国語施策・日本語教育

HOME > 国語施策・日本語教育 > 国語施策情報 > 第15期国語審議会 > 第3回総会 > 次第

次第 仮名遣い委員会の審議状況について(報告)

有光会長

 それでは続いて本日の議事に入るが,前回の総会で,仮名遣い委員会を発足することをお願いしたが,その後,仮名遣い委員会は5回開かれて,「現代かなづかい」をめぐっていろいろ御検討いただいているので,今日はまず,主査の林委員から御報告を伺い,その後,御報告に関連した協議に入りたいと思う。それでは,林主査どうぞ。

林主査

 仮名遣い委員会の経過とその討議の概要,また今後の予定等について申し上げようと思う。
 仮名遣い委員会は,第2回の総会で15人の委員が指名され,その任務は「現代かなづかい」の問題点に関する技術的,専門的事項の検討を行い,適当な時期に随時総会に検討の経過及びその内容を報告するということである。
 指名された15人の委員のお名前は個々に申し上げないが,第1回の委員会で,主査に私林,それから副主査に松村委員が挙げられた。指名された委員以外の審議会の委員の方々も委員会に御出席になり会議に加わっていただいている。
 委員会は,先ほどからのお話のように,昨年,57年の9月から58年の2月まで5回開いた。第1回は自由討議で問題の事項の洗い出しを行い,一応の項目として九か条を立てた。第2回,第3回,第4回と続けて,第1回のときの項目について自由討議を続けたわけである。第5回は,本年の2月であるが,それまでの自由討議のまとめ,あるいは意見書等の資料の検討,それから具体的内容項目の見渡しというようなことを行ったわけである。
 討議を行った項目について,その概要を述べることにするが,毎回の委員会の議事要旨が,4回までは既にお手元に届いておるかと思うので,その議事要旨から更に要点を抜き出したものが,今日お手元にある資料である。「仮名遣い委員会での討議の概要」というところに一応まとめてあるが,御覧のように様々な御意見が出たわけであって,今日これから大体この資料に従って,大要をまとめて申し上げてみようと思う。
 ここには(ア)から(ケ)まで,(ア)(イ)(ウ)(エ)(オ)(カ)(キ)(ク)(ケ)という九項目を立てているが,これは第1回委員会の折に一応整理したものであって,今日お話し申し上げるのには整理し直した方がよかったかもしれないけれども,委員会の話し合いを,この順序で進めてきたので,今日はそのままにしておく。
 これからお話し申し上げることは,私の言葉で申し上げるので,委員各位からの御発言の真意に合わないような点があろうかと思うが,もしあったら,今日討議の折によろしくお願いしたい。
 まず(ア)であるが,「現代かなづかい」はどれくらい定着しているか,という項目である。「現代かなづかい」は,実施後30年余りを経たわけであって,その間には,文芸作家とかその他個人的には歴史的仮名遣いを使用しておられる場合があるわけであるが,法令,公用文等,官庁関係や報道界では,全面的に「現代かなづかい」が実行されている。また,学校教育はもちろんこれに従っている。一般に定着していると認められるというのが委員会の一般の見解であったと思う。
 次に,(イ)の「現代かなづかい」はどのような体系を持ち,どのような矛盾を含むかというのであるが,「現代かなづかい」には現代語音に基づくという基本方針があるが,発音どおりということが貫けなかったところに矛盾が生じたのであろうという御意見がある一方で,発音どおり貫かれないことを矛盾と見るかどうかは問題だとする御意見もあった。実際上,漢字交じりで漢字に隠れるところが多くて余り問題にはならないけれども,問題点としては,例えば四つ仮名「じ・ぢ,ず・づ」の書き分け,あるいはオ列長音の扱い等は,従来指摘されているとおりである。
 また「てきかく」か「てっかく」かというような促音の表記の問題は,はっきり規定されていないところである。
 「おおきい」「こおり」というように歴史的仮名遣いを前提にした規定というものは説明しにくい,特に児童,生徒に対して説明しにくいというような御意見があった。
 なお,文字表現の役割には,発音の変化に対する歯止めという重要な役割があるので,表記が発音の変化を追いかけるというようなことになるのは望ましくないという御指摘もあった。これは,言語を安定させるということを重視する御意見であろうと思う。
 次に,「現代かなづかい」の矛盾点がどのように受け止められており,コミュニケーションの上でどういう問題を持っているかというのであるが,これは,次の(エ)のどういう影響をもたらしたか,その得失,というところと関連するわけである。世間では発音どおりといって,実際の発音そのままに書けばよいと受け取られた嫌いがある。しかし,これは,発音あるいは音韻を表記することを目的にするものではなくて,やはり一種の正書法,単語ごとに書き方を決めるものであって,その書き方の原理が楽になったものと考えればよい,という御意見があった。

