国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 意見交換1

坂本会長

 それでは,議事の2番目にある意見交換に移りたいと思う。今後それぞれの委員会で取り上げていく問題などについて,御意見や御要望をお聞かせいただきたいと思うが,最初に,本日の配布資科2について説明を伺うことにしたい。
 「放送で気になる言葉」については,前回の総会でも御紹介があったが,浅野委員から御説明をいただきたいと思う。

浅野委員

 前回お話し申し上げたとおりで,特段申し上げることもないが,新聞協会には,編集委員会の下部機構として,新聞各社の用語担当者で組織している用語懇談会というのがある。これが新聞用語についての審議をずっと続けているわけだが,新聞協会は,新聞・通信のほか,NHK・民放の放送社を含めて53社ほどが会員になっている。その放送社の方々が用語懇談会の中に放送分科会というのをお作りになり,放送用語に関する検討を別個に進めておられる。
 「まえがき」のところをごらんいただければ分かると思うが,いろいろなことをやってきた結果,平成に入ってから「放送で気になる言葉」という審議テーマを決めて,延々と検討作業を続けていただいた。毎回四,五時間という,非常に息の長い会合で,私どももとてもお付き合いし切れなかったわけだが,その検討の成果をまとめて,現場にフィードバックしようということで簡単な冊子にしたのがこれである。検討の経過は大変な手間であったけれども,まとめ上げてしまうと非常に簡単になってしまっているなというのが私の実感である。
 私どもが拝見していても,なかなかおもしろいなと思うところが多いし,今度の国語審議会の第1委員会のテーマが「言葉遣いに関すること」であって,たまたま冊子になったということで――これはたしか実費100円で売っているのだが,文部省は予算がないということで,寄贈させていただいた次第である。御参考になればという程度である。

坂本会長

 それでは,ただいまの御説明についての質問も含めて,何なりと御発言をいただきたいと思う。今後の委員会の審議の上で参考になるようなお話をお聞かせいただければ,大変有り難いというふうに思うが,いかがか。
 先ほど開かれた運営委員会で出た御発言の中で,前回の総会その他で御発言をいただけなかった方に,きょうはひとつ積極的に御発言いただいたらどうかというアドバイスもあったので,失礼ながら,場合によると,こちらから御指名してお願いすることがあろうかと思うが,現時点で,私から言いたいということがあったら,ひとつ御発言をお願いしたいと思う。
 実は,私自身が放送屋だものだから,「放送で気になる言葉」という冊子を拝見して,大変忸怩(じくじ)とするところがあったけれども,それはそれとして,せっかくの機会なので,国語審議会に何か一言言っておきたいということも含めて,御発言をお願いできないかと思う。

大森委員

 多分,会長から指名される予定になっている者の一人なので,指名を受ける前にお話をさせていただきたいと思う。
 私は,このような会議においては,1会議1発言以上ということで,できるだけ発言したいという気持ちでいるわけだが,この会議は非常に恐ろしい会議であるという感じがしている。と申すのは,話し言葉を調査・審議の対象にする会議であるから,会議における発言自体が検討の対象にされかねない,また批判の対象にされかねない面があるのではなかろうかということで,いささか気後れがしていたということもあって,本日まで発言していない。
 それは前置きであるが,本審議会の調査・審議テーマである話し言葉ということに関して,この段階で私の考えていることを若干申し上げておきたいと思う。
 と申すのは,審議結果は,多分2年後には答申として文部大臣に報告されるであろうと思うが,その調査結果の取扱方法を文化庁としてどうお考えなんだろうかということである。また翻って,どのような観点から,どのような目的で,このテーマの調査・審議に当たるのかというのは,各委員の心構えにも関係するであろうと思うからである。
 今までテーマとして取り上げてきた表記方法,あるいは書き言葉に関しては,それぞれの答申が内閣告示として国民に告示され,一つの目安として,あるいは緩やかな基準,緩やかな規範として設定されてきたのであろうと理解しているわけである。ところが,今回取り上げる話し言葉に関しては,果たして今までと同じような取扱いが予定されてしかるべきものなのだろうかという疑問を持ち続けているわけである。
 申すまでもなく,話し言葉というのは,生まれてからの学習を含めて,生活の全体験の総合的な表白であろうと思うわけで,そのような性格を持つ事柄は,内閣告示を通じて一つの規範を示すということに親しむのだろうかという疑問を持っているわけである。
 したがって,この段階で,文化庁としてはどう取り扱おうと考えておられるのか,また委員の皆様方において,どのような観点からこの審議に関与しようとされているのかという辺りについて,少し意見を交わしておく必要があるのではなかろうかと思う次第である。

