国語施策・日本語教育

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次第 今後の進め方について

福島会長

 次の協議は,今後の国語審議会の審議の進め方についてである。漢字表委員会は,これまでに,この総会で出た意見をもとに,基本的な方針を決め,これにより漢字表に関する具体的検討を始めた。したがって,ある程度この委員会の検討が進んだところで総会に報告していただき,総会の御意見を伺うということになると思うが,この点について,特に意見があったら伺いたい。
 それから,漢字表委員会が漢字表の具体的検討をする際に専門調査員が必要になってくるかもしれないという問題がある。専門調査員については,「国語審議会令」第3条第2項にその規定があり,その任命については,審議会の意見を聞くことになっているが,総会を開き意見を聴いてからの任命では間に合わなくなるおそれもあるので,漢字表委員会でその必要が特に認められるということになったならば,総会と総会の間のような時期の場合には,その委員会と,会長,副会長とで相談して取り計らうということで,あらかじめ御了承を得ておきたいという問題である。
 それからもう一つ。今期の審議会で,適当な時期に字体の問題も取り上げたい。しかし,漢字表の検討の方が相当進行してからではないと,字体を取り上げ,議論するということはしにくいのではないかという意見もあるので,それらの問題も含めて総会は今後字体の問題についての自由討議を繰り返し,漸次意見を固めていただくわけであるが,総会は今までのところ原則として2か月に1度開催ということになっていたのを,漢字表委員会のある程度の検討を待つということにもなるわけなので,今後は3か月に1回の割合で良いのではないかと考えている。
 以上,今後の総会の運びについて,字体問題を取り上げるということ,漢字表委員会の進行の度合いとも関連し総会は3か月に1回開催するということ,その他の点について意見を拝聴したい。(発言なし。)
 こういうふうな総会の形で,字体問題について自由討議といってみたところで,取り掛かりようがないということもあるが,以前の国語審議会において字体問題も幾らか討議したこともあるので,その辺を岩淵主査に御説明いただきたい。

岩淵主査

 第8期のころから漢字部会の漢字の音訓を取り上げた。字体についても急いで取り上げなければならないという意見があったが,しかしこれについてはまだいろいろの問題があるので,もう少し後にするということになった。第9期のときには,特に字体についての小委員会を作って議論したことがあった。この場合には,一応現在の当用漢字字体表の線にそって考えるということであったので,漢字の字体について根本的な点から議論するということではなかった。その中で出てきた主な意見は次のとおりである。
 (1) 中国では簡体字を使っているが,そういう中国の簡体字と日本の字とが,かなりかけ離れているのをどうするかというふうな問題である。漢字部会では,簡体字の出来方と,日本の当用漢字の字体表の出来方とは根本的に違うので,これを一致させるということは非常に難しいであろうということだった。
 (2) 字体については,当用漢字表中の字については字体整理表ができているが,表外字については,全然関知しないという態度を,これまでとってきている。したがって,当用漢字だけで使う限りにおいては問題ないが,当用漢字以外の字も交ぜて使うというふうな場合には,いろいろ問題が起こる。例えば,「しめす」偏などは,当用漢字字体表では「ネ」と書くが,明朝体ではやはり「示」と書くわけで,もし「キトウ」という言葉が出てきた場合に,「キ」は当用漢字にあるから「祈」,「トウ」は表外字なので,もし漢字を使えば「とう」になるというふうな矛盾が起こってくる。「しんにょう」なども違っている。そこで,そういう当用漢字以外の字についても,当用漢字を整理したのと同じような考え方で整理する必要があるのではないか,ということが出た。
 (3) 略字をもう少し増やすべきではないか,という意見が出た。これは確か第6期か第7期ごろにもそういう議論が出たかと思うが,その時の略字についての意見も検討する必要があるが,資料を集めて考えなければいけないということであった。
 (4) 現在の当用漢字字体表は,活字の字体と書写の字体とをできるだけ一致させる方針で作られているが,もともと活字と書写とは違うのだから無理に一致させる必要はないのではないか,という意見が出た。しかし,一方では,やはり一致した方がいいだろうというような意見も出たが,別に結論を出したわけではない。
 結局この字体表を検討するに当たっては,いろいろな資料を集めて考える必要があるので,資料を集めてから具体的に考えようということになった。その後,音訓表の方に非常に時間をとられたので,字体表のことはそのままになっている。以上である。

