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議事 学術用語分科審議会の質問に対する回答案について
(土岐会長回答案朗読)
前 田
英語の語尾の長音符号についてのところがはっきりしない。今用いられている語で,長音符号のついているものはそのままで,そのほかのものはつけなくてもよいというのか。将来つけてもつけなくてもいいということは,「どちらにも決めないということを決めた」にすぎないのではないか。
颯 田
難問を課せられた形である。長い慣習は破ることができない。現場ではつけない傾向である。つける,つけないは発音によるので,現場の実際に即して決めるべきであろう。しかし将来はつけないほうがよろしいとはいえない。
前 田
従来の慣習を尊重することはよくわかった。将来については,だいたいつけないほうがよいのか,もっとはっきりさせる必要がある。「必ずしもつけなくてよい」では,人によってまちまちで混乱する。「将来は原則としてつけない。意味が不明になるおそれのあるものにつける」と訂正してもらいたい。タイプライタの技術の簡素化にたずさわっている自分としては,「タイプライタ」として長音符号をつけない。「ー」を意識して発音しても,「ー」の発音ははっきりしない。機械の簡素化,文書の簡素化を考え,タイプそのものの名称の簡素化を考えているが,業者は何々タイプライター会社といっている。これは商標になっているので変えられないからである。しかし,タイピストの間では,「タイプライタ」と慣習が変りつつある。たった1本の「ー」であるが,全国的に能率に影響がある。とる方向に向けたい。
颯 田
わたくしの説明が足りなかった。つける,とるの決定はしていない。発音によるのである。わたくし個人は「ー」をとるほうに賛成である。字のないところに「ー」を引いて長さを決めるなどは不賛成である。
前 田
この回答文の表現では,颯田委員の意志がわからない。長音符号を用いるけれども,つけなくてもいいでは何をいっているのかわからない。具体的にこういう場合にはつけると,はっきり示してもらいたい。
土岐会長
別紙のほうの2枚目の2の説明で了解願えないか。部会長の説明を文章にしたものである。
前 田
これは審議の資料でなくて回答書類なのか。
土岐会長
そうである。
前 田
語例のうち「タイプライター」だけは除いていただきたい。せっかく長音をとる方向になったのを,またつけることになってしまう。他の例に変えてもらいたい。
土岐会長
例のうちから「タイプライター」をとるか,どうか。
緒 方
例をとるよりまえに,説明の文をもう少しわかりやすくしたほうがよい。技術的な意味で,この文では誤解を生ずる。
颯 田
とることが理想であるというわたくし個人の考えが否決されたのである。修正文はどうしたらよろしいか。
土岐会長
返事を受け取る側の有光委員がさいわいこの席に見えているから,どう受け取るかを伺ってみてはどうか。
有 光
ただ今は御説明付きで承っているから,学術用語分科審議会で誤解することがないと思うが,各方面に流す場合,万一,文字の表現に基いて解釈することになると,なるべく的確な表現になったほうがいい。しかし文章の苦心で回答が遅れるのも遺憾であるから,皆さんのお考えに従いたい。
佐野分科会長
大部分の専門のかたがたから承ったことによると,省く方向になっているそうであるから,例を省けばよいだろう。
土岐会長
もう意見はないか。原文のままでよろしいか。
緒 方
修正はなくてもよろしいが,解釈がぐらついている。はじめの2行が主文で,長音符号をつけるのが主となっている。解釈が変るような文では困る。
有 光
長音符号をつけるのが主であるとして解釈する。
土岐会長
本文はこのままでいい。「タイプライター」のほうは省く意見が多いようである。
颯 田
例は省いてもよろしい。総会に出した案であるから,手を加えてくださればけっこうである。
緒 方
わたくしもこの語例は省いたほうがよいと思う。
土岐会長
「タイプライター」だけを例のうちから省くことにする。
有 光
「タイプライター」とのばすのが常識になっているのに,「ー」を省くのはどんな理由か。
前 田
終戦後タイプ簡素化についていろいろ考えなければならなくなり,その研究には,ここの委員のかたにも参加していただき,業者も加わり,「タイプライタ」と決めた。タイピスト検定試験もそうなっている。ただ業者の商売上の固有名詞は20年来の商標なので改められないが,終戦後できた機械は何々タイプライタといっている。名まえと製品と歩調を合わせるのが得策である。
緒 方
省いたらという理由は,簡素化の事業に同情しての意見で,わたくしのは,今省いているほうが多いから省くという意見ではない。
池 上
一般には「ー」をつけている。例が少なくなるから,「タイプライター」の「タイプ」をとって,「ライター」を例に残してはどうか。
吉 川
短い例がさきであるから,「ライター」をさきにしたほうがいい。
佐 野
術語の書き方についてお尋ねする。難読・誤読を避けるために送りがなをする場合,「止メネジ」「曲ゲモーメント」「引掛ケリム」などは「止めネジ」「曲げモーメント」「引掛けリム」にように,送りがなはひらがなのほうが適当と思うが,どうか。
颯 田
個人の意見を申し上げると,ひらがなのほうがよいと思うが,「曲げ」とすると,本文と続けて読むおそれがある。術語であることをはっきりするために,かたかなにしたのである。
土岐会長
どちらにしても欠点はあるが,ひらがなを送ると本文とまちがうから,かたかなにしたのである。
緒 方
佐野委員の言われたように,「送りがなをかたかなにすると・・・・」の一句は,二重になるので除けばいい。
松 坂
ひらがなにせよ,ということを示唆しているようだ。それはかたかなの欠点ではない。ハイフンを入れるとか,具体案を示さなければいけない。
佐野分科会長
作文だから,どっちになおしてもよろしい。わたくしは趣旨には賛成する。
土岐会長
部会長にお任せ願おう。かな書きの欠点という国語の大問題を含んでいる。
時 枝
外来語のホルマリンなどは問題がないが,むしろ外国語をかなで書く場合,問題があるのではないか。外国語でも「ホ」を勧めるのか。
颯 田
いろいろ議論があった。日本語音化した書き方は退化であるから,外国語音に従うべきだという説もあったが,日本語にはいったものは,日本語の表記にするほうがいいというので,こう書いた。
時 枝
自然科学で原語をそのまま書く場合が問題だ。
颯 田
そういうものは原語に近く書いてもいいということだ。
大 塚
わたくしも佐野委員と同じように,部会長にお任せしたほうがよいと思うが,御参考までにちょっと申し上げたい。「曲ゲモーメント」の場合,本文中にはさきに「モーメント」ということばが出て,その特別の場合として「曲ゲモーメント」が出てくるので,全部かたかなにしてもまちがえることはない。お任せしてもいいと思うほどの小さい問題であるが。
土岐会長
部会長にお任せして,有光学術用語分科審議会長にさし出してよろしいか。
(異議なし)
[散会後,回答正文のように修正]