国語施策・日本語教育

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次第 協議〔その4〕

鈴木委員

 先ほどの新井委員のお話の中で感心するというか,まさにそのとおりと思うことがたくさんあった。たとえば国文学の遺産を大事にしたいということ,これは国語学者とかそういうかただけの専門の問題と考えればいいと言われた委員もあるが,わたしはそれには反対である。やはりこれは国民の遺産,民族の遺産という意味で,日本人という人間が生活するときの基盤であって,決して専門の問題ではないと思う。逆にいうと,なにも国文学の問題は国文学の専門家だけに聞く必要はないので,むしろここにおいでになるかたはどなたも国民の代表としてそれぞれの立場からその問題については専門なので,なにも国文学者だけがその問題について最後のことばを吐く資格があるわけではない。テクニカルな意味での狭い国文学ではなく,日本人の持っている過去の遺産という意味で,国文学は大事にしなければいけないと思う。そういう意味だと,私は新井委員の御発言には矛盾があるように思う。いずれは漢字を減らすとか,200年後にはなくなるだろうという見通しを持っておられながら,国文学はそのままの字で書かなければいけないというと,これは技術的にどういうふうになっていくのか。もし漢字をどんどんはずしていったら,文学というのは,ちょうど国立博物館にいろんな土器などが生活の場と切り離されて置かれているのを鑑賞するように,文学館に行って文学を鑑賞するということになるかもしれない。しかしわれわれの血となり肉となる,そういう原動力としての文学という意味だったら,やはりわれわれが日常の生活の中で,また小学生,中学生でもそういう古典に親しんでいかなければならない。大事だからといってふくさに乗せて置いておくというようなことは,言語芸術の場合は不可能ではないかと思う。だから,その点新井委員のお話の中で非常に共鳴した点もあるが,そういうふうな問題は新井委員の御発言だけでなく,全体でもって話し合う必要がある。いったい漢字を制限していくということがこの審議会の一つの基本方針なのか,それともどんどん制限を取り払っていくのかである。これはいちばんむずかしい議論だと思うが,それを決めないと,いま副会長が言われたように,われわれが細かな作業を引き受けるという段になったとき一々また根本に立ちもどらなくてはならない。この問題はデリケートだから,こんなところで手の内を明かにして,自分は反対だとかあなたは賛成だというようなことがいいかどうかも疑問だが,それでも,なおかつこの問題を1,2回やって一応この会議でだいたいの方向を出してからでないと,議論が毎回あともどりするのではないかというようなことちょっと感じた。

新井委員

 ただいまの鈴木委員のお話はわたしも全くよくわかる。先ほどのわたしの話の中では,日常の文字と国民の日用の文字ということばをそのつど使ったつもりである。つまり新聞とか公用文,または小学校の教科書などに使われる漢字とか,それからさらに,わたしの想像では,一般の世間の人が手紙などを書くそういう私文書などにおいて,むずかしい漢字というものはだんだんなくなっていくのではないか。これは200年後か100年後か知らないが,そういう方向に向かっていくのではないか。したがって,いま鈴木委員が疑問を提出された,専門的な古典類と日常の日本人が使う文字との間に完全に一線を引いて,お互いに縁はない関係はないというものになるだろう,すべきだというようなことを言っているわけではない。たとえば現在の高等学校程度においては,古くから伝わっている古典にある漢字も教えなくてはならないだろうし,また,世間のいろいろな短歌とか俳句とかいうものでは引き続き使っているかもしれない。そういう意味で漢字のことを言っているのであって,日用の漢字と専門的な漢字ということについて,それがぜんぜん別の世界のものであるという意味のことを言っているのではない。わたしの申したいのは,世間一般が使う日本の文字としていまのような文字では困るのではないか,つまり書きにくく読みにくいということがだんだん起きてくるのではないかということである。
 それから先ほどの原稿のようなものを見ながら話したのは,なるべく短い時間にわたしの考えをむだなく言おうと思ったからである。前回,前々回においても,きょうこの場で先ほどから出ているような国語問題,国字問題の根本にさかのぼる問題が幾人かの委員のかたがたから出たわけである。それで,わたしもそういうことを顧みて,きょうまた,まことにだ足であるが,根本にさかのぼる問題についてわたしの考えていたことを申し述べようと思って原稿を用意してきたのである。それで,きょうも先ほどからこの国語の問題,また文字あるいは当用漢字というもののあり方の根本にさかのぼっての議論が出ている。そのことをいま鈴木委員がまさに指摘されたということで,わたしは重要だと思っているしだいである。たしかにそういう原則論というか大局論というか,100年,200年というような議論をいつまでも続けていったらぐるぐる回りをするのではないかということに当然なるわけである。そこで,先ほどわたしが述べたような一般論というか根本論というか少し大げさだが,そういうことはとにかく別に進めていただくと同時に,なるべく早く具体的な問題についての討議をしていきたいと思う。そうすると,その具体的な討議をしていくあいだにいろいろと原則外のこと,原則から漏れたというようなものが出てくるかもしれない。そこで統一しなければいけない,原則を立てなければいけないというような議論が必ず出てくるだろうし,またそういう議論は必要だと思う。ただわたしは,個々のことば個々の字について,早くまとめて一つのまとまったものをたとえばらばらでもいいから作っていきたい。というのは,先ほど御発言があったように,硫黄という字が以前はかなで書いていたのに,こんどは漢字に直ったというようなことは,わたしとしてはなるべく避けたいと思うからである。硫黄という字が一応かなに決まったのであったら,それを漢字の硫黄に直すということはやりたくないというようなことを,個々のことばについて決めていきいたいと感じているしだいである。

