国語施策・日本語教育

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次第・議事要録 協議2

前田(耕)

 たまに出てきて,余り専門的なことはよく分からないんで,敬語についての感想めいたことを皆様方に御披露したいと思うのだけれども,そもそも敬語というのは敬われる存在があって初めて使われるわけで,現在のように社長が全然信頼されないとか,政治家がとんでもない状況だとか,あるいは親も何となく権威が薄くなってくる,先生がたくさんおられるから先生を余りこき下ろすのはよくないけれども,昔とは違って先生の存在も大分権威が薄くなってくるというような状況の中で,敬語というものを考える場合に,敬われない人に幾ら敬語で「ございます」とか「いらっしゃいます」と言っても,言葉のあやだけで実態が伴わないような感じがする。
 そういう意味では,第1委員会で,これからの新しい敬語の使い方について慎重に検討されるそうだけれども,もともと敬われる存在がだんだん地位が低下したり,そういう人たちが少なくなってくるという社会システムの方が,これからの敬語の在り方には非常に大きな意味があるのではないか。
 先ほど江藤副会長から皇室敬語のお話があったけれども,私が編集の方を担当している時に,ちょうど天皇が亡くなられて,これを「御崩御」とするのか,「御逝去」とするのか,いろいろ議論があって,昭和天皇は皆さん方に大変慕われているから「御崩御」だと言って,ドーンと見出しを立てたわけである。今後このような場合にどういう見出しを採るかというのは,なかなか難しいけれども,やはり敬語の問題は社会のそういう状況・変化を踏まえて考えていかないと,単なる言葉のあやみたいなことに終わってしまうという感じが私はする。

江藤副会長

 大変率直な御意見を承って,私も半ば以上共感するところがある。ただ,井出さんがお帰りになってしまったので,残念だけれども,何回か前の総会で多少議論した覚えがあるのだが,言葉というのは気持ちの表れなのか――もちろん気持ちの表れだけれど,それ以上に,基本的にやはり一種の社会的制度という面がある。
 言葉というのは社会の約束事みたいなものであって,例えば,軍記物なんかで,これから首を打ち落としてやるぞというときに「御首級頂戴仕る(みしるしちょうだいつかまつる)」と言うわけである。「御首級頂戴仕る」と敬語を使って,バサっとやるわけであるから,これは随分ひどい話じゃないかと思うけれども,向こうが太政大臣だったり,関白だったり,何とかの親王だったりすると,「御首級」を「頂戴仕る」わけで,大塔宮の護良親王なんていうのは,鎌倉の大塔宮の穴の中に幽閉されて,ひどい目に遭っていて,そこで実際に「御首級頂戴仕」られてしまったわけである。
 護良親王は偉かったのかもしれないが,首を切られてしまったことは確かで,そんなときにもやはり敬語が使ってあるというのは,私は「豊かさ」だと思う。これは非常に奥ゆかしい話で,人を殺すときにも敬語を使う。これはいいなという感じがして,よその国ではそういうときにはそんなことを言わないのかもしれないが,日本人は殺すときでも敬語を使っていた。
 したがって,そういう人にはこういう言葉を使うというようなことでいいんじゃないかというのが,実は私の意見である。ただし,おっしゃるお気持ちは実によく分かる。

徳川委員

 第2委員会の方について申し上げる。さっき小林副主査が非常に詳しく説明なさったので,あちこちのぺージを追っ掛けるのがなかなか大変だったが,理解するためにちょっと教えていただきたい。
 「字体・字形差一覧」のオレンジ色のぺージの次を開くと,先ほど御説明があった「亜」という字が出てくる。その次が「」で,くちへんが付いているけれども,「頻度数調査」の5ぺージを開いてみると, 一番最初に「」という字が出てくる。凸版のところを見ると,ロで何と言ったらいいのか分からないが, 下の段にある「」が244回出てきて,上の「唖」が7回というのかなと思って見ているが,「字体・字形差一覧」を見ると,凸版書体というのは,実は上の「唖」なのである。それなのに下の「」の方が何遍も出てくるというふうに見える。
 これは私が誤解しているのかもしれないので,訂正していただきたいのだが,その二つの字が挙がっていて,下と上とがやや接近しているようなものの例の一つとして,5ぺージの真ん中の欄の一番下の祈(とう)の「」という字を見ると,例えば,凸版では,「講」が465,「祷」が38となっている。これは「字体・字形差一覧」の方の77ぺージ,区点番号37-88というところに出てくるわけだけれども,そこでは凸版字体は「祷」になっている。凸版では,「祷」とともに「」の字も持っていて,何かの必要で「」も使うということなのか。そして,凸版はどうしてこういう二つの字を使うのか。原稿がそうなっているから,「」を使ったり,「祷」を使ったりするのか。
 というのは,最初に水谷主査が説明なさった総論の(1),2ぺージのちょうど真ん中辺になろうか,「現実の文字使用の実態を調査した結果に基づいて判断した」と書かれているけれども,その実態,つまり頻度数調査というものは,確かに活字の形としてこんな頻度数があるというわけだが,その基は,印刷会社が,原稿にこう書いてあるから,いろんな字を用意して,こうも書き,ああも書きということで,これは印刷字体の使用頻度のように見えながら,実は原稿の使用頻度なのか,あるいは何か別のことなのか。使用頻度調査というものは,どういう意味を持っていると理解していらっしゃるのかという辺りを承れればと思う。

