国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 協議

坂本会長

 それでは,これから協議に入りたいと思う。
 ただいまの第1,第2両委員会の御報告について,御質問があったら出してほしい。

中西委員

 私は第1委員会に属していながら,こういうことを申し上げるのは大変恐縮だけれども,第1委員会の報告についてちょっと意見がある。
 9ぺージの一番上のところに,女性の言葉について書いてある。「必要以上に敬語や美称が多く使われる傾向を改めるべく指摘されたことが実現し」うんぬんとあるが,ここで女性の敬語という問題が出てくるのは,もちろん日本語全体の趨(すう)勢からして当然でもあるけれども,一方,なぜ女性の言葉だけが問題になるのかということで言うと,何か差別という問題になりかねないことが気になる。
 したがって,この世論調査でも,女性の言葉の中に男性語との区別とか女性の敬語があってもいいのだという方が,かなり多かったように思うけれども,その問題をそれぞれ男性の言葉,女性の言葉という言葉の上の性別というか,そういう観点でとらえるという基本姿勢があって,その中で女性の言葉についてはこうだという書き方の方がいいのではないかと思った。
 つまり,もしそういうことを認めていただければ,「男性の言葉も女性の言葉も,適切で,かつ美しくあるべきである。女性の言葉についてはこうである。」という表現ならば,女性の敬語はかなり簡素化されているけれども,なおあるという事実を超えて,我々の姿勢も出すことができるし,特に女性だけがここで問題になるということがなくなるのではないか。
 そういうことがあるので,これは女性の言葉だから,是非,遠山長官の御意見も伺いたいと思うが,いかがか。

坂本会長

 長官,いかがか。

遠山文化庁長官

 せっかく女性の委員がたくさんおいでになるので,そちらから御意見を伺った方がいいと思う。私の感想を申し上げるのは,いささか場が違うように思うので,よろしくお願いする。

野元(第1委員会)主査

 ちょっと申し上げる。
 ここは「これからの敬語」というものについてのことを書いてある。「これからの敬語」は,中西委員がおっしゃるように,差別的かもしれないけれども,女性の言葉についてうんぬんしてある。そこで,こう申したわけで,これからこちらで敬語について何かを出す,その中で女性語のことを出すということになれば,おっしゃるように,男性語と併せて言った方がいいのではないかと思う。ここはそういうわけだったので,ひとつ御了承をお願いしする。

中西委員

 これから考える,ということで了解した。

坂本会長

 御質問だけではなくて,御意見でも結構であるから,挙手をしていただいて,御自由に御発言いただきたいと思うが,いかがか。

神谷委員

 私は,今期初めて審議会の委員を仰せ付かったもので,前期までのことは存じていない。したがって,その話はもう済んでいるということであれば,こだわるつもりはないが,私のように国語の専門家ではない者の目から見て,1か所やや奇異に思われるところがあるので,申し上げたいと思う。
 第1委員会の方のちょうど今の辺りだが,9ぺージの最後の行から10ぺージの最初の行に至る敬称の問題で,男女の性による区別をしないで統一するのも致し方ないと言うのは,確かに新聞などでも大分前から統一しているようだから,今更と言う感じであるけれども,「望ましい」というふうには私には思えない。やっぱり「美空ひばり氏」というのはちょっと抵抗がある。
 したがって,私も世界のいろんな言葉のうち,ごく限られた数しか知らないが,私の知る限り敬称には性による区別があるというのが普通であって,どうして日本だけ「統一する方が望ましい」ということになるのかという辺り,やや奇異な感じがする。

坂本会長

 いかがか。
 今の御質問に,現状でどうあるべきかは別として,委員会側から何か御発言はないか。

野元(第1委員会)主査

 これについては,まだ余り深く話していないと思う。しかし,考え方としては分ける方が望ましいとは私は思わない。
 というのは,日本語ではこういうふうに統一することができるわけだけれども,外国語ではちょっと統一できない言語があるようで,その場合に,なかなか苦しいところがあるんじゃないかということ。
 それから,これはだんだん改められつつあるようだけれども,女性については既婚・未婚によって敬称が違っているということも,統一という点から見ると,余りよろしくないのではないかと思う。近ごろは,英語では「ミズ」と言うことが多くなったようで,これは一つの進歩かと思うが,私個人としては性による区別もない方がいいんじゃないかと思っている。
 これは委員会で十分結論を得たというわけではない。

坂本会長

 そういうお立場によって,言葉というものはなかなか難しい面があるので,今ここで右か左かというのを決めるのは,難しいのではないかと思う。少し議論を続けるという認識で,きょうのところは進めるということでよろしいか。

