来は法務省の審議会で最終的な結論を出すことになるが,人名については当用漢字を引用している関係もあってのことであろう。したがって,ここが結論を出すわけではないので,国語審議会としての参考意見を提出すればいいのではないか。
 そういうことから考えて,「目安」という言葉が今非常に問題になっているが,これは一つの幅を持たす用語ではないかと理解している。過去のようにこれだけの字でなくてはならないという制限規定でなくて,場合によってはもっと含みを持たして,法務省は現場を持っているから,現場からいろいろな意見が出てくる。そういう意見を踏まえて,新漢字表でなくて,これだけのものを増やしたいといえば増やしてもいいし,特殊事情があるような場合,例えば,先ほど出た先祖代々の名前を付けるという場合にはただし書の例外規定として法律で書くことは容易なことである。ここで「目安」ということをいっているのは,法律で「目安」という言葉を書けということをいっているわけではない。少しニュアンスが違うが,原則としてはこういう形であってほしいという意味を表現しているのではないかと思う。
 つまり,国語審議会としても,人名についてはある程度制限してもいいが,その制限は新漢字表にこだわることなく,もっと幅広く考えてもらってもいいし,特殊事情については,ただし書で救済してもいい。その辺は法律をつくる立場で十分考えてもらえばいい。「目安」をどうしても入れるということになれば,法律では自由となってしまい,制限はできない,という形でとらえるのではなくて,これは一つの幅を持たす表現であるととらえてもらう。そういう意味を法務省の審議会で十分くみ取って,法律をつくるということではないか。要するに,法律を改正しろとか,ということは,国語審議会の権限ではないと思う。
 そういうことを考えていくと,一部表現に適切でないところがあれば直してもいいが,趣旨はこの案でいいのではないか,できれば今日こういう形で採決されるのが適当ではないかと思う。

林(知)委員

 今,いろいろお話があったが,アンケートを出した時には,法務省との関係を考えないで答えてほしいという形にしているので法務省との関係を考えて最終的なものをつくったのではないということをはっきりさせるために,この案の最初に「この問題について,国語施策の観点から検討した結果」というような文章を入れれば,国語施策の点から我々は考えてこういう意見を出したということが明確になると思う。

宇野委員

 ただいまの杉山委員の御意見にあったように,「目安」という言葉について,とにかく一つの制限であるという考えもあるわけである。私は先ほどの林(大)委員のお説のように了解している。「目安」というのは,もう少し平たくいえば,窓口で,子の名に用いる漢字にはこういうふうな字があるから,このうちから付けてはどうか,というぐらいの勧告というか,そういうことをする,しかし,それでは不満だという人に対してはそれでは仕方がない,自由というふうに,そこですぐ一歩退く,ということであろう。その結果,林(大)委員の言われるように90%から98%の子の名の漢字は勧告のようになるかどうなるか,やってみなくては分からないが。
 であるから,何らかの意味において制限であるという考え方は,どうも……。大体国語審議会の新漢字表の「目安」についてはあくまでこれは制限でないとはっきりした合意が成り立っていると思う。そういう前提に立って,子供の名前を考える場合には,当然いかなる制限といえども加えてはいけない。ただ,いきなり自由とすると(私は本当はそうしたいが。)今までの行きがかりもあるし,かえってそれでは実務上困るようなことが起こるといけないから,「目安」として出すということなら,私としては,まあ承服してもいいと思っている。
 前々から考えていることであるが,今度の新漢字表が手元にないので「当用漢字表」でちょっと調べてみたが,子供の名前としてはほとんど絶対付けられないだろうと思うような字が,ごく大ざっぱに見ただけで約30ぐらいある。具体的な字を挙げると,死,汚,殺,盗,罪,罰などである。その他たくさんあるが,そういう字を子供の名前に選ぶ人は,よほどのへそ曲がりならどうかしれないが,普通はないと思う。そうすると,当用漢字1,850字のうち,実際使われるのは1,800字くらいになってしまう。どだい無理だったわけである。今度の新漢字表にしても,今挙げたような字はほとんど全部入っていると思う。弔辞の弔とか,また尿とか,そういう字はたくさんある。先ほど馬淵委員から,字種・字数を示してということは,ちょっとどうかという御意見があったが,もし示すとすれば,法務省はこんな字まで人の名前として考えているのかと思われたら,私はちょっと恥ずかしいことのように思うので,字種を示すことになると非常に問題がある。大々的な委員会でも開いて検討しないと,そう簡単にはいかない。
 前のときは,ちょうど「当用漢字表」ができたばかりだったものだから,それに飛びついて,「当用漢字表」によるものということで簡単に決めてしまったようであるが,あの中には,ざっと見ただけでも30字くらいはとても人の名前には使われない文字が含まれているわけで,どだい変な話だと私は思う。
 同じようなことばかり繰り返して恐縮であるが,本日の主題はこの案文についての賛否のようであるので,「目安」という問題について,さっき木内委員から御指摘があったように国語審議会では一体どう考えているのかということを向こうから聞かれたとき,つまり「自由にしてもいいか」と念を押されたときに「いや,それは困る」と回答されてはちょっと困る。「やむを得ない」くらいのことをいっていただきたい。
 であるから「目安」という言葉についての問題が多少残るが,本日のこの案については,先ほど来御意見が出ているように,二,三の字句の点は御検討いただきたいが,全体の趣旨としてはこれでよいのではないかと思う。