大島国語課長

 資料作成上の沿革でしか説明できない部分というのが実はある。「字体・字形差一覧」を作った経過の中で,凸版からもJISの第1水準,第2水準に対応する基本的な漢字を出していただいたつもりだったのだけれども,結果的には,凸版は,むしろJISの平成書体に合わせた字体を提供いただいたという経緯がある。細かいことであるが,確かに重要なことなので,この「字体・字形差一覧」を見るときには,そこは注意して見なければいけない。
 そして,この頻度数調査に出ている,いわゆる伝統的な字体というのが,むしろ凸版の基本的な漢字の字体である。ただ,凸版も,著者がどういうふうな字体を選ぶか,依頼者が最終的に決定権を持っているということなので,この字体の頻度調査というのは,最終的には,お書きになった方の御意向が反映されているものと思っている。
 ただ,もう少し細かい御説明もさせていただきたいと思う。

氏原国語調査官

 それでは,私の方からちょっと御説明申し上げる。
 まず,徳川委員の最初の御質問であるが,「字体・字形差一覧」を御覧いただきたい。凡例のところを見ていただきたいのだが,凡例は,1,2,3と分かれている。その凡例の2の(5),左側のぺージの一番下のところに(5)として「大日本書体(秀英細明朝)及び凸版書体(築地系細明朝)の欄にあるのは,JISコードに対応する,大日本印刷及び凸版印刷の基本文字として設定されているものである。ただし,両社とも78JIS字形(字体)でも83JIS字形(字体)でも対応可能であり,最終的な字体の選択は大蔵省印刷局同様,依頼者の意向が最も尊重される。」とある。そういうことで,この「字体・字形差一覧」で出している凸版印刷の字形というのは,例えば「」という字で申し上げると,「」という字は18区の10という区点番号を持っているが,JISの18区の10を出してくれと依頼されたときに,基本的に,凸版印刷では平成明朝と同じ字形が用いられるということである。大日本印刷の方では,同じくJISの18区の10を出してくれと言うと,「」が出るというように,JISに対応してくれと言ったときに最初に出す字形というか,字体がここに挙がっている文字である。
 ただし,(5)の後半に書いてあるように,これは大日本印刷でも凸版印刷でも両方の字形を持っているわけである。ついでに言えば,ここの「依頼者の意向」というのは「出版社の意向」と考えるのが実態に近いと思われる。
 そして,先ほどの徳川委員の後半の質問で,頻度調査というのは一体何なのかという問題であるが,それぞれ3社で本を印刷するときに,今はCTS(電算写植組版システム)と言って,コンピュータで,活字というか,フォントを組むわけである。コンピュータで組む関係で,簡単に言うと,社内の文字コードを使って,何番の漢字をどこに使って,どういうふうに組んだかというのが,コンピュータ上にデータとして残るようになっている。そのデータを分析した結果がこの漢字出現頻度数調査である。実際に出版された本の最終的な字の形がどうなっているのかについて,コンピュータ上に記録として残っているものを用いて,こういう頻度数調査にしたということである。

徳川委員

 この資料は,非常な御努力というか,いろんな機械の上で残っている情報を取ったものということで,非常に貴重なものであると思う。
 ただ,例えば,祈の「」という字が,「」か「祷」かというのは,執筆者が指定したものになると建前上おっしゃるわけだけれども,私のようなずぼらな人間は,最初は「祷」のつもりで書いたのを向こうが「」で書いてきても,「これでいい。」とやってしまうかもしれない。だから,執筆者が何を採りたいかという本当の心の底までは,今の御説明でも分かるように,実はこれでは分からない。
 総会の席で,こんなことを言ってはいけないのかもしれないけれども,そういう資料だとお思いくださって,慎重にお扱いいただきたい。こんなところである。

清水会長

 ありがとうございました。
 機械的に扱うなということだと理解した。

水谷(第2委員会)主査

 御助言有り難く承った。
 「字体・字形差一覧」は,「JIS対応の」というのが副題に付いていると,もう少しはっきりしたかもしれないが,資料の扱いについては本当に慎重を心掛けている。
 例えば,既にお気付きだと思うが,今日の説明用の資料の頭の方に固有名詞などが随分出ていた。ある部分のところを御覧になると,少し偏りがある。どうしてこんな字があるのというのがある。それは,調査対象とした出版物が,百科事典とか,小説とか,いろんなジャンルにわたっているのだが,その中に,ある地域のことを扱った出版物というのがあるためである。だから,それは一字一字,こういう背景があるからというので,これは検討対象から外すとかいうようなことに気を付けながら作業をしている。

