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文化庁月報
平成24年5月号(No.524)

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特集「平成23年度(第62回) 芸術選奨」

平成23年度(第62回) 芸術選奨

 文化庁が主催する平成23年度(第62回)芸術選奨贈呈式・懇談会を平成24年3月19日,東京・千代田区の文部科学省東館第1講堂で行いました。
 芸術選奨は,その年に,芸術各分野で優れた業績をあげた者,またはその業績によってそれぞれの部門に新生面を開いた者を選奨するもので,演劇・映画・音楽・舞踊・文学・美術・放送・大衆芸能・芸術振興・評論等・メディア芸術,の11分野からなります。昭和25年の創設から62回を迎えた今回は,文部科学大臣賞19名,文部科学大臣新人賞11名に賞状と目録の授与を行いました。
 受賞者の皆様について,贈賞理由とともにご紹介いたします。贈呈式では,平野博文・文部科学大臣や近藤誠一・文化庁長官らとともに,受賞者関係者や審査員も出席し華やかに執り行われました。受賞者一人ひとりに表彰状と目録が手渡されると,会場からは大きな拍手が起こりました。
 受賞者の皆様のこれからのますますのご活躍を期待しております。

文部科学大臣賞(文学部門)小説家 小池真理子

文部科学大臣賞(文学部門)
小説家 小池真理子

文部科学大臣新人賞(大衆芸能部門)のこぎり演奏家・作曲家 サキタハヂメ

文部科学大臣新人賞(大衆芸能部門)
のこぎり演奏家・作曲家 サキタハヂメ

我が国に活力を与える担い手として

平野 博文・文部科学大臣
平野 博文・文部科学大臣

 本日,芸術選奨を受賞されました皆様,誠におめでとうございます。芸術選奨は,昭和25年から,我が国の芸術活動の奨励と振興に資するため,その年ごとに優れた業績をあげた方,またはその業績によってそれぞれの部門に新生面を開いた方々を顕彰しており,今回で62回を迎えました。
 このたび,受賞されました皆様におかれましては,それぞれの分野でその実力を遺憾なく発揮し,大きな成果をあげられました。その素晴らしい御功績に心からお祝いを申し上げます。また,皆様の芸術活動を支えてこられた御家族をはじめ関係者の皆様の御貢献に対しましても,深く敬意を表する次第でございます。
 我が国が甚大な被害を受けた東日本大震災から1年が経ちます。被災地域の復興は今後も続きますが,そのような時期であるからこそ,人々に感動や生きる喜びをもたらし,人間が人間らしく生きることを実感させる文化芸術の役割は極めて大きいと考えます。また,ご受賞のみなさま方にも海外からの高い評価を得られている方が多くいらっしゃるように,文化芸術に国境はなく,心にダイレクトに届いていくものであります。皆様方にはこれからも我が国の文化芸術の振興と,よりグローバルな発展のためにご尽力を賜りますようお願い申し上げます。
 結びにあたり,本賞の選考審査や推薦に御尽力いただきました委員の皆様方にも,厚くお礼申し上げますとともに,御臨席の皆様の御健勝と益々の御発展をお祈りいたしましてお祝いの挨拶とさせていただきます。

芸術選奨文部科学大臣賞代表スピーチ

柳家権太楼
柳家権太楼

 いらっしゃる中で私が代表でもってご挨拶させていただきます。
 私の生活の場にしているのが,寄席4軒でございます。鈴本演芸ホール,池袋演芸場,そして国立演芸場。並びに横浜にあるにぎわい座というところでございます。そこを生活の糧としている者でございますので,こういう晴れがましいところでもって挨拶を言うこと自体がなんとなくむずむずするというのが正直なところでございます。
 思い起こしますと,先ほども大臣がおっしゃっていたとおり,去年の3月11日に我々も大変な地震にあい,そして津波に原発に,というようなところでもって,方々のところで公演などが中止になったりという最中に,実は私たちの寄席は開いていたのです。震災の当日からずっとやっておりました。
 寄席という世界は,席亭が「寄席を開く」と言われたらどんな事情があろうとも芸人はその現場に行かないといけないのです。這いつくばってでも,その自分の高座を勤めないといけないのでございます。
 私はちょうどあのときに高座がありましたから,お客さんがいるのかきいたら「おります」と言う。もしお客さんがいなければ,わたしたちも「いれかけ」といってやらなくて済むのですが,お客さんがいるんでございます。こんなときに落語をきいている場合じゃないだろう,どういう了見なんだと思いながら,私は高座にあがりました。300人入る新宿の末廣亭が8人でございます。てんでんばらばらに座っておりました。この人達のところで頭を下げて,そしてその8人のお客さんの顔をふっと眺めていたら,その8人のお客さんがみんな「僕たちはいったいどうやって,今いればいいんですか?」という目をしているんです。
 要するに自分の家にいても家族がいらっしゃらないという方もいるし,または帰宅しても地震警報がどんどんと入ってくるそんな不安な中でもって,どこへ行っても話す相手もいない。そういう風なときに,寄席があって飛び込んだ方々でしょう。私はそのときにこの人達も被災者なんだと,そう思いました。それと同時に「受けなくてもいい,笑わなくてもいいですよ。私も同じとこで不安に思っている中で高座をやりますから,そのつもりで聞いていてください。」と言って,その8人のお客様とずっと開帳しておりました。そのときに初めて,わたしたちこういう演芸を司る人間はこういう時があるのだ,と。そういう風にあの時にしみじみと感じたものです。8人のお客様のために寄席関係者,約40人がそれぞれの部署でがんばりました。春になったらお上からこんなに素晴らしいご褒美をいただきました。ありがとうございました。
 私がもらったとは思っておりません。私たちの寄席の仲間,その代表で私がいただいたと思っております。帰ったらみんなと一緒にこの喜びを分かち合いたいと思っております。
 受賞された先生方どうもおめでとうございます。そして皆様方ありがとうございました。

