国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 第1委員会の審議状況について

坂本会長

 続いて,本日の議事に入りたい。
 前回の総会では,第1,第2の両委員会から,当面の課題として,それぞれどういうことを検討事項として取り上げるかについての御報告を伺ったわけであるが,本日は,その後3回ずつ開催された両委員会の審議の状況について御報告を伺い,それをめぐって御協議いただくということを予定している。
 それでは,まず第1委員会の御報告を野元主査からお願いしたいと思う。

野元(第1委員会)主査

 資料1の「第1委員会における論議の概要」を基として,御報告申し上げる。資料4の「第1委員会における検討事項」というのがあるが,この順に従って報告をする。ここでは,資料1に書いてあることを読むということはしないので,必要と思う説明を付け加える程度としたいと思う。本文の方を御覧になりながら聞いていただきたい。
 まず,1の「国語審議会の審議の対象となる言葉遣いの範囲,事柄について」であるが,初めの四つの○までのところで述べているように,割に広く考えるということである。
 以下に述べてあるように,話し言葉や書き言葉の一方だけを論じるという意見は多くないように思われる。第19期の報告「現代の国語をめぐる諸問題について」では,話し言葉に重点があるような印象であったけれども,この資料1にあるような発言があった。
 五つ目の○のところは,言葉遣いを論ずるときの観点に関することで,ここではこのような意見があったという報告であって,第1委員会の最終結論というわけではない。このことは,ほとんどすべての項目について言えることである。
 ここで「待遇性」という言葉を使っているが,この言葉からは,普通,敬語が思い浮かぶと思うけれども,言葉遣いについてはもっと広い意味での対人関係が重要であるということであったかと思う。
 六つ目の○のところは,第2委員会の守備範囲であるけれども,第1委員会の論議でも,常にこのことを頭に入れておくべきだということであろうかと思う。
 次に,2の「美しく豊かな言葉の普及について」である。
 (1)は「言語環境の整備について」であるが,ーつ目の○のところは,前回第4回総会で御報告申し上げたところである。
 二つ目の○の後段の最後のところに,子供の言葉遣いのことが出ている。前段についても,最後は特に教師と子供との間の言葉遣いが対等に近くなったのではないかという認識から,これが言葉だけでなく,全体についての対等関係が作られたのではないか,という考えからの立論であったかと思う。
 四つ目の○に書いてあることは,「美しく豊か」の存在をやや低めている感じがすると思うけれども,五つ目の○では,また「平明,的確」と並立した形になっている。これもどちらを採るかということは,まだはっきり決まってはいない。
 六つ目の○のところは,なお学校教育で大きく取り上げることを期待する意見があった。
 最後の○のところは,昭和47年の国語審議会の建議で既に希望を表明しているところで,20年も前のことになる。
 次に,(2)の「方言の尊重のための方策について」であるが,一つ目の○は考え方の問題で,言わば精神論といった感じがするわけである。それはそれとして具体的にどうするのか,二つ目の○のところで述べているが,これは大変難しいことではないかと思う。尊重すべきだという意見は建前論あるいは観念論になりがちで,尊重を説く人は現実には方言生活とは縁の薄い人の間に多いということ,日常生活で方言のために不利を被っている人はかえって標準語志向であるということは,調査の結果明らかだと思う。
 次に,3の「言葉遣いの標準の在り方」であるが,言葉遣いに関することの5項目の中で,「について」という言葉が書いていないのはここだけである。恐らく「在り方」という語が,一部それを代行しているのではないかと思う。
 (1)の「言葉遣いの標準の現状」であるが,ここは今までに国がどういうことをしているかということを集成したものである。
 (2)の「言葉遣いについて国が何らかの標準を示すことの是非」という項目であるが,一つ目のNHKの世論調査では,一方の選択肢が「ことばの乱れをなくすために,国はもっと積極的に活動すべきだ」と書いてある。これは,ここの質問の選択肢数が二つだけであったということで,こういう表現になっている。もう一つの方を選択したのは32.9%で,残りの7.0%は「分からない」とか「無回答」ということになっている。

