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文化庁月報
平成24年1月号(No.520)

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特集

実施報告
「文化遺産オンライン構想」成果報告フォーラム
〜文化遺産とデジタル・アーカイブの最前線を知る〜

文化財部伝統文化課文化財保護調整室専門職 高尾曜

目次

  1. 1 第1部「文化遺産オンライン構想の推進」
  2. 2 第2部「デジタル・アーカイブ最前線」
フォーラム会場

フォーラム会場


フォーラム全体の感想

 「文化遺産オンライン構想」成果報告フォーラムについては,本文化庁月報11月号において開催に向けての特集記事をまとめております。今号では,フォーラム当日の様子をお伝えします。
 『文化遺産オンライン』は,美術館・博物館等に収蔵される文化遺産のデータを指定・未指定を問わず広く登録し,検索・閲覧を可能にするインターネット上のポータルサイト(電子情報広場)です。日本国内の文化遺産情報の総覧を可能にし,さらには世界に向けて発信することを目指し,文化庁と国立情報学研究所が共同運営をしています。平成20年(2008)3月の正式公開以来,利用者のための詳細な検索を可能にするシステム開発や,参加する美術館・博物館,関係団体の負担を軽減する取組を行ってきました。
 1月6日現在では,93,124件の文化遺産情報が登録されています。また,全国で929館の美術館・博物館が館の情報を登録して公開し,その内,125館が文化遺産情報を掲載しています。
 『文化遺産オンライン』の内容の一層の充実を図り,当サイトへの美術館・博物館のさらなる参加を促すため,公開以来初めてとなる「文化遺産オンライン構想」成果報告フォーラムを開催しました。
 フォーラムは昨年12月2日に,東京都千代田区一ツ橋にある「学術総合センター 一橋記念講堂」において行われました。240名もの方にご参加いただきました。そのうち95名の方からいただいたアンケート結果によれば,「大変良い」・「良い」が8割となり,大変好評でした。
 また,質疑応答においても活発にご意見,ご質問をいただき,参加者の関心の高さも窺うことができました。

 開催に先立ち,石野利和 文化財部長より,全国の美術館・博物館との連携を強めるきっかけとなり,参加いただいた方々に『文化遺産オンライン』と文化財の理解を深める機会になれば,と挨拶がありました。

■第1部「文化遺産オンライン構想の推進」

文化遺産オンライン 平成23年12月1日にリニューアルしたトップページ

文化遺産オンライン
平成23年12月1日にリニューアルしたトップページ


平成23年12月1日にリニューアルした地図から見るページ

平成23年12月1日にリニューアルした地図から見るページ


文化遺産オンライン情報登録サイト

文化遺産オンライン情報登録サイト

 フォーラム第1部では,これまでの「文化遺産オンライン構想」の成果を行政側から報告すると共に,技術面で協力して来られた国立情報学研究所連想情報学研究開発センター長・教授の高野明彦氏に基調講演をしていただきました。

■「文化遺産オンライン構想」について

森政之(文化財部伝統文化課文化財保護調整室長)
 平成15年(2003)4月,文化庁と総務省が「文化遺産オンライン構想」を公表して以降の経緯について報告を行いました。平成16年(2004)4月に試行版を一般公開し,平成20年(2008)3月に正式公開を行い,国内の文化遺産の総覧を目指すものとして進めてきたことを説明しました。この構想の推進によって直接的には文化遺産の総覧や電子化が進むと共に,二次的には,美術館・博物館における業務の情報化,生涯学習,観光,防災等様々な分野での利活用が進み,海外からの利活用ができ,さらには美術館・博物館を訪問するきっかけともなることを説明しました。

