国語施策・日本語教育

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V 国際社会への対応に関すること

2 日本人の言語能力の在り方

 日本人の言語運用能力について検討していくに当たって,昭和47年の国語審議会建議「国語の教育の振興について」の中で述べられている,「(1)国語は,我々にとって人間活動の中枢をなすものであり,人間の自己形成と充実,社会の成立と向上,文化の創造と進展に欠くことのできないものである。(2)国語は,我々が祖先から受け継ぎ,更に子孫に伝えていく歴史的伝統的なものであり,国民の思想・文化の基盤をなすものである。(3)国語は,教育の全体を貫く基本をなすものである。」という国語についての三つの基本的認識を前提としたい。なお,ここでの検討対象である言語運用能力とは音声言語・文字言語を問わず,相手や目的・場面に応じて自らの意思を言語によって適切に表現・伝達し,かつ言語を通して相手の意思を的確に理解し得る能力のことであり,端的には,聞くこと,話すこと,読むこと,書くことのすべてにわたって総合的に運用する能力として位置付けられる。
 日本人同士の会話の中では,自分の意見や考えを最後まで言わなくても相手がそれを受けてくれたり,文末の判断部分を相手にゆだねてしまったりすることも可能である。可能であるばかりか,むしろ,そういうやりとりの方が気持ちの通じ合ったより望ましい会話であるというような印象を持つことが多いのではないだろうか。ここには,言葉を用いるよりも心の通い合いを大切にしようとする日本人の言語観の一端が,現れているとも考えられよう。
 日本人の言語運用能力は,当然のことながら日本の社会や文化に深く根ざした日本人の言語観や言語習慣に適合する形で形成されてきている。自分の考えなり意見なりを言葉を尽くして述べることの不得手である日本人が多いのは,この日本人の言語運用能力の特質と密接にかかわっていると考えられる。日本あるいは日本人が国際社会において期待される役割を十分に果たすためには,多くの日本人が国際社会において必要とされる言語運用能力を高めることが不可欠である。こうした能力そのものは日本語,外国語を問わず要求されるものであるが,外国語を習得し運用する能力も日本語で獲得した言語運用能力(国語の能力)が総じて基本となっていることを十分認識する必要がある。
 国際社会及び今後の社会生活において必要とされる言語運用能力を高めるためには,以下の基本認識に基づき,学校教育,社会教育,家庭教育などを通じて,適切な方策が総合的に講ぜられなければならない。


@  外国語能力は一般にその人の母語能力と密接にかかわっているという事実を踏まえて,日本語能力そのものを高めること。
A  特に,その人の外国語能力を支えている日本語の言語運用能力が,日本的な言語習慣の上に成り立っていることを認識した上で,論理的思考力・表現力を養成すること。
B  日本語の特質や文化的な背景に留意しながら,日本語についての知識や意識を高めること。
C  日本語以外の言語の背後にある,言語習慣や思考方法を把握・理解するように努めること。
D  同一の文化的背景を持つ人が,すべて同一の反応をするというような画一的な考え方ではなく柔軟な姿勢を持つようにすること。

 なお,関連諸科学とも連携を図りながら,日本人の言語運用能力を更に伸長するための,理論的・実証的な研究(日本語及び外国語がどのような過程で習得されるのかなど)が推進される必要がある。

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