木内委員

 わたしは先ほど,漢字表の性格を論ずるには現在のものがどういう性格であるかをまずわきまえ,今後持ちたいと思う漢字表をもし持つとしたら,それはどういう性格のものであるべきかを考えたほうがいいと申したのだが,これから申し上げようと思うことはその続きである。
 いま新井委員が,具体的なことをやりながらでなければ原則論をやってもまずいと言われたが,その具体的なことをやるために,わたしの考える原則のあらましを申し上げると,わたしはまず漢字表があるほうがいいと思う。ある理由は,これは大した理由ではないが,やはり表は必要だと思う。そこで,持つならどういうものを持つかというと,若干のプリンシプルがあるが,第1は,これに書いてないものは使ってはいけないという方針はぜったいにやめなくてはいけないということ。これは言語というものの性質に反するからである。そういうことは,官庁であろうと総理大臣であろうと言うべきことではない。それを言ったからごたごたになったので,それはぜったいに言わないということが一つである。それからもう一つは,教育の場はぜんぜん切り離して考えるということ。ただし,この審議会とは別に教育関係の審議会があるからこの審議会の権限外だと思って考えないということはぜったいいけないので,何を考えるにも,教育の場ではこうあるべきだということを別に論じながらいくのでなければこの作業はぜんぜん進まない。それを論じながらいけば作業の順序はどうでもいいと思う。そこで,先ほどぜひお読み願いたいと申し上げた注意書きは全部いらないことになるようなものでなければいけない。別表,つまり通称教育漢字といわれるものとか,あるいは人名のための表が別にあったりするのはとんでもないことであって,もし出すなら一表を出すべきである。では何が大事か,これを議論していただきたいのだが,この新しい表はだれのために何のために出すのか,それを論ずべき性格である。それを論ずるときに,いま新井委員や鈴木委員が御心配になっているような根本問題はいくらでも論じられるし,また教育の場を論ずるときにはことに論じられる。そこで教育とはどうあるべきかというと,人間に教養を与えるのが教育で,実用的知識を与えるのは教育ではないというようなところに新しい教育観があるべきだとわたしは思う。先ほど,敗戦によってアプセットした日本人が今の国語政策を始めたと述べたが,あのときは実用本位であったわけである。そのようなところを考え直せばいい見通しが出てくると思うが,そういうラインで案を作ることはむずかしいことではないと思う。これは実際的な提案だが,ここでいきなり話を申し上げてもなかなか通じないから,いま申し上げたことを原稿用紙で書けば200字詰めで10枚には十分書けると思うので,要点だけ書いてわたしは差し上げようと思う。次の総会までに整理委員会を1回か2回開くだろうが,そのときにいま述べたことを紙に書いて出したいと思う。多くのかたも同じことをしてくださればこれはきちんと筋に乗るので,4,5人のかたはぜひ出していただいたらいいのではないかと思う。もちろん出した者だけの意見が通るわけではないのであって,これらの意見に対しそれに反論する意見が出てきて,そのでこの会は収まっていくと思うので,そのように運んでいただければいいと思う。これは新井委員の御希望でもあり,具体的なことをそのようにやったらどうかと思うので御参考までに申し上げた。

