国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 第2委員会の審議状況について1

坂本会長

 ただいまの御報告に御質問がおありだろうとは思うけれども,後ほどまとめて伺うということにして,引き続き,第2委員会からの御報告を水谷主査にお願いしたいと思う。

水谷(第2委員会)主査

 第2委員会からの御報告を申し上げる。
 第2委員会は,前回の総会の後,先ほども御報告があったが,7月20日,8月30日,9月14日と3回会合を開いた。そのうち8月30日の第4回の場合は学習院大学名誉教授の木下是雄先生,杏林大学教授の鈴木孝夫先生からヒアリングを行った。
 それから,字体に関するワーキング・グループが設けられているが,そちらの方は,7月6日,8月4日,9月2日,10月5日の4回にわたってヒアリングを行った。
 これらのヒアリングを含めて,会合の中で出てきた様々な情報を整理した形で,資料2と3の報告ができ上がっているわけである。実はこの報告は一応文章化されているので,きちんと一つ一つ文を読みながら御報告申し上げるのがいいかと思っていたのであるが,一度読んでみたら,全体で37〜38分かかる。30分ぐらいでとどめてくれという事務局からのお話もあったので,申し訳ないがところどころ飛ばしながら,はしょりながら進めさせていただきたいと思う。
 まず,「国際社会への対応に関すること」の方からであるが,今回の第2委員会のテーマになっている国際化時代の言語問題を扱うには総合的な言語政策の確立という観点に立って,「国語」という範囲だけではなく日本語を中心としつつ,他の言語をも視野に入れて検討する必要がある。その対象としては,@第一言語としての日本語の政策,A第二言語としての日本語の政策,B日本語を第一言語とする人のための第二言語の政策,という相互に密接にかかわる三つの面があり,これらを長期的な展望の下に,言語教育を含め総合的に考えていく必要がある。
 前の御報告の段階では,「外国語」といった言葉なども使われていたのであるが,議論の結果,少し分かりにくい可能性もあるけれども,ここでは「第一言語」「第二言語」の方が客観的な表現だから,こうしておこうということに今とどまっている。
 その後に,政策絡みの問題として,各省あるいは文部省の各局でいろんなことが行われる,かかわりがあるんだということが付け加えられている。
 1の下位分類として,資料4の「第2委員会における検討事項」の前回から用意されている枠組みについてであるが,この資料では「国際化の進展と日本人の言語意識・言語運用能力」,(1)「日本人の言語意識」となっている。これは実は今回変わった。前の資料では,(1)のところは「国際化時代の言語政策」というのが入っていた。項目を前後させることなどで整理のし直しが行われている。
 (1)「日本人の言語意識」のア)のところからであるが,国際化とは他国との交流を通して,両者が相互に,より一般的・普遍的な性格を有するものに変化していく過程という概念である。したがって,この概念に包含される具体的な分野・内容は多岐にわたる。また,国際的であるとは国際化の進展の結果,自己と異質な他者をその価値において,十分に尊重し認めるという多元的な価値観を有することである。
 上記のような考えを前提とすれば,日本社会及び日本人自身の国際化に伴う「日本語の国際化」とは,日本語が日本人だけの言語ではなくなり,世界の人々に,その一般性・普遍性を認められる存在となっていく過程であると考えられる。
 さらに,言語は密接に文化とかかわるものであるから,言語の国際化の問題は異文化間におけるコミュニケーションの問題という側面も持つことになる。したがって,日本語が世界に広がるにつれ,日本の文化や日本人固有の言語習慣なども,従来のようにその異質性が強調される段階から,お互いの文化を尊重する視点で,世界の多様な文化の中に位置付けられる段階へ変化していくことになろう。
 大江健三郎氏の講演の中でも,少し似たような趣旨のお話があったように思うのであるが,その方向の中で,この仕事は進むんだなという印象を持っている。
 イ)の中身は,日本語が異質ではないんだということと,それでも特微はあるんだということを具体的なデータをもって示しているわけであるが,例えば各国語に比べた場合には,第一言語,母国語としている人の人口で見てみると日本語は第9位である。統計によって順位には随分変動があるが,少なくとも非常に少ない言語ではないということ,あるいは言語の構造上も特殊だということではなく,主語+目的語+動詞という構造を持っているという点では,英語の持っている形よりも多いんだという指摘をしている。
 しかし,和語,漢語,外来語というような領域,それから敬語の使い方が難しいということもあって,日本語を学習する場合の難しさなどが,そこで指摘されているわけである。
 ウ)であるが,「日本人が一般的に持っている言語観として,次の点がよく指摘されてきた」。ここは@から始まっているけれども,恐らくこれがすべてではないであろうし,今後の会議の中で,更にきちんとした形に広げられていくであろうと思われる。
 例から言うと,@「世界の諸言語の中で,西洋系の言語の優位」,A「特に英語の絶対優位」,B「日本人は語学が苦手である」,C「言葉に対する心の優位」というようなこと。
 それから,日本人が日本語に対して持っている言語観として,特微のある指摘としては,@「外国人にとって,日本語は他の言語と比較して習得するのが難しい」とか,A「日本語は西洋系の言語と比較して非論理的で普遍性がない」というようなことが,そこに列挙されているわけである。