■事業実施報告「文化財の情報化と文化遺産オンラインの最近の動向」

高尾曜(文化財部伝統文化課文化財保護調整室専門職)
 文化財部における文化財の情報化という全体の戦略の中で,文化遺産オンラインの普及のためにどう事業を展開してきたのかを説明しました。文化遺産オンラインは,利用者のための開発と,参加館のための開発を2本の柱としてきました。
 利用者のための開発として,写真がない文化遺産もすべて検索可能な「文化遺産データベース」をリニューアルした結果,この部分のアクセス数が著しく増加しています。さらにフォーラムの前日12月1日に,写真がある文化遺産のみを対象とした「ギャラリー」をリニューアルし,電子地図を用いた検索を可能にしました。
 参加館のための開発として,情報登録サイト別ウィンドウが開きます を公開し,様々な登録方法や,著作権に関する許諾を求めるための参考例文や,権利者に理解を求めるためのチラシなど美術館・博物館の担当者の役に立つコンテンツを用意しました。今後の様々な連携に向けて,メタデータの項目も,この中で初めて公開しました。
 今後の主たる開発として,英語版の開発を進めます。そして文化庁として,文化遺産の総覧を目指し,将来にわたって継続することが最も重要なことと考えています。

■基調講演「文化遺産オンラインとデジタルアーカイブについて」
高野明彦(国立情報学研究所連想情報学研究開発センター長・教授)
第1部 高野明彦氏の基調講演

第1部 高野明彦氏の基調講演

【講演の要旨】
 連想情報学研究開発センターの活動における,『文化遺産オンライン』の位置づけと,他のシステムとの連携状況について説明します。研究のキーワードは「連想」です。人間は記憶し,思い出し,連想しながら知的活動を行いますが,それとうまく噛み合う形で,電子情報を検索・提示する連想情報技術を開発して,「自発的な学び」を助ける情報利用環境を提供してきました。
 「信頼できる情報を得やすい社会」の実現を目標に,情報の信頼性を確認できる情報表現を模索しています。『Webcat Plus』別ウィンドウが開きます『新書マップ』別ウィンドウが開きます『Book Town じんぼう』別ウィンドウが開きます は図書情報を,『文化遺産オンライン』は文化遺産情報を提供するサービスですが,『想・IMAGINE』別ウィンドウが開きます は,それらの個々のサービスを束ねて一つの複合的な情報源として検索可能にするサービスです。
 東日本大震災をきっかけに,「記憶」を受け継ぐことの困難さについて考えました。震災の日,私は旅先の異国の地で寺田寅彦の『津浪と人間』を読みました。それは三陸を津波が襲った昭和8年に被災地を訪れた寺田が,明治29年の三陸大津波に思いを馳せながら書いたものです。約37年前に襲いかかった津波の記憶を繋ぐことができなかったのは人間界の自然現象であり,それは将来も繰り返されるだろうということ。それを越える手段があるとすれば,それは教育であり,科学の役割だと論じています。大きな災害を経験して,このように受け継ぐことが困難だが大切な「記憶」をどう繋いで行くのかについて考えることの重要さを改めて感じました。みずみずしい心を失わずに,高い志を持って受け継ぐべき記憶を繋げていくために,これからもこうした研究を続けて行きたい,と考えています。

■「美術館・博物館のデジタルアーカイブ化とMLA連携」

栗原祐司(文化財部美術学芸課長)
【講演の要旨】
 日本において1990年代に始まったデジタルアーカイブという言葉は,元々の単なる保存という意味から,文化資源の掘り起こしや,情報発信という意味が強くなってきています。平成23年(2011)2月8日に閣議決定された「文化芸術の振興に関する基本的な方針」でも初めて「書誌情報やデジタル画像等のアーカイブ化を促進する」あるいは,「博物館・図書館・公文書館(MLA)等の連携の促進に努める」と明記されました。『文化遺産オンライン』もMLAのアーカイブの推進が背景にあります。
 Europeanaプロジェクト,イギリスのCollections Trust,アメリカ スミソニアン機構国等外国の事例があり,我が国でもこれらを参考にしながら国際化の中で乗り遅れないようにする必要があると考えられます。
 また文化資源の有効活用として,『文化遺産オンライン』のような検索システムの他にも,デジタル複製,デジタル復元,バーチャル・リアリティ等を導入する美術館等が増加傾向にあり,新たなミュージアム像の構築が期待されます。
 デジタルデータの発展の反面,データの消失の問題もあり,その欠点も補いながらデジタル化を進める必要があります。ミュージアムに関する研究会「新しいデジタル文化の創造と発信」報告書に記されるように,デジタル文化は「人類の英知によって築かれてきた記憶に,デジタル技術によって永遠の生命と普遍性を与え,未来へと導いて行くもの」であり,デジタルアーカイブを発展させ,将来につなげる必要があると考えています。

