国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 第2委員会における論議の概要について2

小林(第2委員会)副主査

 何の変哲もないというふうにお思いかもしれないが,ここで後ほどの資料と関連させるために,こういうところが文字の形を見るときに私どもが神経を使って検討対象にしているところだという御理解を賜るために,10ぺージをお開きいただきたいと思う。
 10ぺージの真ん中,少し下の18-71というところに「」という字が出ているが,印刷局書体()で,まず一つの字の形を御覧いただいて,左側の2画目,3画目というか,それは1画で書かれてあるというふうに見るのであろうか,2画で書かれてあると見るのであろうか,左側のやや斜めの短い画と横画の2本目の構成の具合が,隣の平成書体と比べると,左側の印刷局書体ではやや斜めであって,ちょっと離れている。それが平成書体(牙)だと,ひっついて真っすぐ縦になっている。しかも,2本目の横棒は左へ突き出しているというところを御覧いただけるであろうか。そういうような細かいところを右へ追って見ていただくと,大日本印刷の書体の形()――これは印刷局書体に似ているような気もするが――がある。それから,読売書体(牙)で見ると,短い左側の縦画のものが中に入り込んでいるようなところも見られる。
 したがって,活字のデザインというか,形の作り方というか,そういうものを印刷局書体を一つの手掛かりにしながら,各社の活字の形を比較すると,細かいところで,それぞれデザイン的な差というか――この辺の用語の使い方も非常に慎重に考えていて,まだ固まった使い方ではないが――違いが出ているというか,そういうのを御覧いただければと思う。
 同じように,55ぺージを御覧いただきたい。私どもがどういうところに神経を使っているかということを御理解いただくために,こんな細かいことを申し上げているわけだけれども,55ぺージの上から6字目に31-54「訊」という字がある。それのつくり,右側の部分の真ん中の横画が,真っすぐでウロコが右側に付いている()。印刷局書体だと,「−」のようであるが,平成書体だと,やや右上に払った感じ()で細くなる。そういうところを見ていただけるであろうか。読売書体では,逆に,左上から右下に「」という形で()デザインされているというところを御覧いただけるであろうか。
 これをどういう意味合いでの違いというふうに考えていったらいいのかというのを,細かい問題として,私どもが俎(そ)上に載せながら検討しなければならないというようなことである。
 今申し上げたものについては,画数を同じと取るか別と取るかという問題もあるし,細かなところでの問題もあるが,もう1例,124ぺージをお開きいただきたい。
 124ぺージの真ん中,少し上の,51-81「囁」である。印刷局書体で三つ重なっている「耳」という字を見比べるということでもよろしいが,印刷局書体の三つの「耳」という字の下側の方の横画4本目が,右側へ持っていってウロコを付けている,あるいははね上げるというような感じ,あるいは突き出ない,突き出るというようなことで,印刷局書体の「耳」という字の三つの形それぞれが異なっているわけである。それをずっと平成書体等で見てまいると,それぞれ異なった形になっている。大日本書体で見ると「耳」という字の横画4本目は突き出ない。朝日書体を御覧いただくと,下側は「」とやっているわけである。字体小委員会では,これをどう位置付けて判断していくべきものなのか,異体字というか,これは同一文字と判断するためにどういうふうに説明をしていくのかということが出てくるわけである。
 少し加えると,朝日新聞における朝日書体においては,表外字においてこういうふうに略体化を進めているものがかなり見られるということもあって,それについてどう考えるかということも出てくる。飽くまでも私どもは活字書体――活字の文字の形を対象として検討しているわけであるので,三つの事例によって,細かなところで,デザインというか,形の問題をどうとらえるべきなのかというようなことなどに,いかに字体小委員会が神経を及ぼして見ているかということを御理解いただきたい。一字一字見ていく必要があるということで,このJISの第1水準,第2水準6355字の表が大変大事なべースになるということを御理解賜りたくて,しつこい御説明を申し上げた。

