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文化庁月報
平成24年6月号(No.525)

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連載 「日本の伝統美と技を守る人々 重要無形文化財保持者編」

重要無形文化財「(ゆう)()(きん)(さい)」 保持者:吉田(よした)()(のり)

石川県立美術館学芸主幹 南 俊英
吉田美統

重要無形文化財「釉裏金彩」
指定年月日:平成13年7月12日

保持者:吉田美統
認定日:平成13年7月12日
昭和7年生 石川県在住


【重要無形文化財および保持者のプロフィール】

 釉裏金彩は,陶磁器の器地に金箔や金泥等の金彩を用いて文様を描き,その上に釉薬を掛けて焼き上げる制作技法である。我が国における金彩は,江戸時代以降有田や九谷等の地で独自の発達を遂げてきたが,釉裏金彩はその金彩の技法の伝統・展開の中で生み出された陶芸技法である。
 吉田美統は,石川県小松市の九谷焼・赤絵金襴手(あかえきんらんで)を得意とする窯元に生まれた。日本伝統工芸展を中心に作品を発表。昭和56年(公社)日本工芸会正会員。平成13年紫綬褒章,同18年旭日小綬章。平成22年度文化庁企画工芸技術記録映画「釉裏金彩−吉田美統のわざ−」の製作に協力。

 吉田美統氏(本名(みのる))は,昭和7年(1932)石川県小松市に明治以来続く九谷上絵付(うわえつ)け窯元である錦山窯に生まれました。父親が早世したので,高校在学中より陶技を学び,26年19歳で錦山窯三代目を継ぎました。早くから石川県工芸指導所の研究会に参加したり,九谷若手作家グループで研究会を設立するなど,九谷焼に新風を吹き込む活動を行っており,37・38年の2年間武蔵野美術短大特修生となり,工芸デザインを学んでいます。昭和49年第21回日本伝統工芸展に初入選。昭和59年日本工芸会奨励賞,平成4年高松宮記念賞,12年日本工芸会保持者賞を受賞し,13年重要無形文化財「釉裏金彩」の保持者に認定されました。

「釉裏金彩大山蓮華文鉢」 平成12年 石川県立美術館蔵

「釉裏金彩大山蓮華文鉢」
平成12年 石川県立美術館蔵

金襴手から釉裏金彩へ

 吉田氏が釉裏金彩に取り組むきっかけになったのは,重要無形文化財「色絵磁器」の保持者であった加藤(かとう)土師萌(はじめ)氏(1900〜1968)の作品との出会いでした。錦山窯も金襴手を得意とする窯でしたが,表現法は細密画風でした。錦山窯の作風とは違う加藤氏の表現世界の美しさに魅せられ,金箔をより生かす技法として釉裏金彩に取り組むようになりました。釉裏金彩は昭和三十年代後半,石川県金沢市の陶芸家竹田(たけだ)(あり)(つね)氏(1898〜1976)が考案したもので,陶磁器に金箔などを貼り,その上に釉薬を掛けて焼きあげる技法で,金箔の扱い方,焼成法などに高度な技が駆使されます。

「釉裏金彩椿文飾皿」 平成23年 国(文化庁)保管 (平成22年度工芸技術記録映画対象作品)

「釉裏金彩椿文飾皿」
平成23年 国(文化庁)保管
(平成22年度工芸技術記録映画対象作品)

吉田美統氏の釉裏金彩

 一口に釉裏金彩といっても,竹田有恒氏の釉裏金彩と吉田氏のは違うのです。竹田氏の技法,表現法は,素地に金箔を貼り,その上に透明度の高い色釉を掛けて焼きあげ,金箔と色釉が混ざり合い,独特の奥行きのある深い味わいが出てくるところが見所となっています。金箔は,文様部分より背景に効果的に用いられることが多いのです。これに対して吉田氏の場合は,素地に色釉を掛け地色とし,その上に文様の形に切った金箔を貼って焼き付け,さらにその上に透明釉を掛けて焼きます。この方法では,金箔がそのまま文様として使用されるので,金箔の特性が効果的に発揮されているといえます。

花鳥と九谷五彩の世界

  文様は,幾何学文様から始まり,現在は花鳥文様が中心です。「釉裏金彩大山蓮華文鉢」は,花と蕾には厚手の箔を,葉には薄い箔を用いて作品に奥行きを持たせており,箔の部分にひっかき線文様を施したり,葉脈に金泥を用いたり,表現を豊かなものとしています。さらに,地文様は色釉の濃淡による放射線状の直線文として律動感を与えています。
 地色は,初期から手がける萌黄色が最も多いですが,研究を重ね九谷の五彩(緑・黄・紺青・紫・赤)を完成し,金箔と地色がすばらしい調和を見せる作品群を制作しています。また,モチーフも豊かになり,叙情性あふれる,格調高い釉裏金彩の世界を展開しています。

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