福島会長

 他に意見はあるか。(小谷委員挙手。)小谷委員,どうぞ。

小谷委員

 当用漢字表は,法令うんぬんに使用する漢字の範囲を示したものになっており,昭和23年の当用漢字字体表は字体の標準を示したものとなっているが,この「字体の標準を示したもの」という意味はかなり制限的なものであるのか,それとも今期の国語審議会で字種の問題などを考えるときに,目安,よりどころといわれているものより,ずっと強い意味でいっているのか,そういう点を伺いたい。

石田国語課長

 お手もとの「国語関係訓令・告示集」(昭和41年3月)に当用漢字字体表に関する現行の内閣訓令・告示が載っており,その「まえがき」の第1項に「この表は,当用漢字表の漢字について,字体の標準を示したものである。」と書いてある。したがって,この字体表は,当用漢字表に示されている1,850字についてだけ字体の標準を決めてある。その意味では,そのほかには及ばないということで,先ほど岩淵委員からもお話があったように,当用漢字表の表内字と,表外字との「しめす」偏のような食い違いも出てくる。
 また,次の項に,「一,この表の字体は漢字の読み書きを平易にし,正確にすることをめやすとして選定したものである。」と,目標というような感じかと思うが,掲げてある。ここでは標準という言葉が全体に使われているわけである。その意味で,当用漢字表の1,850字につき,ここに挙げていない漢字については仮名書きにするとか,別の言葉に言い換えるとかいうようなこととして挙げられている場合とは,その考え方に,違いがあるのではないかと,思うわけである。更に詳しくは専門の委員の方から御説明いただけたらありがたいと思う。
 なお,そのほかに字体を考えていただく参考として,もう一つお手もとの冊子中の「現行国語表記の基準についての問題点」(昭和42年8月)というのがある。現在の当用漢字字体表の考え方,説明あるいは内容というものが載っている。これらについて,各方面からさまざまな意見があったわけであるが,そういうことについて,34ページから36ページにわたり出ている。
 それから,同じ冊子の最後から二番目の「当用漢字表,当用漢字字体表関係審議状況」(謄写版,横長の表。昨年の1月25日の総会で今期の審議の開始に当たり,国語審議会のこれまでの審議状況の資料として作成し配布したもの。)を見ると,当用漢字字体表は,昭和24年4月28日に,先ほど御覧いただいた形でできたわけで,その後,第2期で,当用漢字表の補正資料というものが検討され,28字の出し入れの案が出された。そのときに,字体を変更したいとして,「燈−灯」が出ている。その後第6期にも,現在の社会である程度行われている略字体のうち,こういうものを採用してはどうかということが報告されている。第7期でも,第2期と同じく,「灯」を採用してはどうかと出ている。それから昭和41年の諮問以降については先ほど岩淵委員から説明があったとおりである。
 なお,そのほか,今期になっても,アンケートの折に何人かの委員の方から字体にも触れた御意見を頂いており,その結果については各委員にお届けしてある。