木内委員

 国語審議会の仕事は人名漢字表のことばかりではないし,人名漢字表については,随分長い間審議しているから,早く済ませたい。それから事の性質上,この案文を法務省へそのまま出しても,別に差し支えないと思うので,また運営委員会で審議する等のことをしないで,この席で決めた方がいいのではないかと思う。
 ただ一つだけ,文章についてであるが,最後の「今後,戸籍事務の……」以下のところで,初めの2行はいいが,「これらの意見について十分配慮されるよう要望したい」という部分は,ちょっとこの文の性質上合わない。前の部分で,こういう意見もある。こういう意見もあると述べているから,これを参考にしてくれればいいわけである。何か希望を出してこうしてほしいというなら十分配慮ということもあるが,これは少しまずい。国語審議会の議論はこういうふうであった。参考にしてくだされば幸いである。といったような書き方で流していいのではないかと思う。そうでないと何かひっかかる。そう重要なことではないと思うが,気がついたので申し上げた。
 とにかくこの案文を法務省に持っていって先方が「自由ということになるが,それでもいいか。」あるいは「自由という意味の公文を書くが,それでいいか。」と言われたとき,こちらの覚悟が必要だと思う。私自身はそれで結構だと言うつもりだから,国語審議会としてそれでいいかどうか念のためここで審議しておいたらいいだろうと思って申し上げたわけである。とにかくこの文案でいいと思う。

杉山委員

 アンケートの結果で,「子の名に用いる漢字は「目安」として示す」とし,その中で「字数は現状程度とする」という者が24名いる。これは相当の率ではないかと思う。自由にするという形,例えば「目安」とするということは,法律的にはなかなか書けない言葉ではないかと思う。先ほど法制局の角田委員が述べられたように,「目安」とするということになると,自由にするという結果になり,窓口が非常に困るわけである。「目安」だが,書かれれば仕方がないのだといえば,結果的には自由になる。そういうことになれば現行の法律を改正しなければならない。私は民事行政審議会の方でどういうようにとろうと,本来ならばこのアンケート結果を,こういう意見がこれだけあったという形で出してもいい問題だと思う。しかし,せっかく問題点整理委員会でまとめていただいているから,そういう趣旨で法務省に渡していいのではないかと思う。

千委員

 いろいろ議論が出されているが,本質的には私はこういうような程度でいいと思う。国語審議会では字句についても議論が百出するわけであるが,この通知が法務省で取り上げられて,人名に対しての法律・法令が改正される。あるいは字句になって出たとしても,一般国民には余り関係がないのではないか。一般大衆は,せめて子の名前くらいは自由に親がつけてもいいではないか,という感情があると思う。
 子の名前を付けるのにいろいろ制限されると,国民の基本的人権はどうなんだというような問題にまでなってくると思う。今の自由という点は,まことにあいまいもことしたものになってしまうわけである。もっと幅広く,一般大衆の上に立っての,今後の,子に対する名前の付け方,それに対する漢字の意味,それからそうしたものの幅の広げ方という点まで考えての「目安」というところへの結びつきをはっきりさせた方がいいのではないか。
 そうしないと,ただここで簡単に「目安」という問題をああだ,こうだと決めても,一般の大衆には,本当に関係がなくなってしまう。そういう意味で「目安」という問題をもう少し幅広く考えていただきたいと思う。

木庭委員

 大体議論も出尽くして,少なくとも問題の所在ははっきりしたと思うので,何らかの形でいま採決をしたらどうか。

福島会長

 法務省に対する回答案については,この程度で通知して適当であろうという御意見の方が多いようである。念を入れてもう一遍総会で審議するということも申し上げたわけであるが,審議状況について法務省に知らせるということが頭についていることでもあるから,この程度のことでよいという考えならば,本日御了承願っておきたい。
 ただし,若干御指摘のあったような字句については,手直しをする必要があるかと思う。最初のところで,現状程度というのは括弧内の表現に変えたらどうかとか,最後の部分で,戸籍事務の適正化等ということを国語審議会がいう必要はないかもしれないとか,多数説,少数説すべて併記してあるから,「十分配慮されるよう要望したい」という表現はそぐわないので,「参考としてほしい」に変えるとか,であろうと思う。御要望の点を改めて検討して,字句の修正をはかる。その上で大筋としての御賛成を得ているように思われるので,この案を基本として法務省に連絡するということにさせていただければ,国語審議会としては順調に今後の仕事に取りかかれるのではないかと思う。
 「目安」についての基本的な問題もあるが,このことは今後の人名漢字以外の問題の際にも出てくるものであるし,その際に突き詰めるべき点が残っていれば,議論をお願いするということでもいいのではないか。そういう点は,法務省に連絡する際には,文書以外の口頭の説明を付け加えることによって補充することもできるであろうと考えられる。字句の手直しを行った上で事務局を通じて法務省側に連絡していただく。同時にアンケートの分析の結果とか,あるいはアンケートそのものも付け加えて法務省側に説明しておくという処置をとりたいと思う。また,国語審議会委員で法務省側の審議会に参加なさる方もかなりの数になろうと思われるので,目的は十分達せられると思う。
 配布資料の通知文案を基本として,字句その他,御指摘のあった点の修正を会長,副会長,問題点整理委員会主査,副主査の4人におまかせいただくことについて御了承願いたいと思うが,いかがか。特に御反対がなければそのように取り計らわせていただきたい。(発言なし。)

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