国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 新しい時代に応じた国語施策について

坂本会長

 続いて,本日の議事に入らせていただく。
 前回の総会でお諮りしたように,本日,「新しい時代に応じた国語施策について(審議経過)(案)」について最終的な御審議をいただき,決定の上,文部大臣への報告として提出するという運びにさせていただきたいと思う。
 10月17日に開催された第1,第2合同委員会は,所属外の委員にも多数御出席いただいた。その際,提出された御意見に基づいて,本日の審議経過報告(案)をまとめてある。したがって,まず,両主査に御説明いただくことにしたいと思う。
 それでは,野元主査からお願いする。

野元(第1委員会)主査

 第1委員会の御報告を申し上げる。
 ただいま会長がおっしゃったように,10月17日の第1,第2両委員会合同の会合において,両委員会に属しておられない先生方も多数御出席いただいて,いろいろ活発な御意見をいただいた。この御意見によって,当日用意した報告案を多少修正して,本日はお手元に差し上げてある。
 修正といっても,重大な内容についてのものはなく,すべて語句・字句の修正である。これからこの修正点を主として申し上げる。
 1と3と4にはそれほど修正はなくて,2の「言語環境の重要性」というところに字句の修正が多少多くなっている。
 第1委員会で最も多くの時間を費やして議論し,したがって,この報告案で最もぺージを取っているのは「敬語の問題」についてである。10月17日以後の語句・字句の修正も,この部分はごくわずかで,最も大きいものとしては,10ぺージになるが,(4)のところの「形容詞+です」の項目で,具体例としての形容詞をシク活用からク活用に改めたというところが一番大きいかと思う。
 4の「その他」については,いわゆる「ら抜き言葉」を最初に取り上げている。これは1ぺージの目次のところを御覧になるとお分かりいただけると思うけれども,「ら抜き言葉」は目次の項目にも入っていない問題であるが,世間ではこれが一番問題にされているようである。これは我が本意ではないという気がするわけであるけれども,本日までの新聞・放送等のいろいろな報道によっても,あるいは本日のテレビ番組予告などを見ても,この「ら抜き言葉」が挙がっている。そういう点では話題を提供したということにはなろうかと思う。
 第1委員会の関係する「言葉遣いに関すること」で,報告案の中にある主なことについて概略申し上げる。
 1番目の「基本的な認識」というところについては,言葉の変化に伴う新旧の言い方の並存など,国語の多様な要素を把握して,現時点での適切な言い方を判断する必要があるということ。現代の言葉のあるべき姿についての見解を示し,将来的には言葉遣い,例えば敬語などについての緩やかな基準を示す必要があるだろうということ。
 次に,2の「言語環境の重要性」のところであるが,ここでは国民一人一人が言葉遣いを大切にし,言語生活を充実させていけるよう各方面に対し言語環境の整備を提唱し,支援するということ。学校,家庭,地域社会,国がそれぞれに,また一体となって言語環境の一層の整備に取り組む必要があるということ。新聞・放送等はその影響力を自覚し,言葉遣いに更に配慮するとともに,その活動を通じて国民の意識が高まるよう努めることが期待されるということ。方言と共通語とは,今後とも役割を分担しつつ共存していくことが望まれるということ。
 3の「敬語の問題」については,昭和27年の建議「これからの敬語」に掲げた「平明・簡素」だけではなく,場面に応じた適切な敬語使用ということを基本理念とするということ。それから,過剰な敬語表現,例えば「召し上がられる」や誤用,例えば「先生,お待ちしてください」のようなものについては,適切な見解を示す必要があるということ。
 4の「その他」は,共通語における「ら抜き言葉」は,現時点では改まった場では使うべきではないのではないかという点,それから「気がおけない」を「信用できない」の意味に使うなど,慣用句の意味・用法のゆれ等については安易に認めるべきではないということ。こういうことが主なことだと思う。
 これで第1委員会の関係は終わりにする。