福島会長

 ほかに意見はないか。(宇野委員挙手。)宇野委員,どうぞ。

宇野委員

 字体表の「標準」というのは,その告示文を見ると,つまり「当用漢字表」と同じ意味で,政府関係のものはこれを用いる,その他のものは従わなくてもよい,という意味で標準という言葉を使ったのではないかと,私は理解している。この理解でよろしいか,伺いたい。
 次は,先ほど,岩淵委員から従来の国語審議会で交わされた字体問題についての意見の報告があった。これについての私の考えは,ほとんどそれで尽きているが,一つだけ申し上げたい。それは,前の「当用漢字字体表」の趣旨は,印刷字体と筆写字体とをできるだけ一致させることを建前としたいということである。明治以来,名前は国語調査会とか国語審議会とか,いろいろ変わっても,昔から漢字の問題について議論されている場合に,大体そういう方針で検討されてきたように私は承知しているが,私の考えは先ほどの御報告にもあったように,活字と筆写体の字とは全然機能を異にするものだから,これらを一致させることは必ずしも必要ではない。極端な言い方をすると,むしろ分けた方が良いと考えている。それはちょうど話し言葉と書き言葉との問題とよく似ており,話し言葉と書き言葉とは,一致することが望ましいかどうか。書き言葉を話し言葉(と申すのは音声言語であるが)と同じように書かれた日には,とても読んではいられない。私は,書き言葉はもっと集約した形で書かれるのが当然だと考えている。といって,話す場合には,書き言葉をそのまま言ったのでは,とても聞いていて理解するのに困難があるのであろう。
 それと同じように,機能の条件は違うが,活字体は目に訴えて早く分かりやすいことが大切であるし,書く場合には書くのはなるべく簡単に筆画も少なく書けることが望ましい。それが筆写体だと思う。この二つは,別の方が良いと私が言ったのは極端な表現なのであって,現実問題としては当然相関する。しかし,極端なことをいうと,昔から使われている草書体と楷書体を比較すると,分かるはずである。草書体は,一見すると何やら分からないような字もずいぶんあるが,昔からそう書いている。これは,書くためにはそういう字体を使うわけである。こうしたわけで,当用漢字字体表をつくったときのこの趣旨が,私には賛成できないのである。したがって,先ほど岩淵委員が例に挙げた「しめす」偏の場合に,書く場合には,私どもは原則として「ネ」というふうに書くが,明朝体の場合には「示」と書く。「示」という字があるから,例えば「祭」とか,その他「示」という形ではっきり出てくる字とも全部関連のある文字ということが分かるわけで,教育上にもその方が便宜というか,記憶にはむしろ有利ではないかと考えている。
 また,いわゆる新字体の中の,例えば「しんにょう」の点を一つ減らす,草冠を「」と書く等の例がたくさんあるが,そういうことが新字体の趣旨であるかどうか,私は非常に疑問に思っている。
 私は,いわゆる略字という意味ならば賛成なのである。例えば,子供が字を書くときに,筆画の多い字は,なるべく簡単に書けるように,例えば「應」を「応」と書くなどである。しかし,活字体としては「應」でも「応」でも差し支えがない。ことに筆画が簡単になった結果,かえって間違いを生ずる場合が多いのであって,私はこの弊害というか,欠点というものは無視できない。例は幾らでもある。例えば「字」と「学」,これは活字の場合には非常に混同して,しばしばミスプリントを起こす。ミスプリントを起こしても当然分かるような場合は問題ないが,どちらの意味で筆者が書いたのか,判定しにくいような場合もしばしばある。
 そういうこともあって,私は,筆画を簡単にさえすれば学習が簡単になる,読むのも読みやすくなるという考え方は根本的に間違った考え方である,というふうに思う。私はかねてそう思っていたが,ここ十数年来研究されている石井勲氏の幼児の漢字教育の結果から見ても実証される。筆画が簡単な方が読みやすいとは限らない。簡単な方が読みやすい場合ももちろんある。「一」とか「二」とかいうようなのは非常に分かりやすいが,必ずしも簡単な字が覚えやすいとは限らない。こうした実験もあり,理論的に言っても私はそうだと思うが,私は,前の新字体の印刷字体と筆写字体とをできるだけ一致させることを建前としたのを,今度は改めていただきたい。