芸術選奨文部科学大臣新人賞代表スピーチ

河村 尚子
河野尚子

 初めまして。ピアニストの河村尚子と申します。
 歴代の受賞者のお名前を拝見しましたところ,皆様日本を代表される芸術家の方々なので,このような名誉ある賞をなぜ私のような者がいただけたのかなと不思議でなりませんでした。何かの間違いなんだろうと思っていました。でも,今では,このように贈呈していただいて,私を受賞者として選んでいただいた選考委員の皆様に感謝の気持ちを表すばかりです。
 元々,私は父親の仕事の関係上,日本を5歳で離れまして,ドイツのデュッセルドルフという町,そして今も住むハノーバーという町で育ちました。その私を温かく受入れ,活動の場を作り,そして広げてくださった日本の音楽界の皆様に感謝の言葉を述べたいと思います。
 思い返してみれば,私が日本デビューをしました2004年。今から7年半前のことですが,新宿駅を母親と歩いた時に人々の黒い頭を見て外国にやってきたかのように感じて,私は新宿駅で呆然と立ちつくしてしまったんです。毎日,カルチャーショックを受けていた日々でした。でも,そんな私を温かく見守り成長させてくださった日本のオーケストラや,コンサートを企画する主催者の皆様,音楽界を支えるレコード会社や音楽事務所の皆様。そして私たちが芸術家として,その存在なくしては成立し得ない鑑賞されるお客様。これまで本当に信頼していただいてありがとうございます。これからも世界のアーティストたちからたくさんのことを学んで,貴重な経験を経て,私自身の成長,実力としていきたいと思っていますので,今後ともどうぞよろしくお願いします。
 また,音楽の道を歩む際に全面的にフォローをしてくれた家族のみんな,忍耐の力をもちつつ指導に全力の愛を注いでくれた3人の先生方へ「ありがとう」の一言を贈りたいと思います。この賞をいただくにあたって,私は本当に幸せ者なのだなとありがたく感謝をしたのは,周りの皆さんがそれぞれ私と一緒になって自分のことのように喜んでくださるということでした。外国語でよく言うのですが,「分け合う喜びは倍の喜びだ」と。でも今となっては倍よりも,何十倍にもなっています。
 今回の日本滞在で,テレビの相撲中継で春場所を見ていたのですが,大変興味深く,共感するところがありました。昔だったらハワイ出身の小錦や,すでに引退しているモンゴル出身の朝青龍,今横綱である白鵬。そして把瑠都。昔から存在する日本文化スポーツである相撲ではありますが,外国人の相撲取りも活躍する場所が増えていると思うのです。ヨーロッパのクラシック界でも,今,同じような状況になってきているのです。アジア人の演奏家たちがとっても有力になってきている分野でもあるのです。
 私は一年ほど前からドイツのデュッセルドルフのウォルフガング芸術大学で非常勤講師として勤めているのですが,ヨーロッパのクラシック音楽とはいえ,ピアノを勉強する8割は日本,韓国,中国,それから留学してくるアジア人男性です。私の生徒も5人のうち4人が韓国人で,1人が中国人です。どこか複雑な心境ではありますが,音楽を愛する気持ちはみんな一緒です。そして私自身も一人の社会人として育ててくれて,大勢の素晴らしい人々と巡り合わせてくれたこの偉大なクラシック音楽の文化を,忠実に続けて次の世代に伝えていかなければと感じています。
 私は昨年まで,ロシア人の師にクラリネットを学んでいました。師匠は1年前に天に召されてしまいましたが,我が娘のように可愛がっていただいて,彼のご家族にも親戚のように接していただきました。その師匠のおばさまが私に毎回言う言葉があります。「日本の皆さんにどうぞよろしくお伝え下さい。私は日本にいたことはないけれど,風土,人々,文化,そしてしきたりについてたくさん見ました。私が唯一,尊敬する素晴らしい国だと思います。」とそれを毎回言ってくれます。彼女は,ソ連時代に日本に滞在していたジャーナリストの日本についてのレポートや書籍などを,興味をもってすべて読まれた方なのです。そして彼女は,1年前の東日本大震災が発生したとき,朝から晩までテレビの前に座り込んでいました。日本がどのような状況にあるのかを見て,「日本がこんな悲惨な状況に陥ってしまって本当に悲しい。」とおっしゃっていました。でも「私は信じる。日本の国民は強くて,一日でも早く震災前の状況へ戻るために励めるはず。」と自信をもっておっしゃっていました。
 震災から1年後,東北では想像を上回る困難な状況で生活をされている方が,まだまだたくさんいらっしゃると思います。一日でも早い復興をお祈りいたします。
 最後となりましたが,芸術選奨文部科学大臣新人賞としていただきます賞金を,所属する音楽事務所ジャパン・アーツ社が企画する「クラシック・エイド」という企画に寄附させていただきます。このクラシック・エイドというのは,震災で失われた楽器や,音楽に関する品物を必要とすべき方々の元へお届けしようという活動です。私はこの活動をとても素晴らしい企画だなと思いましたので,寄附させていただくことにしました。音楽家から音楽を,被災された方々に心を潤す音楽を奏でていただいて,元気になっていただけたらいいなと心から思っています。皆様どうもおめでとうございました。

平成23年度(第62回)芸術選奨贈呈式

平成23年度(第62回)芸術選奨贈呈式

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