小林(第2委員会)副主査

 常用漢字表の字種が1945字,その常用漢字表外の漢字を取り扱って検討していくわけであるけれども,その取り上げるべき字種というのが,JISをべースにすれば6355から常用漢字の字数1945を引いたものということになるが,そういう考え方でいいのか。漢字それ自体は,諸橋先生の『大漢和』によれば親字が約5万字ある。だから,表外字を考えるときの字種というのは,どの範囲を検討範囲とすべきかということも形の問題と同時に非常に重要な問題となる。そのことを考慮に入れなければならないので,今度はもう一冊の方を御覧いただきたいのであるが,「漢字出現頻度数調査」の方である。
 これも事務局の国語課の方で時間と労力とお金をたくさん掛けて作ってくださったものであるが,前書きから凡例へとまいって,前書きのところに課長の御説明がある。その中の,第2段落に「本資料集は,社団法人日本印刷産業連合会の御協力を得て, 凸版印刷株式会社,大日本印刷株式会社,共同印刷株式会社の各社で調査した内容を文化庁文化部国語課で冊子としてまとめた」とあるが,この3社に依頼して,漢字の字種についてどの程度を対象としたらいいかという字体小委員会での検討対象の範囲を考えるための基本資料を作ってくれたものである。
 凡例の2を御覧いただくと,「本資料集は,参考,漢字出現頻度数調査,付録から成る」ということで,(1)のところの「漢字出現頻度数調査の部分は,凸版印刷,大日本印刷,共同印刷の3社の調査結果を並べたものである。各社の調査対象漢字数は……」をお読みいただきたいのであるが,各社の調査対象漢字数は順に,まず,凸版印刷が漢字の延べ字数2765方3334字,それだけの数を対象にしたものである。次の大日本が同じく延べ字数863万3570字,共同印刷が延べ字数122万2578字を対象としている。したがって,合計すると3社で延べ漢字数約3700万字,それだけのものを対象にした頻度調査であるというふうに御覧いただきたいと思う。
 ニ,三枚めくって2ぺージ,3ぺージをお開けいただきたい。夕イトルが「漢字出現頻度数調査における常用漢字の出現状況一覧」となっている,3ぺージのところを御覧いただきたいのであるが,太破線の右側にAとある。そのAについて下に脚注の形で書かれている。そこを見ると,@は累計度数が95%,Aは98%を超える位置を示したものであるというので,太破線のところが,使用頻度の総計として98%を超えるところである。私どもが表外字を見ていくときにも,この98%を超える辺りが大事であろうというようなことで,検討対象のヒントにしたところでもある。
 さらに,次の4ぺージを見ていただくと,漢字出現頻度数調査における頻度順位と累計度数というところで,表内表外をひっくるめて,どのくらいのところで,相当数,ほとんど大部分が出てくるかということが重要な問題になる。これが最も大事な手掛かりとなるのであるが,やはり太破線を見ていただくと,順位3200位のところで凸版累計度数が99.668%。つまり上位1位の漢字から3200番目の漢字のところで99.668%となるので,まず,3200字くらいまでをめどにすれば,現在使われている文字のほとんど大部分を考えることができるだろう。それ以下の頻度の字は,めったに出てこないというふうに客観的に判断できるのではないかと考えた次第である。
 そこで,私ども字体小委員会の方では,凸版印刷が延べ字数が一番多く出てまいるので,凸版印刷での出現漢字の字種を中心にして調査研究の対象にするのがよろしいだろう,しかも,3200位までの漢字を対象にするのが当面よろしいのではないだろうかという判断をして,検討したという次第である。
 次のぺージは,例のJISでの29字の一覧表であるが,これは目で追っていただくだけにして,数枚めくって17ぺージに行っていただくと,17ぺージから,凸版印刷の高頻度順で,以下,次のぺージから漢字が並んでいる。もちろん最初の高頻度のものは,常用漢字がたくさん出てくるということである。黒ポチの付いているものがそれであるけれども,その後にところどころ表外字が出てくるのを拾い出して,表外漢字における字体の問題を検討するための資料を作成しようとしたわけである。
 この冊子の3分の1くらいいったところに色の変わった紙が1枚入って大日本印刷,また,更に3分の1くらい行ったところに色の変わった紙が入って共同印刷というふうに,3社が調べてくれた「高頻度順字種一覧表」がこういう形で全部整ったので,これを基にして整理したのがお手元の参考資料である。

