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次第 第12期国語審議会審議結果報告〔新漢字表試案〕について(協議)〔その2〕

宇野委員

 先ほど留保したことを少し申しあげたい。
 一つは人名漢字についてである。前文では,「今後十分な検討を加える必要がある。」と書いてあり,そのとおりであると思うが,やかましいことを言うと,「人名用漢字別表」は確かに国語審議会の責任においてつくっているが,「人名用漢字追加表」は,国語審議会としては関知しないことで,一応了承したというか聞きおくというか,そういうことであるはずなので,それまでも含めて国語審議会が検討するのかどうか。
 私の考えでは,できれば人名用の漢字についても,今回の新漢字表の趣旨に沿って善処されることが望ましいとか何とか,要するに人名用の漢字表というものはやめてもらいたいということを匂わすようなことを(もし書いていただければ,大変結構なのであるが,ここで書かなくてもいい。)後でしかるべき筋に言っていただくと大変ありがたい。
 もう一つは,教育の問題についてである。文部大臣もちょうどいらっしゃるから申し上げておきたい。前に何度も発言したことではあるが,教育では上限を制限するというのは根本的に間違いであると思う。例えば,漢字の問題に限定して述べると,教育用の漢字について,今のような教科書制度をとっている以上は,小学校あるいは中学校の段階において,これこれのものを教えてもらいたいということを決めるのはやむを得ないと言うか,当然であるように思うが,それ以上の字を覚えてはいけないとか,使ってはいけないとか言うのは,はなはだ行き過ぎである。
 小学校,中学校,特に小学校の場合において,今度できる漢字表がどういうふうに扱われるかはこれからの話であるが,教育のための漢字表は大体1,000字見当に決まるのであろうと私は予測している。その1,000字を超えた漢字は教科書に出してはいけないというようなことは,やめていただきたいと思う。何もわざわざ漢字を出さなくてもいいが,熟語として出てくる場合に,片方を仮名書きにせず,教育用の漢字にない字が組み合わさって出てくるような場合であっても,漢字を使って示し,振り仮名をするとか,しかるべき方法をとっていただきたい。
 この問題については,大部分の方々は子供にむやみに漢字を教えて,難しくしては困るとお考えだと思うが,このついでに申すと,石井勲氏のいわゆる石井方式の漢字教育が実験されていて,現在では,私のみる限り,随分効果を上げている。漢字はなるべく小さいうちに多く教える方がいいと思う。今日,大脳生理学では3歳児教育ということが非常に大きな問題になっているくらいで,小学校ではむしろ遅いくらいである。小学校で漢字が出てくるということは決して過重負担ではないというのが,私の信じているところである。
 繰り返すと,教育用の漢字を制定することについては,異存はない,むしろそれは必要だと思うが,それ以上の字を使ってはいけないということは,どうしてもやめていただきたいと思う。そのことを是非お願いしたい。
 それから,いわゆる石井方式の教育というものも,全国に随分国立大の附属学校があるのであるから,そのどこかでそういう教育の実験をやっていただきたい。それがうまくいけば,広げていけばいいし,修正すべき点があれば修正すればいい。明らかに間違っているとはっきり分かれば,やめればいい。少なくとも,私の見ている範囲では非常に効果が上がっている。このこともお願いしたい。

岩淵主査

 今の御意見に関連して少し数字を報告したい。
 今回「当用漢字表」にはない字で,「新漢字表試案」に加わったのは83字あるが,国立国語研究所の10年ぐらいの前の,中学生を対象とした調査では,半数以上が83字のうち52字読めている。それから,「当用漢字表」に入っていない字で割によく使われる1,000字について調べた結果によれば,全員が読めたのは46字,半数以上が読めたのは329字である。
 漢字は学校教育における国語の教科書及び他教科の教科書だけでなく,そのほかの世間にあるいろいろなものを通じて,場合によっては自然習得という形で覚えていくということもあると思う。意外にも表外字が読めている。どれほどそれを本当に知っているかは分からないが,とにかく一応何とか読めているという結果が出ている。
 しかし,一方,中学校は当用漢字が全部読めるかと言うと,必ずしもそうではない。その時,同じように調査した結果によれば,1,850字のうち1,744字読めている。これは当用漢字の持っている性格上かなり専門的な字だとか役所言葉を表す字なども含まれているので,中学生にとっては身近でないものもあるという結果だと思う。
 以上,念のために申し上げた。

福島会長

 宇野委員の御趣旨はよく分かったので,本日御発言のあったことを記録にとどめて,次期国語審議会で仕上げをする段階で十分検討してもらうということにして引き継ぎたいと思うが,それでよいか。
 それでは,そのように取り計らわせていただく。時間の関係もあるが,ほかに何か発言はあるか,木内委員,どうぞ。

木内委員

 本日提案の「新漢字表試案」とその前文の問題に関連して,この機会に少し申し上げたい。
 これは大変よくできていると思う。いろいろ言えばあるであろうが,世間にこれを流して反響を聞くと言っているのであるから,どんな欠点があってもその時に言えばいい。ただ,世間への聞き方は欠点を言われなければ,それでいいのではなく,これにはいろいろ問題を残しているから,例えば,今の基本的な漢字の問題などについて世間から積極的に意見を徴すという態度で聞いていただいたら,いいだろうと思う。それを申し上げたい。
 次に,この前文等はよくできていると思うが,これは今度出す「新漢字表試案」の説明文であって,漢字に対する政策若しくは国語に対する政策のそれではない。したがって,これが非常に大きな改革であるにもかかわらず,その点はクローズアップされて述べられていない。今までは制限をしていくということであったが,今度は制限をやめるということであると,大変大きな改革である。説明文にはそうは書いていないが……。実際,今までは漢字を制限して減らしていって段々になくすということで,表が大きな意味を持った。今度は単なる「目安」であるから,まるで扱いも違うし変ってくる。そこを十分に明らかにして意見を徴するのでなければ,せっかくの作業が本当の意味をなさないと思うので,その点,是非そうしていただきたい。
 もう一つ述べたい。この前文を見ると,漢字を制限してみたら,それは不可能であったし,弊害も多かったということにかんがみて検討が行われた,というように世間にとられやすい。それも事実であるが,そればかりではない。終戦直後の国語に対する意識では,漢字という難しいもの,ややこしいものを使っていたら日本は生きていけないくらいに思った。ちょうど明治時代,黒船に驚いて,森有礼が漢字廃止を言ったのと同じことを繰り返したわけである。その後,漢字仮名交じり文というのは非常に能率が高いものだということやいろいろなことが分かってきた。

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