研究成果の概要
(1)研究主題
著作権教育・知的財産権教育を通じて、「自他の権利を守り、尊重し合う社会づくり」に貢献できるこころ豊かな生徒の育成を目指して
ー生徒の発達段階を考慮した著作権を含む知的財産権について、「知り」「広げ」「高め」「深める」学習方法ー
(2)研究のねらい
本校では、「総合的な学習」の一環として、中学1年生において学びの基礎となる「STEP情報」を設定し、情報活用スキル・プレゼンテーションスキルの育成や課題設定スキルなどの育成を図っている。
とりわけ、情報の活用・処理・発表の場において、著作権・肖像権をはじめとする「知的財産権を守る」という姿勢・態度を中学生の頃より養うことが、「自他の権利を守り、尊重し合う豊かな社会」を形成するための、「こころ豊かな構成員」を育成する第一歩になると考える。
そこで、本研究では、生徒の発達段階を考慮し、著作権にかかわる内容・事例・問題点などを体験的に「知り」、著作権のみならずさまざまな知的財産権にまで視野を「広げ」、著作権の保護をはじめとして「自他の権利を尊重する」ことに対する意識を「高め」、「自他の権利を守り、尊重し合う豊かな社会づくり」についての考えを「深める」学習のあり方について、3カ年計画を立て研究を進めることにした。
さらに、教師・保護者への啓発と連携、大学・地域社会(地域の教育力)との連携を進め、より研究の成果を確かなものにしていくことで、『著作権教育・知的財産権教育を通じて、「自他の権利を守り、尊重し合う社会づくり」に貢献できるこころ豊かな生徒の育成』を目指すことにした。
(3)研究の概要
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研究計画の概要
以下に示すように、3カ年計画を立て本研究実践をすすめることにした。
- 1年次……平成18年度 基礎研究・一部試行期間
- 1年生を対象に、「著作権・知的財産権」について体験的に「知る」学習のあり方について研究実践をすすめる。
- 「著作権教育」にかかわる情報の収集を図るとともに、教職員・教育実習生への啓発活動を行う。
- 大学・地域の教育力の活用・協力方法を模索する。
- 2年次……平成19年度 実践研究・施行期間
- 1年次の成果と課題をもとに、2年生を対象に、著作権に留まらずさまざまな知的財産権にまで視野を「広げ」、「自他の権利を尊重する」ことに対する意識を「高める」学習の在り方についての研究実践をすすめ試行する。
- 大阪教育大学の現代GP「知的財産権教育のできる教員養成システムの構築」への研究協力を深め、教育実習校として教育実習生に対する「著作権を中心に知的財産権」にかかわる指導と授業実習のあり方についての研究実践をすすめ試行する。
- 大学・地域の教育力を活用し、生徒・教職員・保護者への啓発活動を推進する。
- 3年次……平成20年度(本年度) 研究のまとめ・施行期間
- 2年次の成果と課題をもとに、全学年を対象に、著作権・知的財産権をはじめ、「自他の権利を守り、尊重し合う社会づくり」についての考えを「深める」学習のあり方についての研究実践をすすめる。
- 知的財産権・著作権を保護者・地域に「広める」。
- 研究のまとめと課題点の総整理を行う。
- 1年次……平成18年度 基礎研究・一部試行期間
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平成18年度における研究の成果と課題の概要
平成18年度は、生徒が体験的に著作権を学ぶことができるようにするため、STEP情報(総合的な学習)において、「ひらの風土記」の作成活動を軸に、地域での取材活動のまとめ・発表会・風土記の作成時と並行して著作権にかかわる授業を行い、実践研究をすすめた。尚、詳細については、平成18年度の本校の研究報告書を参照願いたい。
成果としては、授業において、文化庁作成の中学生版クイズソフトや大学生版DVDを用いることは、生徒の興味や関心を高め、理解を促すためには適切な教材であることがわかった。
また、中学生版クイズを、個別にコンピュータの画面に向かって行うのではなく、今回、文化庁の協力で導入したeー黒板システムを用い一斉授業形態で行うことは、互いに意見を述べ合うことにより、個と集団の相即的発展を促すよい方策の一つでもあることがわかった。
さらに、「著作権」を単なる知識として扱うのではなく、実生活の中で「捉え活かす」方法・態度などを身に付けさせるためには、発表活動や著作物の作成活動などの実際の体験・経験活動を組み入れることが、より効果的であることがわかった。
