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次第 国語問題・国語政策について(自由討議)戦後の国語政策の基本的な問題について

福島会長

 それでは先へ進みたい。前回総会以後,漢字表委員会では各方面からの意見を集約し,それに基づいて検討を進めており,まだまとまった結果を出す段階には来ていないということであるので,本日の総会では漢字表委員会の報告はない。
 問題点整理委員会も特に今回総会のために整理すべき問題点がなかったから,前回総会以後開催されていないので,報告はない。
 本日の総会は,前回総会の御了解のように国語問題,国語政策の全般にわたり自由討議を行うことになっている。お手元に参考までに前回に問題点整理委員会から提出された資料の抜粋「国語問題・国語政策について」をお配りしてある。これには各委員の意見から総会の自由討議の際に取り上げてはどうかという題目を一応拾い上げてある。
 本日は自由討議だけということで時間があるので,十分御意見を伺いたい。それが,将来文部大臣がこの審議会に諮問するときの参考にもなるであろうと思う。また仮に当面は諮問を受けていない事項でも,当審議会として基本的な問題について意見を取りまとめておきたいということになれば,それはそれで適当なことであると思うので,自由な御意見を伺いたいと思っている。国語問題の基本に関することでお互いに腹の底にある問題を出しておく,将来その中から取り上げて審議会として正式にコンセンサスを得ておく事項もあるのであろうし,参考までに承ったということになる事項もあるであろうと思う。
 進め方としては,問題点が取り上げられた際にはできる限りそれに集中して意見の尽きたところで次の問題に移るということにしたい。また,必ずしも御発表の意見について結論を本日出すという趣旨ではないので,両委員会の審議の状況にもよるが,もう1回くらいは同じような基本問題の討議があってもよいのではないかと考えている。
 戦後の国語政策の基本的な問題についての意見ということでは,木内委員の御発言もあったので,その辺を出発点にして本日の自由討議を運ぶようにしたらいかがかと思う。前回では確か木内委員に対して,時間が足りなくて,次回は自由討議にするからということで十分な発言は御勘弁いただいた。木内委員,御発言があったら,どうぞ。

木内委員

 基本に関する問題という限定で出発すれば,どうしても第12期の100回総会(昭和51年9月28日開催)に提出した意見書に返ることになる。そのことも少し申し上げたい。また,本日は基本問題もさることながら,今,漢字表委員会では既に発表した中間報告の「新漢字表試案」を正式に決めるまでの手直しをやっているが,漢字表委員会に出てみて,せっかく進行中の議論の中にまたもとにもどったようなことは極めて言いにくくなるということを体験したが,許されるならば,その点も少し申し上げたい。今,手直しをするなら,どういう点を考えたらいいかという私の意見で,これは国語政策の基本というほどではないが,やはり基本にも触れてくるかと思う。それでこの方から先に申し上げてもいいか。その方が順序がはっきりすると思う。

福島会長

 どうぞ。順序は一向構わない。

木内委員

 今,漢字表委員会でやっていることは,字種,音訓,字体表(これが一番やっかいであるが。)の問題,前文(凡例とか注意書きのようなものを含む。)の問題の四つに大体分類されているように承っている。その順序で私の意見を申し上げたい。
 第1は字種である。字種は各方面から追加希望のものが多数来ているが,1字追加すればいいというのが私の今の考えである。強い主張ではないが,1字は追加した方がよい。それは「繭」という字である。この字はあれほど強い陳情があったのに,いけないと言い切る理由もない。しかし,あとは,一般的な意味で増やしたいという主張は多いが,それほどはっきりしていず,また強い主張でもないので,かえって入れない方がいい。
 関連事項として,人名用漢字を新漢字表の中に入れよという議論が当然あり得ると思うが,それは趣旨を乱すと思う。つまり,今度の新漢字表は,私の言葉で言うと(これは余りいい言葉ではないが。),俗生活用の漢字表であって,精神生活用の漢字表は別になければならないという意見を前から申している。人名用の漢字は俗生活,一般の社会生活に余り関係はない。名前を付けるのに世間ではめったに見ない字だが,特に愛着があって付けるというのは,多数ある。これらの字を強いて入れると,プリンシプル違反になる。これは別にしておく方がいい。51年7月に「人名用漢字追加表」が出て,計120字になっているが,それも絶対的にいいわけでもない。新しい漢字表のプリンシプルから言えば,「制限」ではないのであるから,幾らあってもいいはずである。このまま「目安」という観念を入れれば(今の120字ばかりについては,戸籍の窓口に陳情があった字の一部を幾分抑制ぎみにこれだけはいいといったようなことにしているものと思うが。),人名用の漢字を余り抑制しないで窓口を通して陳情されたような字は結構であるという意味の表を作ってもいいと思う。一般社会生活のため,私の言葉でいうと,俗生活のために特に重要であってこれだけは是非知らないと困るといった字を入れた表(学校で強いて教える表とは異なる。)とは違うものが,幾つあってもいい。「人名用漢字別表」があるように,地名用漢字別表とか歴史を読むための別表とかいうように……。複数の表があるとうるさく思うかもしれないが,私はもともと精神生活用の漢字表は別につくるという主張を持っているので,表は幾つあってもいいという意見である。精神生活用の漢字表(約3,500字くらいがいいと今でも思っているが。)をもしつくるとすれば,3,500字の中に地名でしか出てこない,歴史でしか出てこない(私がよく使っている例は「瓊瓊杵尊」と「八咫の鏡」であるが,この字を知らないとまずい。精神生活はできないと思う。),ほかの場合にはめったに出てこない,そういう特別な字だけをまとめて,3,500字を幾つにも割って出しておくのはいいと思う。

