HOME > 文化庁月報 > 特集 ユネスコ無形文化遺産保護条約「代表一覧表」への記載

文化庁月報
平成24年3月号(No.522)

文化庁月報トップへ

特集

ユネスコ無形文化遺産保護条約「代表一覧表」への記載

文化財部伝統文化課文化財国際協力室

目次

  1. 1 無形文化遺産保護条約
  2. 2 第6回政府間委員会の結果
  3. 3 壬生の花田植
  4. 4 佐陀神能

無形文化遺産保護条約

 無形文化遺産の保護に関する条約(無形文化遺産保護条約)は,無形文化遺産を保護することを目的として,そのための国際的な協力及び援助の体制の確立,締約国がとるべき必要な措置等について規定しています。平成15年(2003)10月のユネスコ総会において採択され,平成18年(2006)4月に発効しました。我が国は平成16年(2004)6月に世界で3番目に締結しました。平成23年(2011)12月現在,締約国は142か国です。

第6回政府間委員会の結果

 平成23年11月22日から29日(現地時間),インドネシア・バリにおいて,ユネスコ無形文化遺産保護条約第6回政府間委員会が開催されました。今次の政府間委員会では,「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表(以下,代表一覧表)」に我が国の「壬生(みぶ)花田植(はなたうえ)」及び「佐陀神能(さだしんのう)」の2件が「記載」されることが決定しました。これにより代表一覧表に記載された我が国の無形文化遺産の件数は20件(世界全体では,232件)となりました。一方で,「本美濃紙(ほんみのし)」,「秩父祭の屋台行事と神楽」,「高山祭の屋台行事」及び「男鹿(おが)のナマハゲ」の4件については,「情報照会」とされました。「情報照会」とは,締約国に追加情報の提出を求めるもので,我が国の4件については,すでに記載されている我が国の他の無形文化遺産と類似しており,代表一覧表に新たに記載することにより無形文化遺産の重要性を認識させることにいかに貢献するかについて更なる情報が必要であるということでした。また,「緊急に保護する必要がある無形文化遺産の一覧表(緊急保護一覧表)」には新たに11件が記載されて,世界全体の記載件数は27件となりました。
「文化遺産オンライン」別ウィンドウが開きます

壬生の花田植

壬生の花田植

壬生の花田植

【所 在 地】 広島県山県郡北広島町
【保護団体】 壬生の花田植保存会
【概要】
 壬生の花田植は,美しく飾り立てた牛で代掻(しろか)きを行い,賑やかな囃子に合わせて田植えを行って,その年の稲の豊作を祈願する行事です。
 壬生の花田植が伝承される広島県山県郡北広島町壬生は中国山地に位置する農村で,壬生とそれに隣接する川東では,稲作に豊かな実りをもたらしてくれる神として田の神が信仰されてきました。

 壬生や川東では,地区の各家の田植えが終了する頃に田の神を迎えて代掻き,苗取り,田植えといった農作業を地区全体で儀礼的に行なう行事が伝えられてきました。これらは,花田植,(はや)()などと呼ばれています。
 十数頭の牛が壬生神社の境内に集まり,花鞍(はなぐら)や玉飾りなどをつけて美しく飾られた後田に移動して代掻きを行います。牛にはマンガと呼ばれる用具が取り付けられています。オモウジと呼ばれる先頭の牛を操る人はオモウジ使いと呼ばれ,たいへん名誉な役とされています。
 代掻きには「横ぐわ」「縦ぐわ」「八重だすき」「正すだれ」「鶴の巣ごもり」「鯉の滝のぼり」などさまざまな仕方があります。
 代掻きがある程度進むと,華やかな衣服を身にまとい,菅笠(すげがさ)を被った早乙女と呼ばれる女性たちが,田の脇に用意された苗をとってナエブネに入れる苗取りが行なわれます。このときサンバイと呼ばれる歌の上手な男性によって苗取り歌がうたわれます。
 代掻きと苗取りが終わると,エブリツキが田をエブリで(なら)します。田の神はこのエブリに依りつくともいわれます。
 こうして田の神を迎えると田植えが始まり,早乙女はサンバイと向かい合うように横一列に並び,田植え綱につけられた目印にしたがって後退しながら苗を植えていきます。サンバイは両手にもったササラと呼ばれる割竹を擦り,親歌という田植え歌をうたいます。続いて早乙女が子歌という田植え歌をうたいます。大太鼓,小太鼓,笛,鉦などを奏する男性たちが並び,サンバイと早乙女の田植え歌に合わせて囃子を奏します。田植え歌には,多くの種類があり,朝歌は田の神を迎える歌,晩歌は田の神を送り出す歌といわれます。
 田一面に苗を植え終えると,最後に田の用水の取り入れ口にエブリを逆さに立て,その上に三把の苗をのせて稲作の無事と豊作を祈願します。

佐陀神能

佐陀神能

佐陀神能

【所 在 地】 島根県松江市鹿島町
【保護団体】 佐陀神能保持者会
【概要】
 佐陀神能は,佐太神社の御座替祭(ござがえさい)と例大祭に演じられる神楽で,「七座の神事」「式三番」「神能」で構成されています。御座替祭とは,本殿三社以下摂社末社の御神座の茣蓙(ござ)を敷き替える神事のことで,毎年9月24日の夜に行われています。佐陀神能は,9月24日の夜と翌25日の例大祭で毎年,演じられています。
 「七座の神事」は,「剣舞(けんまい)」「散供(さんく)」「御座」「清目(きよめ)」「勧請(かんじょう)」「八乙女(やおとめ)」「手草(たくさ)」の七演目からなります。これらの演目は,直面(ひためん)の舞人が鈴や剣,榊,幣束,茣蓙などを手に持ち,神楽殿の四方と中央を意識した舞を展開するもので,いずれも儀式的な舞です。さまざまな採り物を手にしつつ舞うので採り物舞とも呼ばれています。剣で魔を祓い,実際には米などの御供を撒くことはしませんが,「散供」を舞うことで場を清め,神の座に敷く茣蓙を手に持ち舞って神の座を新たにし,神を勧請して神遊びの舞を舞うという流れとなっています。天文3年(1534)の文書に御座替御祭礼と七座神事の記載がみえます。

 「式三番」は翁,千歳,三番叟からなる言祝(ことほ)ぎの舞であり,「神能」は神話を題材とする仮面を用いた演目で,十二番が伝わっています。これらには能楽の様式が取り入れられており,シテやワキなどの役が,笛,小鼓,大鼓,太鼓,銅拍子による音楽と謡にあわせて演じます。素戔嗚尊(すさのおのみこと)の八岐大蛇退治を主題とした「八重垣」が人気の演目とのことです。式三番と神能は,江戸時代以降,七座の神事に加わったとされます。
 儀式的な採り物舞と神話を題材とした演劇的な舞による神楽は,出雲地方に多く伝承されており,このような形式をもつ神楽を出雲系神楽と総称されます。佐陀神能は,出雲系神楽の中にあって,七座の神事,式三番,神能という三部構成で,たいへん整った形を伝えています。また,式三番,神能には猿楽能の影響をみることができ,芸能史的に高い価値をもつものです。
 これらの演目を習得するには最低でも10年から20年はかかるということで,佐陀神能保持者会が稽古を重ねて伝承に励んでいます。

トップページへ

ページトップへ