文化庁月報
平成24年6月号(No.525)
連載 「言葉のQ&A」
「姑息 」の意味
「あんな汚ない手を使うなんて,彼は本当に姑息な男だ。」
このような場合の「姑息」は,「ひきょうな」といった意味で使われているようです。「国語に関する世論調査」でも「姑息」を「ひきょうな」という意味だと考えている人が多いことが分かりました。しかし,この用い方は本来の意味からすると,どうなのでしょうか。
- 問1 「姑息」とは,本来どのような意味なのですか。
- 答 一時の間に合わせに物事をすることを指す言葉です。
「姑息」を辞書で調べてみましょう。
「日本国語大辞典 第2版」(平成12〜14年・小学館)
姑息 [名](形動) しばらくの間,息をつくこと。転じて,一時のまにあわせに物事をすること。また,そのさま。一時しのぎ。その場のがれ。
「大辞林 第3版」(平成18年・三省堂)
姑息 [名・形動] 〔「
「新明解国語辞典 第7版」(平成23年・三省堂)
姑息 ―な 〔「姑」はちょっと,「息」はやむ・それいでいいの意〕根本的に対策を講じるのではなく,一時的にその場を切り抜けることができればいいとする様子だ。〔俗に,「やり方が卑怯だ」の意に用いられる。より口頭的な表現では「その場しのぎ」とも〕「―な手段」
ここに挙げた辞書は,それぞれ,「一時の間に合わせ」という意味を取り上げています。また,「大辞林」と「新明解」では,本来の意味ではない「卑怯である」「卑怯だ」という意味にも触れていますが,共に括弧に入れた上で,「大辞林」では「誤って」,また,「新明解」では「俗に」と断っています。
「姑息」は「
「君子の人を愛するや徳を
その場にいた者たちは,曽子を抱え上げてすのこを取り替えますが,彼は間もなく亡くなってしまいました。曽子は,一時しのぎの配慮に従って生き長らえるよりは,正しいことをして死ぬ方がよいと考えたのです。
- 問2 「姑息について尋ねた「国語に関する世論調査」の結果を教えてください。
- 答 本来の意味とされる「「一時しのぎ」という意味」と答えた人は2割に届かず,本来の意味ではない「「ひきょうな」という意味」と答えた人が7割を超えるという結果でした。
平成22年度の「国語に関する世論調査」で,「姑息な手段」という例文を挙げて,「姑息」の意味を尋ねました。結果は次のとおりです。(下線を付したものが本来の意味。)平成12年度の調査結果もあわせて示しました。
〔全 体〕
姑息 例文:姑息な手段 平成22年度調査 平成12年度調査
- (ア)「一時しのぎ」という意味・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15.0%
- 12.5%
- (イ)「ひきょうな」という意味・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・70.9%
- 69.8%
- (ア)と(イ)の両方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2.9%
- 4.7%
- (ア),(イ)とは全く別の意味・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2.1%
- 1.7%
- 分からない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9.2%
- 11.4%
〔年代別グラフ〕

全体では,本来の使い方とは違う(イ)「「ひきょうな」という意味」と回答した人の割合が7割を超え(70.9%),本来の使い方である(ア)「「一時しのぎ」という意味」(15.0%)を大きく上回っています。
年代別のグラフでも,全ての年代で(イ)「「ひきょうな」という意味」を選んだ人の割合が明らかに多くなっています。(ア)「「一時しのぎ」という意味」を選んだ人の割合は,60歳以上で2割弱(19.5%)と,他の年代に比べて高くなっています。
「姑息なやり方ばかりで,あいつはひきょうなやつだ。」というような言い方は,本来の意味に沿って考えても,全く不自然ではありません。重要なことについて,正面から取り組もうとせずに,「一時の間に合わせ」で済ませることに終始すれば,「ひきょう」と見られるのが当然だからです。このように,意味的につながりやすいところがあることで,「姑息」という言葉は「ひきょうな」という意味で用いられるようになってきたのだろうと考えられます。