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文化庁月報
平成23年8月号(No.515)

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特集 「地域における日本語教育の展望−日本語教育の総合的推進を目指して」

世界,日本,地域から見る日本語教育

文化部国語課長 舟橋徹

 我が国における外国人の状況について概観し,日本語教育の重要性や文化庁における日本語教育施策,政府全体の日本語教育施策の総合的な推進等について説明します。

目次

  1. 1 外国人受入れの増加と今後の日本社会
  2. 2 国内の状況
  3. 3 政府における日本語教育施策
  4. 4 文化庁における日本語教育施策
  5. 5 多文化共生社会の実現,日本文化の発信に貢献する日本語教育を目指して

外国人受入れの増加と今後の日本社会

 経済活動の地球規模化や交通手段の発展が進行する中で,国境を越えた人の移動は盛んに行われるようになっています。我が国でも海外在留邦人が100万人を超え(平成21年度外務省調べ)る一方で,国内における外国人登録者数も200万人を超えた,今,まさにグローバル化の時代と呼ぶにふさわしい状況となっています(平成22年度法務省調べ)。また,我が国において外国人の受入れは少子高齢化,労働生産人口の減少,高度人材の受入れによる経済活性化など,「日本の今後」と合わせて議論されることも多く,まさに我が国の将来に関係する大きなテーマとなっています。

国内の状況

 国内の外国人登録者数は平成20(2008)年末の222万人をピークに,平成21(2009)年末が219万人,平成22(2010)年末が213万人と2年続けて減っていますが,10年前の平成12(2000)年と比べて約45万人増加しており,急激に国際化が進んでいると言えます(法務省調べ)。

出身別外国人登録者数の割合(平成22年末)

 外国人登録者の出身国・地域は多様ですが,出身別に見た場合,中国(687,156人)が全体の約32%,韓国・朝鮮(565,989人)で約27%,ブラジル(230,552人)が約11%,フィリピン(210,181人)が約10%,ペルー(54,636人)が約3%となっており,上位5か国・地域で全体の約83%を占めています。このことからも我が国の国際化はアジア,南米とのつながりを中心に進んでいることが分かります。
 また,在留資格別に見ると,近年,永住者(特別永住者を除く。以下,同じ)が増加していることが特徴です。平成12(2000)年時点では,永住者の数は約14万5000人であり,外国人登録者数全体の8.6%でしたが,平成22(2010)年には約56万5000人と外国人登録者数全体の26.5%を占めるようになっています。このように我が国に住んでいる外国人については,言わば一時滞在の「出稼ぎ」ではなく,定住化が進んでおり,生活,労働,子育て,地域社会への参加など「生活段階に応じた対応」が求められるようになってきています。
 また,地域により,日系ブラジル人が多く集住していたり,研修生・技能実習生が多く,地域産業の担い手として欠かせない存在となっていたり,外国人の数は少ないが,日本人の配偶者として来日する人が多く,地域社会の一員として溶け込んでいたりなど,地域によって国際化の様相も異なるため,地域の実情に応じた施策が必要となっています。

政府における日本語教育施策

 このような外国人の増加を受け,政府においても,外国人に対する施策の実施や新たな施策の検討を積み重ねてきています。
 平成22(2010)年8月31日には,内閣府に設置された日系定住外国人施策推進会議別ウィンドウが開きますにおいて「日系定住外国人施策に関する基本指針」PDFファイルが別ウィンドウで開きます(PDF形式(27KB))が策定されました。その中では,「労働者派遣事業者や請負事業者が生活全般の面倒を見たため,日本語を介した日本社会との関わりがなくても生活が可能であり,長期にわたり居住しながら日本語能力が不十分である者も多くみられる」こと,「日本語能力が不十分であることにより,子供の教育,就職,行政や地域社会とのコミュニケーション等日本での生活のあらゆる場面で支障が生ずる」ことなどが指摘されています。これらの課題を踏まえ,「今後もこれらの人々の定住を認める以上,日本社会の一員として受入れ,社会から排除されないようにするための施策を国の責任として講じていくことが必要」であり,「日系定住外国人が日本での生活に必要な日本語を習得するための体制を整備する必要がある。」としています。さらに,この指針を受けて,平成23(2011)年3月31日には「日系定住外国人施策に関する行動計画」PDFファイルが別ウィンドウで開きます(PDF形式(186KB))が取りまとめられ,この計画に基づき,今後,政府全体として,より一層日本語教育の充実を図っていくこととされています。

文化庁における日本語教育施策

 文部科学省・文化庁においても日本語教育施策の充実に取り組んでいます。文部科学省では平成22(2010)年5月19日に『定住外国人の子どもの教育等に関する政策懇談会」の意見を踏まえた文部科学省の政策のポイント』別ウィンドウが開きますを発表しました。これは平成20年度下期以降,経済情勢が悪化する中で,不安定な雇用形態で就労する日系人の雇用,住居,子どもの教育等の課題が顕在化したことを受け,文部科学省に設置された「定住外国人の子どもの教育等に関する政策懇談会」別ウィンドウが開きますで出された意見等に基づいたものです。ここでは喫緊の課題として,日系人等のいわゆるニューカマーと呼ばれる外国人の子どもの就学や留学生に対する日本語教育のほか,大人に対する日本語教育についても充実を図ることが必要とされています。
 文化庁では,この「政策のポイント」に基づき,様々な日本語教育施策を講じています。特に地域の外国人の定住化傾向が進んでいること,生活段階に応じた対応が求められること,地域により国際化の状況も大きく異なることなどを踏まえ,文化庁では各地域がそれぞれの実情に応じた日本語教育を展開することができるような支援を中心に施策を進めています。

