国語施策・日本語教育

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第1 現代における敬意表現の在り方

U 敬意表現の在り方

2 敬意表現の理念と標準の在り方

 現実に人々が使っている敬意表現は既に述べたとおり実に多様である。「I コミュニケーションと言葉遣い」で展望したように,現代社会が多様な側面を持ち,人間関係も多層的になっている以上,様々な敬意表現を時と場合によって使い分けなければならなくなるのは当然であろう。敬意表現の多様性は,国語の豊かさとして積極的に評価されるべきであろう(注)。
 多様な表現の中からいずれを適切なものとして選択するかは個々人の判断にゆだねられる。一人一人が主体的に自分で納得できる言い方を選び,自己表現としてそれを使うのである。そのためには,様々な表現の微妙な意味合いの差を吟味し,感じ取る言語感覚が求められよう。また,その時々における相手と自分との関係を的確に把握し,場面に配慮して適切な言い方を選択する能力も求められる。そのような言語感覚や選択能力は広く言語運用能カー般とかかわっており,その基礎は学齢期に培われるものと思われるが,加えて社会人としての常識や人間性という基盤も重要である。
 人間はそれぞれの立場や経験,年齢などに違いがあり,だれに対しても同じ言葉遣いで接するわけにはいかない。親しさの程度や仲間内か否かの別,また,場面や改まりの程度の違いもある。敬意表現はそれぞれに応じた礼儀や配慮を表すための言葉遣いである。元来心ある表現として使うべきであることは言うまでもないが,中には形式面だけにこだわったり,慇懃(いんぎん)無礼に相手を疎外したり,傷つけたりするような使い方も見られる。より良い言語行動を志向して常に内省しつつ敬意表現を使うということが使い手の人間形成と大きくかかわってくる。
 言葉は個々人のものであると同時に,社会全体のものでもある。一人一人が人格を形成し,より良い人間関係を築くためには,相手や場面にふさわしい言葉遣い,とりわけ敬意表現の選択能力や運用能力を身に付け,それを適切に用いていくことが大切である。
 国語審議会は次期の審議で具体的な敬意表現の標準を示すことに取り組むことが予定されているが,その場合も語形面での誤りを正すだけでなく,運用面の適切性についても扱っていくことが必要と思われる。すなわち,現実に行われている様々な敬意表現を整理して,平明な言い方を中心に複数の選択肢を掲げ,併せて頻度の高い誤用例についてはそれが誤りとされる理由を説明しつつ,想定される場面に応じた運用の指針を掲げることになろう。


 (注)  世論調査(文化庁 平成9年12月)によれば,「これからの敬語はどうあるべぎだと思いますか」という問いに対して,「敬語は美しい日本語として豊かな表現が大切にされるべきだ」という考え方に近いと答えた人は46.9%であった。これは,言わば多様性容認に近いと言えよう。一方には「敬語は簡単で分かりやすいものであるべきだ」という考え方に近いと答えた人も41.4%あった。

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