林主査

 コミュニケーション上の問題としては,次の(エ)にあるように,同音異義語の識別の問題があるにはあるわけである。しかし,実際には漢字に隠れて困難はそれほどではないと考えられ,この点については,具体的な点について今後検討をしたいということになっている。
 (エ)の実施の影響とその得失であるが,習得が易しくなった,それから読み書きが楽になった,これはよいことだったと受け止められているという見方がある。
 同音語の書き分けは,歴史的仮名遣いの場合にも完全であったというわけにはまいらないけれども,歴史的仮名遣いで書き分けられたものが,幾らかでも「現代かなづかい」で書き分けられなくなったという点は,これはやっぱり得失の失の方であろうと考えられる。
 また,古典との結び付きが悪くなったということも失の方に入るかもしれない。一方,確かに古典の学習に抵抗を与えているけれども,今は古典とのつながりについて別に手当てが講じられているというふうに見る御意見もあるし,また「現代かなづかい」は,現代の文字表現の世界をむしろ豊にしてきたという点もあるという御意見もあった。
 次に規範性の問題である。規範性としては,「常用漢字表」の「目安」という言葉と同様にゆとりのあるものと考えたいという考え方もあるが,また一方,仮名遣いはルールの問題であるから,「目安」というのは適当でない。もし言うならば「送り仮名の付け方」の「よりどころ」という言葉を使った方がよかろうという御指摘があった。
 また,正書法であるから,あいまいな規定でなく単純明快に示すべきである。それについては,ある場合には,本則と許容という二段構えの決め方も考えられるという御意見がある。事実「現代かなづかい」にも既にそういう部分がないわけではないのである。規範性は,次の(カ)の項目の適用分野の問題に関係する。統一的に束縛されるのは,法令・公用文の世界であって,報道出版界がこれに呼応して自己規制することになったわけであるが,また教育界も原則的にこれに従うことにしているわけである。その他は別に束縛する,束縛されるというものではないはずであって,つまり,公共の場での伝達のため,という確認が必要であって,個人の問題には立ち入るべきでないという御意見がある。
 また「常用漢字表」については,文芸は別だという意味の言葉が入っているが,仮名遣いでもそれを明記するということも考えられるという御意見も出ている。
 さて,適用については,まず文体の問題があって,「現代かなづかい」が口語文を対象としたのは,これからの文章を考えたからであるが,教科書などでは,明治以降の口語文にも「現代かなづかい」を現に及ぼしている。かように過去にさかのぼって適用するかどうかには問題がある,しかし,過去の文献の引用については,当事者の判断に任せればよいという考えも出た。文語文に及ぼすものでないことははっきりしているのだ,公共的分野での文語は,これからの文章としては考えられない,「常用漢字表」前書きの「現代の国語を書き表す場合」という文言をここでも使うことができるであろうという御意見があった。
 なお,新仮名遣い,旧仮名遣いというものの二本立て,あるいは二重性を明らかにしてはどうかという考え方もあった。
 次に(キ)は,現行告示の書き方,規則の立て方,語例の挙げ方ということである。現行の告示では,規則の立て方が,歴史的仮名遣いの改定という形が主になっている。審議会の答申と内閣の告示との間で示し方が転換しているところがあるのであって,これはやはり元の答申のように,現代語音に基づくという建前の通則を先に示すべきものであるという御意見があった。しかし,告示の構成ばかりではなくて,規則の中に歴史的仮名遣いの知識を前提とする規定がある。歴史的仮名遣いを知らなくても説明できるような形で規定される必要があるというのが教育界の要望であるというお話もあった。ただ「現代かなづかい」には歴史的仮名遣いの形を残した部分があり,歴史的仮名遣いに無知であってもよいというわけではないから,歴史的仮名遣いとの対照はあってもしかるべきだという御意見があった。
 根本的に考えると,現代語音というからには,五十音図から,あるいは現代の音韻体系から考えていかなければならないことであるという御指摘もあった。
 次に(ク)の固有名詞の表記,外来語の表記であるが,固有名詞については「常用漢字表」では固有名詞を対象外にしているが,それとの関係はどうであろうか。学校では往々にして人名の振り仮名に困ることがある。特に四つ仮名の問題であると思うけれども,問題が往々にして起こる。それで,固有名詞の適用の基準はやはり決めておいた方がよいという御意見があった。一方,固有名詞の問題はここでは決めないでもよかろうという御意見もあった。それについて,固有名詞を初めから仮名書きにする場合と,それから漢字書きへの振り仮名をする場合と,性格が違うかもしれないという指摘もあって,振り仮名としては「現代かなづかい」が用いられるという考え方があるのではないかという御意見もあった。

