国語施策・日本語教育

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T国際社会における日本語

3 日本語の国際的な広がりについての基本的な考え方

 地球に存在する一つ一つの言語は,それを母語とする民族や集団の思想や文化を担うものであり,人類共通の財産でもある。様々な言語が担う価値観や思考方法などの多様性が人類の文化の総体を豊かに作り出すのであり,それらの多様性は,個々の価値観が持つものの見方や考え方の限界を補完し,一元的な思考が陥る危険性を回避する力を持つ。現在,英語が世界の人々のコミュニケーションのための言語として広がりつつあるが,特定の一言語が人類の文化の多様性を担うことはできない。したがって,地球社会としての性格を強めると考えられる今後の世界においても,様々な言語の存在によって人類の有する多様性が生かされていくべきである。付け加えれば,世界の中に複数の言語を使える人が増えていくことは,人類が持つ多様な価値観や考え方等が,より広く理解され生かされていくことにつながると言えよう。
 日本語は,古代から現代に至るまで,日本人の思考や心情を支える基盤となり,数々の文学や思想を生み出し,近代国家としての日本の発展や,日本における近代科学や技術の発達をも支えてきた。また,日本は中国や西洋など海外の文化を積極的に取り入れてきた歴史を持ち,現在においても外国語で書かれた文献の自国語への翻訳点数において世界有数であることから,諸外国の文物に関する日本語による豊富な蓄積が生じている。これらの日本語による所産の蓄積は,世界の文化資産の一つとして活用し得るものであり,現に,日本独自のものを学ぶことと並んで,アジアからの留学生がヨーロッパの文献を,アメリカからの留学生が中国の文献を日本語で学んでいるような例も見られる。
 私たち日本人は,母語としての日本語を大切にし,継承・発展させていくとともに,日本語やその所産を人類の文化資産の一つととらえ,その存在意義や価値,果たすべき役割を提言し,地球社会においてそれらが発揮されるよう行動する主体性を持つべきである。すなわち,現に存在する世界の人々の日本語への評価や期待にこたえるとともに,日本語が果たし得る積極的な役割がより一層世界の人々に認識され,日本語使用の国際的な広がりが拡大していくよう,世界に発信し,日本語使用や日本語教育の充実のために必要な体制を積極的に用意していくべきである。併せて,伝統を生かす美しく豊かな日本語の在り方や,コミュニケーションに適した平明で的確な日本語の使い方についても,絶えず追求していかなければならない。
 日本語による情報発信は,日本人の思考や広い意味での日本文化の発信である。日本語を通じた様々な情報の受容や,日本語によるコミュニケーションを通して,世界の人々に日本や日本人についての理解を深めてもらうことが大切であるが,日本語の国際的な広がりには,世界の人々にとって日本語あるいは日本や日本人が魅力的であること,また日本人もそれらに誇りを持っていることが前提となる。したがって,日本人が世界の人々にとって人間的に,そして文化的に,より魅力ある存在であるよう,自覚的に努力していくことが必要だと言える。

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