江藤委員

 伺いたいことが多分二つあるんだろうと思うが,今の統一するというのは,神谷委員からも御指摘があったけれども,余り穏当ではないのではないか。国語審議会は,一体統一することが望ましいということまで踏み込んで言う場なのかどうか,よく分からない。
 それはそれとして,先ほど庶務報告で御説明いただいた「国語に関する世論調査」というのを見ると,5ぺージの「言葉に関する意識」というところで,新聞や放送などが非常に大きな影響力を持っているという認識を示す人が88.4%ある。「国が日本語の正しさや美しさの保持に努めることが必要だ」というのが大体7割,71.5%ある。つまり,国よりは新聞・放送等が一歩先んじて国民の言語意識に大きな影響を及ぼしているという数字が,ここにはっきり出ているわけである。
 それと今問題になっている敬語の問題とを併せて考えてみると,第1委員会の論議の概要の7ぺージであるが,「敬語の問題について」の(2)に,「敬語は上代以来連綿と使われてきた日本語の言語体系,言語文化の大きな要素である」という御指摘がある。これは誠に正しい御指摘だと思うが,この「上代以来」というところがみそで,敬語の問題は,究極するところ,皇室に対する敬語というものが基本にあると思う。
 皇室に対する敬語というものが基本にあるとして,それがいろいろ分化して,ここにも御指摘があるように,19世紀の江戸で行われたものが現行の敬語の基礎にあるというのも歴史的に正しい御指摘だと思うけれども,一部の新聞等の皇室に関する記事で「天皇陛下はどこどこへ行った」というような表現が使われているのが現状である。これはちょっとおかしい。「天皇陛下」と言って,ここにさっきのミズやミスやミセスじゃないけれども,天皇に対する敬称を使っていて,その後の普通の文章で「どこどこへ行った「車を降りた」「飛行機に乗った」「手を振った」というふうになると,新聞・放送等が国よりも更に先んじて,皇室に対する敬語は一切やめるんだということを意思表示し,かつ国民に有形無形のうちに伝播(ぱ)し,ある意味では強制しているのかなという感じがする。
 このようなことはやはり大きな問題であって,いったん敬語を論ずるのであれば,この問題をも含めてお考えいただきたいと私は思っている。これは意見である。

坂本会長

 その御意見は私も度々先生から承っており,放送にかかわりを持つ者の一人として,正直言って多少頭を痛めておるわけだけれども,現場の意思としては,「天皇陛下」というお立場を言いながら,「行った」とかいう言葉で表現するのは,むしろ親しみのようなものを表すという意味合いがあるやにうかがわれなくもない。しかし,そういう問題と今の御指摘とはかなり問題が大きいので,この席で決めることはなかなか難しいなと思う。やはり検討を続けるということで,この際は御了承をいただきたいと思う。よろしくお願いする。

野元(第1委員会)主査

 今会長がおっしゃったように,これはまだ第1委員会では正式に議論していないので,これからの問題だと思うが,敬語の問題は,場面とか呼応の問題というのが非常に重要であるということで,それとの関連において論ずることになるのではないかと思う。

北原委員

 皇室敬語の問題もあるけれども,その前の男性と女性についての議論で,第1委員会の9ぺージの先ほど指摘された2か所,上の方は現在かなり簡素化されているから問題ないということだろうが,さっき神谷委員が指摘なさった下のところは,男性と女性を言葉遣いの上で別の存在であると考えるかどうかという辺りが,やはり出発点だろうと思う。
 その前に,「男らしい」と「女らしい」というのはどういうことかということである。実は去年だったか,四国のある高等学校で校歌の問題が起こった。逆だったかもしれないが,1番は「男の子は男らしく」,2番は「女の子は女らしく」,3番は「男の子と女の子がカを合わせて,いい郷土を作ろう」という歌詞であった。ところが,2番のところに「女の子は女らしく」という表現があったというので,その2番はカットされて,同窓会で書いて講堂に飾ってあった額がお蔵入りしたということが,新聞に大きく出た。
 私は,その歌詞を詳しく分析して論文を書いたことがあるが,そのときに字引を10種類ぐらい調べた。「女らしい」というのはちゃんと出ている。「女らしい」というのは優しくて何とかという性質,「男らしい」というのは雄々しくて勇気があって何とかと全部書いてある。それが間違っているか,正しいか,議論する必要があると思うし,きれいな言葉が女性に合っていて,乱暴な言葉が男性に合っているかどうかは別であるけれども,その辺の区別を全く取ってしまうのか,もう一度考えてみる必要があるんじゃないかと思う。
 分けておくのは常に悪いというような考えが,最近の無差別民主主義みたいなところであるけれども,女性の言葉の美しいのは女性の美点だという考え方もまたあるわけで―私みたいにというわけではないが―これは国語審議会で議論する範囲を越えているかもしれないけれども,その辺は一度議論してみる必要があるだろうし,突っ込めなかったら言及すべきではないというふうに私は考えている。
 それから,先ほどの「さん」と「氏」の問題であるが,「さん」の方が「氏」よりも尊敬度が高いのではないか。実は敬語の研究をしている敬語の専門家が―私の親しい先輩なのだが―私のことを少し尊敬してくださっていて,「北原氏」と言う。同窓の先輩なので,私のことを「さん」とはちょっと呼べない。「北原君」と呼んでいい人なのだけれども,「君」とは呼ばないで,「北原氏」と呼んでいる。私は,この方は「君」とまでは呼ばないけれども,「さん」とは呼べないで,「氏」と呼んでいるんだなと思っている。「さん」よりも「氏」の方が(3よりも4の方が),数は多いけれども,敬意度が足りないんだなということを感じているが,皆さんはどうお考えになるか。
 そこからすると,女性に「さん」を付けて,男性に「氏」を付けると,女性の方を尊敬していることになると思うので,これは男性が差別されているという考え方にもなるが……
 後半の方は細かい問題だが,最初に申し上げたことは大事なことだろうと思う。