林主査

 次に,外来語については,一般の外来語のほかに,外国の地名,人名の仮名表記の問題がある。これらは日本語の中で用いられるものであって,国語の仮名遣いと関連するところが大きいわけである。前回総会でも,問題として大いに御指摘があったことではあるけれども,「現代かなづかい」の場合と同じように,漢語を含めた国語の仮名遣いに範囲を取って,外来語等については,別に将来の問題とする方がよいという考え方で,この委員会としては,当面,国語の仮名遣いに力を注ぐということに合意をした。
 最後に,仮名遣いと古典のことであるが,前にも触れてあるが,歴史的仮名遣いは,現在書くことは,一応問題外として,古典学習の中で行われており,教えれば何でもないものだという御意見もある。とともに,なお読みとしては字音仮名遣いなどに困難があるとの実情も述べられて,歴史的仮名遣いの読みの指導は教育上の今後の大きな問題であるということである。
 同時に,明治の古典などはどんどん「現代かなづかい」に直したものが若い人たちに読まれている。古典との断絶を仮名遣いだけで論ずるのは妥当でなかろうという御意見もあった。
 以上が,仮名遣い委員会5回に話し合いをしていただいたことの大体である。さきに申したとおり,私の言葉でまとめたものであるから,発言者の趣旨にはずれたものがあろうかと思う。今日御討議の際に更に真意のところをお示しいただきたいと思う。
 さてその次に,委員会の今後の予定であるが,今後は各種の資料,また提出された意見書等を参考にして,具体的に審議することになるが,その前提としては,今日までの委員会の話し合いの全体の考え方からして,「現代かなづかい」の現代語音に基づくという基本方針が踏襲されることになろうかと思う。その際「現代かなづかい」の見直しとして,現代語音主義徹底の方向,発音どおりという主義を徹底させるという方向と,歴史的仮名遣いの,又は歴史的仮名遣いのような同音書き分けを考慮する方向と,この二つが問題になろうかと思う。それと同時に,理論を通すことと,それから30年間の,又は80年間の慣習を考慮するということがまた問題になろうかと私には思われる。
 なお,その前提としての仮名遣いという術語の意味であるが,これについては,一通り問題点を出し合った上で改めて考えるのがよかろうと思ったので,委員会ではまだ十分な話し合いをしていない。しかし,今私の考えとしては,仮名遣いというのは,国語の音韻に該当するある一定の数の仮名をもって国語又は国語の単語を書き表すときの決まりと言ってよいかと思っている。漢字の音訓表が,漢字での国語の書き表し方を示すように,一定の仮名での国語の書き表し方を示すのが仮名遣いの決まりであると考える。元来,仮名遣いというものは,同音の書き分けということで始まったことではあるけれども,ただいま申したのは,同音の書き分けという範囲に限らずに,例えば「シャ」という語音の部分を「し」と「や」との二字で書く。また,「キョウ」というのを「き」と「よ」と「う」と三字で書くというようなことを含む。こういう考え方は,皆様方の御承認を得られそうなものだと,私は期待しているけれども,一通り述べると,そういうことである。
 さて,今後の委員会の具体的問題であるけれども,いよいよ実質的な内容を検討する。その項目として考えられるのは,次のようなものであろうかと思う。
 すなわちここに八つほど挙げるが,第一は,いわゆる助詞の「は」「へ」「を」の取扱いである。
 第二はオ列長音の取扱いであって,ここには「こおる」とか「とおり」とか「おおきい」というような語の書き方の問題を含む。
 第三にウ列拗長音,すなわち「きゅう」「しゅう」「ちゅう」といったようなものであって,それの書き表し方と,ものを言うというときの「いう」の問題を含む。
 第四には「えい」「けい」「せい」などというものと,それからエ列長音というものとの関係である。「えい」「けい」「せい」をエ列の長音と考えるか,それとも別に考えるか,それをどう書き表したらいいかという問題である。
 第五に四つ仮名であって,「じ・ぢ」「ず・づ」の書き分けの取扱いである。
 第六には地方的な発音の問題で,「くゎ」という発音,「ぐゎ」という発音をしている地方では,あるいは「ぢ・づ」を,「じ・ず」のほかにちゃんと発音している地方では,これを書き分けても差し支えないという趣旨の注があるが,その問題をどう考えるかということが一つの項目である。
 第七には,先ほど「てきかく」「てっかく」のことを申したが,「き」とか「く」とかいう字音の語尾の促音化にどう対応したらいいかということである。これは「現代かなづかい」では明瞭に触れていないが,語音表記ということになると,問題になるところである。
 大体は以上のようなところであるが,その他何か問題が出てくるかもしれない。
 また,これらの個別の項目の検討とともに,さきに申した仮名遣いの定義であるとか,現代語音の組織を確認すること,現代語音の全体体系,組織を確認すること,それから使用する仮名の範囲を確認すること,「いろは」でいいのか,「いろは」の外に出るか,あるいは「いろは」をもう少し限定するかというような問題がある。その確認が必要かと思う。
 それから,法則の示し方,許容事項の立て方,今までの,あるいは歴史的仮名遣いの,あるいは「現代かなづかい」の,元の法則の取扱い等を含めて,法則の示し方を考えなければならない。
 それから,もとより適用の分野,文体等を明らかにするというようなことがある。これらを課題にしたい,またあるいは課題にしなければならないというふうに考えている。
 今日私から御報告申し上げることは以上のとおりである。また御質問があったら,お答えができるところを申し上げたいと思う。

トップページへ

ページトップへ