小林(第2委員会)副主査

 参考資料には,右下のところに@からFまで番号が打ってあるけれども,1枚めくっていただくと右上のところに裸で算用数字が1,2と書いてあって,最後は,右下にはF,裸の数字では27とあるが, 実はこれは全部で57枚ある。今日は57枚のうちから7枚だけサンプル的に御覧いただいて,字体小委員会では,今申し上げたような手続を踏みながら漢字の文字の形の問題を検討するという形で,慎重に進めているということをまず御理解いただきたいと思う。
 1枚目に説明が書いてある。その中から一つ,ニつだけ申し上げるが,メモの(1)と書いてあるのは人名漢字で,常用漢字1945字と並んで,かつての国語審議会,現在は法務省の方で,戸籍上で子の名に使っていい漢字として285字。先般,琉(りゅう)球の「琉」の字が入ったので,人名漢字は285字種ある。それをとして示したものである。
 は,JIS第4次規格の6.6.4で,二つの字体が同一の区点位置に対応するとした29字のことを示しているものである。
 (2)の下の(3)では,どの部分が字形,文字の形の問題として気になるところかということを示している。例えば,「S1」とあるのはしんにょうの問題,「S2」はしめすへんの問題,「S3」は食へんの問題,「K」はくさかんむりの問題。「向」と書いてあるのは方向で,細かいところで方向がどうなっているかとか,「点」とあるのは点の有無とか,様々な細かい問題を指摘した,その符号である。
 1枚めくっていただいて,先ほど申し上げた凸版印刷での上位から3200字,約99.7%の文字を一字一字検討していくときに,大日本と共同にもある場合には,その表にあるように○を入れ,この字についてここをいろいろと考えていかなければならないという問題点も示してある。
 例えば,一番上側には常用漢字表がずっと並んできて,133番目に人名用漢字の「藤」という字が出てくる。出現回数は3万5081回。これは大日本にも共同にもあって,実は6656位にもう1回「」の字が出てくるが,よくよく御覧いただくと,くさかんむりは両方とも3画の形で出ているが,つきへんの中の点々の付け方が133番と6656番では違う。それから,右側のつくりの上側も,ソ型であるか,ハ型であるかということで違って いる。こういうことも事務局の方で細かく調べ上げて,検討資料として作ってくれたわけである。
 このように表外字を高頻度順に並べていくと,2番目に,つまり「藤」の次に静岡とか岡山の「岡」があるが,以下,人名用漢字がたくさん出てくる。
 次のぺージをめくっていただくと,やはり人名用漢字がかなり出てくる。ということは,常用漢字と並んで人名用漢字もかなり高頻度で使われている字であるということが,この統計資料からも分かるわけである。そのほかに,こういうような順番で,高頻度で使われている表外字が並んでいる。
 今見ていただいているBぺージの下から2字目は「籠」という字であるが,これはどこに注意していただくかというと,右側に略体も出ているが,いわゆる康熙辞典体の方がはるかに頻度高く使われて出現しているということ。細かくは今言わないが,正体,いわゆる康熙辞典体の活字で使われている率が非常に高いということがおおよその字で確認できる。
 なお,朝日字体というのはちょっと注意をしなければならないので,右側のところに朝日字体を入れてあるが,その「籠」という字は,「立」という字の第1画が立っており,「」のように第一画が横画になっている凸版印刷の字形とは違うというところを見ていただきたい。
 したがって,私どもは,正体と略体というか,繁体と略体というか,そういう問題と同時に,それぞれの文字の細かな構成要素における作り方の問題ということにも及んで,文字の形の問題を検討していかなければならないということで,注意深く検討を進めている。そういう中途段階であるので,御披露申し上げる形で御意見をちょうだいしたいということである。以上である。

清水会長

 ありがとうございました。
 一字一字大変細かいところまで,その違いを御検討いただいてまいったわけであるけれども,更にこれを続けていって,3月までには何とか「表外字字体表」の素案を作り上げていきたいというわけである。

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