寺島委員

 9ぺージの下のところの「統一」という問題であるけれども,確か第1委員会では,「さん」と付けたときに男性だけ「氏」にするとか,座談会の出席者などで「氏」と書いてあるのに,女性が一人いるから「さん」にするというのはおかしいということが問題になったんで,「氏」に統一するとか,「さん」に統一するとかいう話ではなかったと思う。この表現を読むと,そこがちょっと紛らわしいな,第1委員会で討議されたのとちょっと違う受け取り方をされるなという感じがする。
 北原委員の御意見だが,第1委員会は,全体の数で女性のバランスが割に多いので,女性らしさとか,男性らしさとか,女性言葉とか,男性言葉とか,全体的にはそう区別をしなくてもいいのではないかというふうに,委員会としては議論が進んでいるように私は受け取っている。
 そのことがいけないとおっしゃるのならば別だけれども,この第1委員会における論議の概要が,「これからの敬語」を踏まえて書かれているので,実際の委員会で検討されていることと,ニュアンスとしては,ほかのところも含めてちょっと違う感じだなという感じがしないでもない。
 だから,「これからの敬語」を扱うにしても,その表現の仕方にもう少し工夫が要るんじゃないかなというふうに,私は委員会に出ている人間として思った。

俵委員

 問題になっている「さん」と「氏」のことは,一番初めに話題として提案したのは私だったので,何か責任を感じながら聞いていた。今言っていただいたように,具体的な体験として,私が新聞の座談会に出たときに,一人だけ女性だったのだが,私の名前だけ「さん」になっていて,ほかの男性の出席者が全員「氏」で統一されていて,私としては,なぜ私だけ,と――今のお話ですと,尊敬されていたのかもしれないが――大変不思議な感じを受けた。そこで,そういう提案をして,そういう場合には統一した方がいいんじゃないかというお話になった。
 「女性らしさ」「男性らしさ」という話題については,それが感じがいいなとか美点として受け取られる分には全然問題はないと思うが,それが押し付けになったときに問題が生じるのではないかと思う。女性はこうあるべきだとか,男性は男らしくとか,言葉にしても,言葉以外の面でも押し付けになったときに問題が生まれるのではないか。その辺を整理して考えた方がいいように思った。

山口委員

 北原委員に伺いたいのだが,「さん」と「氏」というのは,本当に「さん」の方が敬意が高いのかということがまず第1点。つまり「氏」は漢語で「さん」の方は和語だから,硬い,軟らかいという違いがあるが,また,日本語においては,官公庁の用語など権威を重んずるところでは大体漢語が多い。権威がある方が「氏」である。そこら辺は北原委員の御意見をもう一度伺いたい。
 もう一つは,さっき寺島委員と俵委員がロをそろえておっしゃってくださったので,そのとおりなのだが,私も,男女の区別を取り去り,ひとまず人間として見た上で,優しい言葉を使ったりするのはパーソナリティーの問題としてとらえるべきじゃないかと思っている。男と女の区別というのはひとまず外していく方向で,その後,私が大変きれいな敬語を使ったとしたら,女性だからではなく,パーソナリティーの一つなんだと取っていただくような方向で議論していただくといいなと思っている。