野元(第1委員会)主査

 二つ目の○は言わば標準を示すことに積極的な意見,三つ目の○は,やや消極的な意見ということも言えるかと思う。三つ目の方で「どの時代の言葉遣いに立脚するかによって」と書いてあるが,前のいつかの時代の言葉遣いを規範とすると,今の言葉は当然乱れているということになるし,極端な場合には,これからの日本語の姿を良しとするならば,今はそれへの変化の過程にあるということになって,今の言葉遣いに対する評価は前者とは当然違うということになろうかと思う。
 (3)の「対象となる事柄・分野,標準の性格,標準を担保する方法」は御覧いただければそれでいいと思うが,普通の国語辞典には,「担保」という言葉は「する」というサ変動詞にはならないとなっているけれども,要するに,保障するとか,そういう言葉が一番近いのではないかと思う。この項目についての報告は,第4回総会でした報告と同じである。
 次に,4は「敬語の問題について」ということである。
 (1)「敬語の範囲」については,まだ論議をしていない。敬語についてのいろんな御意見を伺った後で,決めるべきことではないだろうかと思う。
 (2)の「我が国における敬語の沿革」についても,まだ論議されていない。「これからの敬語」は,お手元の水色のファイルの中に「国語審議会答申・建議集」という小冊子が入っているが,それの90ぺージ以降に出ているので,それを御覧いただきたいと思う。「これからの敬語」には,日本語の敬語についての沿革に関することは何も出ていない。その当時は専ら,これからの方に目が行っていたためではなかったかと思う。「外来語の表記」というのが最近出たけれども,それでは外来語の歴史について若干触れているところがある。
 (3)「敬語の理念と役割」である。
 一つ目,二つ目の○については,「これからの敬語」のようなものを作るのかどうかという問題である。敬語について触れる場合,「これからの敬語」について何も言わないわけにはいかないだろうという考え方は,第1委員会では多いように思う。
 三つ目の○は,「これからの敬語」の基本方針に対する意見である。四つの黒い点が打ってあるが,これは「基本の方針」の1から4に対応している。このうちで,「基本の方針」の4については,委員会の間でも批判的な意見が多いように思う。
 三つ目の女性の言葉が男性の言葉と違うことへの支持は,平成5年11月の『教育と情報』という雑誌のナンバー428に報告されているNHKの世論調査によると,男女の言葉遣いに差がなくなることをどう思うかという問いに対して,「好ましくない」との答えが,男が39%,女が45%。しかし,違いがなくなるというようなことはあってはならないというのが,それぞれ6%あるので,これを含めると,男が45%,女は51%となる。これは1990年の調査である。
 なお,問いはやや違うが,やはりNHKの1979年の言葉の意識の調査では,男女の言葉遣いの違いをどう思うかというのに対して,合計82.8%が「違っているのがよい」という方を選んでいるし,1992年のNHK働く女性の意識調査というところでは,同じく75%が「違っているのがよい」としている。
 四つ目の○で「必要ではないか」などと書いてあるのは,第1委員会の意見ではなく,所属している個々の委員の発言である。
 五つ目の○に書いてあることは,こういうような次第であるから,何かを出すにしても慎重でなければならないということになるかと思う。
 (4)は「敬語の語法」である。
 ア)が対人関係で,その一つ目の一人称代名詞であるが,ここでは「ぼく」とか「自分」について,「これからの敬語」で述べていることに対して見直し論が多かったように思う。
 二つ目の二人称代名詞については,委員会では,「あなた」を標準とするという「これからの敬語」への反対論が非常に多く出てきた。
 四つ目の黒い点については,三人称であるけれども,特に夫のことを妻がどう呼ぶのがいいのかということをも含んでいる。具体的に申すと,今主として使われている「主人」という言葉についての考え方の問題である。
 イ)は「敬称」であるが,一つ目の黒点に「その他の分野」と書いてある。その一つとしては,官庁同士での使い方,このときには「殿」が多いようであるということであったかと思う。
 三つ目の黒点では,使われているものの性によって「君」「さん」という使い分けがあるわけだが,本来,日本語は,敬称では性による使い分けはなじまなかったのではないだろうかという考えが底流にはあるように思う。そのほかにも,日本語では,既婚か,未婚かというようなことも余り差別をしないで敬称を付けていたという点等があるかと思う。
 ウ)は「「たち」と「ら」」についてであるが,ここに書いてあることのほかに,複数の示し方については方言による差も考えるべきだろうという意見が出ていた。