■第2部「デジタル・アーカイブ最前線」

 第2部では,高野明彦氏をモデレーターとして,5人の専門家からデジタル・アーカイブの最新の動向について,ご報告いただきました。

■「文化遺産オンラインの新機能」
丸川雄三(国立情報学研究所連想情報学研究開発センター特任准教授)
平成22年12月にリニューアルした「文化遺産データベース」

平成22年12月にリニューアルした「文化遺産データベース」

【講演の要旨】
 フォーラム前日の12月1日に「ギャラリー」を,一昨年12月に「文化遺産データベース」をリニューアルしましたので,デモンストレーションを行いながら新機能を紹介しました。これまで7年半使っていただいた方にも違和感のないよう配慮をしながら新たな機能を追加しました。
 「ギャラリー」のリニューアルについては,これまでの「地域から探す」の機能を継承しながら,電子地図を用いた検索を可能にしました。同時に「美術館・博物館を探す」というサービスも追加しました。
 「文化遺産データベース」については,連想検索と絞り込み検索を組み合わせた高機能な検索を実装し,検索結果並べ替え機能,キーワードハイライト機能等の新しい機能も加わり,便利で分かりやすくなりました。
 参加館のための開発として,情報登録サイトを公開しました。今後は連携システム仕様などもこのページにおいて,公開して行きます。
 今後の開発のターゲットとなる英語版についても,実際のイメージを示しました。

■「文化遺産情報のメタデータ連携 ―海外の動向から―」

宮崎幹子(奈良国立博物館学芸部資料室長)
【講演の要旨】
 奈良国立博物館別ウィンドウが開きますではインターネットで収蔵品データベースを公開し,文化遺産情報の蓄積と公開を推進すると共に,国立国会図書館など外部とのメタデータ連携に取り組んでいます。平成22年度の文化庁の調査研究事業においては,収蔵品データベースと『文化遺産オンライン』とのメタデータ連携を行いました。この事業の中で海外,特にアメリカの動向の調査を行い,海外の事例が日本においてどう役立つかを報告しました。
 アメリカの9館の美術館が参加した収蔵品情報の連携プロジェクト,OCLC Museum Data Exchangeでは,文化遺産情報のメタデータフォーマットとしてCDWA Liteが採用されましたが,各館の収蔵品情報とのマッピングや連携には課題が多く,メタデータフォーマットの導入に当たっては,データ変換や連携を可能にするツールが開発されたとのことです。このプロジェクトは,文化遺産情報連携基盤モデルの構築を目指したものです。また近年,新しいメタデータフォーマットのLIDOや,美術作品名典拠ファイルのCONA等の高度な連携基盤が登場しています。
 日本でも国内・海外への積極的な情報発信を進めるならば,こうした動向にも関心を向ける必要があり,国際連携を視野に入れたメタデータフォーマットの導入や連携ツールの開発,典拠情報の充実が必要になると考えられます。

■「文化遺産情報をめぐる収蔵機関としての役割」

川口雅子(国立西洋美術館主任研究員)
【講演の要旨】
 『文化遺産オンライン』の目的が我が国の文化遺産の総覧であったとしても,美術館・博物館の情報公開の目的も果たしてそれと同じなのか,何を所蔵しているかは出発点であって,もっと重要な目的があるはずではないか,と初めに問題提起をしました。
 美術館・博物館は,作品を保管し,広く一般に公開し,文化の振興に資することが目的であり,作品理解の材料を提供することが重要と考えられます。国立西洋美術館では,来歴,展覧会歴,文献歴等の調査の蓄積を外部の研究者と共有できるようにすること,一般利用者に向けては,今日何が展示されているかを伝えることに重点を置いています。館のホームページ別ウィンドウが開きます 以外にも,国立美術館の4館共通の『所蔵作品総合目録検索システム』別ウィンドウが開きます ,『文化遺産オンライン』,『想・IMAGINE』,『国立国会図書館サーチ』別ウィンドウが開きます とのデータベース連携も直接・間接に行っています。
 国立西洋美術館において情報化の取組を可能にしている要因として,組織のトップの判断,外部資金を受け入れるための事務体制,美術館自体の研究蓄積に対する姿勢,情報専門職の配置などが挙げられます。
 『文化遺産オンライン』のような国家的事業を今後ますます発展させるためには,文化庁側でも情報担当者を継続的に配置し,美術館・博物館の支援と共に,積極的に整備することが必要と考えます。
 『文化遺産オンライン』の俯瞰的な情報と,各館が提供する個々の作品の詳細情報とは,互いに相補うことで,日本に優れた文化遺産が継承されているという強いメッセージを発信する相乗効果をもたらすのではないか,と考えています。

