国語施策・日本語教育

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U 情報化への対応に関すること

3 ワープロ等における漢字の字体の問題

(3)表外字の字体の問題の現状

 今回の課題の背景にある表外字全般の字体問題,すなわち「常用漢字表における表外字の字体の扱い」及び「各方面における表外字の字体の扱い」 について,その現状を以下にまとめておく。

ア 「常用漢字表」審議過程での表外字の字体についての考え方
 昭和52年「新漢字表試案」の説明資料では,「新漢字表は目安であるから,表に掲げていない字でも,字体を考える必要がある。「へん」「にょう」等は,新漢字表の字体に準じて統一することができよう。「つくり」については,機械的に安易に統一することはつつしむべきである。今後,十分時間をかけて具体的に検討する必要がある。また,同一字種に対して二つ以上の字体が生まれるようなことは避けるべきである。」としていた。
 これに対して,出版・印刷方面から,「へん」「にょう」等にとどまるものであっても表外字の字体の変更は大きな混乱を招くとして,慎重な取扱いが求められた。一方,新聞関係者からは,新聞として自主的に表外字の字体について検討することまで禁止するような表現にはしないでほしいという要望が出された。
 その結果,昭和54年の中間答申及び昭和56年の答申「常用漢字表」の前文では下記のように書かれた。
 「常用漢字表に掲げていない漢字の字体に対して,新たに,表内の漢字の字体に準じた整理を及ぼすかどうかの問題については,当面,特定の方向を示さず,各分野における慎重な検討にまつこととした。」

イ 人名漢字の字体
 戸籍法施行規則(法務省令) の「人名用漢字別表」(284字)に掲げる漢字の中には「尭」「弥」「遥」等,50字程度の略体が含まれている。

ウ 新聞における表外字の字体
 朝日新聞は昭和30年代から略体をかなり大幅に採用している。読売新聞・毎日新聞は,現在,「しめすへん」「しんにゅう」「食へん」に限って略体を採用している。

エ 書籍出版における表外字の字体
 表外字は伝統的ないわゆる康熙字典体とする考えが,出版界では定着している。

オ 辞書における表外字の字体
 辞書の親字として,表外字は康熙字典体,ただし人名漢字で略体となっているものはその字体,で示されている。表外字の略体については俗字,略字等として参考的に示すものもある。

力 教科書における表外字の字体
 「教科用図書検定基準」には「常用漢字以外の漢字の字体については,慣用を尊重すること。」とある。この趣旨は,原則として康熙字典体を用いるものとし,これ以外の字体を用いるときは,例えば人名漢字で既に示されているような,なるべく慣用の熟したものを取り上げるということである。

キ JIS漢字における表外字の字体
 昭和53年制定のJIS漢字は,昭和58年の改正の際に第1水準内の表外字の字体を「鴎」「涜」「屡」等の略体の形で示した。これは,第2水準内の文字の一部にも及んでいる。この措置は,同年に制定された「ドットプリンタ用24ドット字形」のJISにおいて,低画素数用の見やすい字形を用意するという見地から略字が多く採り入れられたので,それとの整合を図ったためであると説明されている。
 JIS漢字は,その後,平成2年の改正を経て,現在,5年ごとの見直しのための調査研究が行われている。また,世界中の文字・記号約3万4千をコード化した「国際符号化文字集合」(ISO/IEC10646-1:1993)は,平成7年1月1日付けでJIS化(JIS X 0221-1995)されたが,この中には,既存のJIS漢字がすべて収められている。

ク ワープロ等(プリンタを含む)における表外字の字体の現状
 パソコン系のワープロソフトにおいては,JIS漢字は昭和53年の規格に基本的によっているものが多いので,表外字の字体の問題(略体しか出てこないという問題)は必ずしも顕在化していない。
 ワープロ専用機においては,昭和58年の改正規格(及び24ドットJIS)を全面的に採り入れているものもあり,部分的にしか採り入れていないものもあり,メーカーや機種・製造年代により対応が異なっている。
 なお,平成2年制定のJIS 「補助漢字」の中にはJIS第1水準内の略体「鴎」「涜」「屡」等28字に対応する康熙字典体が収められているが,現在,この「補助漢字」を搭載しているワープロはない。

ケ 学術用語における表外字の字体
 既刊及び近刊予定の学術用語集31編の中には約360字の表外字が掲げられているが,その中には,「(←濾)」など若干の略体が用いられている。日本医学会医学用語委員会編「医学用語辞典」(昭和50年)では「頚」「躯」「弯」「」等,十数字の略体を「強制的ではないが」として取り上げている。

コ 情報検索における表外字の字体
 文字情報のデータベース検索は,漢字に割り当てられたコードで検索する。データベースはJIS漢字コード(第1水準・第2水準)を基本に作成されるため,表外字の康熙字典体と略体の扱いはJISでの対応に依存し,康熙字典体だけがJISにある場合は康熙字典体で,略体だけがJISにある場合は略体で処理されることになる。康熙字典体と略体(その他異体字)と共にJISにある場合はデータベース上でそれらが混在し得るので,それらを併せて検索する操作が必要になる。なお,データ作成時の処理やコード変換等により様々な状況が生じ得る。

付 戸籍事務の電算化に伴う漢字の取扱いについて
 法務省では平成6年1月の民事行政審議会の答申を受けて,戸籍事務の電算化を実施するため戸籍法等の一部改正を行った(平成6年6月29日公布)。これにより,法務大臣の指定する市区町村長は,戸籍事務を電子情報処理組織(コンピュータシステム) によって取り扱うことができることとされた。
 なお,電算化に際して戸籍の氏名における誤字・俗字を解消するという当初の方針は,改正法案の国会提出及び審議の過程で変更され,「漢和辞典に登載されている字は,それが俗字等とされているものであっても,コンピュータ対応をする」こととされた。
 漢和辞典にも登載されていない書き癖等による表記(誤字) については,正しい表記をもって入力する。その場合には,事前に本人に通知するものとする。この場合に本人から苦情があり,極力理解を得るよう努めても納得が得られない場合には,本人の申出により,現在の戸籍(紙の戸籍)をもってその人に係る戸籍とする取扱いをする。
 改正法の施行日(平成6年12月1日)に先立ち,平成6年11月16日付けで関係諸通達が出された。その中で,俗字等の取扱いについては,平成3年1月1日から行われている新戸籍編製の場合の許容俗字等155字のほかに,漢和辞典に俗字として登載されている文字等865字を新たに例示し,これらが氏又は名の文字として従前の戸籍に記載されている場合は,磁気ディスクをもって調製する戸籍にそのまま移記するものとしている。

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