木内委員

 第2に音訓についてであるが,これは取り上げればいろいろおもしろい問題もあろうが,特に申し上げることはない。今やっているような方式で,あれが最終案になっても別にいいのではないかと思っている。
 第3に字体であるが,字体は新漢字表の中のすべての字(1,900字か1,901字)について筆写体というか,筆で書いた字で示し,それを正漢字として1番上に書いてその下に世間で使われている,いわゆる略字(略字のないものもあるし,幾つかの略体のあるものもあると思うが。)を何字あっても,こういう字はとにかく使われているという意味で,ずらりと縦に書いて挙げておくのがいいと思う。どうも縦でないとうまく表現できない,見たときに分かりにくいような気がする。
 そして,私としては同じ略字でも推奨に値するものとひんしゅくを買うようなものとがあるので,推奨に値するものには○,ひんしゅくを買うようなものには△の符号を付けて書いたらいいだろうと思う。そのように判定した理由を後書きかどこかに,各字に番号でも打っておいて,明らかにしておいたらどうかと思う。一括して理由を示すのはなかなか難しいかもしれないが……。
 それから等線体というか等線形というのか分からないが,今の抑揚のない棒のような字は,意味がないと思うので忘れることにするのがいいだろうと思う。
 もう一つ大事なことは,例えば「木」の字の縦棒の下をはねるかはねないかということがいつも問題になるが,これは漢字の性質からいって問題外のことであるということをしっかりした理由づけをして,どこかで明らかにすることである。はねる,はねないが学校の成績や入学試験の成績に関係したりするのは,本当に何ともいいようのないつまらないことであり,漢字の性質からいってつまらないことだということをはっきりうたってほしい。以上のようなことをやれば,字体の問題はいいかと思う。
 第4は前文,凡例,注意書きといったことについてである。これは非常に大事だと思う。したがって,前回でも少し申したかと思うが,別に起草委員会をつくって,我はと思う委員に志願していただいて,そこで十分に討議して筆を進めるということにした方がいい。なぜならば,一口で言えば「制限」を「目安」に変えたということの敷衍(えん)になるが,それから出発していろいろなことが出てくる,「制限」であれば,教育漢字表が特に意味を持ってくるが,制限でないとなると無意味になってくるので,それらの関連も新漢字表の前文の中でうたうべきだと思う。そうなると,同時に今度は国語教育をどうするかという問題に触れてくるが,そこらのことをよく考えた上で十分に行き届いた前文をつくっていただきたい。これは特に念を入れる必要があるというのが私の考えである。
 以上のことを何かの機会に申し上げたいと思ったが,この間漢字表委員会に行ってみたが,せっかく専門的なことを議論しているのに,今更言えなかった。
 精神生活用の3,500字の漢字表(これも一種の目安であるが。)をなぜ,どうつくるかということについて,今はかなり進歩した考えになっていると思うので,いずれ発表させていただきたい。つまり,漢字の国語政策の基本中の基本問題に触れてくることになると思うので,それはいずれ改めて申し上げたい。
 続けて申してもいいが,余り長くなるようなので,ここでひとまず切って,あと時間が許されたらまた申し上げたい。

福島会長

 時間が十分あるので,ただいまの御発言に関連があってもなくても,いろいろ御意見を承りたい。またただいまのように漢字表委員会その他の委員会に対して,各委員会が検討中ではあっても,総会の注文ということで意見を述べられても一向に差し支えない。更にお手元の「国語問題・国語政策について」に挙げられているような問題について意見をお寄せになった方々は,順番はいかようでも結構であるから,もし何かあったら御発言願いたい。そのほか「新漢字表試案」に対して各界からの要望,意見が出され,それについて目下,漢字表委員会で一つずつ検討しているが,漢字表委員会に直接には参画していない委員として各方面からの要望の問題点なども承知しておきたいという気持ちもないこともないので,その辺のところを御承知の委員に御紹介いただいても結構であるが……。

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