大前光市さん 写真

大前光市さんインタビュー

“それぞれのカッコよさを見せる”

ダンサーを志していた20代初頭、左足を切断する事故に遭った大前光市さん。今では、義足のダンサーとしてリオ・パラリンピックや第68回NHK紅白歌合戦などの大舞台でダンスを披露している。そんな大前さんの踊ること、そして自身について、表現する当事者の声を聞いてみました。

始めに、「上手に踊る義足の人から、自分にしかできないダンスを踊れるようになった」という転機について語られている記事を拝見しました。その転機について伺いたいのですが、明確にどういったことが変化したのでしょう?

大前:個性が何かと考えたときに、明確に見せるものが変わったんです。だんだんと変わったんですけど、初期の頃は、足があった頃のような動き方、普通の人に近い動きを目指してました。普通の人と同じように義足にもシューズを履かせて、「僕は義足じゃないよ」となるべく普通の人に見えるようにしていました。

すると、その後に普通の定義が変ったのでしょうか?

大前:そうですね。徐々にですけど。

つまり障害受容ができたということでしょうか?

大前:障害受容というよりは、自己受容ですね。自分だからこそできる表現、かっこつける方向やセンスが変わりました。僕の専門はクラッシックバレエなので、古典的なものって美しさとか伝統があって決まってるんですよ。細くて体脂肪率が低くて手足がより長いのが美人・イケメンという暗黙の美意識があるんです。だから当時僕は普通の人以下みたいな価値観だと思ってもがいていました。町を歩いていても太目の人を見ても美しくないなと思ってしまうセンスだったんです。その人の中身も見ずに偏っている価値観だったんです。

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「カッコよさにも種類があります。マイノリティなカッコよさを見つけて受け入れてそれを一番の武器として使う」ということに気がついた大前さん。自信に満ち溢れ生き生きとインタビューに答えていただきました。

芸術の価値観が自分の生活の価値観にも影響を与えていたわけですね。それは精神的にしんどいですね。

大前:そういう世界にいながらずっとやっていると、それを目指していたわけですけど、頑張って普通のダンサーに見せようと練習してました。そこでうまくなっても言われる言葉は、「普通に動けるようになってきたねー」や「義足じゃなかったらねー」って言われる。それまでの動きにしがみついていて別の価値観があることをそれまで知らなかった。そうしているうちに運よく違う価値観を持った人に出会って、美しさは一つじゃないって思えるようになっていきました。その影響を受けられたから今の自分があるんですけど、そうじゃなかったら今でもコンプレックスの塊みたいな感じだったんじゃないかな。

価値観が変わる出会いというのはどのようなものだったんでしょう?

大前:大阪にAlphact(アルファクト)っていうグループがあって、アーティスト集団なんですが、ダンサーも複数いて、ひとりずつスタイルが違って自信をもっているような人達でした。複数人で踊っていると自然と自分の立ち位置を考えるようになりました。僕の場合は、柔らかく下にいるとか、ずっと床で動いてたんですよ。記念撮影をするときのようにポーズを決めるとしたらいつも下にいる、みたいに。最初はクラッシックバレエをずっとやってたので、飛んだりしたかったんだけど、その役はすでにいたので、僕は床で動くのをメインにする踊りになっていったんです。そうすると動きやすかったんです。それで自分のスタイルも決まっていったって感じですね。

なるほど。

大前:今のダンススタイルの原型はそこで出来てきました。そしてAlphactのメンバーが「義足外した方がいいよ」って言うので、半信半疑で外して踊ってるうちにだんだん受入られるようになってきて、お客さんも一定数は良かったと、これからも外して踊った方がいいよって言ってくれる人がいて、自分でもああそうなのかなって、徐々に思うようになって。

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今の踊りに取り組むようになって、派手に飛んだり跳ねたりするよりも、物語を想像させる演技のほうが人を感動させることができる、と動きよりも動かないときの方が大切と演出面についても話す大前さん。

それ以来、変わったことといえばほかにもありますでしょうか?

大前:まざまな障害の方と関わってステージを作っているんですけど、みんなが違う個性で、可能性があって、ちゃんと能力がある人だと証明できるところまで広がってきたと思います。

福祉的な意味ではなく芸術としてみられるということでしょうか?

大前:もっとそういう認識をされるように、社会からされるように持っていきたいですね。もちろんそれには技術が必要です。本人が楽しんでることが大事なんですけど、本当にわかりやすくないとダメだと思っていて。代表としてステージに立つ人は希望を与えられないと、それぞれのカッコよさを見せるというか。「個性個性というのであれば証明をしてみせろ」という投げかけに答えられるカッコよさがないとダメだと思うので、そういう演出の指導や振付を今は取り組んでいます。

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取材の最中、絶えず体を動かしながら表現について説明をしてくれた大前さん。テクニックを見せるのではなく、観客に想像させるようなストーリーを表現として見せる、そんなことを模索しているそう。また、現在は、「座っている自分の仕草に香が出るようにできたら」と日本舞踊の基礎に取り組んでいるとのこと。

撮影:三宅愛子

PROFILE

大前光市さん プロフィール写真

大前光市(おおまえ・こういち)

大阪芸術大学でクラシックバレエを学ぶ。24歳の時、交通事故で左膝下を切断。その後、不遇の時代を過ごすも2008年セルリアンタワー能楽堂の定期公演では、世界的ダンサーで振付家のアレッシオ・シルヴェストリンの作品で、能楽師・津村禮次郎と共演。片足でも魅せられるダンサーとしてその名を知られるようになる。2010年、全日本洋舞協会合同公演・なにわ芸術祭で、舞踊作家部門新人賞および大阪府知事賞を受賞。2016年のリオデジャネイロパラリンピック閉会式でダンスも披露。2017年にはNHK第68回紅白歌合戦に出演。

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