宇野委員

 しかし,私は略字は反対ではなく,筆写用として略字を教えることが非常に有効であると思うから,略字は賛成である。いわゆる正字――皆さんは旧字とおっしゃる,私はそれを子供に教えたい。
 漢文学の分野では,学問の性格上,字は,本字を使って印刷をするので略字では困る。その印刷技術者もだんだん減っており,そのため特に印刷に時間がかかるので困る。
 別の問題があるが,「現代の国語を書き表す」という言葉が従来使われているが,お互いにこの審議会で考えている現代の国語という内容は,考えてみると,公用文・新聞あるいは一般向けの評論程度のことを考えているように思われる。そして,文芸とか,学術用語には適用しないと書かれてあるけれども,現代の国語というものは,そういう公用文・新聞記事等だけで現代国語生活を営んでいるわけではない。そういう点から考えると,ほかにこれと言って適当な表現方法はないだろうが,現代の国語の内容から考えると,そういうことの漢字だけを検討してよいのだろうかという疑問が出てくる。以上,略字というか,印刷字体との一致ということに対する私の反対意見を申し上げた。

福島会長

 字体に関連し,自由に発言していただきたい。いずれ問題点整理委員会で整理し,今後討議していくポイントとなるような御意見をできる限り伺っておいた方が良いかと思う。
 また,ただ今の宇野委員の御発言中の「標準」について,国語課長,どうぞ。

石田国語課長

 最初に当用漢字字体表の内閣訓令,これは国の行政機関に対する内閣としての命令で,これを標準として用いるようにということである。また,内閣告示,これは政府として広く関係の方面に,こういう趣旨でやっていただくよう協力を求めるものである。
 それから字体の標準という点であるが,この字体表が決まった当時のようすから見ると,国語審議会で決めた際に告示を出したからといって,活字が急に変わるというわけにもいかないだろう,従来の活字が,しばらくは使われるだろうというふうなことも,背景にあったようである。当時の字体を検討された委員会の委員長の報告の中でも,漢字の字体の標準は,長い歴史を背景として,現に絶えず展開しつつあるそれぞれの漢字の形式のうちから,典型的な,代表的なものを選ぼうというふうな中で落ち着いていくのではないかというようなことが述べられている。
 実は,この字体については,国語審議会の委員会で検討されるに先だち,関係の新聞界,出版,印刷界,あるいは活字の関係の方々の協議会などというものも開かれて,検討されたようである。そういうようなことで,この標準については,当時の事情からすると,10年,15年という年数がかかるのではないかというようなことが背景にあったようである。

福島会長

 この辺のところは今後の審議で国語審議会としての意向をまとめていくということになるように思う。字体について,総会のおおよその意向を求めていくために,なお,自由討議を若干は重ねる必要がある。字体に関する問題点を整理した上で,逐次,御討議願うということになると思う。本日は最初の自由討議でもあり,関連のある事項につき,自由に問題提起していただきたい。

志田漢字表委員会副主査

 次は,学校教育との関係を見る場合の資料になるかと思う。「中学校高等学校学習指導法,国語科編(昭和29年版)」268ページに活字体と筆記体との差をどのように現場で指導したら良いか,若干の例を挙げて示唆を与えている。私が承知しているところでは,一番初めに活字体で示されたとおりでは,やりにくいということで出てきたのが,書道又は書写の方の「しんにょう」の書き方であって,例として取り上げられていたと思う。また,「いと」偏の場合には今の字体表では,「糸」というふうな形で常に偏の場合も書かれているが,筆記体としては「」というような形で書いてもいいのではないかというふうなことも記してあったかと記憶している。そうすると,今度は筆順も違ってくるわけである。したがって,それがどこまで現場に徹底していたかはよく分からないけれども,当時の指導法としてはそういう線を打ち出しているわけで,我々が検討する場合の一つの資料になるかと思う。
 また,国語科教育の方の専門の人たちの中では,そういうものを踏まえて更にその先どこまで活字体と筆記体との差が出てきていても良いか,又は指導したら良いかというふうなことを問題にし,発表している人もいる。そういうものも場合によっては参考になると思う。