しかし、HPの取り扱いや日常の学校生活面(部活動・委員会活動等)にかかわる内容について、著作権を守ろうとする意識が低く、著作権保護にかかわる配慮が不足していることがわかった。これらの点について、引き続き生徒の意識の改善を図り、他の人の権利を守ろうとする態度や行動が取れるような生徒を育成していくことが課題となった。
平成19年度における研究実践の成果と課題の概要
平成19年度は、学習内容を知的財産権を著作権にとどまらず産業財産権にまで視野を「広げ」られる授業を実践していくことを研究の目標の一つとした。また、教育実習生に「知的財産権」にかかわる研究授業を行わせ、研鑽を積ませることで、「知的財産権教育ができる教員」を養成する指導方法をも模索した。
「産業財産権」にかかわる教材や指導案については、独立行政法人・工業所有権情報・研修館の協力により無償で生徒分の教材を整えることができた。また、教育実習生への「知的財産権教育」にかかわる指導・授業の在り方についても、ある程度の方向性を定めることができた。
著作権教育にかかわっては、担当教員だけでなく、教職員が協力して、日常の学校生活のなかに埋もれている著作権を掘り起こし、あらゆる場面を通じて生徒に啓発していくことで、「著作権をはじめ、自他の権利を尊重する」ことに対する意識を「高め」られることがわかった。
しかしながら、日常の活動のなかに埋もれた著作権についての認識や意識を高めるためには、学校だけでなく家庭・保護者の協力を得ることが必要であると考える。そのためにも、家庭・保護者にまで著作権にかかわる啓発活動を「広め」、「自他の権利を守り、尊重し合う社会づくり」についての考えを「深める」ことが今後の課題となった。尚、詳細については、平成19年度の本校の研究報告書を参照願いたい。
平成20年度における研究実践概要
本年度は、研究の最終年度にあたり、本研究の総括を行うとともに、著作権・知的財産権をはじめとして、「自他の権利を尊重する」ための考えを「深める」学習のあり方や地域・保護者に「広める」ことを研究の主な目標としている。
その一方策として、外部講師を招き知的財産権・著作権にかかわる講演・授業を全学年で行うことにした。かかる講演・授業に、保護者や地域の方々の参加を募り、著作権・知的財産権についての視野を保護者や地域に「広める」とともに、生徒の知的財産権保護にかかわる意識を「高める」ことができるよう計画し、実践研究に取り組んだ。
さらに、地域社会における人権にかかわる活動に積極的に参加・協力をすすめることで、著作権・知的財産権にとどまらず、自他の権利を尊重するための考えを「深める」ことができるよう計画し、実践研究に取り組んだ。
これらの活動を通じて「自他の権利を守り、尊重し合う豊かな社会づくり」に努める「こころ豊かな生徒」を育成できるよう努めることにした。
(1) 2年次の成果と課題をもとに、全学年を対象に、著作権・知的財産権をはじめ、「自他の権利を守り、尊重し合う社会づくり」についての考えを「深める」学習のあり方についての研究実践をすすめる。
①体験的に著作権について「知る」学習ー1年生ー
1年生においては、平成18年度・19年度と同様に、STEP情報(総合的な学習)において、著作権について体験的に「知る」学習を行った。尚、詳細については、平成18年度・19年度の本校の報告書をご参照願いたい。
さらに、本年度は、経済産業省近畿経済産業局の協力を得て、科学技術庁長官賞を受賞された谷本昭良氏を講師に招き、10月2日(木)に1年生及びその保護者を対象にした「著作権を含む知的財産権教育」の授業を展開していただき、知的財産権・著作権について「知る」学習の補完を行うとともに、保護者に「広める」ことができるよう取り組んだ。尚、詳細については、『(2)知的財産権・著作権を保護者・地域に「広める」』において述べることにする。
②「さまざまな知的財産権」にまで視野を「広げ」、「自他の権利を尊重する」ための意義を「高める」学習ー2年生ー
2年生においては、平成19年度と同様に、「学校生活面」での著作権保護に関する意識を「高める」ために各教科で取り組むとともに、さまざまな知的財産権にまで視野を「広げる」学習を行った。
著作権保護に関する意識を「高める」ための各教科の取り組みのなかで、特に顕著な例として、1・2年生の社会科での取り組みを上げることができる。