■「ミュージアムの広報ツールとしての文化遺産オンライン」

根津美術館ホームページのコレクションページ

根津美術館ホームページのコレクションページ

野口剛(根津美術館学芸主任)
【講演の要旨】
 根津美術館は,初代根津嘉一郎が創設した専門性の高い美術館でしたが,平成21年(2009)10月の新創開館に伴って,より一般に開かれた美術館を目指すことになり,広報もクローズアップされました。学芸部内にはサブ業務ながら広報担当と情報担当が置かれ,美術品の魅力を最大限に伝えることを目的に活動しています。ホームページ別ウィンドウが開きます もリニューアルし,収蔵品紹介ページでは代表作品を一覧形式で提示しています。一方,『文化遺産オンライン』には国宝・重要文化財・重要美術品,合計188点を掲載しました。『文化遺産オンライン』への掲載後,『文化遺産オンライン』からの訪問者は突出して多くはないものの,訪問者のサイト滞在時間が他の平均よりも長いという特徴が表れています。広報手段としても有効であると考えています。
 平成23年(2011)8月には,携帯端末用webアプリを日本語/英語の完全2か国語でスタートしました。現在,収蔵品データベースと,ホームページの収蔵品ページ別ウィンドウが開きます ,『文化遺産オンライン』,webアプリと4種類のデータベースが存在し,統一化が今後の課題となっています。

■「ミュージアムHPとの検索システム連携」
和歌山県立近代美術館ホームページの所蔵作品検索・閲覧ページ

和歌山県立近代美術館ホームページの所蔵作品検索・閲覧ページ

浜田拓志(和歌山県立近代美術館副館長)
【講演の要旨】
 和歌山県立近代美術館は,平成22年度の文化庁の調査研究事業において全収蔵品を『文化遺産オンライン』に掲載するとともに,『文化遺産オンライン』の外部連携機能を使って,収蔵品検索機能を美術館のホームページに組込みました。
 実際の作業として,検索ページのプログラム作成は外部委託しました。文字データや画像データの成形は一部外部委託し,確認には職員が当りました。特に近代美術館の場合,著作権の処理が問題となりますが,この部分は館の職員だけで行いました。
 収蔵品検索システムで収蔵品を公開したいと思っている館は多いと思われますが,『文化遺産オンライン』は自前でデータベースサーバを持たずに済むので,予算の面で有効と考えます。和歌山県立近代美術館は,様々な条件が揃ったので1万点すべての文字データを掲載できましたが,人的負担も大きいので,他館にあっては必ずしも全件載せることをお勧めしません。むしろ50点,100点程度の登録,公開からスタートすることで,館のコレクションの特徴は十分出せるのでは,と考えています。

■質疑応答
第2部 デジタル・アーカイブ最前線

第2部 デジタル・アーカイブ最前線

 質疑応答では,(1)情報学の立場から見たデータ公開のデメリットと理想について,(2)地域の文化財への期待,(3)デジタルコンテンツの長期利用について,(4)データ提供元の館との連携について,(5)デジタル撮影の国際基準について等の活発な議論をしていただきました。

 最後に湊屋治夫 文化財部伝統文化課長より,関係する皆様への一層のご支援,ご協力をお願いし,今まで以上に,文化財に関心を持っていただき,文化財を支える良き理解者になっていただくよう挨拶がありました。

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