国語施策・日本語教育

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次第 総理府の実施した国語に関する世論調査について(事務局報告)

福島会長

 別の議題に入りたい。既に御覧になっていると思うが,1月5日の新聞に,総理府が全国で国語に関する世論調査を行ったという記事が掲載された。文化庁国語課もこの調査票の作成などに協力もしたそうであるし,一応事務局から報告願いたい。

室屋国語課長

 配布資料3を御参照いただきたい。今,会長から御紹介があったとおり,国語に関する世論調査は,内閣総理大臣官房広報室が行った調査で,文化庁は内容について協力したというものである。これは,新漢字表試案が公表されたのを機会に,一般の国民に対して,言葉についての意識を,主として漢字を中心に調査し,今後の施策の参考にするという趣旨で行われたものである。
 調査項目としては,(1)文字に対する関心,(2)当用漢字及び人名用漢字,(3)新漢字表試案の字種,(4)言葉遣い,の四つの項目からなっている。
 調査は全国20歳以上の者1万人無作為抽出し,調査員による個々人の面接聴取という形で,昨年8月22日から31日まで行われた。回収結果は8,170名,81.7%である。
 次に,調査結果の概要について,簡単に御報告申し上げる。
 文字に対する関心は,「関心を持っている」が30%,「関心を持っていない」が70%という結果である。
 次は漢字の書き換えに関する問題で,「颱風・台風」「日蝕・日食」「車輛・車両」について調査したものであるが,当用漢字による書き換えを挙げる者が多数である。
 当用漢字について旧字体を用いるか,新字体を用いるかという調査では,「學校・学校」「國家・国家」「お禮・お礼」について調査したわけであるが,新字体で書くというものがすべて90%を超えるという高い結果が出ている。
 次は,当用漢字の字体か略字体かという問題で,「卒業・卆業」「日曜・日」「権利・利」について調査したものであるが,当用漢字の字体を使用するものが多い。
 表以外の正字体か略字体かという問題では,「檜・桧」「籠・篭」「罐・缶」について調査したが,「缶」を除いては正字体で書く者が多いという結果になっている。
 新聞で使われている漢字の難易度については,「むずかしいと思う」が12%,「特に何とも思わない」が81%という結果である。
 当用漢字の周知度は72%であり,文字を書くとき,当用漢字を「気にする」が21%,「気にしない」が77%であった。まぜ書きについては,「読みにくいと思う」が29%,「読みにくいと思わない」が62%である。
 表外漢字については,「使わないほうがよい」が33%,「そうは思わない(使ってもよい)」が47%で,特に高学歴層は後者の率が高くなっている。
 表外漢字の使用を禁止したため,文章を書き表す場合に不自由になったと思うことがあるかどうかという質問に対しては,「ほとんどない」が61%という結果が出ている。
 次に人名漢字であるが,その周知度は69%で,赤ちゃんの名前には,難しい漢字や珍しい漢字を,「使わないほうがよい」が57%,「使ってよい」が18%,「一概にいえない」が19%というふうになっている。名づけに使える漢字の範囲は狭くて不便だと思うかという質問に対して,「そう思う」が18%,「そうは思わない」が61%となっている。
 それから新漢字表試案の字種の問題であるが,採用予定の83字のうち,新漢字表への採用に異議のある漢字があるかどうかという質問に対して,「異議あり」が32%,「異議なし」が42%というように,「異議なし」が多い。採用に異議のある漢字は「褒」19%,「」15%,以下,「覇」,「凹」,「」,「凸」,の順になっている。全体については,30ページにそれぞれパーセンテージが挙げられているので,御参照いただきたい。
 削除予定の漢字については,削除に異議のある漢字があるかという質問に対して,「ある」が55%と過半数で,「ない」の20%を大きく上回っているが,「わからない」も25%である。
 全般的に新漢字については,漢字の追加には賛成,削除に反対という傾向がうかがわれるという結果になっている。それから,「異議あり」は年齢別には若年齢層ほど多く,学歴別には高学歴層が目立っているという傾向がある。なお,新漢字表に採用しないことに異議のある漢字を「芋」以下羅(ら)列してあるが,全体については31ページに全部収録されている。
 それから言葉遣いの乱れについてであるが,「乱れていると思う」が69%,「そんなことはないと思う」が22%,「わからない」が9%という数字になっている。
 自分の話し方や言葉遣いで恥ずかしくなったことや困ったことがどの程度あったかという質問に対しては,「あった」が53%,「ほとんどなかった」が41%である。
 親しくない人との会話で敬語の使い方が「気になるほう」が47%,「余り気にならないほう」が49%という結果である。
 それから,日ごろ,外来語や外国語を使っている場合が「多いと感じることがある」65%,「多いと感じることはない」が28%である。
 外来語・外国語の使用を好ましいと感じるかという質問に対しては,「好ましいと感じる」が10%,「好ましくないと感じる」が33%,「別に何も感じない」が49%という結果が出ている。好ましくないと感じる理由は,複数回答であるが,「よく知らないから」と「日本語の本来のよさが失われるから」という回答が比較的多い。
 最後に,上手な話し方を身につけるにはどうすればいいかという質問に対しては,「人と話す機会を多くする」50%,「相手の気持ちを考えて話す」37%,「本・雑誌などを多く読む」25%,「学校で教育する」23%,「家庭で教育する」20%,「テレビ等で上手な話し方の番組を流す」20%という結果が出ている。

