国語施策・日本語教育

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第1 現代における敬意表現の在り方

U 敬意表現の在り方

1 敬意表現と敬語

(3)様々な配慮と敬意表現

 適切な敬意表現によって様々な配慮を表すことは日本の文化に根ざした慣用となっている。高めたい相手に対する場合や改まった場面ではこれらの敬意表現には敬語が使われる(例えば「お忙しいとは存じますが」など) 。一方,敬語を使わないことで相手との距離が小さくなり,また打ち解けた雰囲気が醸されて親しみや仲間意識を生じ,人間関係が円滑になる場合もある。ただし,相手との関係や相手の気持ちのとらえ方を誤ると,親しみを込めたつもりが,なれなれしく不愉快だと受け取られることになる。
 例えば,相手に話し掛けるときの礼儀に関するものとしては,自分の名前や所属を告げ,場合によっては相手を確認すること,また,相手が自分にかかわってくれることへの感謝及び相手に与える負担や迷惑の謝罪,話の切り出し方や前置き,相手と話をする理由や事情の説明などを表現するか省略するか,表現するとすればどのように言うかというようなことがある。
 また,伝えたい事柄を「貸して」のように単純素朴な言い方でなく,疑問表現・否定表現・授受表現(注)等を援用することによって意味合いの微妙な差を表すことができる。用語の選択も敬意表現にかかわってくる。和語より漢語の方が,あるいは現代風の言葉より文語的な言葉の方か改まりの度合いが高いことや,専門用語使用の適否などについて配慮する必要があろう。文体的な統一も大切であるし,文末における終助詞の使い方も敬意表現と深い関係がある。また,文末の敬語を省略することによって表現をぼかし,堅苦しさを除いたり判断を相手にゆだねたりする配慮も表すことができる。
 さらに,話題の主導権をだれに取らせるか,また,どのような話題を選ぶかということに関する礼儀もあるが,これは話し手の文化的背景によるところが大きい。相手にとって触れてほしくない事柄については何も言わないことが敬意の表現になることもある。場合によっては,差し出口をしない,婉曲な表現を用いる等の配慮もある。さらに,積極的に相手の言動や持ち物を褒めるなど,随時その場に応じた表現によって相手への理解や尊重を示す気配りもある。
 話し言葉では以上のような配慮を音声で表現することになるが,声の調子,高低や音量,速さ等に関する配慮も大切である。その他言葉に伴う態度や行動も敬意表現を担う要素である。
 そのほか,書き言葉における敬意表現の問題がある。これは,直接的には手紙文が中心になろう。相手との関係やその手紙の性格に応じて,慣用的な形式にどの程度のっとるかを判断し,敬意表現を適切に用いて書くことになる。また,用紙,筆記具,文字(楷(かい)書か行書か,手書きかワープロか)なども敬意表現にかかわってくる。
 ここに述べた様々な配慮に関する具体的な表現の例は付2(2)に掲げた。


 (注)  授受表現:「やる」「あげる」「くれる」「もらう」などの動詞を用いてなされる受給や受益にかかわる表現。これらの動詞を「〜てくれる」「〜てもらう」などのように,補助動詞として用いる表現も含む。

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