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文化庁月報
平成25年10月号(No.541)

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連載 「日本の伝統美と技を守る人々 重要無形文化財保持者編」

重要無形文化財「佐賀錦」 保持者 古賀フミ氏

シルク博物館次長 大野美也子
古賀フミ

古賀フミ

重要無形文化財「佐賀錦」
指定年月日:平成6年6月27日


保持者:古賀(こが)フミ 本名:西山フミ
認定年月日:平成6年6月27日
(生年月日)昭和2年生  (在住)東京都文京区


【重要無形文化財および保持者のプロフィール】

 佐賀錦は,和紙または金銀の箔や漆を置いた和紙を細く裁断して経紙(たてがみ)とし,多彩な絹糸を(よこ)(いと)として織る染織技法です。
 古賀フミ氏は佐賀市に生まれ,幼少時より曾祖母と母の指導を受け,佐賀錦の伝統的な制作技法を習得したのち,さらに研鑽を積んで佐賀錦の技法を高度に体得して平成6年には初めて重要無形文化財「佐賀錦」の保持者に認定されました。昭和44年に第16回日本伝統工芸展で日本工芸会総裁賞(「佐賀(さが)(にしき)(おび)七夕(たなばた)」」),昭和57年に第29回日本伝統工芸展で日本工芸会会長賞(作品「佐賀(さが)(にしき)(ひし)(だすき)文帯(もんおび)玻璃光(はりこう)」」)を受賞するなど,その作風は現代感覚に(あふ)れ,芸術的にも優れたものとして高い評価を得ています。

 佐賀錦の原点を忘れず,基本の綾文様を大切にし,プリミティブな技法を用いて虚飾のない美しさを追求した作品を制作する古賀フミさんの雅な世界

佐賀錦

 江戸時代佐賀藩の城内で佐賀錦を手がけることは,女性のたしなみとされました。当時は,組物(くみもの)(くみ)(にしき)と呼ばれていましたが,後に大隈重信公によって「佐賀錦」と命名され,今日に至っています。

佐賀(さが)錦(にしき)紗綾形地(さやがたじ)花菱(はなびし)文帯(もんおび)「瑞(ずい)花(か)」 東京国立博物館所蔵 平成2年作(1990) 古賀フミさんの代表作。清々しい白の紗綾文地に金糸に囲まれたクサギの花文がきっちり並ぶ,気品ある雅な帯。

佐賀(さが)(にしき)紗綾形地(さやがたじ)花菱(はなびし)文帯(もんおび)(ずい)()
東京国立博物館所蔵 平成2年作(1990)
古賀フミさんの代表作。清々しい白の紗綾文地に金糸に囲まれたクサギの花文がきっちり並ぶ,気品ある雅な帯。

佐賀(さが)錦(にしき)菱(ひし)襷(だすき)文帯(もんおび)「四照花(やまぼうし)」 シルク博物館寄託 昭和56年作(1981) 初夏の風にさやぐ,ヤマボウシの花の美しさを藍と金に託し,菱(ひし)襷(だすき)文で構成した帯。

佐賀(さが)(にしき)(ひし)(だすき)文帯(もんおび)四照花(やまぼうし)
シルク博物館寄託 昭和56年作(1981)
初夏の風にさやぐ,ヤマボウシの花の美しさを藍と金に託し,(ひし)(だすき)文で構成した帯。

技法について

 細く裁断した和紙を台に貼り,竹篦(たけべら)で自在に(あや)の文様を組んで緯糸を通して制作するものです。経紙の貼り加減は特に肝心で,正確な綾の組み方とプリミティブな手加減によって綾の美しさが表出されます。

佐賀錦との出会い

 佐賀の城内で技法を習い覚え,継承を託された古賀フミさんの曾祖母・美寿さんは,高齢になっても日々佐賀錦を楽しみ,フミさんの母・八千代さんに継承されました。
 三歳の頃,曾祖母の織りのまねをするフミさんに母・八千代さんが小さな織台を作り,フミさんを膝に抱いて手をとって組み方を教えてくれたのが,フミさんと佐賀錦の出会いです。後に,この素朴な織物に,品格をと,フミさんは母・八千代さんと模索を続けることになります。

佐賀(さが)錦(にしき)網代地(あじろじ)籠目(かごめ)文(もん)笛(ふえ)袋(ぶくろ)「瑞光(ずいこう)」 文化庁所蔵(1982) 昭和57年作 佐賀錦の原点ともいわれる網代文に加飾して,かがよう瑞光(ずいこう)を表現した作品。

佐賀(さが)(にしき)網代地(あじろじ)籠目(かごめ)(もん)(ふえ)(ぶくろ)瑞光(ずいこう)
文化庁所蔵(1982) 昭和57年作
佐賀錦の原点ともいわれる網代文に加飾して,かがよう瑞光(ずいこう)を表現した作品。

作品について

 東京に移り,日本伝統工芸展に出品するようになり,それまでの試行錯誤をふまえて,古賀フミさんは新しい展開を試みます。
 佐賀錦では素材にも技法にも制約があって小物を作るのが従来一般的でしたが,それでは心象表現がままならず,帯などを織るようになります。
 作品に用いられる文様は,花菱(はなびし)()()(がた)などの伝統文から新しくつくるものまでさまざまです。素材にもデザインにも綾という制約がある小さなものに新しさを盛るには,イメージの元を豊かにすることが何より肝要とのことです。
 大好きなローマングラスや静かな水面,能楽堂の笛の音,山一面に咲くヤマボウシなど様々な美に接した,その時その時の想いが作品に込められています。
 最澄ゆかりの袈裟(けさ)糞掃(ふんぞう)()に感動し,その精神性の高い美しさに心を打たれ,虚飾のない美を追求するようになります。
 多彩な緯糸は自然の草木の恵みによって染め,経紙は,金箔などの加工化粧をとり去って原点にかえり,素肌のままの白い和紙を用いることが多くなります。

制作中の風景

制作中の風景

継承への想い

 今から60年ほど前,古賀フミさんが20代の頃,佐賀の古賀家を訪ねた柳宗悦氏の「手織の織物はすでに古くから高度なものが様々作られているが,平たい経に糸を通して自然にできる斜の線で文様を構成していくのは面白い。大事に続けるように。」との助言を忘れず,その本来の姿を逸脱せず,綾の文様を大切にして,豊かな装飾性をもちながら虚飾のない美しさを常に追求していくのが,古賀フミさんの佐賀錦の世界です。

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