清水会長

 もう時間もなくなってきたが,更に御意見があればどうぞ。

片倉委員

 第2委員会の水谷主査が説明してくださった中で,私,2ぺージから3ぺージにかけての「現代の文字生活における常用漢字表の意義」のところは大賛成である。今,徳川委員がおっしゃってくださったように,ワープロを使っていると,私なんかも漢字を多用する傾向がある。
 今日の資料を見せていただいて,私,根本的に漢字というのは苦手ということもあって,いまだに異国の言葉のようにどこかで思っているところがあって,異国の字をこれだけよく扱ってやってくださったとは思う。
 けれども,このごろはパソコンやらコンピュータが,異国の字を平気でぱっぱと出してくれて,私は圧倒されて変換されたままにしたりするけれども,やはり平仮名の良さにもこだわったりするので,2ぺージから3ぺージのところに書いてあるこの点は,是非私はサポートしたいということをあえて今の脈絡の中で付け加えさせていただきたいと思う。
 もう時間がないようなので,それくらいにしておきたいと思うが,1点だけ申し上げる。さっき神谷委員もおっしゃったし,山口委員もおっしゃったが――最初に北原主査が,国際化の時代,情報化の時代における日本語というか,国語ということをおっしゃったのに関連して言うと, 山口委員が指摘された「すみません」とか,「おかげさまで」というような言葉について――ここでは個人の発言だという取り扱いらしいけれども――肯定的に書かれているように思われるわけである。みんなのアグリーメントで,日本語や日本の習慣の美しさということである。
 ただ,すみません,すみませんと言うのは,国際的に,外に行っても「アイム・ソーリー」とやたらに言うような感じになっているわけである。感謝というよりも,何かいつもペコペコ謝るという。そこら辺も,日本の文化ではあるけれども,低姿勢であれば通ずるというのは日本の中だけで,国際的に言えば,低姿勢であればそれでばかにされるということもあるので,そこら辺のところを多少またお考えいただければ有り難いと思う。

北原(第1委員会)主査

 ありがとうございます。
 柱の中の○は,先ほど申したように,私,今日は全然触れていないのである。これから敬語小委員会で,こういう今までの議論を基に文案化するので,もし余裕がおありであれば第1委員会にお出になって,是非審議に参加していただければ有り難いと思うし,これから審議をまとめた形で鋭意お示しして,取りあえずは次回の総会にお目に掛けるというようなことでまとめていきたいと思う。
 今日は,私,○のところを全然紹介していないというような私の方針も御理解をいただきたいと思う。

清水会長

 時間も過ぎてしまったので,大変申し訳ないけれども,更に御意見があったら,後ほど事務局側へおっしゃっていただきたいと思う。
 これからの取扱いについて,まず第1委員会の方としては,敬語,言葉遣いの問題であるけれども,先ほど北原主査からお話があったように,資科1の1ぺージ目にく内容>として囲んである中の,I,Uを中心にして,○印も含めながら,全文を更に御検討いただく。Vの「現代敬語の使い方」については,少し具体的な話になるが,次期に回したいということで,更に詰めてまいりたいということである。
 第2委員会の方の表外字の字体の問題については,先ほど来御説明があったように,大変細かく御検討いただいた。そして,今期の国語審議会としては,少なくとも表外字字体表の試案を提出したいと考えており,先ほど水谷主査の方からお話があったような理念部分はこれで大体まとまったんじゃないか。
 また,第2委員会の論議の概要には,まだ表題だけで,これから少し詰めていかなければならない,表札だけ掛かっている箇所がある。それについても御意見があれば伺わせていただきたいと思う。今日は時間がないので,後ほど事務局の方へお申し出いただければ有り難い。
 そういうことで,3月の総会では,「表外字字体表試案」のたたき台という形で,これは今期審議会のまとめにほぼ近いものというくらいのものを基に議論したいと考えている。実際にそれを世の中で実行に移すには,この審議会以外のいろいろな機関,もちろん新聞,印刷関係等々の一般の方々の御意見も踏まえながら――私どもの任期が6月までであるが,7月にこれをまとめた形で公表して,広く一般からの御意見をちょうだいして,次期の22期には最終答申にまとめ,その後それを内閣告示とするという格好になるのではないか。
 そういうことから,第2委員会としては,次回には最終答申の原形になるような試案をまとめたいというふうに主査も考えていらっしゃるし,御努力をいただいているので,その点はよろしく御了承をいただきたいと思う。
 第1委員会,第2委員会,それぞれ大変難しい問題を抱えて,随分長い間時間を費やしていただいているけれども,その点もひとつお含みおきいただいて,御理解をいただきたいと思う。
 何か特別に御意見はあるか。
 御意見がないようなので,今日の総会はこれで終了させていただく。

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