国語施策・日本語教育

HOME > 国語施策・日本語教育 > 国語施策情報 > 第20期国語審議会 > 新しい時代に応じた国語施策について(審議経過報告) > U 情報化への対応に関すること

U 情報化への対応に関すること

2 情報機器の発達とこれからの国語施策の在り方

(1)情報機器の発達と国語の能力

 ワープロ等の情報機器が急速に普及したのは近年のことであり,こうした機器が人々の国語の能力(書記能力,文章表現力,思考力等)にどのような影響を与えるかについては今のところ未知の部分が多い。
 総務庁の「94年全国消費実態調査報告」によれば,ワープロの家庭における普及率は43.7%,パソコンは16.6%となっており,ワープロの普及率は5年前に比較して2倍近くに増加している。また,文化庁が平成7年に行った世論調査では,ワープロやパソコンを使って文書を作成したことが「ある」人は39.9%,「ない」人は60.1%となっているが,男性の20代,30代,女性の10代(16〜19歳),20代では,いずれも「ある」人が6割を超えており,今後ますますワープロやパソコンの使用が一般化することになると思われる。
 ワープロを用いて文書の作成を行う場合,熟練者は自分流の表記スタイルを変えることなく書けるが,初心者はワープロに左右されることが多い。すなわち,送り仮名をどう送るか,漢字を使うか平仮名を使うかなどは,ワープロで最初に変換されたものをそのまま用いる傾向の強いことが指摘されている。このことはワープロと国語の能力との関連という意味で無視できない事実である。特に,書記能力・表現力の十分に確立していない子供たちは大きな影響を受けることになろう。
 そこで情報機器の使用がもたらす影響については,社会人と子供たちとを分けて考えていく必要があろう。具体的には,社会人の場合は表現力・思考力が一応完成しており,その自分の思考内容を機器を用いて表現するにとどまるが,子供たちの場合には表現力・思考力の形成過程にあり,その過程に機器がどのような影響を与えるのか,という国語の能力の形成にかかわる本質的な問題が存在する。
 現在,ワープロ等の情報機器が言語生活にどのような影響を与えるかについての調査・研究は極めて少ないのが実情であるが,上記の認識を踏まえて,言語生活に資するような調査・研究が積極的に行われるよう提言したい。なお,こうした機器は,今後一層,文字情報だけでなく音声や映像をも一体的に取り扱うことが可能になっていくと考えられるので,この点への配慮も必要となろう。
 平成7年の文化庁の世論調査で,ワープロやパソコンを使って文書を作成した経験から,どのような感想を持ったかを聞いたところ,「漢字の書き方を忘れることが多くなった(38.5%)」,「漢字の知識が増えた(33.8%)」,また,文章作成の速さについては「速く作れるようになった(22.1%)」と「時間がかかるようになった(18.4%)」のように分かれている。
 こうした調査結果からも明らかなように,同じ機器を用いながらもプラス,マイナス両面の影響が指摘されており,機器をどう利用していくか,機器の機能にどう習熟していくかの問題が大きいことを示唆している。マイナス面を最小限に抑えつつ,プラス面を最大限に引き出せるような情報機器の使用法が,科学的な研究に基づいて早急に確立されることが望まれる。しかし,総じて言えば,ワープロ等の情報機器は文章作成の上で,極めて利点の多いものと位置付けられるものである。
 学校教育の中でも,指導の仕方によっては「漢字に対する意識が高まり,同音異義語などをよく覚える」「仮名漢字変換を行う過程で仮名遣いや漢字の読みなどの確認ができるので,運用面での確実性が増す」「加除訂正が簡単であるので,その繰り返しの作業(推敲(こう))を通して文章表現力を高めることができる」などのプラス面が認められる。ただし,「情報機器の機能の理解が不十分なため,思考の流れが妨げられる場合もある」「手書きを一層重視し,書写能力の低下をくい止める必要がある」などマイナス面も,同時に,あることは認識しておく必要があろう。
 また,情報機器に関連して,使用者の使用目的の多様化に伴い,それぞれの用途に応じた様々なソフト(縦書き用と横書き用の書体が使い分けられるものなど)の研究・開発が望まれる。さらに,最近の機種は多様な機能が開発され操作が複雑化する傾向にあるが,それよりも,基礎的な仮名漢字変換や表示装置に使われている文字(特に横書きに適した書体の開発など)等の面での進歩が期待される。このことは,使用する人間の書記能力,文章表現力,思考力等に及ぼす影響という意味からも大切な視点となろう。

トップページへ

ページトップへ