国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 協議

清水会長

 大分方向付けがはっきりしてきて,これからまたワーキンググループ等で細部にわたって御検討いだくことも随分あろうけれども,このことについて何か御質問や御意見があったら,どうぞ。

福原委員

 この件については,アングロサクソン系のスタンダードにこだわる必要は全くないと思う。漢字文化圏の中で一体どこの国がイニシアチブを取っていくべきか。特に,今,北京大学とか台湾のエイサーワンといったエレクトロニクスメーカーなどで漢字のコード化ということが進んでいるので,その辺を全く考慮しないで,日本だけのスタンダードを作っていいかどうかという問題があろうかと思う。
 後になって,これをまた調整するということになると大変なことになるので,何かお考えがあれば,今御返事をいただく必要はないけれども,台湾や中国へもおいでになって漢字文化圏全体の状況を把握しておく方がいいんじゃないか。それがまた文藝家協会の要望書のおっしゃるところにも合うのではないだろうかというふうに考えている。
 ついでに,第1委員会の方であるが,もし正しく円滑なコミュニケーションを図るとしたら,いわゆる政治家の皆さんのお使いになる「言語明瞭(りょう)・意味不明瞭」というのは,敬語とは違うが,果たしてよろしいのかどうかという問題も一つお考えを願え,ればと思う。

清水会長

 初めの方の問題は国際的な問題で,これはたしかISOが中・韓・日の合同で決めろというふうな勧告ではないけれども,申入れがあるという話も聞いたことがあるが,漢字を一番使っているのは日本ではないのか。
 この辺りについてどうか。

水谷(第2委員)主査

 漢字コード問題の国際的な状況把握はしなければいけないことだと思う。そのためには,情報をきちんと集めていく必要があって,しかも,方向を決定するためには国語審議会だけでは駄目かもしれない。国語審議会がイニシアチプを取って,ほかの様々な関連する組織に呼び掛けて,そして打ち出していかないと,方針というのはできないのではないかと思っている。
 この問題は,何回も繰り返し出てきているのだが,一番つらかったというか,自分の気持ちにぐさっと来た表現が一つある。それは,だれがイニシアチプを取るか,日本が取れるかということに関連することなのだが,中国側から見れば,自分たちが作った漢字である,日本はそれを使っているだけではないかという発言がもしあったときに,それに対して我々はどんな哲学を持って説得できるのかということである。我々が誇りを持って,自信を持って説得できるような文字観,漢字観というのはどうやったら持てるのか,悩んでいる。

江藤副会長

 国際的な標準を作るという問題は,今主査がおっしゃったとおりであり,是非将来やらなければいけないと思う。国語審議会だけではとてもできないだろうと思うが, 私,実は二つの役割でこの審議会に出席しているが,文藝家協会の代表者として申し上げると,要望書に「国語審議会のみならず,政府が一体となって取り組み云々(うんぬん)」と書いてあるのは,国際的な情報交換用の文字符号として漢字をとらえる場合,正にそのことを想定しているからである。これはもちろん国語審議会が定義して,文化庁が持ち回っていただいて,政府として一丸となってやっていただく以外にないだろうと思う。
 それから,水谷主査がおっしゃった第2点であるが,漢字はもともと中国の文字であって,こちらが本家ではないかと中国人は言われるかもしれないけれども,私どもは漢字を国字として奈良朝以前から使ってきており,これについてははっきりした種々の証拠があるわけである。
 例えば,漢文というのは中国にはない。漢文を今私どもが読むように,返り点を付けて読むという読み方は,漢字を全く国字として読んでいるわけであるから,私どもは日本人として,私どもの国字の不可欠な部分を成している漢字について,その考えをはっきり申し述べる資格があると私は考えている。そのようなフィロソフィーに是非お立ちいただきたい。私は,国語審議会のメンバーとしても,また文芸家の一人としても申し上げたいと思う。
 それから,今,水谷主査から御説明があったところに戻るが,1か所だけ御質問申し上げる。2枚目の4の「その他関連する事柄」の(2)のア「生徒が常用漢字表の枠の中で学習するという基本線は堅持する。」とあって,常用漢字表を尊重するという点では,今日の御報告は一貫しているわけである。
 それはそれでお考えの筋はよく分かるけれども,現実の問題として,今,学校等ではパソコンやワープロを教えている。そうすると,常用漢字表を尊重して交ぜ書きを生徒に教えようとしても,キーボードをたたけば,漢字に変換されてしまうわけである。つまり交ぜ書きに固執する意味がなくなってしまう。それにもかかわらず常用漢字表を堅持すると,ワープロはこういうふうに打ち出してくれるけれども,こっちの方は平仮名で書くんですよということをお教えになるのか,それとも,現実に電子機器がそのような機能を果たしてしまっているということをお認めになって,常用漢字表をお変えになるのか――というか,そういうことについては,少なくとも常用漢字表の取扱い方を従来とは違って考えるのかという問題が現実にはあるのではないか。そこはどういうふうにお考えか。