福島会長

 ほかにどうぞ。

渡辺委員

 漢字と電子計算機の関係であるが,将来事務能率を増進するためには,電子計算機で処理することがあると思う。そのときに漢字はできるだけそろったかっこうの方がやりやすい。しかし,どちらがどちらに歩み寄らなければならないかは非常に大切な問題で,できれば漢字は別な立場から制定され,それを事務的に処理しやすいようにコンピューターの方も歩み寄るべきだとは思うが,それにしても我が国の漢字は非常に多いため外国のように処理が簡単ではないので,非常に難渋している。
 それから,コンピューターにより字の問題を能率良く扱うことは日本では非常に難しい。これは字体とか漢字表とかすべてにわたって言えることだとは思うが,どちらに定めても良いというときには,電子計算機のことも念頭に入れて決めていただければと思っている。
 また,中国の新しい漢字は日本の漢字と違っている。非常によく似ていて,どちらに定めても良いような場合にはできるだけ統一をとるという方向に進むのが良いのではないかと思う。

福島会長

 ほかにはないか。

遠藤問題点整理委員会主査

 現在の活字のもとは,明治初年,本木昌造という人が「康熙字典」から選定したものという。それと現在のとでは,そうとう活字にも変化があるのではないか。現在のを作ったとき,そういう点はどう考慮したのか。
 また,四角い中へ書くということが,活字の根本原則になっているが,日本で漢字を書く場合にこれで良いのかどうかというような問題もあるのではないか。
 いかなる活字体によるのかということも問題ではないか。

福島会長

 先ほど宇野委員から略字と本字の話があったが,渡辺委員のお話では,電算機から漢字を将来プリントアウトするということがあるだろうし,私どもも通信上で,実質,電算機のプリントアウトと同じような方式で,電信線で漢字を送り,電子的に書くわけなので,略字を書くのと,こみ入った本字を書くのとは大違いということになる。一つの漢字を細かく升目で切って,その一升一升を適当に使って漢字を書き表すという作業をするわけであるから,あらかじめでき上がっている活字を拾ってきてはめ込む,それが印刷であるということではなくなる時代がそろそろ来るかもしれない。現に私どもが実際に行っているのは,電子的に紙の上へ書くということで,活字を拾うという作業ではない。毎日,10万字,15万字以上のものを扱っており,現在は通信線によって活字を右から左へ伝達するということだけであるが,将来どういうことになるか分からない。また,現在は,電算機においては漢字は通り抜けられないという状況であろうが,将来は通過することになるとも思われる。そこで,略字と本字と両方あっても何ら不自由はないはずだということではどうも……。
 それやこれやで,今後とも字体について検討いただかなければならないと思われる。

遠藤問題点整理委員会主査

 略字を作ることはどうしても必要だと思うが,活字が作り出す均整感と略字との関係はほとんど考慮されないで略字が作られている。例えば「留」は,字面が安定した感じであるが,「」は安定感がない。「働」という字も略字の「仂」とではどっちが安定感があるか,活字として安定感があるかというような問題もある。

福島会長

 字体についての疑問点の指摘なり意見なりのほか,この総会として字体問題を今後どう取り上げていくかについての意見,例えば,小委員会のような形である程度具体的な検討を漢字表委員会と並行的に進めるのか,あるいは漢字表を検討する段階で字体問題の関連が出てくるから,漢字表委員会がそのまま字体についても検討していくのか,その辺のところも考えてみる必要があるのではないかと思う。総会の段階で字体問題についての基礎的意見,原則的意見をまとめるべきであるとは思うけれども,小委員会の段取りを急いだ方が良いのかもしれないとか,あるいは小委員会が漢字表委員会とどういう関係で作られた方が良いのかというような問題なども,私にとっても疑問になっている。
 字体問題についての実質上の意見のほかに,運び方というような点についても意見があったらお聞かせ願いたい。