○地域における日本語教育の支援

 地域における日本語教室は市町村などの自治体,国際交流協会,NPO法人,ボランティアグループなどによって実施されていますが,それらの日本語教室や指導者の養成を支援するため,文化庁では平成19(2007)年度より「生活者としての外国人」のための日本語教育事業を実施しています。この事業では,自治体,国際交流協会,NPO法人等への委託により,それぞれ地域の課題に合わせて,日本語教室の設置運営,指導者養成,ボランティア等の実践的研修を実施しています。
 また,平成21(2009)年度からは地域の日本語教育の充実を図るため,都道府県,政令指定都市,外国人集住都市やその国際交流協会の日本語教育担当者を集めた研修を行っています(平成20(2008)年度については担当者の連絡会議として開催)。さらに,地域における日本語教育を充実させるためには,日本語教育の全体的な状況を見渡しながら,体制整備や連携,プログラム開発等を行う中核的な人材が必要であることから,平成22(2010)年度からは地域日本語教育コーディネーター研修を実施しています。
 また,文化庁では外務省等と連携して,平成15年度から条約難民に対して,平成22年度からはパイロットケースとして受入れを開始した第三国定住難民に対して日本語教育を実施しています。

○文化審議会国語分科会日本語教育小委員会

 地域で暮らす外国人の定住化傾向を受け,平成19(2007)年7月から文化審議会国語分科会に日本語教育小委員会を設置し,地域における日本語教育の在り方についての検討を行っています。平成21(2009)年1月には,地域の日本語教育に関する国,都道府県,市町村の役割分担を示し,連携推進や人材配置についての必要性,地域における日本語教育の内容の改善について取りまとめました。さらに,この取りまとめを受け,日本語教育の内容の改善について,平成22(2010)年5月に『「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について』PDFファイルが別ウィンドウで開きます (PDF形式(3.07MB))(以下,「カリキュラム案」という。)を取りまとめるとともに,平成23(2011)年1月には『「生活者としての外国人」に対する標準的なカリキュラム案 活用のためのガイドブック』PDFファイルが別ウィンドウで開きます (PDF形式(368KB))(以下,「ガイドブック」という。)を取りまとめました。このカリキュラム案は「生活者としての外国人」が地域で生活するための必要最低限の内容を生活上の行為から記述したものであり,この案を基に各地域の実情に応じて日本語教育の内容を組み立て,プログラムを作成することを想定したものです。
 現在,日本語教育小委員会ではカリキュラム案やガイドブックを踏まえた教材例を作成するとともに,外国人の日本語能力の評価について検討を進めており,今後は,日本語指導者の指導力の評価についても検討を行うこととしています。

○日本語教育に関する調査研究

 さらに文化庁では,施策の実施や検討のための基礎資料を得るため,様々な調査研究を実施しています。
 まず,昭和42(1967)年以来,外国人に対する日本語教育の振興を図るための基礎資料を得ることを目的に,国内の日本語教育実施機関数や教員数,学習者数などを把握する国内の日本語教育の実態調査を実施しています。また,平成21年度からは日本語教員養成・研修の実態を把握し,課題を整理するために日本語教員等の養成・研修に関する調査研究協力者会議を設置し,国内の大学,日本語学校等における日本語教員養成・研修のためのカリキュラム等について調査・分析等を行っています。さらに平成23(2011)年度からは,定住外国人の増加する我が国における日本語教育関連施策等の立案推進のための基礎資料を得るため,移民受入れの先進国・地域における外国人に対する自国語教育・普及施策等について最新の状況を調査することとしています。これらの調査研究の成果は施策立案の参考とするだけでなく,文化庁ホームページで広く公開することとしています。

○日本語教育の総合的推進

 日本語教育については,文部科学省・文化庁だけでなく多くの府省において関係する施策が実施されており,また,様々な日本語教育関係機関等において,実際の教育や教育支援などの取組が行われています。これらの様々な施策・取組について相互に連携・協力を行い,全体としてより効率的・効果的な日本語教育の推進を図ることは極めて重要です。このため,平成22(2010)年度より,文化庁では,関係府省間での連携推進を図る「日本語教育関係府省連絡会議」を開催するとともに,平成23(2011)年度からは日本語教育機関等における具体的な取組についての現状を把握するため,関係機関等を参集した「日本語教育推進会議」を開催することとしています。また,平成23(2011)年度からは「日本語教育コンテンツ共有化推進事業」を開始し,様々な関係機関等が連携して日本語教育を実施するための基盤を構築することとしています。これらの取組を通して,文化庁では日本語教育の総合的推進を図ることとしています。

外国人に対する日本語教育の推進

外国人に対する日本語教育の推進

多文化共生社会の実現,日本文化の発信に貢献する日本語教育を目指して

 多文化・多言語化した社会において,日本語教育は日本人と外国人の間に「日本語」というコミュニケーションの共通の基盤を作り出すことができます。また,我が国において日本語は生活の基盤ともなっており,「生活者としての外国人」に対する日本語教育を充実させることは「生活者としての外国人」の生活を安定させることにつながり,結果として多様な人材の能力を引き出し,魅力ある地域作りにつながると考えられます。多様な背景を持つ人間がそれぞれの能力を発揮し合う社会こそが多文化共生社会と言えるのではないでしょうか。
 また,日本語教育を通して日本の理解者を増やすことが,世界に対する日本文化や芸術の発信につながったり,我が国の地位の向上にもつながることが期待され,海外への日本の発信につながるという点で文化芸術振興の基盤であるとも考えられます。
 文化庁では,地域で暮らす外国人の生活を支える日本語教育の推進が地域社会の活性化につながることはもとより,世界に対して日本文化を発信する原動力になることをも視野に入れ,今後とも日本語教育の推進に努めていくこととしています。

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