坂本会長

 引き続いて,第2委員会の御説明をお願いしたいと思う。

水谷(第2委員会)主査

 第2委員会に与えられた課題は,大きく二つにテーマが分かれている。一つは「情報化への対応に関すること」であり,もう一つは「国際社会への対応に関すること」になっている。
 情報化のテーマに関しては,委員会自体の審議だけではなくて,外部の専門家の方からのヒアリングを何度も重ねて行ったし,国際社会に対応するテーマについても,専門家からの意見を聞くための機会を幾度か用意した。
 現在,20期の2年間の仕事を終わってみて一番感じていることは,この情報化への対応,あるいは国際社会への対応というのは,どちらも国民の言語生活,現在の日本語の直面する問題としては非常に重要なものであろうということで,それを国語審議会で取り上げて審議に付したことは,非常に適切であった,意義があったというふうに思っている。
 しかし,その問題の大きさという点から言うと,予想以上のものがあって,容易なことでは適切な提言としてまとめ上げることができない,非常に困難な課題であるということをつくづくと思い知らされている。もちろん大きな課題で困難であるとは言っても,日本人の言語問題としては避けてはならない重要な課題であるということは明白であるから,21期以後についても,審議会の中だけではなく,国語問題にかかわる国民全体の一つの課題として,今後もあちこちで議論が戦わされ,尽くされることを祈りたいと思っている。
 「情報化への対応に関すること」の部分も,「国際社会への対応に関すること」の部分についても,前回の合同委員会で先生方にお出しいただいた訂正の御提言はすべて盛り込んで,大きな問題はなかったが,若干の修正をした上で,現在の案文になっている。
 「情報化への対応に関すること」は,資料15ぺージのところからであるが,「情報機器の発達とこれからの国語施策の在り方」という項目が15ぺージの最下段のところから始まっている。その中では16ぺージの中ほど,四つ目の段落のところに,「現在,ワープロ等の情報機器が言語生活にどのような影響を与えるかについての調査・研究は極めて少ないのが実情であるが,上記の認識を踏まえて,言語生活に資するような調査・研究が積極的に行われるよう提言したい。」とあり,これが一つの具体的な形での提言になっている。
 そして,更に2段下の項になるが,「マイナス面を最小限に抑えつつ,プラス面を最大限に引き出せるような情報機器の使用法が,科学的な研究に基づいて早急に確立されることが望まれる。」といった形で,第2委員会の姿勢の中核的な部分が示されている。この問題にも今後時間を掛けていかなければならないかと思う。
 それから,交ぜ書きについての指摘は17ぺージの(2)のところに出ている。これは前期から引き継いでいたものだが,一言で言うと,振り仮名を用いることへの配慮が必要である,ただし,難しい漢字が使われ過ぎることに対して判断をしていかなければならない,ということで,18ぺージのイの項のところに「交ぜ書きに対する考え方」として出ている。
 情報化対応の中で最も大きかったことの一つは,やはりワープロ等における漢字の字体の問題についてであるが,18ぺージの3の項から漢字の字体の問題点の指摘,考え方などが示されている。事柄としては,問題に対する考え方が世の中で真っ二つに分かれて対立している現状があるということ。したがって,その解決は非常に困難である。表外字全体の字体の問題について,何らかの形で解決策を打ち出していかなければならないけれども,慎重でなければならない。私どもは積極的に取り組んでいかなければならない状況にあるのだけれども,今後の論議のテーマとして継続的に取り上げていく必要があるであろうと考えられている。そのことは19ぺージの最後の部分に指摘してある。
 それから,「国際社会への対応に関すること」の部分では,根本的な考え方として,これらの国際社会への対応に関する問題点の解決のためには,日本人自身の言語運用能力をどうするか,それを高めることが国際化への対応のかぎになる,という姿勢を打ち出している。
 また,日本語の国際的な広がりへの対応については,日本語教育を中心にして,かなり具体的な形で幾つかの提言を盛り込んでいる。恐らく,ここに盛り込まれている提言の内容は,これからの日本語の国際的な広がりに対して貢献できる施策についても,いろんな形で手掛かりになっていくものと信じている。
 そのほか,外来語の問題や姓名の口ーマ字書きの問題も報告書の中には含まれているが,こういった国際化への対応に関する諸問題も,審議会の枠を超えて広く各界で関心が持たれ,そして議論が行われることを望みたいと思っている。
 終わりに,委員の先生方には大変御熱心に審議に御参加くださり,この段階での意義のあるまとまりが出来上がっているが,最初にも申し上げたように,第2委員会の抱えた二つの大きなテーマは,全体として見ると,やっと第一歩を踏み出したというのが正直なところであろうかと思う。今後の継続的な審議の進行というものを私どもは覚悟しなければならないと思っている。

坂本会長

 ありがとうございました。
 ただいま御説明のような取扱いをさせていただいたところであり,御了解をいただきたいと思うが,何か御質問があったら御発言をお願いしたい。いかがか。
 それでは,「新しい時代に応じた国語施策について(審議経過報告)(案)」を当期の報告とすることについて,お諮りしたいと思う。特に御発言がなければ御了解いただいたものとさせていただきたい。
 よろしいか。(異議なし。)

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