新井委員

 字体問題というのは,当用漢字表の中の字についてなのか,それとも当用漢字表以外の字まで含めての問題であるのかがまず前提として大事な問題だと思う。私の考えでは字体の問題は,現在の段階では当用漢字1,850字に限定してよいのではないかと思う。もっとも当用漢字の数の増減があった場合には,またその上に立って新しい当用漢字の字体を検討しなければならないことはもちろんである。つまり表外字まで取り上げると,非常に複雑で,困難にぶつかってしまうのではないかと思う。
 ところで,当用漢字の字体の問題にしても,実にいろいろな問題がある。中国が,簡化法案以来,何回にもわたって漢字の字体の簡略化をやっているが,それと足並みをそろえてみたらどうかという意見が世間に広くある。しかし,私は略字の問題を進めていく場合,中国と我が国とでは進め方について歩調を合わせる必要は必ずしもないのではないかと考えている。かえって問題が複雑化してくると思う。その他問題はいろいろある。
 今,私が考えていることは,審議会としてアンケート方式でもって委員の方々の意見を求めてみたらどうだろうかということである。漢字の簡略化,略字化について問題点が幾つもある。例えば,先ほどの中国の簡化方式と日本の略字の進め方というものを歩調を合わせるか,合わせないかというような問題もその一つであろう。その分類を問題点整理委員会あるいは事務局で考え,全委員にアンケートを求めて,その上で考えてみたらどうか。

福島会長

 ほかに御発言を。

木内委員

 この字体の問題は,問題点を出せと言われても,何だか好ましくないとか,安定しない略字があるとか,そういう意見は出てきても,これをどうしようかという意見はなかなか出てこないと思う。世間でも字体表は余り論じられたことはない。しかし,よく考えてみるとなかなか深い問題が含まれていて,ゆるがせにできないと思う。今の字体表の作り方は何であったか,さっき若干の説明があったが,それでもよく分からない。小谷委員が最初に言われた,一体この標準とは何かについても,答えに満足しておられないのではないか。一体何を標準というのか。とにかくこれは非常に漠(ばく)としていて,存外深い意味があるように思える。
 結論は,新井委員の発言と同じになるが,ただ問題点を言えといってもうまくいかない。今のはまずいと思うからこう直したら良いと思う意見のある方はそれを出しあって,その意見を回覧した上でどうしようかと聞けば,初めて皆の意見も出てきて,話が進むのではないかと思う。

福島会長

 ほかに御意見をどうぞ。

小谷委員

 戸籍の名前の字種はどうなっているのか。現在,当用漢字と人名用漢字とがあるが,人名の漢字の字種は決まっているのかどうか。また,字体については,例えば,「吉」と「」と二通りあるが,どの辺まで許容されるのか,お聞かせいただきたい。

石田国語課長

 最近のサンケイ新聞(昭和49年1月3日付け)に法務省の方で人名用漢字については制限をしないようにするというふうなことを民事行政審議会に諮っていきたいという記事が出た。この人名用漢字の問題については,こちらの審議会でも9月の段階で各委員にアンケートを求めた結果をもとに議論があった。そのときも御報告したが,戸籍法で,新しく生まれた子供に付けるための漢字は当用漢字表に掲げる漢字(1,850字)と人名用漢字別表に掲げる漢字(92字)とに決められている。それについて,法務省では民事行政審議会(法務省におかれている審議会で,登記,戸籍,その他に関する行政事務の改善を図るというふうなことについての審議会)に諮って検討をしたいという答えであった。
 それで最近,新聞記事が出,また私が参り向こうの様子を聞いてきたわけであるが,法務省としては,現在,民事行政審議会の委員の任期が切れ,その委員の人選を行っている段階で,3月中には委員を発令して,民事行政審議会を始めたいとのことである。その中に戸籍部会を設けて,そこで人名用漢字の現在の問題についても相談・検討をしていくというふうなところまでが,今の見通しとしてあるそうである。
 これについて,新聞に伝えられているような制限性を外していくとするかどうかについては,法務省としてはまだ決まっていないというふうな返事であった。そのことを御報告しておく。