野元(第1委員会)主査

 少し飛んで,オ)の「対話の基調」であるが,「〜ますです」――例えば「行きますです」は二重敬語と考えるならば,「これからの敬語」的な考え方では排除されるべきだということになろうかと思う。
 次に,カ)の「動作の言葉」。ここに非常に特殊なものということが書いてあるが,例えば寝ていることを「およる」というようなものを指している。
 キ)は,「形容詞と「です」」であるが,二つ目の黒点のところで,「形容詞+でした」の問題も検討してはどうかとしているのは,「でした」の前が名詞であれば,例えば「初耳でした」というふうになるし,前が形容動詞語幹であれば「丈夫でした」ということにもなるわけで,それとそろって規則的になるだろうということである。
 ただし,現実には「形容詞語幹+かったです」――例えば「おもしろかったです」という形の方が,圧倒的に多いように思う。
 次に,ク)の「あいさつの言葉」。三つ目の黒点に「日本人のあいさつは概して画一的」と書いてある。これは,例えば国立国語研究所報告80に「言語行動における日独比較」というのがあるが,ここに出ている調査の結果によると,たった一つの例だけであるけれども,朝のあいさつの種類は,日本語だと8種類しかない,ドイツ語ではこれが55種類あるといったことを念頭に置いて,こういうことを申したものかと思う。
 次の○のところで,一つ目の黒点については,ニ重敬語擁護論がかなり出た。
 三つ目の黒点のところは,「おる」は地域による違いも予測されるので,後のものと同じく,全国調査をしたい項目であるという発言があった。
 四つ目の黒点の最初に「調査によると」とあるのは,NHKの1986年調査で,動植物に対して「あげる」は良くないので,「やる」と言うべきであるというのが,東京で51%,大阪で68%となっている。地域差があるというのはそういうことを指している。したがって,全国調査の結果が知りたいところである。
 五つ目の黒点については,「これからの敬語」では1項目独立させていて,11に「皇室用語」として挙げてある。
 (5)の「学校教育における敬語の扱い」に移るが,ーつ目の○のところ,高校生を対象としたアンケートと申すのは,自分は正しい敬語を使えていると思うかという質問では,「かなり使えている」というのが7.9%,「大体使える」というのが75.4%で,「使えない」というのが16.7%ということであるから,6人に1人は,自分では使えないと思っているということである。この調査は,第一学習社というところが行った平成3年7月から9月にかけての調査で,高校2年生男女3,000人を対象とした自記式調査であって,有効サンプル数は971人であるから,有効回収率が32.4%。この有効回収率は大分低いということになるかと思う。
 三つ目の○の最後に,小学生の自称のことが出ている。高校生ではどうなっているか,今の第一学習社の調査によって見ると,男子は「おれ」が67.2%,「ぼく」が24.7%,女子は「わたし」が48.9%,「あたし」が39.3%となっている。
 次に,(6)の「日本語教育における敬語の扱い」。ここでは,教える基本的な文体が「ですます体」であることを問題とする人もいるということだけを述べておく。
 資料4の「第1委員会における検討事項」の5のところに,「その他の問題について」ということがあるが,これに関しては,11月15日(火曜日)の次回の委員会以降に取り上げる予定である。
 これで第1委員会の御報告は終わりにさせていただく。

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