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次第・議事要録 第2委員会における論議の概要について2

水谷(第2委員会)主査

 「(3)国際社会との関係」。これが大問題である。「○国際的な文字コードの問題などにどの程度言及するか」。今日の文藝家協会からの要望の中にもあったし,第2委員会としても,井上委員から御提言があったので,お話などを伺ったところである。
 委員会の中にも,以前からつとに大きな関心を持っている方があり,確かにこれは大きな課題として繰り返し議論の対象になってきているのだが,この問題に関して提言するとした場合に,どんな形で提示すれば実りのある提言として打ち出せるかということについては考えが煮詰まっていない。これについても,こんな方向でやれば成果があるのではないか,将来意味のある提言ができるのではないかというヒントが何かあったら,いただければ幸いである。
 次に,「U 印刷標準字体の選定にかかわること」を,取り急ぎ読ませていただく。

1 選定のための基本的な考え方
 表外字においては,明治以来の伝統的な印刷文字字形(いわゆる康熙字典体)を印刷標準字体とし,略字体については現行のJIS規格や新聞など,現実の文字生活で使用されているものの中から使用習慣・頻度等を勘案して,許容字体とするかどうかを決定する。すなわち,JIS規格や新聞等で使われている略字体であっても,すべて許容するという立場は採らない。ここで印刷標準字体とは印刷文字としての標準字体ということで,手書きの場合を拘束するものではないことを明示するための名称である。

 これも後ほどちょっと触れたいと思うが略字体のすべてを許容するという立場を採らないという一つの考え方としては.許容すべき字体は常用漢字表内の字と同程度の頻度で使われているというような一定の普及度を持つものに限るべきであろうということである。そのような意識の下に作業を進めてきている。
 次へ行く。

 また,手書き字形を印刷文字字形に安易に持ち込んで,印刷文字字形としては存在しないような新たな略字形をつくり出すことは考えない。  この考え方(手書き字形を印刷文字字形に安易に持ち込まない)は,常用漢字表制定時の国語審議会の考え方を受け継ぐものであり,同時に,印刷・出版界等の現在の実態を尊重するものでもある。

 先ほども申したが,印刷・出版界では,表外字についてはかなり歴然とした形,かなりパーセンテージの高い割合でいわゆる康熙字典体を使っているという実態がある。このことについては後ほどまた御紹介する。

 なお,JISの第1・第2水準を中心として検討するが,「表外字字体表の性格」にあるようにJIS規格のための字体表ということではなく,固有名詞を別として,法令・公用文書・新聞・放送等, 一般の社会生活で表外字を用いる場合のよりどころとして位置付ける。


2 選定作業にかかわる考え方

(1)  常用漢字表における,「字体の定義」及び「(付)字体についての解説」に述べられている考え方は,今回の表外字字体表においても基本的にこれを踏襲する。
(2)  検討対象は表外字のみとし,常用漢字については一切触れないこととする。具体的には,漢字頻度調査資料において常用漢字に準ずるような頻度数を示す表外字を対象とする。漢字頻度調査資料における常用漢字表の出現状況から見て,各社の出現順位で3,000位程度が目安になるものと考えられる。ただし,JIS規格の29字については検討する。