福島会長

 わたしなりに各委員の御意見を伺っていて,整理委員会で御心配いただいた資料1の12の問題点のうち,「漢字表の性格について」というところから御検討いただいていると思う。それで資料2「漢字表の性格について」のほうの1から4まで書いてある問題のうち,学校教育との関連については,話の順序として一段あとに譲ることができるのではないかと思う。その上の1から3までについては,先ほど岡村委員から御発言があったが,一つずつ順番にやっていくということになれば,この3つの問題,現行のように制限的なものとせず,改定音訓表,改定送り仮名の付け方のように目安・よりどころとするかどうかという点に話を集中していただきたいとお願いしてもいいような気がするわけである。したがって,それに関連して2の(1)の漢字表を適用する分野はどうなるのかという問題,つまり改定音訓表,改定送り仮名の付け方にあるような法令,公用文書,新聞,雑誌,放送など一般の社会生活−この文章そのものに若干問題もあるようだが,そういう分野を目標として現行のように制限的なものとせず,目安・よりどころとしていいのか悪いのかというような点に議論を集中していただいても,きょう各委員から承った御意見からはずれるわけでもないように思う。
 次回は5月にお集まりを願う予定にしているが,その際には,この資料2の漢字表の性格についてということでお願いすることにたぶんなるだろうと思う。その間にもう一度整理委員会の御検討を願わなければならないが,順番としては,現行の当用漢字表を多分に制限的なものとして理解して,これでいいのかどうか,改定音訓表のように目安ということで考えるべきかどうか,そしてまた目安とした場合,適用される分野を法令から始まって,新聞,雑誌,放送などというように考えられるかどうかというような点に話を絞っていただき,学校教育との関連は別にして,漢字表の性格という問題をある程度堀り下げることができるのではないかと思う。頭から漢字表は必要かどうかという議題では少々無理があったかもしれないという感じである。

福島会長

 時間がないのではなはだかってではあるが,この辺で本日のところはワインドアップさせていただきたい。これも整理委員会なり,あるいは運営委員会とも御相談してからというのがほんとうであるが,わたし自身の希望としては,いま申し上げたように,5月総会でもう一度,制限的なものとせず目安・よりどころとするかどうかとか,適用範囲を一応どういうふうに想定して漢字表を考えるかというような点に話を絞っていただき,これに関連する問題を取り上げながら先へ進んでいくというようにしたい。具体的な点にもっと早くはいりたいという希望を表明されたかたもあるが,具体的にいくには,やはりどうしてもこの二つの問題がある程度の了解に達してからのほうがいいように思うので,整理委員会で御検討願った上でのことではあるが,次回の総会も,もう一遍この辺を,できれば少しずつ目標を絞りながら御検討願う必要があると考える。
 そろそろ終わりにするが,とくに御発言はあるか。

遠藤整理委員会主査

 整理委員会からお願いするが,ただいま木内委員から文書で意見を出すというお話であった。それで,いま会長のお話しになった点をおくみ取りの上,できるだけ多数のかたから文書で御意見をいただければ整理するのにも大変つごうがよいと思うので,ひとつ3人,5人といわずに,できたら全員のかたからでも文書による御意見をちょうだいしたい。それを参考にして,整理委員会で次のものを決めたいと思うので,よろしくお願いする。いつごろまでに出していただくことにするか。

福島会長

 わたしのほうは別に整理委員会に干渉する意思はないので,整理委員会のほうで期日を決めていただくのだが,たぶん来月半ばごろではないか。

遠藤整理委員会主査

 そうすると,来月10日以前ぐらいまでにそういう書類を国語課のほうへ出していただけたらけっこうである。よろしくお願いする。

福島会長

 それでは5月にもう1回,だいたい同じような方向ならびに題目でこの総会をお願いしたいと思う。漢字表の性格の問題はもう1回,ないしはそれ以上総会で御審議をいただく価値のある重要問題だと考えている。そこで5月の総会の日取りであるが,先般御希望もあって,事務当局のほうから各委員の都合のよい曜日,都合の悪い曜日を知らせていただくようにお願いしたところ,全員50名のうち44名のかたの御返事をいただいた。その結果,金曜日が都合がよいというかたがいちばん多く,同じ金曜日が都合悪いというかたの数もいちばん少ないということであるので,5月の終わりのほうの金曜日ということになるだろうと思う。そこで一応5月25日,おさしつかえなければその辺ではいかがかと考えている。
 さらに事務当局に検討していただいていた上で,できるだけ早めに次回の日取りを御通知したいと思うが,だいたい5月25日の金曜日の午後になるだろうかと考えるので申し上げておく。
 これでちょうど時間なのでぼつぼつ閉会とするが,とくに御発言のかたはあるか。なければ,本日の会議はこれで終わりとする。ありがとうございました。

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