水谷(第2委員会)主査

 エ)であるが,ただし,日本人も最近では外国語イコール英語という意識から徐々に多様な言語を認める方向に変わりつつあり,西洋系の言語以外のものも,その価値を認めるようになってきている。日本語についても日本人だけにしか通用しない特殊な言語という意識から,世界の中の言語の一つとして位置付けられるべきだと考えるようになりつつある。
 少し飛ばして,今後,更にこの方向が進み,異なった言語・文化を持つ相手に対して尊敬の念と理解を持ちつつ,自国語としての日本語の大切さを一層自覚する方向が求められている。
 ローマ字表記の場合の姓名の順序については,日本以外の状況を調査しまとめた上で改めて検討する。名前をローマ字で書くときに,どちらを先に書くかということについては,小さな調査をしようということになっている。
 3ぺージに行くが,(2)は「日本人の言語運用能力の在り方」についてまとめてある。
 ア)は,日本人の言語運用能力にはやや偏りがある。こういった表現のままでは多分おさまらなくて,今後の検討でよりきちんとした表現にまとめられていくことになると思うが,偏りがある。だから外国人に分かるように話したり書いたりすることが不得手である人間が多い。日本人が外国人の言語習慣や思考方法を十分に把握・理解していないのが原因であろう。この辺りはヒアリングの中で得られた情報に基づいているものである。
 イ)は,日本人の外国語力の弱さが指摘されることが多い。これに関しては,その外国語力を支えている日本語そのものの言語運用能力の偏りによるところが大きいであろうということ。
 ウ)の中では,英語以外の多様な言語を学んでいくことが大切であるということと同時に,現在持っている英語の重要性・有用性というものを決して軽視してはいけない。その二つの考え方をどう関係付けていくかが大切な論点になるであろうということを述べている。
 エ)については,優れた通訳・翻訳者の養成・確保は我が国にとって極めて重要な課題であるということ,通訳・翻訳は国際的な言語コミュニケーションでは不可欠な仕事であるという認識を我々は持つべきであろうということである。
 オ)は,読ませていただく。


オ)  最近の国内における外国人の増加は,日本人にとって外国人と日本語を使ってコミュニケーションを行う機会を増大させたが,同時に意思疎通の困難さを経験する日本人も多い。この問題は,日本人の言語運用能力の問題と密接にかかわっているが,異文化の中で育った人に対する理解とそのような人に分かるように話すための教育ということが第一に考えられなければならない。