福島会長

 ほかにどうぞ。

新井委員

 私の先ほどの発言に付け加えたい。
 アンケートということを申したが,この略字体の問題は非常に複雑であるので,総会で皆がばらばらに発言しても時間がかかり大変であろう。したがって,話を進捗(ちょく)させるためにアンケートをやってみたらどうかということである。
 このアンケートのやり方はなかなか面倒ではないかと思うが,例えば,一応仮定してみると,第一には,今の当用漢字を簡略化した方が良いか,このままが良いかというようなことが挙げられるのではないか。また,中国の簡化字方向と歩調を合わせた方が良いかどうかなどといった,ごく根本的な問題について分類してみたら,やはり五つか六つのアンケートのテーマができるのではないかという気がする。私は,具体的に事を急ごうというような気持ちから,今言ったようなアンケートは可能ではないかと考えて発言したわけである。

福島会長

 小谷委員の発言に対し,国語課長から関連のあることとして説明があった。人名に使える字の字体が決まっているのかどうかについては,後ほど調べてみるということしか,現在は申し上げられないようである。
 何かほかにあるか。畑委員,どうぞ。

畑委員

 小谷委員の発言に関連して,「標準」について,私なりの解釈を述べたい。結局,「標準」ということは,それをもとにしてまたほかにも及ぼすというような意味に解釈する。例えば,今日たまたま例がでた「しめす」偏を手で書くときには「ネ」を書くというのが表の中に載っていると,表外字であっても,手で書くときには「ネ」を書くというふうに拡大解釈するのが,何も知らない人間の普通の解釈の仕方だと思う。
 次に,今日は筆記体のことが問題になったが,筆記体を決めて,しかもそれを使ってもらうということは,これは大変難しいことだと思う。活字体であると,印刷されたものが目に触れるので新聞を読めば分かるが,筆記体になると,ここで決めても,それを見る機会というのは,まず普通の人にはない。書いたものというと個人的な手紙とか,そういうものだけしかないので,これは既に覚えてしまった人は,幾ら変えたと言ってもそう簡単に変えてはくれない。ここで字体が決まると,少なくとも小学校の教科書の字体はこれで書かれ,やっと子供の本を通して目に触れる程度で,大部分の人の目に触れる機会はない。いつまでたっても自己流の字を書くということになると思う。
 ここで議論することは,この審議会のための審議ではなく,ここで決まったことを世の中で使ってくれなくては何の役にもたたないので,そういう意味で私もこの審議会の委員として出てきて,決まったことはなるべく多くの人がその通り使ってくれるというようなことに,十分時間を割いて審議したいと思う。標準的な書き方を決めておくことは大変必要なことだと思うし,その意味からいうと,小学校で教える程度のところはきちんとしたことを決めておくことが実質的に大事なことではないかと考える。

福島会長

 次回総会までに,問題点整理委員会は総会で取り上げていく問題点について整理を願いたい。その間にアンケートが必要ということになれば,どのようなのが可能かということまで含めて,この際,問題点整理委員会にお願いしたい。遠藤主査,御心配を頂きたい。
 次回は4月26日(金)に開催する。
 なお,先ほど申し上げたとおり,漢字表委員会で専門調査委員を必要とする場合には,国語審議会令第3条第2項によると,総会の了承を得た上で任命することになっているが,その必要が総会と総会の間にでも発生した際には,漢字表委員会及び会長,副会長にお任せいただくということで了承を得たい。特に意見がなければそのように取り計らわせていただく。
 それでは本日の総会をこれで終わる。

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