国語施策・日本語教育

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U日本語の国際化を進めるための方針

3 国際化に対応する日本人の言語能力の伸長

(2)これからの時代に求められる日本人の言語能力

(ア)コミュニケーションにかかわる言語能力の重要性
 価値観や人間関係が多様化し,また情報が氾(はん)濫する現代の社会生活においては,主体性を持った個人として,物事を的確にとらえ,自分自身の考えを論理的にまとめ,相手に応じて適切に表現し,必要な場合には建設的に議論をして結論を得るといった,コミュニケーションにかかわる言語能力が欠かせない。そして,そのような言語能力を生きた力として働かせるには,相手を理解したり相手に働き掛けたりする意識や行動が不可欠である。
 このような能力及び意識,行動は,異文化を背景とする人とのコミュニケーションを図るために必要な能力,意識,行動とも共通する。近年,大学生や社会人に,明晰(せき)な発話や明快な文章表現を行う力が付いていないという批判が聞かれるが,これらの力を十分に養うことなしには,国際化に対応する言語能力の伸長は望めない。
 異文化を背景とする人とのコミュニケーションにおいては特に,@自己の考えを十分に言語化すること,A平明・的確かつ論理的に伝達すること,B相手の文化的背景を考えて表現や理解を柔軟に行うこと,の3点に留意すべきである。一口に「異文化」と言っても,それぞれの文化におけるものの考え方や,発話や行動の様式は多様であることから,すべてを相手に合わせようとするのではなく,相互に相手を理解しようと努め,相手の考えや気持ちを理解するための質問や自分自身を分かってもらうための説明の言葉などを適切に織り込みつつ,誤解が生じないよう,やりとりを進めていく態度を持つことが基本となろう。
 一方で,互いに察し合って会話を進めていく日本人の伝統的なコミュニケーションの在り方は一つの文化であり,それを共有している人の間では効率的で充足度が高く,心地よさや安らぎを生み,互いの心を結び付ける働きも強いものである。これからの日本人は,適切に言葉を用いて表現や理解を柔軟に行う能力を高めることと並んで,身近な人間関係などに生きる伝統的なコミュニケーションの在り方を自覚的にとらえるようにすることも大切である。異なる文化を持つ人に対しては,このようなコミュニケーションの在り方によって成り立っている日本人の人間関係について,説明する姿勢を持つことも必要である。

(イ)国際化に対応する言語教育の在り方
 上記の国際化に対応する言語能力を育成するためには,初等教育から高等教育までを通じ,人間関係の構築,維持において,各自の考えや思いを言葉に表現して明示的に伝達することが大切なのだという基本的な認識を養い,人と積極的に意思疎通を図ろうとする意欲を育てること,また発声法や発表技術,話合いの進め方なども含めた,実際的な日本語能力を養う教育を一層充実させていくことが必要である。また,以上の教育は国語のみならず各教科等の指導,さらには学校生活全体の活動を通して達成されるべきものである。
 外国人とのコミュニケーションのために外国語を習得することは有効であるが,日本語を母語とする者の言葉の能力の根幹は,日本語能力の習得によって培われることを忘れてはならない。人間の母語能力の基本的な枠組みは,個人差はあるが,おおよそ10代の早い時期ぐらいまでに形成され,それまでに十分な基礎力の習得が達成されなければ,それ以後に日常言語を超えた知的・抽象的な言語の運用能力を形成することが困難になると言われている。また,外国語の習得についても母語の能力がその基盤を成している。したがって,言語教育は人間が持っている母語の習得能力の体系を軸として,総合的・体系的に考えられなければならない。幼少時からの言葉の訓練が生涯の言葉の力の基礎を築くことから,学校教育ばかりでなく,家庭や地域社会における言語環境が大切であることも,十分意識される必要がある。
 総じて言えば,日本人としての主体性と異文化への柔軟な対応力を有し,日本語によって確かな表現と理解を行う基本的な能力と,相手に応じて柔軟に対応できる応用的な言葉の運用能力とを備えた,国際化に対応できる日本人を育てる言語教育を推進することが望まれる。

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