 学校教育の中の位置付けとか,外国語教育の中でも,異文化理解についての配慮をすべきであるということを述べているわけである。
 カ)の項は,外国人とのコミュニケーションに当たっては,以下のような基本的な事柄にも留意していくべきである。ここも恐らく先行きは補充され,整理されていくであろうと思われるが,@で指摘していることは,コミュニケーション以前の問題として,外国人に対して余裕を持って対応すべきであろう。Aは,外国人を一人の人間として受け入れる姿勢を持つべきであろう。外国人に対して枠を作って接触するという行き方が現在多いわけだが,そうではなく一人の人間として受け入れるという姿勢が必要だろうということである。Bは,日本語の言語的な特質や外国人に分かりにくい点など,日本語についての知識や意識を高めるように努力する必要があるであろう。さっきも申したが,この辺りは更にきちんとした形で事柄が整理されていくべきであろうと感じている。
 2の項目は「日本語の国際的な広がりへの対応」。今までのところは,現状認識ということで整理されてきているわけだが,広がりへの対応はどうであろうかということで,(1)「国際化に伴う日本語の変化」。
 ア)の項については,国際化に伴う変化の要因として,以下の2点を挙げることができるであろう。1点は,日本語の使い手が日本人だけではなくなること,もう一点は,社会そのものが国際化していくということであるという二つの視点を用意して,そこに何が起こるか,それに対応して何が行われるべきであるかということを考えるべきだと述べているわけである。
 イ)は,そういった起こってくる変化が一体どの程度のものになるのか,どのようなものになるのかということについての洞察力を我々は持たなければならないということを考えているわけである。その変化というのは,日本人にとって日本の言語習慣になかったような表現,言葉が出現してくる可能性がある。それに対してどのような姿勢を持つべきであろうか。前にはこれに関連した材料が出ていたわけだが,そこでは「おぞましい日本語」という言葉が使われていたけれども,議論の結果,「おぞましい」というのは退却させることにして,こんな表現になっている。
 ウ)の項であるが,日本語の変化については,語彙レベルだけのものなのか,文法レベルにまで及ぶのか,あるいは日本語そのものの体系にまで及ぶ大きなものになるのかという,変化の質的なレベルを問題にする視点から検討していくことが必要であろう。これも先行きは大きな課題に発展していくだろうと思われる。そして私どもとしては具体的な内容を考え,見付け出していかなければならないということで,大きな作業が予定されると思っている。
 エ)の項は,先ほどのイ)の項と少し重複している。今まとまっている中でもかなり重複があって,それは出てきた意見を並べていくという過程にあるものだから,整理された形にはなっていない。もし判断をするとすれば,今あるこの資料はこれからの議論のたたき台として,ようやく話し合い,補足したり,訂正したりする段階に来たなというふうに思っている。
 国際化に伴って,国際語としての日本語という観点から日本語において,むしろ変化させる方が好ましい部分があるのか,また,あるとすれば変化させてはいけない部分とどうかかわるのかを明らかにしていくという視点もあるということをエ)では述べている。

水谷(第2委員会)主査

 5ぺージに行くが,オ)の項は,繰り返し確認なども行われた事柄であるが,読ませていただく。


オ)  この問題を考えていく時の手掛かりの一つとして,英語とフランス語の普及に当たって両国が全く対照的な姿勢を採ったこと,その後のそれぞれの言語の普及度・普及範囲との関係も考慮する必要があろう。具体的に述べるならば,英語には英米社会における標準的なもののほかに,全世界に様々な特色を持つ英語があり,そうした英語をも認めていくというような寛容な態度が見られたということであり,フランス語の場合は言語の純粋さを大切にする結果,フランス語の変化に対して非寛容的な態度が見られたということである。

 これに対しては,今,国語課を中心にフランスにおける実態の調査ということも始まっているので,その調査の結果なども取り入れながら,この内容に関するステートメントは用意されていくだろうと思っている。
 (2)「国際語としての日本語の在り方」についてである。


ア)  言語は意思疎通の基本的な手段であり,日本語を含め多様な言語が使われることが自由かつ活発な交流と相互理解の前提である。
 国際的な言語の問題を考えるに当たっては,コミュニケーションの効率性の確保という観点だけでなく,言語が文化の基本であるという認識を持つことが重要である。
 また,今や国際的な言語の問題は特定の人間がかかわる段階から広く一般の人間がかかわる段階へと,その性格を大きく変化させつつある。

