国語施策・日本語教育

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次第 庶務報告/漢字部会の報告について

前田会長

 第66回総会を開く。議事に先だち斎藤新事務次官を紹介する。

斎藤事務次官

 10月3日付けで事務次官を拝命した斎藤正である。かつて国立国語研究所の創設にあたって,法案や予算等の仕事を担当したこともあったが,その後,全然違った方向を歩いてきたので,国語に関してはまったくの不案内である。今後よろしくご指導賜わりたい。

前田会長

 次いで,学校長関係の委員の移動に伴う3名の新委員を紹介する。(小林,近藤,成田前委員の辞任に伴なう,平田,西村,遠藤(欠席)新委員を紹介。)

前田会長

 協議にはいる。まず前回の議事要旨を確認願いたい。(金田国語課長「第65回国語審議会総会議事要旨」を朗読,確認。)

前田会長

 引き続いて部会報告をお願いする。

岩淵漢字部会長

 漢字部会は,前回の総会以後3回部会を開き,音訓整理の問題について審議した。その結果が資料「『当用漢字表』音訓整理の考え方について」〔総−14〕である。(岩淵漢字部会長,資料〔総−14〕について説明。)

前田会長

 ただいまの報告について,漢字部会委員の中から補足説明することがあれば伺いたい。また意見も承りたい。

柴田委員

 漢字部会長の報告にはなかったが,部会における注目すべき意見として,教育用音訓と一般用音訓の二とおりを認めて使いわけてはどうかという意見があった。この考え方が適当であるかないかについてはともかく,そういう意見のあったことを紹介しておきたい。

大野委員

 現在の当用漢字音訓表は,これから字を書いて使うということだけにしぼって決められているけれども,文字は,書くだけではなく現在印刷されているものを読むことが出来ることのほうが重要である。そういう点からいうと,現在のような訓を制限したやり方では従来の出版物を読みこなすことができないという問題が起こっている。けっして500年も1,000年も前の作品を読めるようにというのではないが,できることなら明治時代の代表的作家の作品ぐらいは読めるようにすべきだと思う。けれども,さらに限定して言うなら,昭和年代に出版された印刷物ぐらいは読めるように,音訓の配慮をしておきたいと思うのである。こうした配慮のなかった現行の当用漢字音訓表が,教科書等で徹底して行なわれたために,従来の作品が読めないような生徒・学生が増加しているといえる。

中田委員

 漢字部会で,現行の当用漢字音訓表に掲げられる音訓を,かなりの程度までゆるめては,という意見には疑問がある。ゆるめることによって,便利な面もあるかもしれないが,しかし,そのことによって,弊害があるということもよく考えたうえで,この意見が述べられているのかどうか疑問である。たとえば,「はかる」には,「計る,測る,量る,図る」の書き方が認められているけれども,実際にはどれを使ってよいのかに迷うことが多く,人によって違いが生じている。しかるに,さらに,「はかる」という訓を「度,科,謀,議」などにまで広げるとか,「かたい」の訓を,「堅」のほかに「固,硬」にも認めるとかいうことになると,かえって国語表記の混乱を招きはしないかと思われる。「怒」に,「いかる」「おこる」の二とおりの読み方があるというのも混乱の一つであると思う。国語審議会が世間の要望を受け入れるのはよいけれども,国語表記の混乱を起こすようなことに傾いてはならないと考える。このような考え方について,総会の意見を承りたい。

志田委員

 漢字部会では,「音訓の整理は教育面で使用する場合に限ってはどうか。」という意見があるが,教育面といっても義務教育までのことか,それとも高等学校まで含めて考えるのか、それによって違ってくる。具体的な適用のしかたについてよく検討しておく必要がある。

西原委員

 教育面というのは具体的にどの範囲と考えたらよいのか。

岩淵漢字部会長

 部会で「音訓の整理は教育面で使用する場合に限ってはどうか。」という意見が出たことは出たが,実際に教育面といっても,義務教育の範囲かどうか,そこまではまだ審議していない。ただ,最初の申し合わせで音訓整理は一般社会に行なわれる現代の文章を対象にして考えるということであったので,教育だけに限定して考えるという意見は矛盾することになりはしないか。しかし,そういう話題もあったということで報告したわけである。

西原委員

 教育面という場合,当用漢字別表だけに限れば,小学校の児童だけがその対象になり,当用漢字表まで広げると,中学校生徒までがその対象になろう。この場合,教科書に限って,当用漢字別表の漢字の範囲内で訓を広げていくということがよいということであれば,その線で審議を急げばよい。ただ教科書が一度そういう方向に進むと,これが原則になって一般の漢字にも広がっていくおそれはある。わたしは,教育面という場合には,単に当用漢字別表だけではなく,少なくとも読めるというためには,当用漢字表まで広げて考えないことには意味がないと思う。音訓整理の基準が決まれば,これはそう困難な作業ではなかろう。