坂本会長

 なかなか重要な点をお突きになった御質問かと思うので,これは文化庁側から考え方をどうぞ。

韮澤国語課長

 今の件について,文化庁として現在考えている事柄について,簡単に御説明申し上げる。
 大森委員の御指摘のとおり,従来の表記の問題については,御答申をいただいた後,内閣告示あるいは内閣訓令という形で法令化したわけであるが,今回のこの問題については,現在,私どもも従来と全く同様にやるというようなことは余り考えられないのではないかという気持ちでいる。
 そういった意味で,話し言葉の問題については,個々の具体的な話し言葉の問題を取り上げる前に,今おっしゃったような,そもそも話し言葉に標準というものがなじむのか,あるいは国がどの程度関与すべきなのか,また国語審議会から何かまとまったものをいただいた後,それを周知することが必要だと思うけれども,どうやって周知するのか。従来のような告示ということもあり得るかもしれないが,それ以外にいろいろな方法があるのではないか。
 そういったことで,そもそも標準の在り方というか,その辺の一番基本的なところから御議論をいただく必要があるのではないかというふうに考えている。

坂本会長

 いかがか。今の文化庁としての考え方なり説明なりも含め,また大森委員の御質問そのものについての御見解なり何なり,せっかくの機会であるから,是非ひとつ積極的に御発言いただけたらと思う。

菅野委員

 ただいまの件に関連して,例えば,「当用漢字表」「常用漢字表」のように話し言葉を厳しく規制することは非常に難しいと思う。しかしながら,日本語教育の分野などでは,日本語の話し言葉の基準は一体どっちなんだろうかという切実な問題がたくさんある。
 一つの考え方としては,これまで文化庁で出した「ことば」シリーズの中で,日本語の質問点を回答するようなシリーズが出ているが,ああいう形のものは,日本語教育関係の者にとっても非常に参考になっているから,ほかにも方法はあるかと思うが,ああいう形を一つの道として進めていったらどうかと思う。

坂本会長

 文化庁側で,今の御発言に御意見はあるか。

韮澤国語課長

 意見ではないが,今の菅野委員の御指摘は「ことば」シリーズの中の「言葉に関する問答集」というものであろうかと思う。これは昭和49年以来,毎年1冊ずつ出していて,全国の小・中・高等学校等に配布するとともに,大蔵省印刷局から市販しているものである。
 これについては,今年度で20年目を迎えたわけで,来年度以降も当然継続するわけであるが,いろんな方の御意見なども入れて,より良いものにしていきたいと思っている。

坂本会長

 ほかにいかがか。

諏訪委員

 二つあって,一つは言葉遣いと情報化の問題にかかわることである。この前,日経新聞に出ていたが,春に3枚のCD-ROMに大阪のアクセントを全部入れるのだそうである。従来のCD-ROMで,英語や何かのアクセントとか発音が入っているものはあるが,日本語でも地域によって言葉や,アクセントが随分違っているので,例えば東京なら東京,大阪なら大阪,あるいはその他の地方の方言のアクセントも含めて,これをCD-ROMに入れて記録が作れないかと思う。
 きょうのお話にあったけれども,国語研究所の辞典,あるいは文字と読みの関係の研究なんかもあるから――これは目の動きだそうだが,目の動きばかりではなくて,言葉のことがCD-ROMに入るような形がとれないか。
 もう一つは,今の「ことば」シリーズである。これは随分便利だけれども,索引はあるのか。あればとっても便利だと思う。しかも今年20年になるそうだから,索引を作っていただきたい。
 例えば,言葉の問題,表記の問題,いろんなことがあって,いろんなことが分かる。その索引を1年に1度が難しいければ,3年なり5年なりに1度作って,何巻の何ページというのが分かるようにしていただきたい。この2点である。

坂本会長

 これも当局としては当然検討するテーマになるだろうとは思うけれども,現時点では一応お聞かせいただいたということで御了解いただきたいと思う。

韮澤国語課長

 今の件であるが,御指摘のとおり,確かに「ことば」シリーズは毎回いろんなテーマを取り上げている。索引が必要だという御意見であるが,実は私どもの方でも,何年か前から各冊子の一番後ろに索引を付けるようにはしている。
 なお,これについては,第20集まで来たので,それの合本というか,総集的なものの出版を大蔵省印刷局の方とも相談しながら現在検討しているところである。