 日本人のすべての人が,一人一人の日本人が国際的な問題へ直面しているという社会状況にあることを意識しているということである。
 イ)では,日本語を学ぶ外国人の数が急激に増えているということ,あるいは学習の目的や内容などが多様化してきている,そういった状況に的確に対応した政策を立てる必要があるということを述べている。
 ウ)は,英語等が異言語文化圏間の媒介語であるという実態を踏まえつつ,日本人が日本語を独占する時代ではなくなったことを認識すべきである。
 日本語が広がるということは,どんな効果をもたらすであろうかということであるが,@我が国の様々な情報を外国に伝達することが容易となり我が国の文化がより深く理解されるようになること。このことは今までも割合どこでも言われていることである。Aは,日本人も日本語を通して諸外国の文化に容易に接し得るようになること。B我が国が東西文化の影響の下に,日本語によって既に蓄積した多様でかつ高度な文化的所産を国際社会に今まで以上に提供し得ること。この2点は,割合に新しい視点であり,意味のある主張であろうと私は思っているが,この3点で大きく貢献することになると考えられる。
 エ)では,日本語を普及することが相手の国に一種の文化侵略だと受け取られかねないという心配がある。そのことに対しても十分議論を尽くしておくべきであろうという注意事項である。
 オ)は,それぞれの国で行われている日本語教育については,これを積極的に支援していくべきである。それは重要な課題であるけれども,今後の日本語の普及については,前の項目と多少重複するが,積極的にこれに取り組むべきであるという考えと慎重にすべきであるという考えがある。それを整理しておく必要があるであろうということである。
 カ)の項の中では,後ろの方のパラグラフが重要な中身になっているので,読むことにする。


 日本語が現在の英語のような国際語になることはないにしても,将来国際語としての性格を強めることは間違いないと思われる。その場合,相手国の言語を尊重した上で日本語を学んでもらうというのが大前提である。また,世界経済に占める日本の経済力は英語圏に次いで世界第2位である。こうした背景も踏まえて,国際語としての日本語は,基本的に知的交流言語やビジネス関係の言語として位置付けられるが,同時に,日本の文化や技術を発信していく原動力としても考えられる。さらに,日本に在住する外国人の生活語という役割も生じている。

 これも恐らく情報を更に収集して,きちんとした裏付けを用意しておく必要があるであろうと思っている。
 キ)の項については,日本で生活している外国人の出身国が非常に多様化して様々な言語が使われている現状は,日本語だけの問題ではなくて,この国の中で使われている言語が多様化している,様々になっているという現状に対する認識をきちんと用意しておかないと,日本語に対する政策を考える場合にも適切性を欠く可能性がある。そういった意味で,ここに加えられているのだと考えている。
 (3)「日本語の国際的な広がりを支援するための方策」。
 ア)日本語の国際的な広がりを支援する上で最も重要な論点は次の三つである。@日本語教育の推進,A国際機関や国際会議における会議用語の問題,B日本語そのものの在り方の問題。Bの在り方の問題は,第1委員会で検討されることを第2委員会としては期待しているのであるが,@とA,特にAに関しては議論がかなりたくさん行われた。
 その中で,ウ)では,「日本語教育の理念と検討に当たって,特に重要な視点は次のとおりである。」として,まず一つは,外国人にどのような日本語を教えるのか,外国人が話す日本語はどういう日本語が理想的なのかということと,Aの外国人にどのように日本語を教えるのかといった柱――これはもう少し詳しく柱立てと内容への突っ込みをしていかなければならないだろうと思われるが,少なくともこの領域の問題について重要な視点を明らかにしておくことが今後の作業に期待されていると思う。
 さらに,それに関連して,次のぺージの一番上のBであるが,国語教育と日本語教育とのかかわりをどう考えるのかという課題が残されている。
 エ)の項は,日本語教育の理念を検討するに当たっては,何に留意すべきかということで,@からBまであり,@は,「聞くこと」「話すこと」に限らず,「読む」「書く」といった4技能が必要であろう,Aは,日常生活から専門研究に至る様々な教育のレベルがあるであろうといったことが指摘されている。

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