大野委員

 中田委員の,異字同訓は整理すべきであるという持論は傾聴すべきであるが、漢字部会も,みだりに訓を拡大しようという意見は出ていない。

佐々木委員

 「温」,「固」には,それぞれ,「あたたかい」,「かたい」の訓が認められていないということであるが,学校の漢字教育では,一字一字の漢字の意味まで教えるものかどうか。わたしは,「温度」とか「堅固」という熟語がある以上,一字一字の漢字の意味を教えることによってそのことばの意味を徹底させることができると思う。そうすると,「温」,「固」に,それぞれ「あたたかい」,「かたい」の意味がある以上,その訓も認めておくべきだということも考えられるのではないか。

岩淵漢字部会長

 部会でも,その問題について検討したが,字義と字訓は区別して考えようということであった。字訓というのは,日本語として,その漢字についての歴史的に固定した読み方をいうのであるが,漢字の意味が,ある場合には訓で表わされるけれども,必ずしも訓として成立しない場合もあるだろうということで,字義と字訓を区別して考えることにした。「温」の漢字に,「あたたかい」の訓を認めると,意味をつかむのには便利であるけれど,反面,「暖」との使い分けがむずかしいという問題もあり,機械的に一律に扱えないむずかしさがある。この点についても,今後の部会でよく検討していきたい。

浦上委員

 会長に質問する。今後,部会で具体的な音訓取捨の作業にはいり,問題が煮つまってくると,どうしても対立した意見がでてくるおそれがある。たとえば,「温」の漢字に「あたたかい」という訓を認めるかどうかで,意見の対立が起こりうるが,その場合,どちらかに決めなければならないとしたら,部会としては,多数決で決めるようにするのか,あるいは満場一致でなければならないのか。この点についての会長の意見を伺いたい。

前田会長

 大問題であるが,まず,漢字部会長の考えをお聞きしたい。

岩淵漢字部会長

 この点については,かな部会でも同様に問題になるところと思う。わたし自身は,必ずしも多数決で決めようとは思わないが,いちおう部会委員全員に答案を出していただき,機械的に集計して多数意見,少数意見のどちらをも総会に報告し,総会の判断を仰ごうと考えている。

中田委員

 わたしは,部会でそれほど各委員の意見が,ばらばらに対立するとは思わない。国語の混乱を起こさないかぎり,国語が便利になり,豊かになることは望ましいことで,各委員が時間をかけながら合理的に冷静に判断して,お互いがある条件で認め合おうではないかというふうに進んでいけば,おのずから道も開けてくることと思う。

大野委員

 中田委員は,しきりに国語の混乱ということをいわれる。たしかに「温」,「暖」の両方に,「あたたかい」の訓があれば,その使い分けに混乱を起こすかもしれないが,反面,「温」に「あたたかい」という訓を認めないために,従来の文献が読めないということが起こってくれば,これも一つの国語の混乱であることはたしかである。

前田会長

 先ほど,浦上委員から質問のあった部会での議決の方法については,わたしも漢字部会長の考えを支持したい。なお,この点については,第1回(昭和41年12月12日)の漢字,かなの合同会議で申し合わせた「部会の運営について」にも,「部会は総会から付託された事項について問題を整理し,技術的,専門的事項を検討する。」とあるように,最終的な議決は,部会でなく総会が行なうものだとわたしは考えたい。

福田委員

 わたしが先日アメリカで日本文学の講義を行なって経験したことであるが,日本語については,大野委員が言われるように過去の伝統ということも考える必要はあるかもしれないが,やはり次の世代の人のことも考えていかなければならないと感じた。講義中,「計る,測る,図る」といった異字同訓の使い分けを説明するのが困難で,そのために,荷風や独歩の作品の鑑賞がしばしば妨げられることがあった。それから,外国で日本語を教えている先生は,生徒に毎日15〜20分間漢字の書き取りをさせているが,漢字の数をいくらたくさん覚えても,実際には日本人のように新聞や小説を読むことができず,なかなか身につかない。漢字をいっしょうけんめいに覚えることはむだだとはいわないまでも,相当に考慮を要するという印象を受けた。どうか審議にあたっては,次の世代のことや,日本文学が世界の関心を呼んでいることも,じゅうぶん考慮に入れてもらいたい。

前田会長

 ほかに漢字部会の報告に対して意見はないか。なければ本日の総会での意見を参考に,さらに部会で審議を重ねていただくこととし,次いでかな部会の報告をお願いする。

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