 参考資料のところをちょっと見ていただきたい。
 2ぺージ後の右肩に「参考」,右下に@とぺージが振ってあるところからの資料である。「漢字頻度調査について」というのがあるが,これが(2)のところで言っている漢字頻度調査に関するものである。
 この調査は,凸版印刷,大日本印刷,共同印刷の協力を得て,百科事典,文学全集,雑誌,文庫本,名簿といったようなものに現れるすべての文字のうち,漢字について使用頻度を調べてもらったものである。
 @ぺージの真ん中辺に手書きで,大日本と共同の総文字数・漢字数が挙がっているが,その上の数字が,凸版のものである。実はこれは凸版の頻度調査資料の凡例部分に他の2社の数字を手書きで加えて3社分全体を示したものである。凸版の場合は7,318万2,340字の総文字数で,漢字数が2,765万3,334字の資料。大日本は,漢字だけ言うと863万3,570字,共同印刷が122万2,578字,トータルで3,750万9,482字の漢字についてのデータである。
 Aのぺージに掲げた表は,この資料について常用漢字が頻度3,000位以降のどの辺りにどの程度出てくるかという回数を順番に並べていったものである。一番左に対応番号(頻度順位)とあって,それ以後に出てきた常用漢字が一覧で挙げてある。常用漢字表の中でも使われないものが結構あるということが言われるが,例えば,「勺」や「朕」というのは3社とも共通に頻度の低いところにある。こういうもの以外に低い頻度のものもある。これは実は一番下に注釈が付いているけれども,※のところに出ているような漢字は,それぞれの印刷会社が扱い方の違いを持っており,明らかに文字の一部分のデザイン差にすぎないようなものも別のコードを振っているのである。そのために常用漢字表の字体と異なるデザインの方が頻度が高いところに行って,同一のデザインのものが頻度3,000位以下に来ているものもあるわけである。