この取り組みは、昭和シェル石油主催・環境省後援『環境フォトコンテスト「わたしの町の○と×」』に参加することを通じて、単なる環境教育ではなく、写真を撮るという著作活動を通じて(著作者として)、環境を保護する姿勢や態度を身に付けるとともに、「自然や環境、人権が尊重される豊かな社会づくり」に貢献しようとする姿勢や態度を身に付けた生徒を一人でも多く育成するために実施したものである。
生徒の作品をコンテストに応募したところ、会長賞(1年生)と学校団体賞を受賞することになり、著作物を通じて「環境や人権について考える」よいきっかけとなるとともに、身近な社会貢献の仕方のよい原体験になったものと考える。(別紙資料1)
尚、各教科・生徒の具体的な取り組み例については、平成19年度の本校の報告書を参照願いたい。
さらに、2年生では、3月3日(火)に、文化庁の協力を得て、コンピュータ・ソフトウェア著作権協会より三橋信司氏・井関裕紀子氏の両氏を講師に招き、生徒及びその保護者・地域の方々を対象とした「身近な著作権」についてのワークショップ型の授業を展開していただいた。
この授業を通じて、生徒の著作権保護に関する意識が「高め」られただけでなく、参加した保護者の方々にとっても、著作権について考えていく上で大いに参考(地域に「広げる」活動)になったものと考える。尚、詳細については、『(2)知的財産権・著作権を保護者・地域に「広める」』において述べることにする。
③「自他の権利を守り、尊重し合う社会づくり」について考えを「深める」学習ー3年生及び1・2年生ー
3年生において、経済産業省近畿経済産業局の協力を得て、前述の谷本昭良氏を講師に招き、6月26日(木)に3年生及びその保護者を対象に、「著作権を含む知的財産権教育」の授業を展開していただき、知的財産権・著作権保護にかかわる意識を「高める」とともに、保護者に「広める」ことができるよう取り組んだ。尚、詳細については、『(2)知的財産権・著作権を保護者・地域に「広める」』において述べることにする。
さらに、全学年を通じて、『著作権教育・知的財産権教育を通じて、「自他の権利を守り、尊重し合う社会づくり」に貢献できる生徒の育成』をするために、次のような「自他の権利を守り、尊重し合う社会づくり」について体験を通じて考えを「深める」学習に取り組んだ。
i 人権についての考えを「深める」学習の概要
本研究では、『著作権教育・知的財産権教育を通じて、「自他の権利を守り、尊重し合う社会づくり」に貢献できる生徒の育成』をめざしている。従って、ただ単に著作権や知的財産権を知っているだけの生徒の育成をめざしているわけではない。
自分たちの作成した著作物を通じて(著作者として)、自他の権利を守る姿勢や態度を身に付けるとともに、人権が尊重される豊かな社会づくりに貢献しようとする姿勢や態度を身に付けた子どもたちが一人でも多く育つことをめざしている。そのためには、何らかの体験を通じて社会から賞賛されることが一つのきっかけ(原体験)となり、「自他の権利を尊重する」ための考えをより「深める」ことができると考えた。
そこで、生徒たちに、夏休みを活用して国及び地方公共団体(大阪府・大阪市・堺市)が毎年応募している「心の輪を広げる体験作文」「障がい者週間のポスター」「わが町のやさしさ発見レポート」の三者よりいずれか一つを選択して、作品(著作物)を作成・応募する活動に取り組ませ、地域社会における人権にかかわる活動に参加・協力できるよう各学年を通じて呼びかけを行った。
作文・ポスター・レポートという異なる三分野から一つを選択するという形を取った理由は、できるだけ生徒たちの得意とする分野で自分たちの力を発揮できるようにすることで、活動意欲や取り組む姿勢を態度を高め、持続させることができると考えたためである。
この呼びかけに対して、作品の提出率は非常によく、9割以上の生徒が自分の著作物をつくつることを通じて社会貢献活動に参加したことになる。(表1参照)
表1 参加率と内訳
1年/120名 2年/120名 3年/119名 参加率 92.5% 91.7% 90.0% 作文 49.5% 51.7% 54.1% ポスター 14.2% 15.0% 8.3% レポート 36.3% 33.3% 37.6% 3年生の参加率が他の学年より、高くなることをこの3年間の取り組みから期待していたが、やはり、学年が高くなるにつれて参加率が少しずつ低下していることが表1からわかる。これは、やはり受験期を向かえ、夏休み明けには進路を方向づける資料の一つとなる実力テストがあることが大きく影響しているものと考える。
