2024年5月27日
「内藤コレクション 写本
— いとも優雅なる中世の小宇宙」展
国立西洋美術館 主任研究員 中田明日佳
印刷技術のなかった中世ヨーロッパにおいて、写本は人々の信仰を支え、知の伝達を担う主要な媒体でした。羊や子牛などの動物の皮を薄く加工して作った紙に人の手でテキストを書き写し、膨大な時間をかけて制作される写本は、ときに非常な贅沢品となりました。テキストの区切りやページの余白には、華やかな彩飾が施されることもありましたが、それらの中には、書物としての実用の域を超えて、一級の美術作品へと昇華を遂げているものも珍しくありません。

《聖書零葉》
イングランド 1225-35年頃
彩色、インク、金/獣皮紙 内藤コレクション
国立西洋美術館では、2015年度に筑波大学・茨城県立医療大学名誉教授の内藤裕史氏より、写本リーフ(本から切り離された一枚一枚の紙葉)を中心とするコレクションを一括寄贈していただきました。その後も2020年にかけて、内藤氏ご友人の長沼昭夫氏からのご支援も受けつつ、新たに26点の写本リーフを所蔵品に加えています。内藤氏が数十年を費やして収集したコレクションは、時代的には13世紀から16世紀(以降の作例も若干数含む)、地域的にはイングランド、フランス、ネーデルラント、ドイツ、イタリア、イベリア半島と多岐にわたります。聖書や時祷書などキリスト教関係のものが大半を占めますが、世俗的な内容を持つ作例も若干数含まれます。

フランチェスコ・ダ・コディゴーロ(写字)、ジョルジョ・ダレマーニャ(彩飾)
《『レオネッロ・デステの聖務日課書』零葉》
イタリア、フェラーラ 1441-48年
彩色、インク、金/獣皮紙 内藤コレクション
当館は、2019-20年度に3期にわたり開催した小企画展で、内藤コレクションを紹介してきました。しかし、コロナ禍の折でもあったため、それらは小規模なものにとどまったと言わざるを得ません。こうした事情をふまえて、改めて内藤コレクションの作品の大多数を一堂に展示し、広く皆様にご覧いただくべく企画されたのが今回の展覧会です。また当館では、コレクションの寄贈を受けて以来、実践女子大学の駒田亜希子教授を客員研究員に迎えるとともに国内外の専門家からも広く協力を仰いで、個々の作品に関する調査を進めてきました。本展はその数年来の成果をお披露目する機会ともなるものです。

カマルドリ会士シモーネ(彩飾)
《典礼用詩編集零葉》
イタリア、フィレンツェ 1380年頃
彩色、インク、金/獣皮紙 内藤コレクション(長沼基金)
本展は、内藤コレクションを中心に、国内の大学図書館のご所蔵品も若干数加えた約150点より構成され、聖書や詩編集、時祷書、聖歌集など中世から近世初頭にかけて普及した写本の役割や装飾の特徴などをジャンルごとに見ていきます。この機会に是非、書物の機能と結びつき、文字と絵が一体となった彩飾芸術の美、「中世の小宇宙」をご堪能いただければ幸いです。

《時祷書零葉》
南ネーデルラント 1500年頃
彩色、インク、金/獣皮紙 内藤コレクション
国立西洋美術館
(住所)〒110-0007
東京都台東区上野公園7-7
- 問合せ
- 050-5541-8600(ハローダイヤル)
- 交通
- JR上野駅下車(公園口)徒歩1分
- 京成電鉄京成上野駅下車 徒歩7分
- 東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅下車 徒歩8分
- 開館時間
- 9:30~17:30
毎週金・土曜日 9:30~20:00
※入館は閉館の30分前まで
- 休館日
- 月曜日、7月16日(火)(ただし、7月15日(月・祝)、8月12日(月・休)、
8月13日(火)は開館) - 観覧料
- 一般1,700円、大学生1,300円、高校生1,000円
※中学生以下、心身に障害のある方及び付添者1名は無料です(入館の際に
学生証または年齢の確認できるもの、障害者手帳をご提示ください)。
※国立美術館キャンパスメンバーズ加盟校の学生・教職員は、本展を
学生1,100円、教職員1,500円でご覧いただけます(学生証または教職員証を
ご提示のうえ当館券売窓口にてお求めください)。
※観覧当日に限り本展の観覧券で常設展もご覧いただけます。
※詳細は、国立西洋美術館公式サイトをご確認ください。
※8月3日(土)は「おしゃべりOK『にぎやかサタデー』」を開催し、
常設展・企画展ともに無料観覧日となります。
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