国語施策・日本語教育

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T国際社会における日本語

 近年の国際社会の大きな変化の中で,日本語に対する需要や期待も従来とは異なったものになりつつある。今後は,母語としての日本語を大切にするとともに,視野を世界に広げ,国際社会の動向や世界の言語状況を踏まえつつ,日本語の在り方を考えていく必要がある。

1 国際社会と言語

 言語は人々のコミュニケーションを担い,一人一人の自我の意識を支える大きな役割を担っているものである。近代国家においては,言語は人々の生活や意識の基盤として,国民統合のために重要な役割を果たしてきた。一方で,人類はその永い歴史の中で,古くから言語の違いを超えて交流を行い,外交や通商,文化などの様々な分野で関係を築いてきた。
 最近の国際社会は,国境を超えた地球社会としての性格を強めつつある。地球環境問題への対応など人類共通の課題に対し,各国が連携協力してその解決に当たることの重要性が高まっており,経済においても相互依存の深化と国際競争の激化が共に進行するなど,様々な問題が地球規模で発生・進行し,地球規模での取組が進められている。また,国家だけではなく地方や民間団体,さらには個人が国際関係の主体として活動する状況も生じている。交通輸送手段や情報通信ネットワークの目覚ましい発達に伴い,人・物・情報の国境を越えた往来も飛躍的に増大している。
 このような世界の構造的な変化の中で,諸言語の相互関係やそれぞれの言語が担う役割にも大きな変化が生じている。
 英語は実質的に,世界の共通語として情報交流を担う機能を果たしつつある。現在,多くの国際機関で英語を公用語として用いており,また,インターネット上で得られる情報も英語によるものが高い割合を占めている。国立国語研究所を中心に行った「日本語観国際センサス」(平成9〜10年,28か国・地域で実施した調査)によれば,「今後世界のコミュニケーションで必要になると思われる言語」として,1か国を除くすべての国・地域で英語が第1位に挙げられた。国内においても,文化庁の「国語に関する世論調査」(平成12年)によれば,世界の人々の共通のコミュニケーション言語として英語が用いられることを,積極的又は消極的に認める人が多数を占めた。今後,国際間の交流がますます盛んになる中で,英語が国際語として用いられる傾向は一層強まることが予想される。
 一方,母語尊重の意識の高まりや,少数言語を保護する政策の実施など,個々の言語を大切にしようとする考えに立った動きも世界の各地で見られる。ユネスコ(国連教育科学文化機関)は多言語・多文化尊重の考えに立つ政策の実行を世界に向けて提案している。EU(欧州連合)では通訳・翻訳に膨大な経費を掛けつつ11言語を公用語とする体制を維持している。また,国民の識字率の向上や自国内での公用語の普及を政策の大きな課題として努力を続けている国もある。ドイツやフランスは世界における自国語の普及に力を入れている。オーストラリアやカナダでは多文化主義政策に基づく多言語教育を実施している。このように,世界の言語状況は,各国・各言語などの事情に応じて多元的に展開しているが,総じて個々の言語や文化を尊重し,それらを共に生かし合える世界を作ろうとする考えや動きが高まっていると言える。平成12年7月に開催された主要国首脳会議(九州・沖縄サミット)においても,言語的な表現における多様性の重要性を認識し尊重することがうたわれ,異なる文化及び非母国語への理解を向上させるような教育の推進が提唱された。
 以上のような国際社会と言語の動向の中で,諸外国においては外国語教育を強化し,人々が多言語を使う能力を身に付ける傾向が生じている。我が国においても,国際化時代における日本人の言語能力を総合的に考える視点に立って,母語としての日本語の教育と,外国語の教育を一層充実させていくことが望まれる。

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