また、著作物の内訳を見ると、どの学年も共通してポスターへの取り組みが低く、作文への取り組みが高くなっている。これは、作文の作成の方が、ポスターの作成より、時間も労力も少なくて済むということに関わっているものと推測できる。
しかしながら、ポスター作成より、時間と労力がかかるであろうレポートの作成により多くの生徒が取り組んでいることがわかる。これは、その題材によるものであると考える。ポスターは「障がい者週間のポスター」と題材が抽象的であるが、レポートは「わが町(大阪市にある施設・設備)のやさしさ発見」と生徒にとっては具体的で身近な題材が示されているためであると考える。
これらのことより、一つの共通課題を全学年の生徒に課すより、発達段階や興味・関心を考慮に入れ、複数の課題から選択させ著作物を作成させることの方がより活動意欲を高めるに効果的であり、その題材は、より身近で具体的で、取り組みやすいものであることが必要条件となることがわかった。
A 人権についての考えを「深める」学習の成果と考察
生徒作品(著作物)を大阪府及び大阪市に応募したところ、「心の輪を広げる体験作文」では、最優秀賞(府1名・市1名)・優秀賞(府1名・市2名)を受賞し(別紙資料2)、最優秀作品の作者は、大阪府知事が出席する表彰式の場で作文を朗読するという機会にも恵まれた。
また、「障がい者週間のポスター」でも、最優秀賞(市1名)・優秀賞(府1名・市1名)を受賞した。大阪市の最優秀賞作品は、国に推薦され内閣府より佳作として表彰された。(別紙資料3)
さらに、「わが町のやさしさ発見レポート」では、大阪市社会福祉協議会会長賞(1名)、審査員特別賞(1名)、優秀賞(2名)佳作(3名)を受賞した。(別紙資料4)
これらの取り組みは、生徒たちにもできる著作物を通じて、身近な社会貢献=「自他の権利を守り合い、尊重し合うことができる社会づくり」=のよい原体験になるとともに、参加したすべての子どもたちにとっても、自分の得意とする分野(作文・絵画・レポート)で自分自身を表現する活動や体験を通じて、「人権を守り、尊重する」ことについて自分自身の考えをより「深める」ことができたものと考える。
(2)知的財産権・著作権を保護者・地域に「広める」
外部講師を招聘し、学校において授業・講演を行うためには予算の裏打ちと事前の日程調整が必要になる。著作権・知的財産権教育に関して、無償で授業・講演をお願いできる団体・組織・事業として、「経済産業省知的財産教育支援事業」や「発明協会」、「弁理士協会」などを上げることができる。
今回は、「経済産業省知的財産教育支援事業」に19年度中に申請し、20年度中に2回「知的財産権・著作権教育」授業を無償で実施していただくことになった。また、本研究予算より、文化庁の協力を得て、東京のコンピュータ・ソフトウェア著作権協会より講師に招き、生徒・保護者・地域の方々を対象とした「身近な著作権」についてのワークショップ型の授業を実施していただくことになった。
@「著作権を含む知的財産権教育」の授業の概要 ー3年生・1年生及びその保護者を対象にー
@ 3年生での実践事例
- 実施日時 平成20年6月26日(木) 13:30〜15:00
- 講 師 谷本昭良氏・元シャープ株社員・科学技術庁長官賞受賞
- 協 力 経済産業省近畿経済産業局・発明協会大阪支部
- 参加人数 生徒 3年生119名 教員3年担当者6名 保護者 8名
今回の授業は、3年生を対象に知的財産権・著作権についての視野を「広げ」、知的財産権保護についての意識を「高める」とともに、保護者に「広める」ことを目的として実施することにした。そのため、事前に講師の先生と打ち合わせを行うなかで、次のような授業を展開していただくことになった。
電卓のもたらした効果 ・商業分野に役立つ電卓 知的財産権の学習 ・なぜ知的財産権が重要なのか
・特許ってどんなもの
・意匠ってどんなもの
・商標ってどんなもの
・著作権ってどんなもの
・知的財産権の相談窓口電卓の歩の実際 ・実際の電卓の見学 日常に見る知的財産権と出願・調査 ・日常事例
・調査方法と出願方法まとめ ・質疑応答、その他 授業では、電卓の歴史やその開発の工夫のポイントや苦労話、特許・意匠・商標・著作権について、具体的な事例を提示していただき(別紙資料5・6)、知的財産権・著作権についての視野を「広げ」、権利保護の意識を「高める」内容になっていた。また、電卓の歩みについて実際に製品を展示していただいたり、知的財産権クイズ(別紙資料7)を取り入れていただいたり工夫していただくことにより、興味や関心が高まったものと考える。
A 1年生での実践事例