水谷(第2委員)主査

 委員会では,今の御質間の中身にお答えできるような形での議論は深めていない。でも,ここに書かれていることの趣旨は,学校教育の中での基礎教育としての漢字の扱いというのは尊重するということである。だから,これから学校の中でワープロを使った学習がどのように行われていくのか,現在どういうふうになっているのかという辺りについての教育担当者の考え方を無視して,我々は進めることはできないであろうと考えている。むしろ委員の先生方の中に教育の現場の関係者の方々がいらっしゃるので,率直なところ,現在の実態に即した情報などが伺えれば,これから先進めるための手掛かりにさせていただけると思う。

井上委員

 第2委員会にも出席させていただいて,そこで爆弾発言をしようと思ったのだが,結局,出せなかった。というのは,こういう細かいことを決めなくてもいいんじゃないかと言おうと思ったが,当日の次第を見たら,大変細かい資料が出ていた。ここにはほんの一部分だけ,@とかAとかしか出ていないが,分厚い資料が出ていて,こんな場でそんなことを言ったら,たたき出されるのではないかと思って,申し上げなかった。ここでも申し上げないことにする。
 ただ,幾つか申し上げたいことがある。
 まず,国際的なコードとの関係である。不確かな情報だが,ISOの国際会議が今度ベトナムで開かれる。日本が議長国になるということを聞いた。通産省の方では係が行くらしいのだが,文字政策,漢字については日本の政府の中では少なくとも三つの省が関係しているわけだから,通産省に任せずに,少なくとも文部省,また国語審議会が最新情報を手に入れるようなことを考えることはできないものか。本当は法務省の戸籍関係の人も行くべきではないかと思うけれども。
 それと絡むが,将来の情報以外に,最新情報が第2委員会の席では資料として配られていなかったように思う。ユニコードが発展したISOを基準にしたJISの規格ができているはずなのだが,それは配られていなかったようである。私としては,それもやはり見て,どんな例示字体になったのかを確かめる方がいいのではないかと思う。ただし,日本で定めた第1,第2水準がそのまま入っているということだから,順番が違うだけなのかもしれないが,一応現物を見る方がいいのではないかと思う。そして台湾とか韓国などの字体とどんな関係になっているのかを確かめる方がいいのではないかと思う。 2点しんにゅうとか,1点しんにゅうとかとか鴎とか,一体どういうふうに並べられているのかを見る方がいいのではないかと思う。

大島国語課長

 井上委員にお言葉を返すようであるが,第2委員会に最新の情報が出ていないという御指摘があったが,私どもは通産省の担当課には第2委員会に出席してもらって,こちらの審議状況についての最新の情報は出すし,通産省からももらって必要に応じて出しているつもりである。先生がお気付きの点でまだ足りないということであれば,また後でよく教えていただいて,第2委員会の方に出したいというふうに思っている。
 それから,ベトナムで開かれる国際会議の御紹介があったけれども,文字コードについては,従前からJIS規格あるいは国際規格に対応する国内の原案を作るということで,通産省の工業技術院が二つの団体に調査研究を委託して,実質的にその団体が調査研究会を組織して原案を作ってきている。そして日本工業標準調査会の標準部会に原案を上げて了解をしてきた。あるいは国際会議に出す日本の考え方というものをまとめてきた。そして実質的に通産省から委託を受けて原案を作る調査会の中には,場合によっては文化庁の関係者も入り,メンバーの中には国語学者で中心になる方が必ず一人は参加している。そういうところで審議をして対応してきたという経緯がある。
 今,現状で国際規格がどうなっているかということだけれども,先ほどもちょっと申し上げたように,中国,日本,台湾,そして韓国,それぞれのコードを基にして,国内コードに規定されているものについてはそのまま取り入れていこう,ただし,横並びでそれを行った場合に,国際コードとしては,多少字形が違っていてもデザインの差程度といったようなものについては一つのコードにして,全体のコード数を抑えようということで最初は決まっていたわけだけれども,その後,またいろいろな要望があって,それを増やしていこうという動きが出ているという御紹介をした。
 そのように増やしていくための議論をするに当たって,ベトナムなどでも会議をしていこうという動きで,その中で,従来,文化庁は情報をいただくという立場で,それを国語審議会などに御紹介するという立場であったけれども,更に積極的に取り組んでいけることがあるかどうか,今の先生のお話を踏まえて,また通産省の担当課とも相談してみたいと思っている。