水谷(第2委員会)主査

 「創」がこんなに低いはずはない,「較」がこんなに低いはずはないと思うのだが,それは前の方に別デザインの「」や「」が出ていて,例えば「」が前の方にあり,「交」のところの筆押さえがない「較」がここへ出てきているというわけである。
 Bのぺージに行って,常用漢字表内字の出現状況をずっと見ていくと,途中で3社の資料を点線で区切った線が水準@,水準Aとして出ているけれども,@の水準は累計度数が95%,Aは98%を超える位置が示されている。各社の頻度調査における全漢字数の98%が頻度順の2,001から2,100位のところに出ているということである。それと同じ頻度順位の部分のところで使われている非常用漢字は,言わば常用漢字並みの頻度で使われていると言うこともできる。
 この資料自体についての妥当性――御覧いただくと,3社で大分性格が違うのではないか,調査対象とした資料も分野等の違いがあるではないかということもあって,最終的な報告がこの資料にどれだけ乗っかっていけるかについては,相当慎重に考えていかなければいけないと思っているけれども,文字数という点からも,かなり役に立つ大きな資料で,有り難いと思っている。
 ついでに,DとEの辺りを御覧いただく。
 Dの資料は,いわゆる29字,JIS第2次規格で字体の整理・変更が行われ,混乱を起こす火種になった字種である。「鴎・」は左側の上から三つ目のところに入っているが,それだけではなくて,ほかにもよく問題になる文字がそこに挙がっているわけである。
 この表の上の欄がいわゆるJIS字体,下欄がいわゆる康熙字典体の,それぞれの出現状況である。「麹・」という字が左列の下から三つ目にあるが,上の「麹」は印刷会社ごとでいくと1.0.0という数になっている。下の康熙字典体の「」は162.20.0 (15)となっているけれども,こんなような形で出版物には出てきているわけである。
 頭からずっと見ていただいても,例えば「鴎」の形で出てくる回数は,「」の297に比べて極めて少ないということが実態というわけである。先ほど少し申したように,印刷の世界では,康熙字典体を守っているというか,使っている,それが実態である。この事実は,やはり尊重すべきであろうという認識を持っている。右の一番上の「」にしても,凸版の1例だけが「涜」の形であるが,ほかは一切出てこないということである。
 次の会社別の29字の対応番号表の説明は,割愛する。
 そのほか,Fに示すように人の氏名に関する文字の問題があり,これをどうするか。これもやはり何らかの形できちんとした意見を打ち出さなければならない。法務省の通達で示されていることだから,それに対して我々が議論するということは,固有名詞の使い方とか,個人が姓や名に使用する漢字に関する個々人の自由の問題に,ある部分で抵触するのではないかという問題がある。この氏名の漢字については,そのような難しさがあるはずなので,これからの審議の中で努力する必要があると考えている。
 最後の3ぺージ,本文の方へ戻る。
 U−2−(2)の二つ目のパララグラフ,「人名漢字は基本的に常用漢字に準じて位置付ける。なお,人名漢字字体を印刷標準字体とするのか,許容字体とするのか,あるいは今回の字体表では常用漢字と同様に触れないことにするのかは更に検討する。」。先ほどちょっと見ていただいたFの別表2の140字の扱いを考える必要があるということである。また,「人名用漢字別表」というものがあるが,そこに掲げられた284字の中には,略字体がかなりあって,段階的に増えているので,早い時期に決められたものについては,略字体の使用頻度は高くなっている。最近追加されたものは略字体の使用頻度が低い実態もあるので,ちょっと困っている。
 「(3)「手書きの字形と印刷文字字形とをはっきり区別して位置付ける。」。
 「(4)「部分字形(@しんにゅう・食へん・しめすへん・くさかんむりなどの扱いA要素ごとの扱い……方向・傾斜など)としての整合性を考慮していくことと,一字一字の字形の適切性という2面から見ていく」。要素ごとに共通する法則性のようなものを考えていくやり方と,一字一字の適切性の認知の問題をどう考えるかという考え方,やはり両方から見ていかないと答えは出ないようである。
 (8)の方へ飛んでしまって申し訳ないが,「(8)同じ部分字形要素であっても,一字一字によって字体の差となるか同一字体におけるデザインの差となるかは異なる。例えば,「千」と「干」における一画目の傾斜,「干」「于」における縦画のハネなどは,傾斜やハネの有無が字種を分けているのであり,これらをデザインの違いと位置付けることはできない。」。つまり,ルールに押し込んでいくと,この辺ではぶつかってしまう。それに対して,しんにゅうは2点しんにゅうか1点しんにゅうかで統一しても,字種が弁別できなくなるというような実際上の問題は起きないであろう。しかし,表外字においては,実態から言えば,2点しんにゅうがかなり使われている。
 その辺の問題などをよく考えていかなければいけない。
 具体的な例で,もう一遍(5)(6)(7)のところを見ていただくと,「・鴎」の字体の差とデザインの差,先ほど出た「耳」の5画目をどうするか,それから「」という文字の場合には,右側の頭の部分を片仮名の「ソ」のように書くのか片仮名の「ハ」のように書くのか,この問題の扱いはどうするかといったことがある。この辺の整理の仕方は,慎重に作業を進めていく必要があるだろうと思っている。
 最後の3の部分であるが,「字体の提示にかかわる考え方」として,「(1)「常用漢字表と同様,大蔵省印刷局書体(明朝体)を用いて,印刷標準字体及び許容字体を例示する。」
これは,「常用漢字表」の前文に,「個々の漢字の字体については,印刷文字として明朝体活字が現在最も広く用いられているので,便宜上そのうちの一種を例に用いて示すこととした。このことは,ここに用いたものによって,現在行われている各種の明朝体活字のデザイン上の差異を問題にしようとするものではない。また,明朝体と異なる印刷文字や筆写の実際を拘束しようとするものではない。」という解説があるわけだが,これにのっとってやっていけばよいであろう。
 「(2)上記U−2−(6)にかかわって,例示字形に包含されている部分字形要素を具体的に提示する。提示の仕方については,一字ごとに示すか,前書きの中にまとめて示すかについて更に検討する。」。飛ばしてしまった前の(6)(7)辺りのところに,字体の差ではないレベルの字形の差のことがある。それを例示していくときに,似ていて,角度がちょっと違うものをずらっと並べるようなやり方はしない方がいいであろう。そうであれば,その場合の認識の仕方,考え方の差については,全体の表なり解説の冒頭のところで,こういうルールでやっていますよと説明を加えて理解してもらうというやり方を採るか,あるいは一々やっていくという可能性もないわけではないから,そういうことを検討していく必要があるであろう。
 「(3)「印刷文字字形の認知の仕方(印刷文字字形の受け止め方:主として印刷文字字形(明朝体)と手書き字形との関係)が分かるような提示の仕方を工夫する。」。
 まだ足りないことがありそうだが,こんな形で最終報告ヘ向かってまとめていく作業をしてきている。
 大変時間をお取りして申し訳なかったと思っている。

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