- 実施日時 平成20年10月2日(木) 13:30〜15:00
- 講 師 谷本昭良氏・元シャープ株社員・科学技術庁長官賞受賞
- 協 力 経済産業省近畿経済産業局・発明協会大阪支部
- 参加人数 生徒 1年生120名 教員1年担当者5名 保護者 8名
今回の授業は、1年生を対象に知的財産権・著作権について「知る」ことを中心とした入門的な授業を展開していただくよう、講師の先生と事前の打ち合わせを行った。その結果、次のような形で授業を展開していただくことになった。
創意工夫の実際 ・歴史から見た創意工夫
・最近の学習でつくられたもの
・一般生活にみる工夫の例電卓に見る創意工夫 ・「歴史電卓と最新電卓」の見学
・創意工夫の簡単な実習
・電卓づくりにおける創意工夫の経験談創意工夫と知的財産権 ・類似品による影響
・「発明」とその事例
・「意匠(デザイン)」とその事例
・「著作権」とその事例
・製品をPRしようまとめ ・質疑応答、その他 授業では、知的財産権や著作権にかかわるクイズや実際の電卓の展示見学、ホームページ作成と著作権など、分野・テーマ別に身近で具体的な事例を提示していただく中で(別紙資料8・9)、保護者・生徒とも興味深く知的財産権・著作権について学ぶことができた。
しかし、経済産業省近畿経済産業局の支援事業の一環として行ったため、著作権にとどまらず知的財産権にまで内容を広げざるを得なかった。そのため、1年生にとっては、少し難しい内容となってしまったことが残念である。この点を解消するためには、更に綿密な事前の打ち合わせを行い、目的や内容を絞り込む必要があると考える。
② 著作権に関する認識を「高め」「広める」授業の概要 ー2年生及びその保護者を対象にー
@ 授業の準備と概要
この授業は、文化庁の協力を得て、東京のコンピュータ・ソフトウェア著作権協会より講師に招き、次の日程・内容・方法で実施することになった。
- 実施日時 平成21年3月3日(火) 12:30〜15:30
- 講 師 三橋信司氏・井関裕紀子氏
- 協 力 文化庁著作権課・コンピュータ・ソフトウェア著作権協会
- 配布資料「それは違法かも。ー教えて著作権のことー」ACCS
「マンガ インターネット・携帯時代の危険な遊び」
ー中学・高校編 ACCS情報モラルハンドブック3ー PPT(パワーポイント)のプリント - 参加人数 生徒2年生119名 教員3年担当者6名 保護者15名
今回の授業は、2年生を対象に著作権保護に関する意識を「高める」だけでなく、保護者・地域の方々に「広める」ことを目的としている。そのため、内容に関しては、できるだけ身近で、具体的な事例を取り扱っていただくと共に、保護者・生徒が共に参加できる形態をとっていただくように配慮をお願いし、次のような授業を構築していただいた。
準備 11:00〜 ・事前打ち合わせ
・学校内の著作物の写真撮影
・上記写真の○×クイズへの挿入授業展開
12:30〜
13:00〜
13:40〜
14:00〜
14:50〜・挨拶
・ビデオ上映「ゲゲゲの鬼太郎とコピー妖怪」
・ホンモノ?ニセモノ?クイズ カバン(LV)ゲームソフト ビデオ CD 生徒・保護者による実物比較
・休憩
・著作権講座(座学)「著作権ってなに?」「情報モラルってなに?」
・著作物発見・○×クイズまとめ 15:20〜 ・質疑応答、その他 尚、保護者の方々の参加に関しては、別紙資料10のプリントを配布し、PTA役員・委員会による参加の呼びかけの協力を要請した。また、地域に関しては、学校評議委員(地元自治会選出)の方のご協力を得、別紙資料11のプリントの回覧をお願いし、参加を呼びかけた。
授業は、ビデオ上映、コピー商品を実際に見分けるなど具体的な例示により、興味や関心を高めた後に、座学において知識を整理し、クイズでそれを応用する形になっており、生徒・保護者とも「著作権保護」に関する意識を「高める」ことができるようになっており、今後、「著作権教育」の授業を行う際の非常に良い参考となった。
Aアンケート結果と考察
今回の授業では、別紙資料12の事前のアンケート調査を行い、生徒の「著作権」に関する認識度を確認するとともに、授業後に別紙資料13の事後アンケートを行うことで、認識や意識、考え方の変容を観ることにした。尚、アンケートはACCSの承諾を得た上で、本校で一部改変したものを利用した。また、参加した保護者にも、事前・事後のアンケートの協力をお願いしたが、参加者は18名であり、期待したよりも少なく、統計データとしては適切ではないと判断したため質的データとしてのみ取り扱うことにした。