野元(第1委員会)主査

 第1委員会の主査として,ニュアンスがちょっと違うんじゃないかというお言葉には恐縮するほかはないわけで,確かに「これからの敬語」にとらわれ過ぎているということはあるかもしれない。これから最終的な報告をまとめるに当たって,委員会の席でもいろいろ御意見をお出しいただけたら幸いだと思う。
 それから,呼び方の統一のところで,そういう座談会で男性と女性がいるときに,女性だけについては年齢の注記がないというような整理の仕方をしているものもあって,これは問題じゃないかということを,私は冗談で申したけれども,これはちょっと国語審議会の関与することではないのかもしれない。
 それから,男女とは限らないけれども,配偶者の呼び方なども非常に大きな問題になっている。「論議の概要」では10ぺージの(イ)の@のところにしか書いてないが,ちょっと重い項目として話題になったということは御報告しておく。

北原委員

 先ほど話題になった「さん」と「氏」の問題では,確かに「氏」は漢語だから,硬い,軟らかいの違いもある。「書き言葉で」と書いてあり,普通,話し言葉で「氏」と呼び掛けることはないのだろうが,先ほど私が話した「何々氏」と呼ばれたときと「何々さん」と呼ばれたときの感じは,硬いとか軟らかいではなくて,敬意の差の問題であることが皆さんお分かりになるだろうと思って挙げた例である。
 また後でやまぐちしと議論したいと思う。

吉村委員

 第2委員会の関連で,外来語と外国語の使用について,官公庁,マスコミなどは慎重な配慮が必要ではないかという箇所がある。規制緩和ということが大きな流れになっているときに,外国語を使うなとか何とかいうことを余り強く言うのは問題かと思うが,少なくともマスコミでは,一般紙は,外国語をやたらに使うな,外来語をやたらに使うなということは,社内でどれだけ明文化されたルールであるか否かは問わず,かなり常識になっている。
 私は,問題は官公庁にあるんではないかと思う。例えば,最近話題になったことで,例の乱脈経営の信用組合の救済について,大蔵省の出身者あるいは都庁などが,「救済のスキーム」という言葉をやたらに使う。新聞はまたそれを真に受けて,「スキーム(枠組み)」と書いている。字数も「スキーム」は4字であって,「枠組み」は3字だから,最初から「枠組み」とすれば字数も少ないわけだが,担当官庁の権威ある方が「スキーム」と言えば,みんな右へ倣えしてしまう。
 この間も私どもの新聞に出ていたが,某大自治体の公文書だと思うが,そこで先ほどから問題になっている性差という絡みで,「ジェンダーフリー」とか「アファーマティプ・アクション」というような言葉が,全然説明なしにすごい勢いで飛び交っている。これは何だということになるわけである。
 だから,常識あるマスコミは,そういうことは避けようと本当に努力しているが,まず隗(かい)より始めよで,日本語があるものについては外来語・外国語の使用を自制するということは,官公庁から始めるべきではないか。より強く慎重な配慮が求められるのは官公庁ではないかというふうに私は思う。

坂本会長

 きょうは官公庁の文化庁も御出席であるから……。
 大変活発な御意見を多々いただいているが,一応4時までということであるので,今いただいた御発言,御意見等を基にして,今後の仕事を進めていくということでよろしいか。
 本日は,第1,第2委員会で活発な御議論をいただいた状況を伺い,また課題となっている検討事項についても,いろいろな問題点や考え方がかなり明らかになってきたような印象を受けた。その意味で,大変有益であったと考える。
 今期も余すところ5か月弱となった。両委員会におかれては,更に具体的な報告案の作成に向けて,本日の協議の中で出された御意見や御注文も十分参考にしながら審議を進めていただけるものと考える。
 そこで,総会としても,報告の中心となる重要な問題について,やはり一人一人考えを述べておく方がよろしいのではないかと思う。すなわち,総会の委員全員を対象にアンケートをさせていただき,それを第1,第2両委員会の審議の参考にしていただいてはいかがか。御了解いただければ,来月中旬辺りにアンケート用紙をお送りすることとしたいので,御協カのほどをお願いする。さらに,両委員会所属の先生方には今後ともお骨折りをいただくことになると思うが,よろしくお願いする。
 また,委員会の開催に当たっての通知は所属外の先生方にも差し上げているので,御多用中とは思うが,御遠慮なく御出席いただきたいと思う。
 ついては,次回の会合の予定等について,ここで事務局から申し上げることにする。

大島国語課長

 次回の会合の予定については,一応9月を想定しているが,まだ日取り等については固まっていないので,決まり次第,御通知申し上げたいと思う。どうぞよろしくお願い申し上げる。

坂本会長

 それでは,本日の総会はこれで閉会とする。

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