国語施策・日本語教育

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T 前文

1 表外漢字の字体問題に関する基本的な認識

(2)表外漢字字体表作成に当たっての基本的な考え方

 今回作成した表外漢字字体表は,(1)で述べたような一部の印刷文字字体に見られる字体上の問題を解決するために,常用漢字表の制定時に見送られた「法令,公用文書,新聞,雑誌,放送等,一般の社会生活において表外漢字を使用する場合の字体選択のよりどころ」を示そうとするものである。
 この字体表には,印刷標準字体と簡易慣用字体の2字体を示した。印刷標準字体には,「明治以来,活字字体として最も普通に用いられてきた印刷文字字体であって,かつ,現在においても常用漢字の字体に準じた略字体以上に高い頻度で用いられている印刷文字字体」及び「明治以来,活字字体として,康熙(き)字典における正字体と同程度か,それ以上に用いられてきた俗字体や略字体などで,現在も康熙字典の正字体以上に使用頻度が高いと判断される印刷文字字体」を位置付けた。これらは康熙字典に掲げる字体そのものではないが,康熙字典を典拠として作られてきた明治以来の活字字体(以下「いわゆる康熙字典体」という。)につながるものである。また,簡易慣用字体には,印刷標準字体とされた少数の俗字体・略字体等は除いて,現行のJIS規格や新聞など,現実の文字生活で使用されている俗字体・略字体等の中から,使用習慣・使用頻度等を勘案し,印刷標準字体と入れ替えて使用しても基本的には支障ないと判断し得る印刷文字字体を位置付けた。ここで,略字体等とは,筆写の際に用いられる種々の略字や筆写字形のことではなく,主として常用漢字の字体に準じて作られた印刷文字字体のことである。ただし,例えば,常用漢字の「歩」に合わせて表外漢字の「わたる」を「捗」としたような略字体でないものも含まれている。この簡易慣用字体の選定に当たっては,字体問題の将来的な安定という観点から,特に慎重に検討を行った。(詳しくは,「付 印刷標準字体及び簡易慣用字体の認定基準」を参照)
 表外漢字字体表は,次に示す2回の頻度数調査の結果に基づき,現実の文字使用の実態を踏まえて作成したものである。すなわち,第1回は,凸版印刷・大日本印刷・共同印刷による『漢字出現頻度数調査』(平成9年,文化庁,調査対象漢字総数は3社合計で37,509,482字)であり,第2回は,凸版印刷・読売新聞による『漢字出現頻度数調査(2)』(平成12年,文化庁,調査対象漢字総数は凸版印刷33,301,934字,読売新聞25,310,226字)である。なお,新聞の場合には,表外漢字にどのような字体を用いるかは社ごとに決められている。したがって,読売新聞調査の目的は表外漢字の字体を調査するということではなく,新聞紙面における表外漢字使用の実態(使用字種とその頻度)を見ることにある。この2回の調査で明らかになったことは,一般の人々の文字生活において大きな役割を果たしている書籍類の漢字使用の実態として,字体に関しては,主として,常用漢字及び人名用漢字においてはその字体が,人名用漢字以外の表外漢字においてはいわゆる康煕字典体が用いられていることである。このうち,人名用漢字は,制定年が昭和26年,51年,56年,平成2年,9年と異なる関係で,制定年の古いものほど人名用漢字字体の定着度が高い傾向にある。このような傾向から判断すると,人名以外に使用される場合においても,将来的には人名用漢字字体におおむね統一されていくものと予想できる。表外漢字については,常用漢字の字体に準じた略字体等が現時点でどの程度用いられているかを見たが,その種類はそれほど多くなく,かつ,一般に使用頻度も低かった。
 上記2回の調査結果から見ると,現代の文字生活において,漢字使用に占める表外漢字の割合は決して高いものではない。凸版印刷による2回の調査資料では,常用漢字の1945字だけで,延べ漢字数のおよそ96%を占めるという結果が出ている。さらに,人名用漢字を加えると97%強になる。表外漢字については,人名用漢字を除けば,3%弱にすぎない。ただし,字種(異なり文字数)では5000字近くある。このように使用頻度が低く,しかも字種の多い表外漢字が,文字ごとに,いわゆる康熙字典体と略字体とを持つならば,表外漢字の字体にかかわる問題は極めて複雑になる。  また,小学校・中学校・高等学校の教科書や各種の辞典類(一部の自然科学系の用語辞典などは別として)においても,人名用漢字を除く表外漢字の字体に関しては,いわゆる康熙字典体を原則としている。
 このような文字使用の実態の中で,表外漢字に常用漢字に準じた略体化を及ぼすという方針を国語審議会が採った場合,結果として,新たな略字体を増やすことになり,印刷文字の使用に大きな混乱を生じさせることになる。国語審議会は,上述の表外漢字字体の使用実態を踏まえ,この実態を混乱させないことを最優先に考えた。この結果,表外漢字字体表では,漢字字体の扱いが,当用漢字字体表及び常用漢字表で略字体を採用してきた従来の施策と異なるものとなっている。一般の文字生活の現実を混乱させないという考え方は,常用漢字表の制定過程から一貫して国語審議会の採ってきた態度である。一般の文字生活において,印刷文字として,十分に定着していると判断し得る略字体等を簡易慣用字体として認め,3部首(しんにゅう,しめすへん,しょくへん)についても,現に「しんにょうしめすしょく」の字形を用いている場合には,これを認めることにしたのも,この点への配慮に基づく。
 この考え方は,同様の意味で,常用漢字の字体をいわゆる康熙字典体に戻すことを否定するものである。当用漢字字体表以来50年にわたる経緯を持ち,社会的に極めて安定している常用漢字の字体については,動かすべきではないと考える。

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