江藤副会長

 今,国語課長から御説明があったけれども,これは非常に由々しい問題だと思う。ベトナムの会議は,日本が議長国だというのも非常に回り合わせがいいと言ってもいいし,だから難しいという点もあるかもしれないが,国際的な文字コードの標準を決めるときに,今まではJIS規格の選定に当たっていた工業技術院の係官の方々が出ていらっしゃる,あるいはそこで依頼している研究会とか審議会というものの専門家がお出になるということで来たのかもしれないけれども,今日,国語審議会では第2委員会で字形の問題をこれだけ議論している折でもあるし,従来の慣行にとらわれずに,幸いここには長官もお出ましであるから,文部大臣にもひとつ強くおっしゃっていただいて,通産省に働き掛け,ベトナムの会議には是非合同チームで臨んでいただきたいと思う。全く同一の資格で,しかもイニシアチブは,本来これは国語政策であるから,文化庁あるいは文部省が取るべきである。
 そして,字体の選定,似たものを横並びにするというような場合に,文字学者が一人も入っていないというのはおかしいと思う。漢字というのは文字学の非常に重要な研究対象である。日本には白川静先生をはじめ優れた研究者がたくさんいらっしゃるわけである。もちろん各国の国字政策があるから,中国が独自の略体字を使っているというのは,中国の現在の政情に合わせたようなことをやっているわけである。これは他の国も同じで,私どもの常用漢字表もそういうものだろうけれども,しかし元に返って,漢字という文字はこうである,したがって,これが合理的なんだということについて学問的な議論を詰めないで,字体が似ているから,ここのハネ方は一緒にしてしまえというような四捨五入をされると,文化の破壊になると思う。
 これは是非長官にお考えいただいて,大臣にもおっしゃっていただき,単に技術的なことだけではなく,やっていただきたいと切にお願い申し上げる。

福原委員

 今の江藤委員の考えに全く賛成である。
 そこで水谷主査が,だれがイニシアチブを取るかということは非常に重大な問題で,胸が痛むんだということをおっしゃったが,実態的にはやはり日本がイニシアチブを取らざるを得ない。しかし,形としては文字を発明した国として中国に花を持たせるということになってくるのではないかと思う。
 というのは,都立大の岡田先生が最近御研究をなさっているのは,今の中国のいろいろな単語とか字体というのは,逆にかなり日本の影響を受けてしまっているというのである。余り正確ではないが,「中華人民共和国政府」と言った場合に,「中華」を除いては全部日本語だという説もある。もともと「人民」という言葉はなかった,あるいは「共和国」という言葉はなかったというふうになると,やはり日本がもう少し遠慮しながらイニシアチブを取ってよろしいのではないか。
 一方,中国は1,000字に及ぶ略字体を作って,やり過ぎて失敗したと明らかに言っているわけだし,韓国も一時は漢字を使ってはいけないという時代もあった。そういったことを考えると,歴史的に一貫して漢字を活用し,また発展していった日本の功績というのもそれなりに評価していただいてよろしいのではないかと私は考えている。

緑川委員

 話が大分発展してしまったので,ちょっと発言する機会がなくなってしまったのだが,先ほど江藤委員から御質間のあった4の(2)「学校教育との関係」について,学校教育に携わる者として,私のつたない知識の中で御返事できるかと思う。
 第2委員会で話しているのは,私たちの日常生活で使われる字体というもので,それについて私がいつも言っているのは,漢字は表意文字であるから,表意文字としての漢字をやはり教えるべきだということである。
 それでは学校教育ではどうなるかというと,私は,ユーザーとして,ワープロなどを使う者としてやってきたものであるが,例えば,小学校なり中学校の人たち用に漢字変換を設定することができるわけである。機械の方が先に発達しているから,機械の方で, 学校では常用漢字表内の字種でしか変換しないようにすれば,生徒たちに普通の書写教育と同じことができると思う。更に言えば,それでも難しい漢字を使わなければいけないというときにはルビを振ることもできるわけである。例えば,今日副会長がお出しになった要望書の中の3「企業等の恣意によって」の「恣意」というのは,私,今朝の新聞で見たのだけれども,新聞の中ではちゃんとルビが振ってある。そういうふうにしておけば,教育の中では十分対応できるのではないかと思う。

