国語施策・日本語教育

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第1 現代における敬意表現の在り方

U 敬意表現の在り方

1 敬意表現と敬語

(2)敬意表現における敬語

 敬語を取り囲む敬意表現が大切であるとはいえ,基本に敬語があることに変わりはない。その敬語について概要を述べておく。
 敬語は,古くから「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」の三つに分類して考えることが一般化しているので,ここでもその名称を使用する(注1)。
 敬語には以下に掲げるような働きがある。これらは必ずしも単独に機能するのではなく,幾つかが相互に組み合わされることが多い。

 @ 相手や話題の人を高める
 敬語は上司や先輩,年上の人,また,恩恵や負い目の関係における上位者や上位者の側の人を高める働きがある(注2)。高めたい人が主語であれば尊敬語を用い,話し手や話し手側が主語であれば謙譲語を用いるので,例えば「いらっしゃいますか」と言えばその主語は相手や相手側の人物であり,「参ります」と言えば自分や自分側を指すというように,それを使うことで,主語が示されるという機能もある。したがって,相手が待つかどうかを尋ねようとして,尊敬語のつもりで「お待ちしますか」(「お〜する」は謙譲語の形)のように誤って謙譲語を使うと主語を取り違えられて正しい伝達ができないということになる。

 A 親しくない人との距離をとる
 敬語は初対面の人や,余り親しくない人,また,自分の属している職場や集団の外部の人との距離を隔て,相手に踏み込まない配慮を表す働きがある(注3)。逆に言えば,親しい人に対しては敬語を使うことが少ない。

 B 改まり意識を表す
 敬語は改まった感じを表す働きがある。上位者や親しくない人に敬語を使うのは,改まり意識を表すことでなれなれしい感じを避けるためでもある。また,私的な場面では敬語を使わないで話す親しい友人や同僚であっても,会議等の比較的公的な場では敬語を用いることが多い(注4)。

 C 自己の品位を保つ
 敬語は相手に対して自分の品位を保つ働きがある。例えば,年齢も社会的立場も上位である人が,若い人に「お水を一杯いただけないでしょうか」のように言ったり,母親が子供に「お掛けなさい」「召し上がれ」などと言ったりするのがこれに当たる。
(注1) @  尊敬語は,話題になっている人(多くは相手や相手側の人)を高めて言うときに用いる言葉である。
  (例)  「お父様いらっしゃいますか」「山田様お帰りになった」「お顔」「貴社」「お美しい」「御多忙」「ごゆっくり」
  A  謙譲語は,話題になっている人(多くは自分や自分の側の人)を低めて言うことによって,話題になっているもう一方の人(多くは相手や相手側の人)を高める言葉である。
  (例)  「父が伺いたいと申しおります」「私が先生にお届けする」「私ども」「粗品」
  B  丁寧語は,自分のことか相手のことかなどにかかわらず,相手(聞き手)に対して物の言い方を丁寧にする言葉である。
  (例)  「よい天気です」「電車が来ました」「結構でございます
(注2)  世論調査(平成9年12月 文化庁)では,教師・クラブの先輩・年上の人 (ともに立場,年齢の上位者) に対して,また,店の人・患者・ものを頼む人はそれぞれ店の客・医師・ものを頼まれる立場の人 (ともに恩恵・負い目の関係における上位者)に対して,「敬語を使って話すべき相手だと思う」と答えた人 (教師83.7%・クラブの先輩60.4%・年上の人68.5%・店の客75.9%・医師74.7%・ものを頼まれる立場の人75.8%) の割合は「思わない」と答えた人に比べて圧倒的に高くなっている。
(注3)  世論調査(平成9年1月 文化庁)では,「知らない人(たとえ同年輩でも)と話すとき」に敬語を使うと答えた人の割合は57.7%であった。また,別の調査(平成9年12月 文化庁)では,相手の性によって言葉遣いの丁寧さが変わると答えた人(34.6%)のうちの8割が「同性と話すときより異性と話すときの方が丁寧な言葉遣いになると思う」と答えている。
(注4)  世論調査 (平成9年12月 文化庁)でも,「敬語を使って話すべきだと思う」人の割合は,場面によって異なることが分かる。会社においても,上司に対して会社での仕事中に敬語を使って話すべきだと思う人は85.9%であるが,その同じ上司と,仕事が終わって飲みに行った酒場で話すときも敬語を使うべきだと思う人は36.2%であった。

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