○事前のアンケート結果と考察
2年生では、1年生時に「著作権授業」(文化庁作成の著作権クイズや著作権DVDの視聴)を行っているにもかかわらず、『著作権という言葉を知っているか』という問2-1に対して、「講演・書籍等で勉強したことがある」と答えた生徒が31.5%に留まったことは残念である。しかし、「聞いたことがあるが内容はよく知らない」と答えた生徒が58.6%もいることから、「講演・書籍等で勉強したことがある」という問いだけでなく、「授業やパンフレット、本等から学んだことがある」という問いを設ければ、その数値は少なくとも90%に達していたものと推測できる。

次に『情報モラルという言葉を知っているか』という問2-2についてであるが、本校では、1年生時に技術・家庭科の「情報基礎」で「インターネット利用の十戒」として、「情報や著作物を不正に利用してはいけない」ということは学んでいるにもかかわらず、62.2%の生徒が「知らなかった」と答えている。

さらに、『著作権について疑問に思うような行為を見聞きしたことがあるか』という問3に対して、「海賊版販売」や「マジコンの利用」「Winnyなどのファイル共有ソフトの利用」に高い関心を示しているにもかかわらず、『正規の料金を支払わずにコンテンツを手に入れて楽しむことについて、どのように考えるか』という問いに対して、「問題がある」と答えた生徒が22.5%に留まり、「問題はない」「分からない」と答えた生徒を合わせると8割近くの生徒は、「情報モラル」にかかわる問題については関心はあるが、自分自身がとるべき行為についての「モラル(意識・認識)」が低いと考えることができる。

これは、『情報モラルという言葉を知っているか』という問4に「学んだことがある」と答えた生徒が6.3%に留まっていることからもわかるように、「情報モラル」について「情報基礎の時間」や「STEP」で学んだ内容と自分自身が取るべき行為とが結びついていない生徒が非常に多くいると考えることができる。
この生徒の意識を改善し、著作権を通じて「情報モラル」についての意識を高め、「自他の権利を守り合い、尊重し合うことができる社会づくり」に努める姿勢・態度を養うことが、本研究の重要な目標となっている。
○事後のアンケート結果と考察
授業後のアンケートを見ると、『今日の授業で著作権について、どのようなことがわかったか』という問2に対して、81.1%の生徒が「身近な著作権やさまざまなものに著作権があることがわかった」と述べるとともに、その内の10.8%の生徒が、「他者の権利の尊重や文化の尊重を考える必要性」にまで踏み込んで意見や感想を述べていることが分かった。


また、『今日の授業で著作権について、もっと詳しく聞きたかったこと、知りたかったことは何か』という問3に対して、69.4%の生徒が「携帯・ネット・DVDの利用方法や違法コピーの具体事例について知りたかった」と答え、身近な著作物の利用方法を通じて「情報モラル」についてを考えようとする意識が高まったものと判断することができる。これは、『配布資料のうちで、参考になったものは何か』という問5に対して「それは違法かも?」「情報モラル」のパンフレットが参考になったと答えている生徒が多いことからも分かる。

また、『今後どのようなことに注意して生活していくか』という問4に対して、88.3%の生徒が、「著作権に気を付け不正行為をしない」「ネットからの引用、海賊版の使用、不正コピーをしない」と答えており、事前アンケートでわかった「著作権保護にかかわり、自分自身がとるべき行為についてのモラル(意識・認識)の低さ」は、この授業を通じて改善できたものと考えることができる。しかし、「自分の権利だけではなく、他者の権利を守る」ことにまで考えを「深め」ている生徒が8.1%に留まっていることも確かである。
「自分の権利だけでなく、他者の権利を守る」ことにまで考えを「深める」ため、来年度以降も継続して、前述の(1)の③で述べた「著作物の作成を通じて、地域社会における人権にかかわる活動」に積極的に参加・協力することで、「自他の権利を守り合い、尊重し合うことができる社会づくり」に貢献できる生徒を育成していきたいと考える。
B 保護者・地域の方々に「広める」
今回実施した3回の授業・講演を通じて保護者の参加数は、延べ31名に留まるとともに、地域からの参加は0名と非常に低いものになった(生徒数359名)。
特に、3回目の「著作権教育」については、PTA役員・委員会による参加を呼びかけたものの、卒業式・学年PTAの開催を目の前に控えた年度末の3月初めであったためか、予想より少ないものとなった。