川邊委員

 遅刻をして着席したときに江藤委員からそういうお話があったので,ちょっと触れさせていただくが,常用漢字表は,御案内のとおり,一般の社会生活において国語を書き表す場合の目安ということで示されているわけである。
 私は小学校で教鞭(べん)を執っていた者だが,小・中学校では基礎的な漢字の読み書きができるようになるということでやっているわけである。
 今,全国商工会議所の「ごみ環境作文」というコンクールがあって審査をしているのだが,これまでと違って,4年生以上の作文ではあるけれども,例えば「ニ酸化炭素」とか,「オゾン層の破壊」とか,「大気汚染」とか,手書きの作文ではあるけれども,恐らく検索して書いたのではないだろうかというような漢字が出てくる。したがって,配当表にはその学年で読み書きができるおよその目安というのが示されているわけだが,それを超えて表現に使っている例があるわけである。そのような場合に,まだ4年生で習っていないから使うべきではないとか,5年生までに出ていない漢字だからコンクールの対象外になるとか,そういう判断をしていないわけである。
 今,教育課程審議会等でも,国語科の中には,ワープロ,情報機器等の使用が増えている時だけに,漢字が読める,意味が分かる,同音異義語の中から検索ができる,そういうカを優先して,細かく構成を考えて書くカというのは1年生からすぐ教えるということではなくて,もうちょっと上へ上げて系統的に教えたらどうかという御意見もあるようである。寡聞にして詳しいところは分からないけれども。いずれにしても,現在,基礎教育として,常用漢字表をよりどころにして,その範囲の中で,それぞれの学年でかなり弾力化されているわけである。
 鉛筆,筆記具で書くときには,こういうふうに書こう。しかし,生活の中にはどんどん情報機器が取り入れられているので,今後,日本の子供たちの漢字使用というのは,それを超えてもっともっと発展していく様相を持っているということである。そのことと,教育で目安・よりどころとして何を示していくか,何を習得していくのかということとは,一応区分けして御検討いただければ有り難いというふうに考えている。

大島国語課長

 学校教育では,漢字の読み書きについてはどんな考え方で行われているかというと,学習指導要領にのっとっているわけで,大まかなことを申し上げると,小学校段階では学習指導要領の学年別漢字配当表に載っている1,006字の漢字を主として,読んで大体書けるように指導することとなっている。それから,中学校段階では常用漢字表を大体読み,そして小学枚の1,006字を書けるというのが指導事項になっている。それから高校段階になって,常用漢字表に掲げられた漢字について,主なものを書けるというふうなことが学習指導要領に書かれている。 
 そして,今,教育課程審議会でそういうことを見直す議論が進行中である。その中で,ワープロ・パソコンの普及に伴って,むしろ書けるものと読めるものを分けて考えることはできないか,書ける方の習得水準というようなものは今までのようには要求しなくてもいいんじゃないかという議論が進行中であるということを御参考までに申し上げる。
 もう一つは,先ほどの井上委員の御指摘に関連して,国際規格に対応したJIS化についての資料が委員会に出されていないのではないかという御指摘があったが,それは既に委員会に出して,資料として見ていただいたということである。
 そして,国際規格の問題であるが,基本的に,情報インフラを整備するということで, 各国が協調して情報機器の発達に合わせて文字の使い勝手をよくしようという方向で議論がなされてきている。
 いろいろな情報機器の発達,情報処理分野あるいは情報産業が発展する流れの中で,更に使い勝手がいいようにするという方向で行っており,それにどのようにかかわっていくかということは,私どももよく考えていかなければいけない問題だと思っているが,どのように絡んでいくかということは,先ほどの江藤委員あるいは福原委員の御指摘も踏まえて,また御相談をしながらよく考えさせていただきたいと思っている。

林田文化庁長官

 今,国語課長の申し上げたことの重複になるけれども,ISOに関する活動そのものは民間べースに関連する活動として行われているという側面があって,通産省として,それに対してどうかかわるかという面では,これまで余りストレートなかかわり方でなく来ているということが背景としてあるだろうと思うけれども,御指摘は当然のことだと思うし,国語にとって大きな影響力のあることだと思う。
 国語審議会,更には国語学,文字学の方々の世論と異なるような形になることは,いずれにしても適切ではないわけであるから,どんな形でそれにできるだけ正確に反映できる形にしていくかというのは我々も十分な関心を持って,できるだけのフォローをしながら適切な御相談をしていきたいと思っており,御指摘の線に沿って努力したいと思う。

清水会長

 ありがとうございました。
 予定の時間も若干超過したので,今日はこれで終わりたいと思うけれども,両委員会とも大変難しい問題を抱えて,大変活発な御議論で貴重な時間をお過ごしいただいていることに心からお礼を申し上げたい。
 ひとつ今後ともよろしくお願い申し上げて,今日の総会を終わることにする。

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