国語施策・日本語教育

HOME > 国語施策・日本語教育 > 国語施策情報 > 第20期国語審議会 > 新しい時代に応じた国語施策について(審議経過報告) > I 言葉遣いに関すること

I 言葉遣いに関すること

3 敬語の問題

(3)敬語の理念及び具体的な語法

ア 敬語の理念
 「これからの敬語」では,「基本の方針」として,「行きすぎをいましめ,誤用を正し,できるだけ平明・簡素にありたいものである。」としているが,この考え方は継承してよいと考えられる。ただし,必要に応じて様々な敬語を用いることは,現実に要請されることでもあり,豊かな言葉遣いのためにもあながち否定できない。
 女性の言葉遣いには,かつては過剰な敬語や美称が多用されるという傾向があったため,同建議ではこれを戒めるよう指摘している。しかし,今日ではむしろ,男性と女性との言葉遣いに差がなくなりつつあることが話題になっている。言葉遣いにおける自然な性差は豊かさとして認めつつも,それを固定的にとらえることなく,むしろ,両性とも一人の人間としてそれぞれの個性を表現していくこと,場面や相手にふさわしい言葉遣いをするということが大切なのではないか。
 商業方面における敬語は,極端に過剰にならないよう,当事者がその分野での対人関係や場面における適切な敬語使用を考えていくことが望ましい。
 さらに,今後の論議に必要な観点としては,コミュニケーションを円滑にするという観点,場面による適否という観点,主語・述語の呼応をも含め,単語の問題としてだけでなく,表現全体としての適切さを重視する観点なども必要であろう。

イ 敬語の語法
 「これからの敬語」が取り上げた敬語の具体例を中心に検討した結果,次のような共通理解を得た。

@ 人称代名詞
  一人称代名詞については,世論調査(平成7年文化庁) においても,改まった場合における「自分の呼び方」として約6割の人が「わたし」を挙げたように,現在「わたし」は最も一般的な語となっている。これは「これからの敬語」で「「わたし」を標準の形とする。」としたことの影響によるものでもあろう。しかしながら一方では,男性の「ぼく」や女性の「あたし」もうちとけた場面などで広く使われており,また,若者などの間では「自分」も使われている。
 二人称代名詞については,同建議では,「「あなた」を標準の形とする。」としたが,現実には,相手を「あなた」と呼ぶことは一般的とは言えないようである。このことは,日常の表現では人称代名詞を使わないことが多く,特に二人称の使用は避ける傾向があることとも関連すると思われる。
 世論調査(同上)でも,改まった場では「名字+さん,さま(37.7%)」など,代名詞によらない言い方の方がむしろ多く使われているという結果であった。

A 敬称
 「これからの敬語」では,「「さん」を標準の形とする」,また,「「さま(様)」はあらたまった場合の形,また慣用語に見られるが,主として手紙のあて名に使う。」としているが,現実もこのような使われ方が一般的であろう。公用文においても,最近,地方自治体等で「殿」を「様」に改める傾向が報告されている。
 書き言葉では,「さん」のほか,同建議で「書きことば用」として掲げた「氏」も用いられる。時には男性には「氏」,女性には「さん」のように性によって敬称が使い分けられることがあるが,同一場面,同一資格においては,敬称をそろえることも考えられよう。
 「局長」「課長」「社長」等の役職名に「さん,様」を付けることの適否は,それぞれの分野での慣用もあり,一概には言えない。

B 接頭語,接尾語
 接頭語の「お」「ご」について,同建議では,「省く方がよい場合」の例として,「(ご)芳名」「(ご)令息」等を掲げているが,これらの言い方は現実にはむしろ多い。
 また,同建議では接尾語「ら」を「だれにも使ってよい」としているが,現実には「先生ら」のような言い方に違和感を持つ人も多く,一方では「先生方」や「私ども」のような言い方も使われている。

C 対話の基調
 同建議にも,「これからの対話の基調は「です・ます」体としたい。」とあるが,現代の対話の基調は「です・ます」体が一般的であると思われる。その中でも,形容詞に「です」を付ける言い方は,同建議で「平明・簡素な形として認めてよい」としたためか,かなり定着しているようである。
 また,「速いです」 などの過去形としては,「形容詞連用形十たです(例:速かったです)」が,また,その否定形としては「形容詞連用形十ありませんでした (例:速くありませんでした) 」及び「形容詞連用形十なかったです(例:速くなかったです)」が一般化しているが,「形容詞連体形十でした (例:速いでした)」や「形容詞連用形十ないでした(例:速くないでした)」のような言い方をどのように考えるかといった問題もあろう。

D動作の言葉
 「これからの敬語」で尊敬表現の形式として示した,いわゆる「れる敬語」及び「お〜になる」のほか,「お〜なさる」(尊敬表現),「お〜する」(謙譲表現)などの形式があり,また,「おっしゃる」「いらっしゃる」「伺う」等の特別な語形も一般的によく使われている。場面にふさわしい言い方を適宜選びつつ,豊かな表現を心掛けるべきであろう。
 ただし,同建議で,「お〜になられる」等の言い方をする必要はないとしているように,過剰な敬語使用は問題であろうし,「〜(さ)せていただきます」のような言い方をむやみに使うのは適当でないとの指摘もある。
 しかし,世論調査(平成7年文化庁)によれば,「お帰りになられた」のような言い方が「気になる」人の率は2割強に過ぎず,また,一方には,「先生,こちらでお待ちしてください」や「○○さん,おりましたら」,「お客様が申されました」のような,謙譲語を尊敬語のつもりで使う言い方について,「気にならない」人が4〜5割という状況もある。
 このような過剰な,あるいは本来とは異なった敬語の使い方に慣れてしまうと,適否の感覚が薄れるおそれもある。中には必ずしも否定する必要のないものもあろうが,やはり国語審議会としては適切な敬語使用について見解を示すことが必要であろう。

ウ 敬語については以上のほか, 次のような意見があった。
@ 世論調査(同上)によると,「植木に水をやる/あげる」のどちらを使うかでは,4人に3人が「やる」を使うとしている。この問題は,その対象(何に「やる/あげる」か)による差,地域差,性差などとかかわるところが大きい。また,「あげる」を使う人は「やる」という語をぞんざいな言い方と感じるようである。
A あいさつは言葉遣いの基本であり,コミュニケーションのきっかけとして大切なものである。適切なあいさつの在り方を考えることが必要であろうが,それぞれの地域で行われている様々な言い方の慣用には踏み込まない方がよいであろう。  また,日本人のあいさつは概して画一的であると言われているが,その時々の場面にふさわしいあいさつの表現を工夫をすることについても一層の関心を払うことが必要であろう。
B 現代にふさわしい配偶者の呼び方については,言葉以外の様々な問題がこれにかかわるので,一概に論ずることは困難であろう。

トップページへ

ページトップへ