国語施策・日本語教育

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T 総論

2 社会状祝の変化と国語

 現代の社会では価値観の多様化ということが一つの特色をなしているが,国語の問題,言葉の問題を扱う場合にも,いろいろな見方が存在することを前提とし,多面的な考察を加えなければならない。また,言葉の変化は社会状況の変化とそれに伴う人々の言語意識の変化に応ずるものであるので,現代の国語の問題を考える場合には,それらの状況への十分な認識が必要である。
 国語をめぐる現代の社会状況の変化は近年特に著しいものがある。情報化,国際化の進展は人々の予想を超える速さで進んでいる。エレクトロニクスによる情報機器の発達と国際的な通信手段の拡大は言語生活にかつてなかったような新生面を開きつつある。ワープロ,パソコン, ファクシミリ等の使用は日常化している。現在はまだ研究・開発の途中にあるが,コンピューターへの言語の入力を音声で行ういわゆる音声入力,機械による自動翻訳,文字の自動読み取り等の技術も広く実用化されるようになると思われる。これらの技術の発達に伴って文字や言葉の使用がますます便利になることが予想されるが,反面,機械によって言葉が規制されたり画一化されたりする傾向の強まることも考えられる。
 新聞・雑誌等の出版物,テレビ・ラジオ等の放送,各種の広告など,いわゆるマスコミュニケーションの媒体が人々の言語生活に及ばしている影響の大きさについては言うまでもない。特にテレビの影響で,いわゆる共通語は全国に通用する言葉として広く普及した。地域で使われる言葉である方言はこれと併存しているが,近年,特に若い世代の方言離れの傾向は著しい。
 文字から映像への好みの変化,若い世代の活字離れの傾向も指摘されている。活字と言えば,文字印刷の分野においても従来の活字による印刷はコンピューターを駆使する文字組版システムに取って代わられている。 これに伴い,多様な用途に応じた漢字の字種・字体の整備や情報処理上の互換性の確保等,新しい問題も生じている。
 人間関係と言葉の在り方については,いわゆる言葉の乱れの問題や敬語の適不適の問題がしばしば論じられている。現代生活の急速な変化が新語,流行語,専門用語,外来語,外国語等の言葉の洪水をもたらすと同時に,世代間の言葉の差を広げている。若い世代にはその世代特有の新しい文化が生まれつつあるとして積極面をそこに認めることもできるし,また,言葉の使用は場面に依存するものであリ,改まった場面と私的な場面とのけじめがわきまえられていれば,そこに問題は生じないと思われるが,そのけじめが忘れられた場合には,言葉の基本である伝達機能の阻害,ひいては円滑な人間関係の阻害につながるおそれもないとは言えない。高齢化社会の到来も確実であるが,それが国語の問題にどのような影響をもたらすかは,なお未知数のことに属する。
 一方,国際化の進展により,諸外国の人々の日本語に対する興味と関心が高まっており,我が国の内外における外国人の日本語学習者の数も年々増加している。それとともにその学習の動機や目的も多様化してきている。 日本語を母語としないそれらの人々との接触・交際の機会は日常的なものとなりつつある。このような外国人の日本語学習を支援し,効果的な学習を可能にするような日本語教育上の積極的な対策が必要になっている。国際化のもたらすもう一つの問題は,いわゆる片仮名語の増加や外国語の流入である。この傾向を危惧(ぐ)し何らかの歯止めが必要であるとする声も上がっている。 しかし,総じて言えば,国際社会への対応は我々自身に国語の在り方を考えさせ反省させる良い契機にもなり得るものである。
 以上述べてきたように,現代の社会状況の変化は,国語や人々の言語生活・言語意識に様々な影響を及ぼしている。国語は,内に在っては一国の文化を形作り国民の生活と意識の共同の紐(ちゅう)帯としてこの上なく大切なものであると同時に,外に向かっては日本及び日本人を国際的に理解させ国際的な友好を深める手段としてこの上なく重要なものである。平明,的確で,美しく,豊かな言葉を目指し,国語を愛護する精神を養うことが,今日ほど望まれるときはないと言ってよい。その意味で,国語の教育を更に振興していくこととともに,できるだけ多くの国民が言葉について関心を持つこと, 日常の生活の中で言葉について話し合う機会を広げていくことが大切であろう。

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