福島会長

 この調査についていずれ正式に発表されるそうであるが,いつごろになるか。

室屋国語課長

 内閣広報室の「月刊世論調査」2月号にこの概要が掲載されるほか,詳しい数値を載せた印刷物ができる予定である。

福島会長

 この世論調査に関連して御意見があったら,どうぞ。

林(知)委員

 手荒いことを申して恐縮であるが,調査法の立場から見ると,この調査は,多くの質問において,行動の指針になるような情報がとれていないと思われる。その理由は,例えば,「文字に対する関心」の調査で,「非常に関心を持っている」が5%,「かなり関心を持っている」が25%とあるが,このような抽象的な問題では,ふだん考えていない,状況に身近でないことを聞かれるために,極めてあいまいな結果になる。
 同じようなものとしては,憲法改正の問題がある。憲法改正というのは一般には身近に考えられていないが,改正に賛成であるか反対であるか,どちらの回答も質問法によって引き出し得るのである。つまり,言葉をうまく使えば,美辞麗句によってどちらの回答も出せる。
 例えば,ここにある問題で「あなたは,日ごろ新聞を御覧になっていて,そこで使われている漢字は」という言葉が入っているが,その後に「全体としてむずかしいと思いますか,やさしいと思いますか」という書き方をしている。実は,「そこで使われている漢字は」というのがどの程度意識されるかが問題であるが,恐らくそれは飛んでしまって,「新聞はやさしいですか,むずかしいですか」という問題と同じになっていると思う。こういうようなことが果たしてこの調査で検討されているかどうかという問題がある。私が仮に質問をつくるならば,次のような文章にする。「あなたは,日ごろ新聞を御覧になって全体としてむずかしいと思いますか,やさいしと思いますか,何とも思いませんか。これは,そこに書かれている内容ではなくて,そこに使われている漢字のことについてお聞きしたいのですが,無理に考えてお答えになる必要はありません。ふだん思っているとおり答えてください。」
 世論調査で行った質問の仕方では恐らく「そこに使われている漢字は」というのが飛んでしまうと思う。
 次の問題として,問9「あなたは,当用漢字表にない漢字は使わないほうがよいと思いますか」には,二重否定が使ってあるが,質問での二重否定は混乱を起こす。それはよいとしても,47%は「そうは思わない」と答えているが,問11の質問の結果では当用漢字で文章を書き表すのに不便を感じないとする者が60%を超える。ところが字を減らした方がいいか増やした方がいいかというと減らすよりは増やした方がいいという傾向が見られる。何を言っているのか分からなくなっているが,これは質問に使われている言葉自体の問題である。例えば,問15の「むずかしい漢字や珍しい漢字を使わないほうがよいと思いますか」の場合も,難しく珍しい漢字なら使わない方がいいのではないかということになり,回答の結果も果たしてそのとおりになっている。
 こういう調査をもとに議論されるということに危惧(ぐ)の念を持つわけである。細かく見れば,あちこちで矛盾撞(どう)着が多く,報告書を書こうと思っても,どう書いていいのか分からないものが必ず出てくる。世論調査で論ずべきものか否かということも,改めて考えていかなければいけない。調査の細かい検討を経てから発表する方が誤りが少ないのではないか。そうしないと,都合のいいところだけとってどんな答えでも引き出せることになり,はなはだ危険な要素を持っているのではないかということで,感じたことを申し上げた。

福島会長

 内閣総理大臣官房広報室で行った調査で,直接審議会で注文を出したわけではないが,いずれまた,林(知)委員の御意見も伺って,漢字表委員会でこの調査結果をどう見るかということも御検討願おうと思っている。
 次回総会は4月7日(金)の予定であるが,漢字表委員会の御報告を得て審議を進めることが多分できるだろうと考えている。
 何か御発言があったらどうぞ。(発言なし。)
 では本日の総会はこれをもって閉会とする。

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