数少ない事後アンケート結果を見ると、「子どもが、今、興味がある部分で何をしてはいけないのか、何が認められるのかについて知りたかった。」など、子どもの健全育成という観点からの要望が多く見られた。
今後、保護者・地域に「広める」という観点から「著作権教育」にかかわる講演会・授業を行う場合は、「携帯・ネット社会でどう子どもを育むか」「情報の氾濫と子どもへの与え方」「ホンモノとニセモノ、何をどう判断すべきか」など、身近で子どもの健全育成にかかわることをテーマ・問題に取り上げ、保護者向けの文化講演会を学校のPTA行事として開催し、より多くの保護者・地域の方々の参加を呼びかける必要性を強く感じた。
(4)研究の成果
本年度は、研究の最終年度にあたり、『著作権教育・知的財産権教育を通じて、「自他の権利を守り、尊重し合う社会づくり」に貢献できる生徒の育成』を図るための『発達段階を考慮した著作権を含む知的財産権について「知り」「広げ」「高め」「深める」学習方法』の総括を行うことが研究の大きな目標になっている。この三年間の研究で得た成果や反省を踏まえて、かかる学習方法を構図としてまとめると以下のようになる。
①発達段階を考慮した著作権教育の在り方について
学習の構図で示したように、生徒の発達段階を考慮し、『著作権教育・知的財産権教育を通じて、「自他の権利を守り、尊重し合う社会づくり」に貢献できる生徒の育成』を図る学習方法としては、1年生時には「知る」ことを目的とし、総合的な学習の時間を活用して、著作物を作成するという体験活動を取り入れ「著作権教育」に関わる授業を文化庁作成のクイズやDVDを使用し展開することが大切である。(具体事例については、平成18年度の本校報告書を参照願いたい。)また、生徒の興味や関心、意識を高めるためには、関係諸機関・諸団体(コンピュータ・ソフトウェア著作権協会(ACCS)・発明協会・弁理士会など)より講師を招聘し、「著作権・知的財産権」にかかわる授業を行うことがより効果的である。
その上で、2年生時に、著作権に留まらず知的財産権にまで視野を「広げる」ため、独立行政法人・工業所有権情報・研修館発行の「産業財産権」にかかわる教材や指導案などを活用し授業を行ったり、関係諸機関・諸団体より講師を招き、「著作権・知的財産権」についての授業を行ったりすることが重要である。
さらに、「著作権・知的財産権の保護や情報モラル」にかかわる意識を「高める」ためには、担当教員だけでなく、教職員が協力して、日常の学校生活のなかに埋もれている著作権やさまざまな権利を掘り起こし、あらゆる場面を通じて生徒に啓発していくことが大切である、(具体事例については、平成19年度の本校報告書を参照願いたい。)
特に、3年生時の早い時期もしくは2年生の後期に、コンピュータ・ソフトウェア著作権協会(ACCS)などの協力を得て講師を招聘し「著作権・情報モラル」に関する授業を行うことは、「著作権」や「知的財産権」についての視野を「広げる」だけでなく、「情報モラル」についての意識を「高める」ために、非常に有効な手段であるといえる。
これらの取り組みと並行して、国や地方公共団体、民間団体が人権啓発活動の一環として行っている作文・ポスター・レポートなどの作品募集に、積極的に参加・協力する体制・組織をつくり、著作物の作成を通じ、身近な社会貢献ができるようにすることは、「自他の権利を守り合い、尊重し合うことができる社会づくり」のよい原体験になるとともに、「人権を尊重する社会」の構成員の一人としての自覚や考えを「深め」、「人権を尊重する社会」をつくりあげていこうとする姿勢や態度を養うための有効な方策であるといえる。
②教職員への啓発活動と地域の教育力の活用について
「著作権教育」をすすめるためには、教職員の「著作権・知的財産権」にかかわる認識や意識を高めることが不可欠である。
「著作権・知的財産権」にかかわる認識や意識を高めるためには、年1〜2回の校内研修会を開催するための研修体制や「著作権・知的財産権」にかかわる各種セミナーへの参加を促す研修体制を整備することが必要となる。かかる教職員への研修に、地域の教育力(国・大学・関係諸団体)を活用し、校内研修会へ講師を招聘したり、各種セミナーに参加したりすることが有効である。
また、日常の教育活動において、教職員の「著作権保護」に対する意識を高めるために、次の表のような書籍やパンフレットを配布、閲覧できるようにすることも必要になる。
- 文化庁「学校における教育活動と著作権」