坂本会長

 ほかに,御質問等も含めて御発言はないか。

今泉委員

 今度,言葉遣いに関すること,情報化,国際社会への対応ということで,第1,第2委員会ができるということだが,今までの流れから判断すると,かなり重要度の高い順に選んできているので,これはこのとおりだと思うが,非常に手間,時間のかかる問題だなという感想であって,そういうもの以外に,比較的簡単に処理できる問題というのもあるのではないかと私は思う。
 例えば,これまでいろいろ意見があった中で,交ぜ書きの問題は,大変だと思うけれども,方向を打ち出すということは比較的可能ではないかと思っている。だから,やりやすいというか,そういうものは早めに何か方向を打ち出していくということも必要ではないかと思っている。

坂本会長

 交ぜ書きの問題も,いろいろ御議論があったように記憶しているけれども,現時点においては,やはりなおざりにできないテーマだろうとは思う。
 ほかに御意見はないか。
 ただいま,新聞関係の方の御発言が相次いだので,前回御発言いただけなかった教育,教科書関係の責任者でいらっしゃる谷口委員,いかがか。

谷口委員

 私は,教科書の出版の方の代表ということで,この席に参列させていただいている。
 私たちは,国語の教育というものが各教科の一番の基礎だと思っている。ただ,国語の語彙(い)というものが,理科とか,算数とかの方に果たしてシンクロナイズしているかどうか,この辺のところが一番頭の痛い問題である。国語審議会でお決めになった言葉をできるだけ正しく伝えるのが我々の方の立場であるけれども,ほかの教科にもできるだけ分かりやすい言葉,言語を使っていきたい。
 例えば,数学にしても,理科にしても,「一定の」という言葉があるけれども,これは教科によって意味するところが違うので,これからこれをどういう表現に持っていくかということで悩んでいる状況である。

押上委員

 私は小学校に勤務しているが,御案内のとおり,今,子供たちが必ずしも適切な言葉の使い方をしていない場合が多々あって,そのことで人間関係が円滑でなくなったり,また人間関係がうまくいかなくなったりということもある。
 そういうことで,文部省の御指導を受けながら,子供たちの表現能力をどう育てていくか,とりわけ音声言語にかかわる話し言葉をどう育てていくかということで模索し,努力しているところである。
 そういう意味で,言葉の中でも,あいさつとか,人間関係が生産的に創造的に深まっていく言葉遣いとか,そういう点について,子供のみならず大人とのかかわりがあろうかと思うので,検討していただくと私ども大変助かるわけである。
 特に,最近,子供の関係が,横の関係,同年齢の関係が主流になり,縦の関係が非常に少なくなった。したがって,仲間内の言葉がよく使われるようになってきている。そのことは,もう一つ裏返してみると,敬語というか,敬う言葉が,かなり欠落してきているという感じを受けるわけである。そうした面で,言葉遣いについて,もう一度広げていくということをも検討していただければ,学校教育の中では非常に助かるというふうに思っている。

坂本会長

 今の御指摘の敬語の問題というのは,正直言って,敬語,丁寧語など,日本語の言葉遣いの難しさみたいなものを私自身が感じさせられているような状況で,この問題はゆるがせにできないだろうなと思う次第である。大変重要な御指摘だというふうに理解したわけである。

森山委員

 私も教育の現場から参ったので,前に出された5項目の中の4番に一番関係が深いわけだけれども,第1回目以来,いろいろお話が出ていた言葉遣いから情報化,国際化,すべてが教育現場にも関係がある。余り全部関係があるものだから,何に絞って申し上げていいか,今まで本当に分からずにまいった。第1,第2委員会に分かれてから,それぞれのテーマが出てきたときに,いろいろ申し上げたいというふうに思っている。
 それで,付け加えたいことは,前回,中西委員の方から予算のことなどもお話があったけれども,私が所属している東京都,あるいは全国の国語教師の組織があり,例えばそういう現場を中心にしての実態調査とか,教員の意識調査というふうなことでは御協力できる準備があるので,必要なときにはお話をいただければと思っている。
 それから,前回,差別語のことでいろいろお話が深まったけれども,結局,あれは言葉遣いの第1委員会の中で改めて審議されるものと理解してよろしいのか。どちらに御質問していいのか分からないのだが,あれは前回で打ち切ったのか。

韮澤国語課長

 この問題は非常に難しい問題だと思っており,基本的には,これから審議会の先生方にお考えいただくことではあると思うが,前回の会合でも,いろんな御意見があったように,国語審議会として正面から取り組むといったことについては,余り適当ではないのではないかというような御意見が多かったのではないかと私どもは理解している。

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