- 教育出版「必携!教師のための学校著作権マニュアル」
- 岩波ACTIVE新書19「知っておきたい情報モラルQ&A」
- メディア教育開発センター「著作権法の基礎知識」
- 文化庁「学校向け指導事例集」「著作権テキスト」
- コンピュータソフトウェア著作権教育「デジタル時代の著作権基礎講座」
- 私的録音補償金管理協会「生徒・教師のための著作権教室」
- 著作権情報センター「はじめての著作権講座U」
とりわけ、文化庁発行の「学校における教育活動と著作権」や「学校向け指導事例集」は、日常の学校生活における生徒の「著作権保護」の意識を「高める」活動を行う上で、利便性があるとともに有効に活用できるものであるといえる。
その上で、教職員の誰もが「著作権・知的財産権教育」を行えるようにするには、研究の主担者が作成・開発した教材や指導案を提示し、それに基づき、授業を行えるようにする必要がある。
しかしながら、研究の主担者とはいえ「著作権・知的財産権」の専門家とはいえないため、下記のような専門組織が作成した教材や指導案を有効に活用することが大切である。
- 文化庁「著作権クイズ」中学校版・文化庁「映像で学ぶ著作権」
- 工業所有権情報・研修館「産業財産権標準テキスト」
③地域・保護者への啓発活動について
「著作権・知的財産権保護」や「情報モラル」に関する生徒の意識を「高める」には、学校だけでなく家庭・保護者の協力を得ることが必要である。そのため、本校では、家庭・保護者・地域に「著作権や知的財産権、情報モラル」について「広める」ことを目的に、講師を招聘し授業・講演を3回(6月・10月・3月)実施した。
しかしながら、非常に参加数(延べ31名)が少なかったことが問題として残った。「著作権教育」にかかわる講演会・授業に、より多くの保護者の参加を募る方策として、「携帯・ネット社会でどう子どもを育むか」「情報の氾濫と子どもへの与え方」「ホンモノとニセモノ、何をどう判断すべきか」など、身近で子どもの健全育成にかかわることをテーマ・問題に取り上げ、保護者向けの文化講演会を学校のPTA行事として開催し、より多くの保護者・地域の方々の参加を呼びかける必要性があると考える。
④まとめにかえて
本年度で、本研究を終えることになるが、この3年間の研究を通じて、生徒だけでなく、教職員も「著作権・知的財産権」について「知り」、著作権のみならずさまざまな知的財産権にまで視野を「広げ」、「著作権・知的財産権保護を通じて自他の権利を尊重する」ことに対する意識を「高め」、「自他の権利を守り、尊重し合う豊かな社会づくり」についての考えを「深める」ことができたものと確信する。
しかしながら、保護者・地域に「広める」ことが不十分であったことは否めない事実である。この課題を改善する取り組みの一つとして、平成21年度から本校で実施するということになっている「携帯電話の携行にかかわる保護者への啓発活動」を活用していこうと考えている。
本校では、大阪府下・奈良県下より生徒が通学しているため、平成20年度までは、「携帯電話の学校への携行」は「安全の確保・緊急時の連絡方法」として暗黙の了解事項となっていた。しかし、保護者の知らない間に、生徒同士で発信した携帯メールに絡む生活指導上の問題が発生するなど、携帯電話に関する社会情勢や教育情勢が大きく変化してきた。
そのため、本校においても、平成21年度からは、「緊急時の連絡方法としての携帯電話の学校への携行」を許可申請制とし、許可を申請している家庭に対して、学期に1回開催する「携帯電話の利用方法」にかかわる講演会(啓発活動)への参加を強く要請することになった。
この講演会において「携帯・ネット社会における子どもの健全育成」をテーマに掲げ、ACCSなどの関係諸団体・諸機関より講師を招聘して開催し、「著作権・知的財産権」についての視野を「広める」だけでなく、「情報モラル」の意識高揚にかかわる学校及びPTAによる組織的な啓発活動の一環として実施したいと考えている。
今後とも、この研究で得た成果と反省を活かし、「著作権教育」を通じて、「自他の権利を守り、尊重し合う社会づくり」に貢献できる生徒の育成を図ることに努める所存である。
最後になりましたが、文化庁著作権課をはじめとして、コンピュータ・ソフトウェア著作権協会、経済産業省近畿経済産業局・発明協会大阪支部、大阪教育大学・現代GP「知的財産権教育のできる教員養成システムの構築」など、本研究にご支援・ご協力いただいた関係諸機関・諸団体の皆様方に、この紙面を借りて、深く御礼申し上げます。